怪物退治、後始末。
少年、初三千世界との決着後。
「あの怪物は、お前の指示で動いちょったと思うんやけど」
「うん。勇者は、まず弱いモンスターからレベルアップしないとね」
「まあ、順番を踏まえるのは、大事よ。それはともかく。指示を出して、此処から外に出さんようには出来るか?」
「うん。して欲しいの?」
「ああ。あんなのに来られたら、疲れる」
「良いよ。もう、止める」
初三千世界は、パーティーリーダーの蹴速の言う事は、従う。そうするべきだからだ。
「此処は。何処?この建物にしても、妙に頑丈やけど」
蹴速の蹴り。全てを込めて打ち込んだ。少年に全ての衝撃が入ったとしても、床板一つブチ抜けないのか。それに、無双双児の溜めた気弾を開放している。下手を打てば、この星ごと消えているはずだが。もちろん、それも承知で、蹴速は撃たせている。
「んー?此処は、大魔王の城だよ。この世の果てに在る」
此処が。この世の果て。
蹴速は、若干後悔してしまった。シロに頼んで連れて来てもらったが。こんな場所は、おれも来た事がない、と子供達がいつか来た時、褒めてやれたのに。いや、シロが悪いんじゃあないぜ。
超騎士や、無双双児の片割れは気になった。宇宙の果てとやらの姿が。ちょっと見てみたい。
「ああ。飛ばない方が良いよ。空は、高空は飛べない設定だから」
設定。結界のようなものか。この場の誰にも、読心に対する驚きは、無い。便利だとすら思っている。
邪魔なら、殺せば良いしな。
この堅さも、設定と言う奴か。すごいものだ。魔界の城や道路も、魔王かシロが作ったのだろうが。本当にシロ並みなのか。
ここまで考えて、シロの顔色を見る。不機嫌かどうか。
おや。楽しそうに食事をしている。
蹴速の想像では、わしはもっと強い!と主張するかと思っていた。
「ふふん。大人の女は、そう簡単に怒らん」
クロが此処に居れば、きっと蔑みの目の手本を見せてくれたはずなのに。蹴速はクロの不在を惜しく思った。
超騎士は、終わってみればあっけなく始末の付いた今回の顛末に、気が抜けた。イギリスの終末の危機を招いたもの。それが、こんな真相だったとは。本当の意味で、魔神と同格。こいつも、人類からの挑戦者を待っていたのか。
いや。人類に限らないのか?
初三千世界は答えなかった。
そして、蹴速達は、家に帰る。そこで、ボロボロに荒れ果てた家の周りを見る事になる。
「これは・・・」
「おかえりー」
「ああ。ただいま、特盛。どうした、これは?」
「あー。なんかな。襲われてよ。怪我人はゼロ。地形はちょっと変わっちまったが、それ以外には、有我さんが剣を砥ぎに出すだけだ、被害は。見た目、結構ひどいけど、アカが頑張った結果だ。詳しくは、有我さんとアカに聞いてくれ。庭に居るはず」
特盛が、斬場刀を持って、玄関先に居た。斬場刀を見つめたまま話してくれた。そんな事が有ったのか。
アカを残しておいて良かった。
蹴速は、実行者を突き止め次第、消滅させる気になっていた。
「ん?これは、イベントだよ。ラスボスとの戦闘中に、背景に流れる仲間の窮地。さあ、勇者は目の前の大魔王を倒す事を優先するのか、仲間を助けるため、千載一遇の機会を捨てるのか。分岐だったんだけどなー」
ちなみにどっちを選んでも、失うものが有る。留守番をさせている仲間のレベルが一定以上なら、防げたり。
「仲間って事は」
「うん。地球の方にも行ってるだろうね」
「もう、止まっちゅうか」
「うん」
勇者が戻るか、大魔王を倒すかで、次のイベントに移行する。
「そうか。なら良い」
蹴速は、取りあえず、家族の無事を確認。一緒に行ったメンバーにも声をかけ、一旦地球に向かう事に。
今度は、亜意、超騎士、ジンを連れて行く。残りは、家を守ってもらう。もう、原因は消えた。これ以上の敵は発生しないはずだが、それでも蹴速は怖かった。
クロは、シロの側に直ぐには向かえなかった。己の能力を、疑っていた。本当に、価値有る存在なのか。実は、自分は、無能なのではないか。
そして、それを、シロの口から聞くのが怖い。だから、自分から自分を貶めて、精神の衝撃の覚悟を決め始めている。
シロは、クロの前に来るやいなや椅子を現し、偉そうに腰掛け、クロを呼んだ。
「種子島サイダー」
「いえ。鏑矢サイダー、種子島味です」
クロはツッコミを入れつつ、ジュースを冷蔵庫から取り出し、コップも同じくキッチンから用意。注ぎ、渡す。
「おんなじじゃろ・・」
ごっくり
クロは無意識に給仕していた。
「・・!」
「うむ。美味い」
魔神の意図通りに動いた、それはしかし、命令に従ったのではない。仕方ないなあ、とやってしまった。
「好きじゃぞ。クロ」
「え」
