蹴速、出かける。
「魔神様は?」
「ただいま、お散歩のお時間です」
「そっかー」
「ただいまは、ミドリ様もお出かけのようで連絡が着きません」
「へえ。ミドリが城から出るなんて珍しいね」
「ですから・・」
ぽよん
「あら。ご帰還かな」
「そうですね。魔神様の響きです」
「ただいまー」
「ただいま帰りました」
「お帰りなさいませ」
「お帰りー」
「お服が汚れておりますね」
「うおっ!?何があったの!」
「うむ?ちと遊んでおったよ。楽しかったのお。な、アオミドリ」
「はあ」
喜色の濃い魔神とやや呆然としているミドリ。
「アオミドリ?いやそれより」
「うむうむ。このアオミドリが2番魔王になったからの。よろしく頼むぞ」
「は」
「かしこまりました」
「ういす。おねしす」
言うだけ言って魔神は消えた。
「アオミドリ、キャラ変わった?」
「あの、ちょっと、色々あって、その」
「あ、いつも通りだ」
「ですね。それでアオミドリ様が2番魔王様ということで。アオ様はどうなるので?」
「うん。皆そろったときに、詳しく話すよ」
「おっけおっけ。じゃあ連絡よろしくー」
「はい。お任せ下さい。アカ様とアオミドリ様はこのままお留まりに?」
「うーん。おれは大丈夫。何か食べてて良いでしょ?」
「はい。食堂にいらっしゃるということで」
「うん。アオミドリは」
「あ、僕は、あ、食堂に」
「一緒だね。じゃあ皆来たら教えてねー」
「はい。では、しばしお待ちください」
魔王2人が食堂に。ここで言う食堂とは、兵卒全員が食べに来る大食堂ではない。魔王や魔神、その側近がぐだぐだ話しながら戦略会議をしたりボードゲームしたり飲み会したりする場所のことだ。
「あー、何食べようかなー。ご飯は後で食べようか。いやもう食べるか。アオミドリどうする?」
「あ、うん、今日は、お肉食べれないから、お野菜のピザ頼もうって思ってる」
「へー!ピザかあ。いいなあ。おれは、どうしようかなあ」
その頃。人間界。
「どうだ」
「はい。大丈夫です。魔力の影響はありますが、色濃いものではございません。治癒の邪魔になるほどでは」
「そうか。よろしく頼む。私の恩人だ」
「お任せあれ」
三鬼家宅。蹴速は山を下りると、三鬼梅の実家まで連れられた。途中応援に行こうとしていた連中と出会い、話を付け、山を囲む範囲での警護に切り替えさせる。魔神がまだ居れば、帰って来れなくなる。
特盛、量猟もその中に居たが今は本部で梅の帰りを待っているはずだ。そして治療班に蹴速を任せる。
「蹴速。ゆっくり休んでいてくれていい。誰かに言えば大抵のことは叶うはずだ。不自由はさせない」
「あ、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。気、使わんでも」
「これは私の勝手だ。出来れば受け取ってほしいな」
「あ、はい。じゃ、あのジュースとかありますか」
「ああ!持ってこよう。冷やしたものが良いかな?」
「それでお願いします」
「分かった。待っていてくれ」
え。梅さんが持って来るの?お手伝いさんに言うたらいいやん。んー、感謝の気持ち、かな。しかしまあ、本当に治るもんやな。まだヒリヒリするけど、これくらいなら痛いってことはない。この技、欲しいなあ。持って帰れるかって言うたら、まあ無理か。あんまり数おらん言うてたしな。誰かこっちに連れてきて勉強させるか。・・勉強してどうにかなるなら、もうちょっと人数おっていいかあ。
蹴速は無意識に、魔神との戦いを思い出すのを避けていた。
