蹴速、最強に会う。
山を下り行く3人。いい天気で、まるでピクニックだが。
「あの・・・何か出るんですか。敵とか」
「そういうことだな。強かったり弱かったり、私たちの手に負えないものは、滅多に出ないがな」
「おれはともかく、梅さんなら、斬れる。だから任されているのだ」
「マジに出るんですね」
「冗談だと思ったか?君ほどではないが、私もこちらの特も歴戦だよ」
「ただし。おれに実戦経験は10を数えるほど。梅さんのようには出来ない。悔しいがな」
本当に口惜しそうに呟く特盛。
「何回も言いますけど、これからですよ特盛さん。特盛さんより年上で特盛さんより弱かったのに、今は無茶な強さを身に付けたやつ、何人か知ってますよ」
「ほう。それは本当だろうな」
すごむ特盛。
「本当ですよ。どいつもこいつも才能なんて持ってなかった。だからみんな弱かった。それでも続けてたら何時の間にか化け物の仲間入り。そんなものですよ」
「そうかそうか!良いこと言うじゃないかお前。今日から親友な!」
「あ、はい」
「はいじゃねえ。おう!だろ」
「お、おう!」
ちなみに。この特盛、今までも何度もこのようなやりとりを行なっており、梅に気に入られた経緯もこんな感じだったりする。
「来たようだぞ、特。構えろ」
「!はい!」
「敵ですか」
「そう。おそらくザコだ。君が出るまでもない」
「おれにやらせて下さい」
「ああ。おそらくサンヨウが2体、サンキが1体。油断するなよ」
「はい!」
「いいんですか?丁度3体なら全員で迎え撃てば」
「特盛は経験が少ない。こういうザコとの戦いで慣れさせる必要があるんだ。この数ならいつでも助けられる。単独でやらせる良い機会だ」
「なるほど」
この会話、もちろん特盛も聞いていた。
いつでも助けられる。だが、今回は出番ないですよ梅さん。
「来るぞ」
「はい!」
来たのは空飛ぶ虫。羽虫が2匹。カブトムシが1匹。ただしどちらも2メートル程の大きさだ。
ズア
突っ込んできたのはカブトムシ。羽虫はホバリングし、様子をうかがっている・・のか。
「おらあ!」
全力で斬る特盛。真っ直ぐ突っ込んできたカブトムシはまっぷたつに割けた。
羽虫は?逃げた。
「ん。警戒しろ」
「はい」
「え」
「あのような行動、見たことがない、やつらはただ突っ込んでくるしか能がない、はずだ。何故逃げた?」
「保身・・命惜しさに」
「ふむ。いきなり知性のレベルが跳ね上がったのか?」
「ううーん。分かりません」
「あの、いいですか」
「ああ。蹴速」
「逃げた、というか。あれ様子見じゃないですか」
「ほう」
「いえ。こちらの敵の具合なんぞちっとも知らないので、的外れかもしれませんが」
「いや。君の言うことが間違っているわけではない。というより我々は敵の考えを予想したことがない」
「は?」
「我々は敵を知らない」
「・・・?今さっき特盛さんが一刀両断にしてたじゃないですか。動き見切ってたでしょう」
「あれは、考え、ではない。やつらに考え、知恵、そういったものを感じたことなど一度としてない。今までパターンから外れたことはなかった。やつらの戦術は突撃。これだけだ」
「だから、おれでも斬れる時は斬れるのよ。あまりにも硬度がある、速すぎる、とかじゃなけりゃな」
「逃げるやつは初めて見た。異変なのか、たまたまなのか」
「異変ですよ。戻りましょう。さっきの人達に注意を促さないと」
「その通りだな。ついでに根拠も聞きたい」
3人は走りながら、話を続ける。
「勘です」
「なるほど」
「え?」
「無駄になっても良い。だから走って伝えましょう」
「全くだな」
「同意するが、勘って」
「おれが来たのと同時に異常な行動、怪しむのが自然」
「うむ」
「うーん。ならお前が怪しいってことじゃないか?」
「ですね」
「ふふっ」
「梅さん笑ってないで。お前なあ」
「怪しかろうが何だろうが、今おれたちは誰一人傷を負ってない。あちらは未知。心配なら行くべきです」
「そうしよう」
「梅さん!先に本部に走らなくていいんですか」
「私も気になる。あいつが簡単に負けるわけはないが」
「うーん。どんどん深みにはまってるっていうか、こいつの思惑に引きづられてません?おれら」
「それはない。繰り返すが蹴速の力なら私を注意する必要はない。力づくで事足りるのさ。人質が欲しそうでもない。というか腹芸は苦手なタイプだろう。故に、ここで蹴速の言葉は嘘ではないと思う」
「梅さんが言うなら信じますけど」
「どうでも、目の前で言わんで下さい」
そして着いた。戦場に。
「援護!撃ったら下がれ!」
「はい!行きます!!」
部下の撃ち込みと共に突っ込む梅の同僚。相対する敵総量およそ6000弱。
「戻ってきて良かった。流石に苦戦する数だ」
「え。あれで苦戦で済むんですか」