初耳。そんな機微が、有ったのか。いや、そんな人間のようなヤワな心が。
「先の事。気にするでない。蹴速とても苦戦を免れぬ危地であった。ぬしが、苦難に濡れようと、不思議はない。これからも、心して仕えよ」
「仰せのままに。私は、蹴速様と主のために」
いや、わしを先に置けい。
クロの心は静かだった。蹴速でも苦戦。ならば、良妻たる自分が支えぬ理由無し。頑張ろう。
明らかにクロの調整をミスったシロは、自我を持たせるのも良し悪し、と思った。もちろん、魔神であるからして、悪し、は好きだ。ふふん。
キはアカから、モモの能力の発動を聞く。
キは、自分が居れば、とは思えない。そこまでの自負はない。だが、共に戦えたはずだ。それだけなら、出来た。
とは言え、蹴速に同行したのは、己の望み故。そして蹴速の役にも立てた。モモを蔑ろにしてでも嬉しい結果だ。それは確かな事。
それでも。叶うならモモの力になりたい。仲間であり、家族なのだ。
きっと、アオミドリも亜意も、同じ事を思うはず。
アカは今回の戦いで見えた事が有る。
おれは、実は、そんな強くないんじゃないのか。
「そうでなければ。モモが戦う必要は無かった」
「モモは、己の意思で立ったのだ。誰のためで、あってもな。お前の責任じゃ、ない」
「立つ戦場を、何時までも継続させたのは、おれだよ。おれがもっと強ければ」
「そのゲート。推測するに、蹴速でも歯が立つまい。お前はどこまで強くなるつもりなんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・魔神より」
「・・・応援しよう」
蹴速亭上空の会話より。
地球は、それなりにピンチを迎え、それなりにヒーローが現れた。
「久しぶりだな」
「お久しぶりです!」
「おお、久しぶり。今回は大活躍やったな。おれからも礼を言うぜ。地球を助けてくれて、有難う」
「実戦修養に持ってこいだった。それだけだ」
「兄も私も、蹴速さんを見習って、実戦を積もうってなって。それで日本本部を訪ねたら、今回の騒ぎで。運が良いのか悪いのか分かりませんね」
「こっちとしては、ラッキーよ。地球側の戦力は、少なくなっちょったけ」
主に蹴速のせいで。兵最高格のジン、超騎士、古強者は、蹴速によって、地球から離れた。名高い無双双児も同じく。辛うじて、軽兵、グルメ武者などが残っているだけ。ヴァイキングのように使える者達も、もちろん居るのだが、無双双児と比べると、厳しい。
「しかし、弱すぎた」
「頼もしい事よ」
蹴速に手傷を負わせるレベルなら、そうだろう。
皆は大丈夫か。気になった蹴速は、本部に立ち寄り、偶然2人に会ったのだ。
「緊張しましたけど、何とかなりました」
闇討ちを趣味にしていた人間でも、緊張するのか。
「それより。早く来てくれ。待っている」
「ああ。おれも楽しみよ。そのうち行けるはず。適当に待ちよってくれ」
「兄がすみません・・。お菓子は用意しておきますので、気軽に遊びに来てください」
「ああ。またな」
青星の2人に、世話になったようだ。礼をしなければいけない。あの2人は、おれが1流にする。
蹴速は、ロシアに跳び、軽兵に話を聞く。超騎士はイギリスに向かう、同じく情報収集のために。
軽兵、曰く、怪物は、各地本部付近に出現した。本部機能の麻痺が狙いか、何かから目を逸らすための囮か、疑問は解消されていない。幸い、人的被害は、怪我人すら出ていない。建物のペンキがはげたり、ポストを倒されたり、台風の万分の一の被害が出たくらいだ。あと、本部の花壇が荒らされ怒りのあまり、ぎっくり腰を誘発された兵も居たか。
怪物の出現は段階を追った。先ずロシア。軽兵はバイト中に呼び出され、時給の恨みを怪物にぶつけた。突発的な仕事は、金になるかならないか、分からないのだ。
次にイギリス及びヨーロッパに順次。騎士団とヴァイキング、故郷に帰っていたグルメ武者達の活躍によって撃退。怪物との戦闘は、多くのベテランが経験している。落ち着いて当たれば、苦戦はしない。
問題は、数。アフリカに出た怪物に対応しに行った軽兵は、気付いた。無双双児、居ねえ。軽兵は、アフリカ現地の兵と協力し対応したが、やはり頼れる兵が居た方が楽だと思った。それでも、安定して倒せるようにして、帰還した。
そして、全世界で合計1日、戦闘が続いたらしい。
イギリス防衛時よりは、遥かに少ない数ではあるが、今の地球では厳しかったかも知れない。手の空いた兵が、手薄の本部に向かい走り回っていたのだが、青星の兄弟が応援に来てくれた。ゲートに張り付き、殺し尽くす戦法。
「マジに洒落にならんぜ。この刃毀れ」