1分後。
「待たせたな」
「あっ、ありがとうございます」
「どういたしまして。手に違和感はないか?持てるか?」
「大丈夫です。腕の良い方だったんですかね。ちょっと変な感じはありますけど、全然痛みはないです」
「そうか。それはなによりだ。一応一番の腕利きだからな。ふふん」
「?あ、はい」
「では、私は本部に行かねばならない。いつ帰れるか分からんが、居心地が良ければずっと居てくれて良い」
「あー、あの、占い師っていう方に」
「おお。そういえばそうだったな。すっかり忘れていた。申し訳ない」
「しょうがないす。その後の事態が大きすぎました」
「ああ。だが話はつける」
「分かりました。本当に、お世話になります」
「ふふ。これを貸しに、と思っていたのだがな。借りたのは私たちだ」
「ううん。どってことないです。結局勝てませんかったし」
「命あっての物種。生きているのは君のおかげだよ」
「うん。はい」
「何を気にしている?あの魔神を倒したのは君なんだぞ」
「倒したつうか、倒れた感じですよ。勝てない気がしました、マジに」
「私は、その君に勝てる気がしないよ。ほんの数瞬の魔神との戦闘。寿命が縮まったよ、全く」
「強すぎますよ、ほんと。参っちゃって」
「正直な所どうだ?魔王になら勝てるか?私たちは魔王に勝てるだろうか」
「ううん。全力で挑めば、多分ミドリさんくらいなら、やれるはずです。うーん。梅さんと在前さんでも厳しい、かなあ。在前さんも梅さんも弱くないですよ。でも、ミドリさんでも、おれの本気でないと攻撃が効かなそうな感じでした。在前さんと梅さんでやれるかどうかったら、厳しいんじゃないかと」
「ふむ。改めて聞くと衝撃だな。そうか」
「あー、なんとなく、です」
「ああ。正確な敵戦力など、私にも分かりはしないんだ。それは当て推量でいいさ」
「んー。実際。魔神が強すぎて、何も考えられないですね、今は」
表情に乏しい蹴速。とほほ、と付けたくなる顔だが。
「何も考えなくていい。考えたくなる時が来る。それまではな」
「は、い」
「行ってくる。お腹いっぱい食べるんだぞ」
「遠慮しませんよ、もう」
「はは。では」
「行ってらっしゃい」
行ったー。これで梅さんが帰ってきた時には、祝寝の居場所が分かる。そういうことやな。
はああああ。
自信、完全にぶっ壊れたなあ。
蹴速がとろとろ考えている。
「アオ様、キ様、モモ様ご到着です」
「おっ。ちょうど食べ終わったところだ。タイミングいいなー」
「う、うん」
アオミドリとアカは昼食を平らげていた。アオミドリは季節の野菜たっぷりシェフのお任せピザ。アカはステーキにポテトサラダ。それをコーラで頂く。腹がくちくなり、二人の機嫌は上々。
「よう・・」
「大丈夫だったかミドリ」
「ミドリちゃん大丈夫!?」
魔王アオ アイ。魔王キ ユウジョウ。魔王モモ ヤサシサ。5魔王のうち残りの3名が到着した。
「で?おめぇがあたしの名を奪ったのは、どーいう了見だぁ?ああ?」
「あ、う・・・」
「どーどー。アオ。そんな事言ったって、魔神様のお決めになったことだよ」
アオミドリに絡むアオにアカが仲裁に入る。
「知ったことじゃねえな!あの野郎があたしの名前だっつったんだよ!なのに・・・!」
「分かるよ、うん。すんごく分かる。でもミドリちゃんを怒ってもしょうがないの」
モモもアオをいさめる。
「しかしアオの怒りも分かるよ、おれは。ミドリが悪いわけはないにせよ、怒りは湧くさ」
キはアオの気持ちを酌む。