「在前御徳。あの人は生き残ることならウチで一番だ」
「危ない敵はそう居ないな。私も突っ込む。梅、金甲を守れ。やつに近づく敵を屠れ」
「はい!梅さんもお気を付けて」
「ああ。蹴速。君はどうする」
「うーん。邪魔にならないように走り回って蹴散らしてきます。注意の必要なやばいのは居ますか?」
「おそらく居ない」
「じゃ、行ってきます。特盛さん、おれを撃たないように伝えてください」
「おう!お前も気をつけろ。死ぬんじゃないぞ」
「ありがとう!」
飛び出す蹴速、梅、御徳を援護する金甲の下に走る特盛。戦場はにわかに華やいだ。
「やあ、在前。こうやって肩を並べるのは何時ぶりだろうね」
「やあ。訓練以来。つまり初めての実戦協調だよ」
「それは楽しみだ。一緒に居た少年、彼も手伝ってくれる。彼のことは心配しなくていい」
「へえ。それは、期待させてもらおうかな」
「ああ」
梅の言葉を皮切りに躍り出る2人。敵は圧倒的多数なのだが、近寄ることを許さない。
御徳の作法は諸行無常。じっとしてはいない。敵陣の真ん中を駆け抜け切り抜け、道を作る。敵であった死骸を踏み越え、これから死骸にする敵を斬りに行く。彼がおそるべき男である理由は、その戦い方を今まで崩したことがなく、同時に傷を負ったこともないから。フルリスクでフルリターン。在前御徳は、いいとこどりの出来る男なのだ。
梅はというと、何もなかった。彼女の眼前に立ちはだかったはずの敵、彼女が切り伏せたはずの敵、全てが消え失せていた。梅の作法は神隠し。彼女が斬ったものはこの世から消え失せる。故に訓練でも木刀までしか持つことは許されない。遊びでなく本気で斬った時、梅に敵は居ない。
金甲量猟は2人の援護を続けていた。中距離砲、短距離砲を使い分け、御徳と梅を守り続けていた。特盛はそんな金甲を守っていた。と言っても彼女らに近づけた敵が居ないので、周囲を警戒し続けているのだが。
そんな中、蹴速は。
魔王と対峙していた。
「こんにちわ」
「あ、どど、どうも。あの、あの、えと、僕、魔王やらせてもらってるミドリ ユウキです。初めまして~」
「これはご丁寧に。僕は太平高校1年、対魔蹴速と言います」
「あ、学生さんですか。あの、あちらの方とお話とか、出来ます?僕」
「大丈夫だと思いますよ。あのところで、貴方、敵なんですか?」
「はい。皆さんを殺して奪うのが僕のお仕事ですから。あ、で」
魔王、ミドリユウキは言い終わる前に気絶していた。蹴速がマッハ80の速度で殴ったために。
魔王言うくらいや。死んでないろう。こいつを尋問したらいいんか。ザコの群れを蹴散らす手伝いしよう思ってたけど、必要ないなあ。あの2人、思ってたより強い。特盛さんとは比べ物にならんな。可哀相やけど。
蹴速の見立て通り、10分程の血風で戦場はなくなった。
「蹴速、君の連れているそれは、まさか」
「魔王らしいですよ。おれがそこそこの勢いで殴っても生きてますから。ザコではないです」
金甲、特盛と合流した御徳をおいて、梅は自分の察知した巨大な気配に近づいていた。蹴速が居るから気軽に。
緑色の髪。今は閉じているが、深い緑の瞳。儚げと言ってもいい。見かけに強さが現れていない。普通の町娘にしか見えないが。服装もそう変わったものではない。
「魔王か。初めて見た。人間のような姿だな」
「ていうか、魔王ってなんなんですか」
「とてつもなく強い敵さ。詳しくは知らない。強いということしか」
「なるほど。理解しました」
「素晴らしい早さだ」
「早寝早起きは三文の得ですからね」
「ふむ。当たり前のようだが実践は難い。君の言うことなら尚のこと」
「いやいや」
蹴速が首根っこつかんでいる、ぶらーんとしている魔王はもぞもぞ動き出した。
「んん・・あお・・」
「せめてミドリて言えや」
「うわごとに文句を付けるのは、流石に厳しいというものさ」
「確かに、かもです」
「ん・・・・・・あの、捕まってます僕?」
「はい。抵抗すると死ぬので気を付けてください」
「あ、ご丁寧に注意していただいて、どうも」
「それで。魔王?さん?」
「はい。魔王ミドリユウキと申します」
「ミドリさんは何故このような場所に」
「あのですね。僕ここに、あれです、あの、散歩じゃなく、散策、捜索!捜索に来たんですよ。うちの近所に穴開いてるーって報告を受けまして、それで、僕、責任者なんです。だから、僕が何とかしなきゃ、魔神様に怒られてしまいます。だから」
「なるほど。ミドリさんも、よく分かってらっしゃらなかったのですか。実は私たちもなんです。よく分からないところを、こちらの蹴速君に協力していただいて」
「へええ。人間様方も、ご苦労されておられるんですねえ。僕も、魔神様が居なかったら、ぼうっと生活出来てたかなーとか思うことありますよー。でも、魔神様あっての僕らですからねえ。そう、甘いこともなかったんでしょうけどね」