剣の耐久年数は、一切危険を犯さなければ、30年。強敵とやれば、30分。地球上の怪獣程度なら、有我レベルの腕前が有れば、刃毀れのみで済んだりする。今回の敵は、倒しても緊急事態扱い。招集も、全世界本部同時防衛。・・・金を払える部外者が、居ない。流石に怪我人、死人でも出れば見舞金も有っただろうが、今回はそれも無い。良い事なのだが。
「おれの親から、良いヤスリを融通してくれるよう伝えてみるわ」
蹴速なりの感謝である。
「ありがとうな!」
軽兵は、割かし素直な人間だった。
本部施設は兵ならば、無料で使える。ただ、使用待ちが有る上、軽兵は仕事を入れまくる。自腹を切って、収入を上げる方を選んでいるのだ。それにこの騒動で、金のない若手は、本部を利用するだろう。そこに割り込むのも、あれだ。
翌日。モモは泳いでいた。
魔界の海とは、違う世界。此処には、知っている魔獣が少ない。コウチ兵が定期巡回をしているからだろうか。
1人になれる。
仲間と居るのは幸せだ。魔神と一緒なら、尚の事。けれど、たまに、有る。目を閉じ、自分以外のものを感じたくない時。
1人で在りたい。1人は嫌だ。どちらも、モモの本心。
また、「殺した」。何度も、訓練した。殺さないよう、疲弊する程度で抑えておけないのか。駄目だった。必ず、モモは殺してしまう。在りとし在れるもの全てをモモは殺す。生き残ったのは、魔王アカと魔神シロのみ。キや亜意、アオミドリに放った事はないが、恐らく殺してしまう。
誰にも触れたくない。自分で、自分の好きなものを失くしてしまう事になる。でも、好きだから、近くに居たい。
モモは、人知れず、海中で泣いた。
獣沓は何も知らない。モモが泣いていた事。モモが、失いたくないと思っている事。だが、モモが、あまり泳がず帰宅した時。力になりたいと思ったのだ。その足枷になっているもの、全て外したいと、強く思った。
平特盛は、稽古をしていた。自然な呼吸で、自然な動きで、有我を殺しにかかる。
有我は、やはり自然な動きで特盛を叩きのめす。
「どうしたんだろうね」
「特盛さんの動きには、キレが見えない。普段にも増して」
マキにも不評のようである。
有我は、当然気付いている。恐らく、あれだろうなと見当も付いている。だからと言って、解決してやれるでもない。訓練としては、全く意味の無い時間だが。気晴らし位、たまには付き合ってやるか。
シロの治癒を受けて、軽く礼を述べ、有我に突っかかる。
完全にビビっちまった。尻尾を巻いて逃げたかった。おれは、本当に、弱いんだなあ。戦闘能力で劣っているならまだしも。気概で負けているのは、本当に応えた。
有我に後始末を命じられ、泣きながら有我の置いた剣を拾い集めた。惨めだった。戦闘に参加せず、ただ、怯えていた自分。
もう、何も考えたくなかった。
有我は、忙しさを与えて、戦闘が終結した事から思考を逸らそうとしたのだが。
「ゴメンね、梅ちゃん」
「お前のせいでは、ない。特盛自身の心の働きだ」
有我は、気遣ってくれた。梅は、もちろん分かっている。
それでも。梅のためにも、特盛のためにも。体を動かす手伝いぐらい、してやっても良い。
我武者羅に剣を振り続け、本当に頭の中を空っぽにした特盛は、何かを見つけた。
弱い己。強い有我。ぶつかり合う剣。世界が、それだけになった時。
こんなに強い、コウチナンバーワンの剣と、直接真っ向戦っているのは、おれじゃない、おれの、剣だ。こいつは、おれからも、一一人からも、逃げない。斬場刀に勝るとも劣らぬ気概。ただの、練習用の、換えの効く扱いの剣の身で。逃げねえのか。お前は、自分を失うのが、怖くないのか。
剣の刃毀れを見る。集中しきった世界で、それは、くっきりと見えてしまった。身を削って、其処に在り続ける。おれが同じ事をやれば、一度の戦闘で死んでしまう。そんな危険な事を。量産の剣如きが!
心が震えた。
有我は、敏感に気付いた。何か、変化が有った。
特盛の剣が、強くなった。それは、腕力を増したのではない。速度が上がったのではない。
剣が、伸びる。実際に、伸縮しているわけではなく、特盛と剣が、より一体化した。故に、剣を振るう際、必ず発生する無駄が、無くなった。有我から見れば、まだまだ。それでも、その太刀筋は、1流の世界に踏み込んでいた。
お前に、おれは及ばない。お前らのような勇気。今のおれは持ち合わせて、ねえ。だから、借りるぜ。お前の力。お前の気概。おれは、弱くても。一一人から逃げないお前が一緒なんだ。お前が引っ張ってくれる。
面白い。
有我は、特盛を、獲物として認識した。それはつまり、斬って一一人の糧としたいと言う事。有我は、欲望を我慢した。
今の特盛には、一一人有我が斬る価値が有る。それを言っても、喜ぶかどうかは分からないが。