「まーまー皆の衆。われらが2番魔王、アオミドリ ユウキアイ君からお話があります。まず、それを聞くのがいいっしょ」
アカが取りまとめる。
そして4魔王に見られ、足を震わせるアオミドリ。
「うう、えほっ。あの、はい。この度ぼくことアオミドリユウキアイはですね、アオさんの領地を引き継ぐことになり」
言い終わる前にアオの拳が飛んだ。
「待てって。話の途中だろー」
アカがさくっと止める。造作もなく。
「ちっ。続けろや」
拳を戻すアオ。心臓ドキドキさせながら、話を頑張ろうと決意するアオミドリ。おろおろするモモ。澄ました表情のキ。にこにこ笑顔のアカ。
「で、で、です、ね。あのアオさんには魔神様より命が下っておりまして」
「はあ?なんだ」
「あの・・人間の仲間になって人間の手助けをするように、と」
今度こそアオの容赦ない一撃がアオミドリを襲うが、やはりアカが止める。
「いってー」
「痛くねぇんだろ。クソが」
「へへへー。でもまー、危ないから室内で喧嘩はやめよーぜ」
「いや。それ以前に、仲間で争うなどあってはならないことだ」
「喧嘩はダメ!」
もうイヤ!そうアオミドリが心の悲鳴を上げた時、魔神が入室した。
「じゃじゃーん!わしじゃ!」
「これはこれは」
「魔神さまあ」
「やほー!」
「こらあ!」
「魔神様!」
上からキ、モモ、アカ、アオ、アオミドリ、である。
「舐めた真似しやがってっ!」
アオ突撃。今度はアカは止めない。魔神も止めない。
「うむうむ。すまんのお、アオ。許して欲しいなあ、アイちゃん」
「口先ヤローが!」
魔神はアオアイに殴られるだけ殴られている。魔神は子供に撫でられてくすぐったそうだ。
「可愛いのお。昔を思い出すわ」
「ちっ」
何度打撃を加えようと通じてないと知るや、アオは魔神から離れた。
「しかし魔神様。アオの癇癪も無理なきこと。ご説明願えますか?」
キの質問。周りの魔王も一応聞く姿勢を見せた。アオも。
「ひゅひゅひゅ。聞きたいか、そうかそうか!じゃろうな!わしのおもちゃが見つかったのじゃ!」
「おおお!」
取りあえず乗ってみたアオミドリ。
「おもちゃ?それが人間とどのような」
質問を重ねるキ。他は口を挟まない。
「んんん。先ほどな、ちらっと人間界に遊びに出たわけじゃ。アオミドリを探すついでにな」
「アオミドリを探す?アオミドリ。お前どこか出ていたのか」
「そーいえばアオミドリ連絡着かなかったね」
「あ、あの、魔界に。ぼくの領地に穴があいてて。それの、原因を探らなきゃって思って。人間界に赴きました」
「うむ。仕事熱心で結構。で、じゃ。善良魔神たるわしはじゃ。アオミドリのやつ、迷子になって泣いておるのではなかろうか?そう思って探しに行ってやったわけよ。全く自分が憎い。このような慈愛の情が魔神にあってよいのか!ふふん」
「アオミドリが都合良いからだろ、おめーにとって」
「絶対優しいとか、そういうんじゃないよねー」
「やっぱり魔神さまはお優しい!」
「共生こそ我ら魔族の取る道。流石魔神様」
「はあ。その節はあざした」
「キャラ変わるねやっぱ。そんな面白いことあった?」
「ああ、えと」
「ここからが本編よ!ようく聞けい!」
ゴホン。
「わしはわしと出会うために生まれた人間と出会った。その名も対魔蹴速。ひゅひゅひゅ」
「はあ?」
「へー」
「それはそれは」
「びっくりです!」
アオミドリは特に反応もない。特筆するべき反応を見せたのはアオ、アカ。
アオはいつも通り好戦的な顔。しかしアカは先ほどまでの笑顔を変えている。好物を前にした笑みを浮かべている。