「分かりますよ。私も実家が少し事情ありきでして。そうでない家庭であったら。ちがう場所に生活していたなら。そう思うこともありますよ」
「ああああ。分かります分かります!そうですよねえ。だからってちがう自分なんて幻なんですよねえ。今の僕だから僕なんで」
「そう。私だから私。もっと、あなたの話を聞きたいので一緒に食事でも?」
「おおおおおお誘いですか!いえ、2人っきりなんてことはないですよね。それは、はい。でも」
「残念ですか?」
「いえ、安心です。その、2人っきりとか、息が詰まる、とか、その」
「あはは。ミドリさんは面白い方ですね」
「そうですか?僕なんてそんな」
「いえいえ。続きは、ゆっくり室内でお茶を飲みながら」
ずっとぶら下げていた蹴速に目配せすると、梅は御徳達の方に向かった。
「あの、僕は下ろしてもらえますか?」
「うーん。正直あなたを放すのはこわいんですけど」
「そんな。僕こそ、気が付いたら人間に吊られてるんですよ。僕も、ここで終わりかなあって思いましたよ」
「申し訳ないんですが、やっぱりこのままでお願いしますね。あなたを野放しにして、特盛さんでも殺されたら目も当てられない」
「はあ」
「ということで」
「はい」
蹴速、魔王は連れ立って、梅たちに遅れて家に入った。
「そういうわけでだ」
「あの」
「言わなくていい、特」
「言います。蹴速に殺してもらいましょう」
「特盛。今は、黙っていてくれ」
「いえ。蹴速に殺してもらうべきです」
「特。お前のそういうところを、私は大好きだ。しかし今はお前の言うことを聞くことは適わん」
「何故ですか。魔王、なんて。蹴速の時とは明らかに事情が異なります。こんなのを生かしておけば、どんな災厄が降りかかるか」
「その、私も特盛さんに同意します。そちらの方に能力があるのでしたら、是非」
「2対2か。梅。こういうときはどうしてるんだい」
「無論、1対100であっても私の理を通す。普段ならば」
「魔王を捕縛している今は勿論、普通じゃない」
「正直に言って迷っている。迷っているが、連れ帰る」
「なるほど。最善かどうかは分からない。が、支持するよ」
「私達は行こう」
「では僕たちは待とう」
「頼む」
「そちらこそ。万が一の時は迷わず」
「ああ。先刻承知」
「だね」
どうやら2人の間で決めたらしい。特盛、金甲は納得の行った顔は出来てないが、反抗まではしてない。
「そういう訳だ。万が一は責めていいぞ」
「いえ。梅さんの判断に間違いが有るなんて」
「でも、不安は有ります」
金甲は従うことは出来ても、心を鎮めることは出来てないようだ。
「魔王を殺して、魔界?と全面戦争になると、どうなるんですか?」
「どうなるって・・・大変なことになるんじゃないのか」
ぽけらっとした特盛が答える。唐突な蹴速の問いによく答えられない。いや唐突でなくとも答えられなかっただろう。魔王を捕まえどうするこうするの議論に加わるなどと想像もしてなかった。
「大きすぎるな、我々の手には」
「ああ。出来れば誰かに代わってもらいたい所だよ」
梅、御徳ですら荷が重い。
「殺さない方が良いですよ!絶対!僕殺しても魔神様はお怒りにならないし、はっきり言って人間界を重要視してないから何も起こりません。僕のポジションに別の誰かが付くだけですけど、殺しちゃ駄目です!」
「あ。この人、殺したくなくなっちゃたんですけど」
「私もだ」
「いやいやいやいや!ほだされてる場合じゃないです!」
「そうです。ここで倒しておけば問題が1つ減ります」
「ふむ。敵なのかどうか、が問題のようだが」
御徳が説く。
「初めて接触した人語を解する敵。捕獲できそうな物を我々の勝手で倒すのはいささか不味い。危険である、という主張は最も。だが危険を飲み込んでも彼を連れていくのが、我々のお仕事だよ。きっとね」
「在前の言う通り。そういう仕事だったはずだな?特盛。量猟」
「・・・です」
「・・はい」
「良し。平和的に合意が取れた所で、改めてご同行願いたいのですが、構いませんか?」
「あ、はい。あの、出来れば殺さないでください。魔神様にとって何の価値も無いし、魔界全体にとっても何の影響も有りませんが、死にたくないです・・・・・・」
「ああ。頑張って、交渉の関係で役立ってもらいたいのです。人間は戦争を望みません」
「あ、あー。交渉!得意ですよ!一番腰の低い魔王が自分だって自信有ります、僕!」
ただ腰が低いだけでは、何の役にも立たないな、と思った梅と御徳だが、口には出さなかった。この魔王の使い方によっては、本当に人間側がこれ以上の被害を受けずに済むのだから。
「じゃ行きますか」
蹴速が仕切り梅、特盛が付いていく。見送る御徳、量猟。
