量産化計画
3日後、オービルパパはパンをお土産に、おむすびをお弁当にして王都に帰って行った。しかも、おむすびはエビマヨ指定。日本式のパンはもちろんのこと、マヨにもパパは大感動。是非持って帰りたいとダダをこねたが、マヨは生物。レシピを書いてオービルママに作ってもらってって突っぱねた。大体、王都までは馬車でおよそ4日。本当は、パンだってお土産にするのはどうかなって思ったんだけど、どうしてもオービルママに食べさせたいって聞かなかったから。その代わり、ポラの葉という、大人の顔ほどもある葉に一個ずつ包んで持って帰ってもらうことに。そして、王都の家に着いたら、葉に包んだままオーブン(もちろん炭火のね)で軽くあぶってから食べるように指示した。こうすれば、焦げずに焼きたての味に戻るはず。要するに、天然のアルミホイルって訳。
オービルパパが帰った後、あたしたちは町の道具職人さんたちを集めて、米と小麦を精白する装置の開発を依頼した。いくら菊宗正がチートだって言っても、その処理能力には限度があるし、正直レクサント家以外の人にはこの精米方法は絶対に見せられない。
この世界にも魔法なんてものは存在しない。魔法という言葉は存在するんだけど、あくまでもそれはおとぎ話レベルだ。そんな人たちに菊宗正がチートだと知られたら、どうなるか。悪くすれば魔女認定されちゃうかも。魔女裁判なんてものはないけどね、居場所がなくなることは必至だ。追放されるか、最悪殺されるか。あたしだけでなく、そんなあたしのことを知っていて嫁にしたオービルさえも。オービルが転ければ、当然妹である側妃ナタリアさんの立場も悪くなる。そんなの、このどこの馬の骨かも分かんないあたしを快く受け入れてくれたレクサント家の人たちに申し訳が立たないじゃないよ。
「心配するな、ヘイメの人々は王都の貴族どもとは違って、そんなひねくれた考え方はしない。
ただ、あまりにも酷使してその剣が折れたり曲がったりしたらことだからな」
負のループに落ち込んで悶々としてたあたしに、オービルはそう言ってあたしの髪をくしゃくしゃと混ぜっ返した。
とは言え、その方法は件の菊宗正が何となく覚えていた江戸時代の精白方法を元にアレンジしたんだけどね。
実は、菊宗正の声はあたしにしか聞こえない。ここに来た頃、オービルに通訳だと言って拉致られていたことがあったけど、持っているとオービルの言葉が日本語になるというだけで、じいちゃんそっくりの声で話しかけられたことはないという。あたしは膝に乗っけてると試食の説明とかしにくいので、椅子おいた上からあたしが座るという……尻に敷いた状態で話を進めた。
『我を下敷きにするとは何事ぞ』
と菊宗正はけっこう長いこと根に持ってたけど、背に腹は替えられないじゃん。
とにもかくにも、無事精米機&粉ひき機は完成。
だけど……さあ、日本食の本格ヘイメデビューだと思った矢先に、事件は起こった。
「大変です。米が……米が全部ダメになってます!」
大量買い付けに向かった米倉であたしたちが見たものは、温度管理の水冷壁が壊れて、ぶくぶくと泡を吹いている大量の米の山だった。