「ねー。それおれも遊んでいい?」
「良いが。死ぬぞよ?」
「おれが?」
今度は全魔王が反応した。
「こいつが?なんだってんだよ。そんな人間いんのか」
「信じがたい」
「アオちゃんみたいに、魔神さまが何か手解きされたんです?」
「いやいや。わしは何もしておらぬ。完全天然素材よ。ああ、よだれが」
本当に口端からたらり落としてしまう魔神。そっと口を拭う側近。
「そいつぶっ殺していい?」
「おれもなんとなくムカツク。殺りてえ」
「魔神様の玩具に触れては・・」
「です!魔神さまのものです!」
「いやいや。わしは寛容魔神。おもちゃは皆で遊んで良いのじゃよ。まあ蹴速に全員殺されるじゃろうがな。きはは」
「クソ野郎が」
「そっかー。楽しみだなあ」
アオは魔神の言いなりになるのも思い通りになるもの嫌だが、解決策はない。アカは心待ちにできる遊びを見つけてわくわくしていた。
「魔神様。つまり手出しは良い。あまつさえ殺すことになっても・・」
「うむうむ。モモ。ぬしがやっても、よいぞ」
ざわり
「へえ。マジか」
「これは期待。わくわくするなー」
「おれの想定より強いか」
「わたし、わたし」
「モモ。近頃血を浴びておらぬじゃろ。それではいかん。魔族として月1でシャワーを浴び、健康な肉体を育まねばな」
「こいつ本当に不潔なんだぜ?あたしが、丁度健康な部下をひねって搾ってやったのに、いらねえって。もったいないから、あたしとアカで浴びたけどよ」
「うん。モモは優しすぎるよ。それじゃ自分の体を悪くしちゃう。モモは魔王なんだから、自分の体を大切にしなくちゃ」
「うん。でも・・・」
「少しずつで良いんだ、モモ。量が辛ければ、コーヒーにちょっと落とすだけでも良い。少しずつ試してみよう。な?」
「で、ですよ。モモさん。せっかく魔王になれたのに、寿命縮めちゃうの、もったいないですよ」
「ま。蹴速には勝てんがな。きはははは」
「台無しにすんなよ」
「モモさんの健康が大事だと、思います」
「モモ。おれんちでちょっと食べてく?」
「おれの城でも構わんぞ。魔王同士助け合わねばな」
「皆さん・・・ありがとうございますう。そう、ですね。少しずつ試してみます。でもお邪魔してしまって、やっぱり無理ってなっちゃったら申し訳ないですし。クロさん。そういうの、少しお願いできますか?」
「ええ。承りました。・・そうですね。シェフとも相談の上で、ちょっぴり風味を効かせるくらいの量でやってみましょう」
「ま、始めはそんなもんかー」
「断食明けに、アカは50人食って腹壊したんだよなあ?」
「くくく。おれもそれを思い出した」
「もー、忘れろよー。おれは、せっかく忘れてたのに」
うむうむ。魔神は仲の良い魔王達を見て、1人頷いていた。
モモが元気になってきたら、100人衆を皆で食ってもいいのお。あやつらが成長しなければ、の話じゃが。
魔王に次ぐ実力者100人は、結局の所。魔王以上の者の餌だった。
「対魔蹴速?」
「ある意味打って付けの名、か?」
「三鬼梅。彼女の報告に間違いはないか?」
「ありません。私の確認出来ている限り、全て事実です」
在前御徳と、あまり愉快な気持ちではない仲間達。事情聴取である。先ほどまで、三鬼梅が報告を行なっていた。
「彼の助力を得て逃走に成功。私達では魔神に擦り傷一つ付けられませんでした」
「おお・・」
「改めて君達の報告を重ねて聞くと、辛いな」
「で」
「はい?」
「聞きたい。何人居れば抑えられる」
「そうですね。私並み。つまり隊長以上のもの、10名居れば、魔王ならば。抑えられます」