「あれ、三鬼さんが先頭でなくて良いんですか?」
「んん。魔王ミドリさんを連れている蹴速君が先頭、梅、特盛が後ろというのは間違ってないと思う。三鬼が居れば後背の心配は要らない。特盛も梅の側に置いておくのが安全だ」
「特盛さんでは不足なのですか。やはり私達では」
「そうだね。まだ及ぶ相手ではない。僕達ですら勝つ自信はないよ。あの魔王さん相手にね。見た目どうとでもなりそうだが、蹴速君の一撃は如何なる存在であれ、死んでいただろう。もちろん僕達なら即死だ。それを受けてびくともしない。正直、梅の攻撃でどうにかならないなら、勝てない」
「そこまで・・・」
「ああ。だから、蹴速君が居ない時に魔王さんと相対してはいけない。君達はこれからもどんどん強くなる。もっと活躍出来る。早まった真似はしないように」
「はい。あの、話に聞くほどじゃないなって思ってました。さっきまで」
「うん。蹴速君と魔王さんの態度を見ていれば、そう思うのは無理もないよ。しかし、さらに良く観察するんだ。そうすれば、味方はもっと有利になる。生き残りやすくなるからね」
「はい。このことは、特盛さんに伝えたほうが」
「それは大丈夫。梅が伝えているよ、ちゃんとね」
「あの、三鬼さんもやはり噂通りの方なのですか」
「うん?魔王さんが噂通りだったから?」
「はい」
「うーん。おそらく誤解もあるだろうけど、おおむね噂通りだよ」
「3名家の1つ、三鬼。この国の守護の1つに数えられる強者」
「正しい」
「ええと、最も強い者が当主となる。そして守護兵を統率する3将軍になる。三鬼さんは、今はまだ兵としての勉強中であるため、将軍位はお父上のまま。しかし既に当主であるとか」
「その通り。三鬼梅は既にこの国の3強の1人。彼女の一撃ならば魔王にも通用するのでは、と噂されている、ということだね」
「はい。三鬼さん、名家の方々ならば魔王を相手取っても、通用するのでしょうか」
「そういうことにしておいたけど、ね。実際に戦った当主は既に亡い。効いたのかどうか?僕達はおろか、上層部も信じるしかないんだ。なにせ、魔王と戦ったことなんてないんだからね」
ため息をつきつつ、御徳は微笑む。
「おとぎ話の中に居るようだ。魔王と面と向かった、なんて仲間にいくらでも自慢出来る」
「先輩・・・」
「緊張しすぎてはいけないよ。最早、僕達がどうこう、というレベルの問題じゃない。これからどうなるか?魔界に攻め込むにせよ、交差点を封じるにせよ、一兵卒の判断する領域じゃあない。黙って命令に従っていれば、お給料も有難く頂ける。決して、焦ったりしてはいけないよ」
「どういう意味ですか。今更、命令がどうとか」
「うん。何もなかった事になりそうかなって」
「え。それは無理じゃないですか。三鬼さんも知ってるんですよ。私達だけなら口止めも届くでしょうけど」
「三鬼だからだよ。この国のためにならぬ、そう判断したなら。三鬼は僕達をあっさり斬るよ」
「そんな。そんなこと」
震えてしまう量猟。
「まあ梅なら、何とかしてくれるとは思ってる。手足が要るとかなんとかでね」
「そ、そうですよね」
「そう。だから僕達は、ここでいつも通りにお仕事。頑張ろうか」
「はい!」
納得の行っていない様子だった量猟を説得した御徳。
ポウン
「おや?」
御徳は即座に臨戦態勢を取り、手振りで量猟を下がらせた。
「何ですか。これ」
「逃げろ」
「え」
「逃げろ。時間を無駄にするな」
「・・は、はい」
量猟は一度も見たことのない御徳の態度に、言われるがまま、逃げ出した。
「応援、呼んできます!」
「蹴速君を頼む!」
「はい!!」
明確な指示に意思を以って応え、足にも意気を伝えられた。量猟は大急ぎで駆け始めた。
「僕の目の前に居るのは、もしや魔王さんかな?」
奇怪な音と共に現れた、恐ろしげなモノに話しかける。魔王クラスであっても逃げに徹すれば、1人なら、生き残る自信はある。量猟は逃がせた。十分だ。
黒髪、黒目。黒い服。それは戦闘の装束ではない。軽い普段着に過ぎない。なのに、この迫力は。死神か。
「魔王?いや魔神じゃ」
「・・・・・・魔神さんでしたか」
「うむ。人間、この辺りに魔王が居なかったかな?連れて帰りたいのじゃが」
「ははあ。魔王を」
「うむ。可愛い部下が行方不明と聞いてな」
「もしやミドリユウキさんですか?」
「おお。知っておるのか。それは話が早い。連れてきてもらえぬか?」
「今、私の部下を走らせましたが、そういうことであれば、私がお連れしましょう」
「そうかそうか。異郷の地で親切な人間に出会えて幸運よ。ぬしに幸あれ、じゃ」
「ははは。祝福を有難うございます」
どうする!?蹴速と合流して良いのか。あの青年の気性を考えるに会わせるのは不味いか?しかし考慮出来る戦力が梅と私だけでは。魔神と戦ったら流石に終わりかなあ。もうちょっと長生きしたかったなあ。