「10人かあ。結構取るな」
「まあそれで抑えられるなら、仕方ない」
「ですな」
「良し。在前御徳。お疲れだが、10名にさらに入れても良いメンバー案を出してくれ。隊長以上を10名丸々、山に送るのはきつい。多方面が、がら空きになってしまう」
「了解しました。ある程度固めていいですよね」
「ああ。適当にな」
「では。失礼します」
「おお」
御徳は退室した。残った者、3名。
「魔神。実在したのか」
「三鬼でも通用しない、とは」
「運を天に任せるより他、ありませんな」
じめっと諦めムード。
「他の名家は」
「二神は南海に出ていて、帰ってくるのは早くても半年後。一一人は・・・山篭りの最中です。家の方から連絡をしてもらえれば、おそらく帰ってきてくれるでしょう」
「ならば一一人は人数に入れていいな。二神は、連絡は付けられないか?」
「遠すぎます。出てから1月経ってしまっているので、この距離では通信は・・」
「ああ。そうだな、すまん」
「魔神、は」
「考えたくもない。魔王に対処するだけで手一杯だぞ」
「出来ないことは考えても仕方ない。魔神に関しては隊長以上の情報として」
「だな。勝てない敵がいるから諦めましょう、とは言えん」
三鬼梅は、魔王やそれ以上の存在である魔神への対応を血族で考えねばならないが。本部に赴いたついでに、市中に居る河歯牙を訪ねていた。
本部から徒歩で15分。商店街から少し離れた所にある、一軒家。その家の呼び鈴を鳴らす梅。
「お待ちしておりました、三鬼様」
「ふ。相変わらず、すごい占いだ。予約はしてないが、大丈夫かな」
「三鬼様であれば。もちろん店主は予定を空けておりましたが」
「そうか、ありがとう。お邪魔するよ」
「はい。こちらへ」
出迎えにドアに現れた女に誘われ、店主の待つ3階へと足を運ぶ。
「久しぶり、梅」
「や、歯牙」
待っていたのは如何にも占い師でございといった風貌の者。
「全て分かってる、と言いたいとこだけど、さ。はあ」
「どうした。100億年先まで見通すんじゃないのか」
「あはは。若気の至りだよ、そんなの。で、さあ。わたし死んじゃうんだよねえ」
「ほう。回避出来んのか」
「んー。その、殺されるんだけどね、わたし。相手がさあ、魔神とかいうやつで」
「なるほど。長い付き合いの相手を失うのは悲しいが、今までありがとう。ご冥福をお祈りする」
「助けてよ!!!せめて努力してよう」
「視たかどうか知らんが、私も魔神とは戦ってきた。手も足も出なかったがな」
「うええ。それは視てなかった。今朝視たのはわたしに関する未来だけだからなあ」
「しかし魔神がお前を?確かに、占いを戦略に使われては魔族の被害も馬鹿にならないだろうが、魔神自ら出張るほどか?」
「うーん。何かね、男の子と遊ぶのに、わたしの占いが邪魔なんだって。だから消しに来るらしいよ」
「参ったな。魔神は魔界と人間界を自在に行き来出来るのか・・」
「参るのはわたしが消されちゃうこと!」
「男の子、には心当たりが有る。間違いなくお前は殺されるだろう」
「えええ・・・・・・」
頭を抱える歯牙。
「死にたくなければ、その未来の変更に必要なものを占え。どうすれば全員が生き残れるのだ。そこからなら私も協力出来る」
「そ、そっか!やるよわたし!」
蹴速と私達のために頑張ってくれ。ついでに助けてやる。
梅の思考回路は多少不自由が生じていた。本人は気付いていないが。
「うーん。うーん。うーん」
声に出さなければならないのか?