「ふむ。緊張せずともよい。歯向かわねば殺したりせぬ。安堵せよ」
「いえいえ。滅相もない」
「その梅とやら。大層な肩書きだが所詮小娘。蹴速に至っては小童よ。そうかしこまらずとも、よい」
「おや。紹介しましたっけ」
頬をかきながら、後ろを歩く魔神に話しかける。確信しつつ。
「うむ。当たりじゃ。わしはそちらの考えが読める。敬服してよいぞ」
「ははは。それはすごいものですね」
基本的に魔王より強いだろうに、読心術だと。どういう化け物だ。
「人間は心を読まんのか。便利ぞ。案内の礼に教えて進ぜよう」
「いえいえ。お戯れを。人間に扱える技法とも思えません」
「ふむ。言うとおりやも知れぬ。案内役よ、ぬしの意思を尊重しよう」
「有難く」
「ふふ。素直なものよ。人間とはこうも可愛いものか」
「お褒めの言葉、恐悦至極に在りますが、人間はお好みに合うかどうかと言われませば、あえてお答えするのはお耳汚しかと」
「かしこまらずともよいと申した。魔族に可愛いと言われて喜ぶ人間が居るか、そう申せばよい。正直者は好きじゃ」
「醜い心を読ませること、申し訳ありません」
半ば諦め半分の御徳は、それでもおざなりにならぬよう必死に取り繕った。敬意を失わぬよう心に力を込め。梅、蹴速、自分。事態に気付き即戦力として数えられる者達。1人でも欠ければ、残った者が苦闘せざるをえなくなる。どうにか3対1に持ち込む。特盛と量猟は逃がす。梅の一撃を届かせる。思考を読むこの魔神は、何故か攻撃してこない。見くびっているなら、吠え面をかかせるまで。こちらの真価に気付く前に終わらせてやる。
「うむうむ。強い意思よ。部下に欲しいの」
「先ほどより身に余るお言葉の数々。礼の申し上げようもありません」
「しかし、わしは期待に応えた方がよいかの。魔神にせっかく会えたというに、戦えなかった、では戦士として恥であろう。恩人に恥をかかせるのは本意ではないぞよ」
「そのようなこと。理性と叡智を併せ持ちつつも、強くあられるからこそ魔神ではありませんか」
「本当に口が上手いの。どうじゃ、わしの側に仕えぬか」
「いえ。私は既にこの国に身を捧げております。二心を以ってお仕えする失礼を避けたくあります」
「ふむ。確かに二心。忠誠心に、ここで倒す敵にどうやって仕えよう、か。良い良い。若者は良いのお」
「誠失礼ながら、年齢はおいくつで」
「んん。それは無礼に過ぎよう。レディに年を尋ねるなど。小僧とはいえ礼儀を学ぶべきじゃぞ」
「ははっ」
女性?男性体ではないのか?やけに美麗な顔だが、男性だとばかり。
「ま、仕方あるまい」
「ご容赦有難く」
「うむ」
梅はこちらに気付いているか?梅と蹴速君がそろって、私も、それで勝てるか?量猟と特盛が走っても、間に合うまい。
「ほうほう。3家か。良い。やはり四天王やら六武衆やら、美しきものよな」
「魔界にもそういったものがお有りで?」
「うむ。100人衆というのじゃが、指折りの精鋭じゃ。しかっしまあ、ミドリの足元にも及ばぬからの。魔王もまだ5名しか集まっておらぬ。ここでミドリが故郷へ帰るのは困るのじゃ。何とか有給とボーナスで機嫌を治してもらわねば」
「ははあ。魔神様におかれましても、そのようなお悩みが」
魔王の機嫌を伺うだと。これは、思ったより何とかなりそうか。
「おや。早かったの」
「在前」
そこには梅と蹴速。走ってきたらしく砂塵を連れている。梅は畏怖の情を隠せない。蹴速は、いつも通りだった。
「在前さん、こちらへ」
「おお。世話になったの。さ、ミドリ」
「魔神様・・!申し訳有りません!僕、何でもするから助けてって人間に命乞いを!」
「おうおう。男児は泣いてはならぬ。ましておぬしは魔王よ。魔界男子の誉れとならねばな」
「魔神さまあああ!」
聞いてた話とちがう。こいつ良い奴っぽい。ミドリさんを見捨てないのなら、どうなる。
「んんむ。ミドリ、世話になった礼をしたい。こちらの人間にな」
「え、あ、あの、それは、どうかなーって」
「しかし、やはり戦いもせず返すのは辱しめではないか。恩人にそのような屈辱、与えるわけにはいかぬ。ということで、じゃ。ミドリ、ぬしは正座して待っておれ。ちょっと遊んでいく。ついでに軽食でもな」
「はいっ。あの、皆さん、短いお付き合いでしたが、どうかあの世でお幸せに」
あの魔王・・・。
3人合流出来た梅、蹴速、御徳。彼らが相対している間に、どうやら方針が決まったようだ。
「梅。斬れる?」
「分からん」
「ぼくが行きましょうか?」
「いや、うん、そうだな。蹴速君が、かき回してくれ。私も回り込む。梅、何とか間隙を突いてくれ」
「はい」
「分かった」
梅さんのアレで 倒すつもりか。さて、横取りしてもいいかあ?
「行きます」
「おお」
「ああ」
蹴速が踏み込んだ。その瞬間、激突した2人、魔神と蹴速。脇に滑り込むはずだった御徳はその余波で弾き飛ばされた。50メートルほど。隙を見つけるはずの梅も衝撃波から身を守るので精一杯だった。
「おおお!」
「おお」
猛る蹴速の追撃。敵が逃げないと知り、攻撃速度を目に見えるまで落として力を込める。大陸を半分に割る程度の力で、つまり現在の蹴速の全力で打ち込んだ拳だが。魔神は生きていた。直撃だったのに。
「うゲっ、ごほっ、ふう、ま、まだまだ、未熟未熟・・ふっふっ」
腹を押さえ、咳き込む魔神。全身全霊の一撃を真正面から入れられて、苦しがってはいるが・・・。
「ごほうっ。うん。ふー」
深呼吸しポケットから出したハンカチで口元を拭う。その時、
梅が切り込んだ。蹴速の背後を跳び立ち、真っ向から。動かぬ的など!
梅の神隠しは、当たった、が。
「んん?」
魔神の髪の毛一本斬れて、いない。全力で斬り込んだ梅の両腕は反動でしびれている。魔神は、微動だにしていない。
「おー。人間は皆、呆れるほど強くなっておったのかと、心配してしまったぞ。わっはっはっは」
ご機嫌で手の平を梅に突き出す。その掌が当たれば、おそらく梅の体は細胞一つ残らず消し飛ばされていただろうが、蹴速が止めた。
「痛う」
久しぶりに痛覚を思い出す。鈍い痛み。突き出しを同じく掌で受け止め、相殺したつもりだが、重い。受けに回れば、押し潰される。攻めるしか、ない!
「こっちだ!」
時を置かず、御徳が攻め行った。梅の攻撃が効を為さなかったのを見て、態勢を整える時間稼ぎのつもりで。
御徳の動きは常人の目に追えるものではなかった、が、
「速いの」
無造作に振るった手によって、その手の動きで生じた圧力によって、御徳はまたも弾き飛ばされた。御徳の体重はさほど重くもないが、軽くはない。鍛え上げた成人男性の肉体74キログラムが、紙きれのように浮かされる。ごろんごろん転がりまわった後、何とか立ち上がる。
「く」
足止めすら、出来ない!梅と共に下がる?しかし。
「下がっててください」
「分かった」
「梅!」
梅はいち早く魔神、蹴速から距離を取った。魔神も追って来ない。御徳も魔神が動かないのを見て、下がる。
「梅。いくらなんでも。蹴速君だけにやらせるのか」
「仕方あるまい」
戦闘の真っ最中に三鬼梅は泣いていた。
「・・梅」
「私の剣は通じると思っていた。相手が何者であろうと、当たりさえすれば。だって私は三鬼梅。必ず勝てると信じていた」
それが痛痒を与えることすら。あの顔。何が起こったのか分からない、とでも言いたげなあの魔神の顔。
「私は3名家の当主として、誇りが有った。しかし、今日知った。私は何の役にも立たない」
「そんなことはない!敵が強すぎるだけだ。私だって、見たろ!触れることも出来ず、尻尾を巻いて逃げたんだ」
「盛り上がっておるの。良い。若者は元気が一番じゃ。のお」
「同感。だが梅さん泣かしたお前はいかん。ここで終わりじゃ」
「ふうむ。友達になりたいのじゃが」
ピクリ。
蹴速は相手が倒れるまで、何日でも攻撃し続けるつもりだった。相手も蹴速の一撃で痛がった。通じることは通じる。ならば勝つまでやれば絶対勝てる。簡単な話だ。しかし、
「友達?」
「うむ。わしは魔神シロ。おぬしは?」
「対魔蹴速」
「ほう。ぴったりではないか。まるで、わしと出会うためにあるような名よ」
「そんなわけあるか。思い上がりじゃ」
「けちじゃのお。男は太っ腹でなくては。御徳とかは、何でもくれるような口ぶりじゃったぞ」
「御徳さんはお前に合わせただけで、本心なわけあるか」
「言葉にして口にしたのは、あやつよ。その時、心が形を持つ。口にしていない本心など、妄想に過ぎぬ。本物は形どった言葉のみ」
「ほう。ならここで終わりってのも本当になるわけよ」
「それはそれーー」
魔神は蹴速に突っ込みを入れた。いや手を真っ直ぐ伸ばした状態で、裏拳気味に、つまりツッコんだ。
「???」