「分かった!!!」
「おお。分かったのか。全く期待していなかったが、やれば出来るものだな」
「期待しててよ!!そんなことより、分かったんだよ!」
「言え」
「うん!あのね、男の子1人と女の子が7人、かな。それで魔神は帰っていったよ。わたしは150才まで生きられるって」
「そうか」
また無駄に長生きを。
「その女の子、の詳細は見えたか?」
「うう、ん。1人は梅。それで梅にくっついてる子」
「平特盛か」
「名前覚えてないけど、多分その子ね」
「それから・・馬鹿を絵に描いたような子。んで、すごい暗い、大丈夫かなって思っちゃうような子」
「・・・・・・心当たりは、ある。念のため聞くが、全員戦力に数えられる人間なのか」
「多分。視た感じ。全員戦ってるはずだから」
「そうか。ならば二神と一一人の当主達だな」
「へえ。噂よりダメ人間ぽいね、その人ら」
「お前に言われるとおしまいだから、やめてやれ」
「その言い方わたしがやめてほしいよ!」
「続きだ。後3人だな」
「うん。何かすごい怖い子。自分の傷を治しながら永遠に戦ってるような」
「ほお。治癒能力者か。しかしそこまで自分で闘う者は知らないな」
「それで、男の子と仲良さそうな子」
「・・なるほど。それを今日、頼もうと思っていた」
「へえ?奇遇だね。最後!龍の子?」
「なんだそれは」
「分かんない」
「死にたくなければ詳細を占え」
「だ、だってもうこれ以上視えないよ!」
「ちっ。細かいところに手が届かん。だから残念なのだお前は」
「ちがうでしょ!?そういう意味じゃないでしょ残念て!」
「まあ、いい。そもそも、こんなどうでもいいことを聞きに来たのではない」
「どうでもいい内容に聞こえたかな!?」
「その、男の子と仲良さそうという女子について。行方が知りたい。報酬は三鬼の名において弾む」
「ふーん。参考資料ゼロからの占いは高いよ」
「ああ。おまえの年収を10倍にしてやる」
来年の税金で目の玉を飛び出させろ。
「ほんと!?やった!欲しいもの一杯あったんだよねえ。頑張っちゃおうかな、友達のために!」
金に困ったら何時でも来い。150年だったかの寿命分タダ働きしてもらうだけで良いぞ。
「じゃ!うーんん。んんーん。ううーん」
邪魔してはいけないが、どうも。蹴っ飛ばしたくなるうめき声だな。
「分かった!!その子海で泳いでるよ」
「ほう。どの辺だ?」
「ううん。なにかね、さっき言った馬鹿っぽい子、居たじゃない」
「ああ」
「その子と一緒だよ」
「今もか」
「うん!リアルタイム映像だからね!」
「お前から連絡は取れないか、向こうへ」
「あー、それは無理。わたしに出来るのはのぞき見だけだからね!」
「国家に貢献していなければ、私自ら斬り捨てている能力だな」
「冗談でも怖いよ!」
「いや、心から思っている」
「冗談にしといて!」
「しかし、分かった。ありがとう。礼金は明日持って来させる」
「なんのなんの。わたしと梅ちゃんの間柄じゃなーい?」
「気持ち悪い」
「そういう、サラっと素で言われるの、1番傷つくんだからね・・」
「そうか。ではな」
「フォロー!」
席を立つと、帰り際。
「・・・」
「どしたの?」
足を止める梅。
「このようなこと、三鬼の者が言うべきではないのだが」
「分かってるって。言わなくても分かってるよ、梅」
「そうか。ならば言うまい」
「言ってもいいよ!?」
「いつもお前には助けられていた。感謝している。達者でな」
「・・またね。お婆ちゃんになっても、お茶しようね!」
「ふん。それまで付き合っているかな」
「当然!」
てくてくと帰っていく梅。笑顔の歯牙。
てくてくと戻ってくる梅。ちょっと耳が赤い。
「どったの?」
「その、魔神はいつ来る?」
「ああ!分かんない!」