蹴速は即カウンターを入れられなかった。反応出来るよう心構えはしてあった。捉えきれない速度でもなかった。ただ、あまりにも敵意を含まない一撃に、反応しきれなかった。戦闘中のつもりでいたために。否、それは言い訳。完全に虚を衝かれたのだ。
蹴速は一応、世界で最強っぽいなおれ、と思っていた。それが、一切反応
も出来なかったとは。
「どうした?わしに勝てずとも恥ではない。愛いの」
ブチン。
蹴速は力を頼みに生きてきた。腕力以外に取り柄無く、腕力でご飯食べられないとやばい、と想像していた。その自分の力を子供扱い!
「真に、愛い」
魔神は、怒り任せの蹴速の蹴りを優しく受け止めた。キレのない蹴りとはいえ、岩盤ごと大地をえぐる蹴りだったのだが。
そして魔神の手が蹴速の足を、押す。
「がっ」
即へし折れた。今までの幾多の戦いで打撲しか負ったことはない。ひびすら入れたことはない。
これが、魔神か!
「つあっ!」
気を入れた手刀。右手で切り裂き、左の熊手で掻く。必ず殺すつもりであった。
「うむ。やんちゃ盛りか。どう可愛がるべきか」
魔神は手刀を避けなかった。臓腑を貫き骨で止まった右手刀をそのままに、倒れる姿勢の首を掻くつもりの左手を、自らの右手で柔らかく握り。まず左手を握り潰した。
「あ」
思わず出た声。悲鳴を上げつつ抵抗する力は、先ほどまでは有った。しかし、右手刀が止まったまま。何者をも貫く無敵の手が。不敗だったはずの自らが。いずれ有るだろう、そう予想は出来てもいざ訪れた敗北の事実に、蹴速は身動ぎも出来なかった。
負け、か。これが負け。惜しかった、か?いや確かにダメージは与えたが、立ってるのはあっち。右手が相手に刺さってるからこそ、ようよう上体が起きてる自分は、相手に立たされているに過ぎない。はああ。
「うむ。これから仲良く喧嘩しような。蹴速」
魔神はおそらく、蹴速を魔界とやらに連れ去るつもりだったのだろう。何故おそらくか?それは、
バタリ
「あ?」
魔神が倒れた。これもまた想像に過ぎないが、おそらく急激な出血によるものと思われる。
「え?」
「え」
「え」
魔王ミドリは目の前の有り得ない光景に思考を停止させた。先程まで、流石魔神様つえー!蹴速君も無茶苦茶な化け物だなー、本気で戦ってなくて良かったー、後で墓とか作ってあげたらいいかな、でも人間側で作るかなー、お花持ってくだけで・・・。等々巡らしていた思考が全て止んだ。
これは、勝った・・のか・・。
「蹴速!」
「蹴速君!」
片手片足を負傷している蹴速に駆け寄る2人。何はともあれ魔神は倒れた。理由は分からないが。
「どうだ、大丈夫か」
梅が蹴速に話しかける。御徳は自らの短刀を添え木にするべく、自分の服装を取っている。
「はい。めっちゃ痛いし、すげえ気持ち悪いですけど、死ぬ感じじゃないですね。多分、多分・・」
「ああ。魔神と直接戦闘を行った君の体にどのような影響が有ったのか。正直分からん。一刻も早く医者に見せなければ」
「ありがとう、ございます」
「礼を言うのはこちらの方だよ。私は、君を助けられなかった。君が体を張っていた時に」
「梅、あまり喋らせるな。怪我人だぞ」
足の処置を終え、手を見る御徳。御徳も応急処置以上の心得はない。手馴れぬ手際だが、丁寧に傷を見、布を巻きつけ蹴速を手当する。
「いや、本当にありがとうございます。こうやって手当してもらえて、嬉しいです。医者にも連れてってもらえるとか」
「当たり前だよ。私達の命の恩人だ。君をないがしろにしては、流石に誇りを全て失ってしまう」
「仕方・・」
「だから、喋らない。とっとと治してしまった方が良い」
「私の医療班を使う。全治まで一週間もかからないはずだ」
「そうか。それを使えば確かに」
「魔法か何かですか。骨折れてるんですけど」
「ああ、魔法だよ。だからウチ以外ではあまり使えない。今回は無理にでも使わさせるがな」
吐き気を催しかけている蹴速は、気を紛らわせるべく想像を羽ばたかせた。
ほよよーんて治るんかな。有り難い。普通に全治半年とかじゃなくて良かった良かった。
「魔王はどうする」
「置いていこう。自失状態のうちに私達は消えたほうがいい。逆上して本気で襲いかかられては、堪らない」
「だな」
何とか蹴速を処置した御徳は、蹴速を背負い歩きだした。御徳の武器は梅が持ち、魔王を警戒しつつ歩き去る。
「これからどうなるにせよ、生きてて良かった」
「全くだ。死ぬかと思った」
「先輩方にしごかれてた頃を思い出した。あの当時は通用しなかったのが辛かったなあ」
「そうか。私は両親や親戚を思い出した。やはり適わなかったな。蹴速は?」
「蹴速君なら寝てるよ。歩きだしてすぐだ。これ以上の体力の消耗を避けるためだろうが、信用してくれていて、嬉しいな」
「ふん。ようやく蹴速の弱い部分を見れたか」
「意地の悪い」
「ただの乙女心だ。可愛いものだろう」
「・・・ぶふぉっ、ぇうはっ、あぁはっ」
「何事だ」
「君の口から乙女、とは」
「失礼すぎるだろう。私も女性だぞ」
「最強の、な。君をただの女性でくくるのは、一般の女性に対して失礼だよ」
「そうか?蹴速や魔神を見て、私もただの人でしかないと思い知らされたが」
「だから。比べる相手が悪すぎる。私は3当主と比較しても弱いだろうし、対策を取られれば量猟にも負けるだろう。それでも私自身が弱くなっているわけではないよ。もちろん、君にも当てはまる」
「ふう。慰めはいい。・・いやすまない」
「ま、察する。君の神隠しが通じないなんて。今でも信じられない」
「私が一番信じられないよ。全く」
その頃、魔王は。
「・・・・・・・・・・・・・」
未だ呆然としていた。座り込む足はしびれが切れて、きっと立ち上がるとき、何故あの時動かなかったのか・・・と後悔するくらいになっていたが、それでも動けなかった。それほど、魔神シロが倒れたことはミドリユウキにとって、有り得ないことだったのだ。
「・・・・・ハッ」
魔神が目覚めた。
「・・・お」
魔王も動いた。
「魔神さまああああ!」
「うるさい」
思わず抱きつこうとした魔王は魔神の振った手によって1キロメートルほど吹っ飛ばされた。
すくっと立ち上がる魔神。
「ううむ。不死身の我が身。しかし、そーいえば試したことはなかったの。一時的に内臓が傷つき、急激な失血。意識も失われたか。ここまで損傷すると、回復に時間がかかると。わしも未熟だった、か。ええい、蹴速をものにする好機が」
「・・魔神さま!」
吹っ飛ばされた魔王は1分経たず返ってきた。
「よくぞご無事で!」
魔神の目前でひざまずき感激に浸る魔王。
「うん?何を驚いておる。わしが死ぬとでも思っておったか」
「は、はい。あ、死んだ。魔界終わったー、と思いました」
「ふふふ。わしは不死身よ。安堵せよ」
「流石魔神様!しかし蹴速君の攻撃を受けて、本当に大丈夫なんですか?」
「うむ。すっごい苦しかったし、気が遠くなったときは走馬灯が見えたが。全然平気じゃ」
「おおおお。流石魔神様!」
「うむうむ。ぬしの疑念も良い」
「あはは」
魔神は蹴速を追う気を失くしていた。今追っても、喧嘩出来ない。自分が治してやっても良いが、蹴速に馬鹿にされていると思われるのは嫌だ。ううむ。そうだ!魔神は閃いた。
「魔王ミドリユウキ」
「・・はっ。死刑は勘弁してください」
「そうか。ではわしの命を受けよ。それで、ちゃら、じゃ」
「ははっ。如何なる命、全て全力で全うしましょう」
「うむうむ。ではぬしはこれより、魔王アオミドリユウキアイじゃ」
「は?」
「そして魔王アオアイには魔王を辞めさせ、蹴速の仲間にならせる。あやつは人間であったはず」
「は、はあ」
「そしてあの治癒力によって蹴速を回復させ、魔神を倒させに向かわせる。もちろん、わしと戦う度にアオに回復させる。ひゅひゅひゅ。我ながらなんたる名案」
「はー」
「うむうむ。心を読まれると知ってその心情。ぬしはやはり可愛いのう」
「あざます」
「うむ」
にこにこ笑顔の魔神シロは、一気に白けた魔王アオミドリユウキアイを引き連れ魔界に帰っていった。