「ちっ」
「梅が聞き忘れたんだよね!?なんでわたしの能力不足みたいに舌打ちするの!?」
「占えば分かるのか?」
「ううん。分かんない。魔神の動向を探ると、なんか淀んでるっていうかね。不鮮明なんだよ。だいたいこの辺、ていうのは分かるんだけど」
「仕方あるまい。だいたいで良い」
「来週までかなあ?」
「そうか。お前が居なくなってしまって残念だよ」
「諦めないで!?来週までに8人そろえば魔神帰るから!」
「常識的に考えて不可能だが」
「へへ。そんなもん。魔神と戦って生き残った人がここに居るじゃん?」
「・・・ふ。その通りだ。守ってやる。無茶なことはするなよ」
「うん!梅も死んだら怒るからね!」
「ふん。私はお前より長生きして幸せになると決めている」
「一緒に幸せになろうよ!?」
「今度こそ、じゃあな」
「うん!」
とととと階段を下りる梅。女にドアを開けてもらう。
「梅に任せれば大丈夫!じゃ、予約開始するかあああ!」
泣きながら占わせてくださいと梅にすがり付く未来へと向かって、歯牙は燃えていた。
梅は足取り軽くなったり重くなったりしながら帰宅した。
「ただいま」
「お帰りなさいませ」
「ああ。蹴速は部屋か?」
「いえ。修行場の方で汗を流しておられます」
「なに?」
「菅女さんがお止めしたのですが・・」
「そうか。私も行こう」
「はい。お荷物はお部屋に」
「頼む」
ゴッ、ゴゴオ!ドッ!
修行場は様相を変えていた。普段は三鬼の者及び、衛兵等が訓練に使っている場所だ。だから人もそこそこ居るはずなのだが。
「いいな!お前!」
「ありがとうございます!」
お父様?
蹴速、対、前三鬼当主、三鬼華虎。
速くはない。少なくとも御徳よりは遅い、が。捉えきれない。少しだけ魔神を思い出す。この太刀筋。
思わず力む蹴速。
おっと。
「あぶねえな?」
「すみません。ちょっと本気出してしまいました」
このガキ、化け物だ。一一人より強えんじゃねえの?
この人、梅さんの父親らしいが、すごい。今の当てちゃったかと心配したが、さらっと避けてる。体さばきが巧い。
「なあ、蹴速君」
「はい?」
「今、どれくらいの力だい?」
「ええと」
「魔王と戦った時の力。体験したいなあ」
「うーん。・・多分、耐え切れないと思います」
「へえ。じゃあ魔神と戦った時なら?どうなる?」
「間違いなく死にます」
「そうかあ」
武器を置く華虎。
「次元が違うとは、こういうことかねえ」
「お父様」
「おお。お帰り、梅」
「お帰りなさい、梅さん」
「ただいま。しかし蹴速。もうこのような動きをして大丈夫なのか」
「ええ。よほど治療の具合が良いのか。数時間前に折れてた手足が、もう全快してます」
「そうか。ウチの一番の治療者だからな。しかしそれほどの成果があるとは」
「梅。この子、いいな」
「ええ。逸材です」
「ふん。いつ結婚するんだ?」
「落ち着いてから、ですね」
「え!?」
「ああ。蹴速は慌てなくていい。全てこちらで準備する」
「だな。気付いたら納まってるから、気にしなくていい」
「いや、いやいや」
「ま、そのうち、な」
「いや、えと、そんなことより」
「分かってる。君の幼馴染の件だ」
「はい」
「現在地は分かった。そしておそらくだが、安全は保証されているようだ」
「お、おおおお!す、すごいですね、占い」
「ああ。しかしながら、すぐに迎えに行くというのも厳しい」
「何故ですか?」
「まず、遠い。今彼女はここから遥か彼方の海上に居る。船に乗っているはずだ。それは味方の船なので命の心配はしなくていい。その船の責任者も悪いやつではない。それから、その船の正確な場所が分からない。遠距離かつ何処に居るのか分からない。故に帰港を待つのが得策ではないだろうか」
「その船は、何時帰るんですか」
「早くて半年後」
「そうですか。迎えに行ってきます」
「ふむ。君ならそう言うであろうと思っていたが、な」
「すみません。梅さんの言う通りにするのが、賢明とは思います。しかし、半年放ったらかしにするなんて、おれはあいつに言ってない」
「妬けるな」
「はあ」
「で、見つける当てはあるのか?」
「いえ、全く。まあ、なんとかやってみます」
「そうか。持っていく物はウチで用意していけ」
「お世話になっても構いませんか」
「ああ。実は私にも事情が出来た。君が彼女を探しに行くことが、私にとっても必要な事態なのだ」
「何事ですか」
「今度また魔神が来るらしい。今度の狙いは、これを占ってくれた占い師」
「魔神が、来る」
蹴速はにわかに思い出した。あの戦いを。
「それでその占い師は殺されてしまう。占い師を生き残らせるためには、君と7人の女が必要だ」
「おお。いやしかし、その7人がどのレベルなのか知りませんが」
「言いたいことは分かる。ちなみにその7人には私と特盛も含まれている」
「正直、特盛さんは無駄死にしますよ」
「否定は出来ない。だが私はやつの占いを信じる。私も特盛も魔神との戦いには居合わせる」
「そうですか」
「だからこそ、君が幼馴染を迎えに行く手伝いがしたい」
「なるほど。やることは変わりませんが、お言葉に甘えて」
「ああ。後で話すがもう1人連れてきて欲しい人物が居る。詳しくは準備後にな」
「はい」
そして梅の指示の下、蹴速の旅の支度が進められる。
「いや!そんな豪華なキャンプ用品は。ああ、調味料もそんなダースで要りませんから。服も3日分あれば、これ1月分あるじゃないすか」
順調だ。
「付いていかないのか」
「ええ。私はしおらしい乙女。夫を信じて待ちます」
「それもありだ」
親子の和やかな会話である。
「・・・はあ」
「出来たか」
「あ、はい。本当にありがとうございます」
「では伝えよう。ここにメモがある」
「はい」
「この女もついでに連れてきてくれ。必要だ」
「すごい名前ですね」
「ああ。歴史ある家だからな」
「二神太郎花八郎神無(ふたがみ たろうばなはちろうかんな)」
「そう。3名家の1つ。私より強い人間の1人だ」
「すごいですね」
「君には及ばんがな」
「ま、了解です。事情を話せば付いてきてくれますかね?」
「多分な。魔神との戦い。もしくは魔王との戦いと言えばやつは釣られる。そういう人間だ」
「なるほど。分かりやすいですね」
「ああ。ただし周りには理性的な人間が多いはずだ。周囲を傷つけなければ無理やりでも構わん」
「そのお仕事には影響を与えないんでしょうか」
「うん。おそらく、南海制圧は途中放棄になるだろう」
「どえらいことですね」
「仕方ない。南海を新たな天地にするのでなければ、本国が落とされるのをむざむざ待つわけにはいくまい」
「ええ。じゃ行ってきます」
「ああ」
蹴速の出立を見送る。ここからは梅の仕事だ。
「蹴速の荷物の余りで良い。私達の分も頼む」
「はい」
「3日で帰ってくる」
「分かりました」
手馴れた様子で菅女が旅準備をする。
「こんなことで強くなれたりは、しないかな」
「やってみりゃあいいさ」
「お父様」
「一一人に会いに行くんだろ?」
「はい。ついでに戦っておこうかと」
「うんうん。なんだかんだ言って、戦えば強くなる。頑張れ」
「はい。行ってきます」
梅も旅立つ。
「さあ。若者が旅立った。この街はおれらが何とかしなきゃあな」
「ご無理はされませぬよう」
「まだまだおれも現役よ。ま、それでもお前らは避難準備もしとけ」
「かしこまりました。用意しておきます」
「おう」
そして三鬼は街の保存食を空にする。遠足の準備大好き一族だった。




