特盛、見込まれる。
たっぷり栄養を含んだ竜をたらふく食べた蹴速家。
「美味かった」
「えへへ」
蹴速にべた褒めされた魔王達。
「竜か。わしも久しぶりじゃったの」
ちびちび、骨に付いてた肉を骨ごとガリガリ食べてた魔神シロ。食べやすい部位は、子供達にゆずったため。
「骨も内臓も滋養たっぷりだったね」
「定期的に狩っても良いな」
「うーむ」
シロは腕組みし、異を唱えたさそうだ。
「魔神様?」
「ま、やめておいた方が良いじゃろ」
「そうなの?」
「分かりました」
とりあえず、シロの言う事なので従う魔王達。蹴速達も疑念は無い。
「なんでか、聞いても良いか」
「うむ。あれは、大地の栄養を蓄える竜。美味しいのは全く同意じゃが、食べ過ぎては、世界に影響が出るぞい」
「ほう」
海鶴は、少し、海竜を思い出した。あれが何か、海鶴も知らない。しかし、何故か思い出していた。
「残りは凍らせて保存。焼いたものと、おかずは有我に持って行ってやろう」
「倉庫に置いておくか」
亜意達は有我に手土産を持って行った。シロは倉庫に運び込んだ肉を凍らせる。およそマイナス1万度で固定。さらに周囲を結界で覆う。これで、かき氷として消費されるのも防げる。
蹴速は暇だ。シロも時間が有る。
「2人きりじゃの」
「ああ」
子供達はおねむだ。
「具足は、要らぬのか」
「壊すのはもったいないぜ。お前とやったら、壊れるかも」
「わしが、新しいのをくれてやろうか」
「うん?」
「わしの骨を加工すれば、最も硬い武器が出来るぞ」
「お前の骨はお前の体に在れば良い」
そんなに硬いのか。
「いくらでも代わりは出来るぞ?」
「嫁にやらせるわけには、いかん」
シロはこっそり微笑んだ。
「遊ぶか」
「ああ」
家の裏庭、という名の広っぱ。そこで、最強と最強が、打ち合う。
蹴速が突っ込む。瞬きの間に、数千の蹴りが直撃で入った。シロは全てを受けたはずだが、倒れない、恐らく効いてない。
今度はシロ。大振りの拳。食らうと、死ぬ。蹴速は数万の拳で迎撃。接近までに勢いと重みを殺す。何とか、受け止める事に成功。
にたり
「強くなったの。まさか受け止められるとは」
「お前が本気でないからよ」
にやり
蹴速も笑み、本気で蹴る。意識はさせない、極自然な動き。
シロの腕を折った事も有る一撃だが。もう折れない。
「そのうち来るとは分かっておった。力を中に込めていれば、の」
「全く。強いにも程が有る」
嬉しい。こんなにも強い。果てが無い。こいつに、勝ちたい。
シロも心から嬉しかった。蹴速の心が、自分で埋まっている。
蹴速が、45兆1659億8331万99撃目を打ち終わった時、祝寝が呼びに来た。
「2人とも、晩ご飯!」
「・・・おー」
「ほいほい」
疲労困憊の蹴速。うっすらと汗をかいているシロ。
「大丈夫か?」
「ああ。最高の訓練やった」
「そうか」
ニコニコ笑顔のシロは、蹴速と腕を組み、家に入っていった。
痛みが。
半身をちぎられても即時回復するこの身に蓄積する、痛み。全宇宙で蹴速のみが与えてくれる悦び。これが、愛。
2人の攻撃総量を単純に計算すると、惑星を100万個程壊した事になる。本当に単純計算だが。蹴速は、致命傷を負わずに済んで、ほっとしていた。シロは蹴速を傷付ける事が出来ず、ちょっと残念だった。自分で癒して、慰めるつもりだった。それでも、濃密な、夫婦の時間だった。
ナインライン北部の港。有我達は、中つ国を目指していた。
「君は、来て良いの?」
「ああ」
クマモトナンバーワン、熊大将は、コウチに付いてきていた。
死に場所が、欲しかった。クマモトの名誉のため働き死んだという、口実が欲しい。コウチの役に立ち、クマモトのためになった後、死にたい。死にたい。
無力である自分を、これ以上、見たくない。
雰囲気、真っ暗だなー。真面目な人間という意味では梅を見慣れていたが。有我は熊大将を見て使いづらさを感じていた。
無能ではない。有能だ。ナインラインの魔物への対策をきっちり打ってくれた。だから、これからも使いこなしたいのだが、本人が保身を考えていない。餌が与えられない。
梅ちゃんなら、使えるかなあ。
「有我ー、お昼にしよう」
「はーい」
熊大将も連れて、食堂へ。魔王4名、コウチ最強1名、クマモト最強1名。それなりのメンツだった。
「付いてきてくれて、ホントに有り難いよ」
「へへ。おれ達も面白かったしさ。竜は美味しかったし」
ハハハと笑い合う魔王達。食われた熊大将は、顔を俯かせて食事を取っていた。
「熊ちゃんは何が好きー?」
「あ、ああ。焼き飯とか」
「ほんとー?おれも好きだよ!ご飯もの良いよね!」
「お前は何でも好きだろう」
「そんな事ないよー。その時の気分次第で、好みは変わってるしー」
「それは、どうなんだろう。分かるけど」
「ボクは分かんないなあ。栄養バランス取らないと」
「らしいっちゃらしいな」
「今度、熊ちゃんもウチに来なよ。焼き飯作ってあげるからさ」
「お前の料理の練習台かよ」
「言うなよー」
あはは。
熊大将は、意外だった。もっと、一一人のように、触れれば斬れる雰囲気かと思っていた。さらに話を聞けば、魔王とか。有り得ない。どうしてこのような者達に挑んでしまったのか。
また、暗くなってきたなあ。
有我はこの駒の使い方を考えていた。梅に丸投げするか。
中つ国では、歓迎の準備をしていたようだ。
コウチ御一行様歓迎!と、書かれた横断幕が港に。
「すげー」
「天晴れな風読み」
「ま、ボクらの活躍だね」
「すごいものだ」
熊大将は、実際、感服していた。音に聞こえた武威のみで、勝った。これぞ、強者の真髄。
「ここは楽に行きそうか」
亜意が聞いてくる。
「うん」
有我は、少しほっとしていた。神無から聞いたことが有る。中つ国のトップクラスともなれば、神化を当たり前のように使うとか。もちろん時間制限は有るだろうが、純粋な神々であれば、どの程度保つのか。神無の神化状態が複数人襲ってくれば、厳しい。軍は全滅。自らも逃げるしか、無くなる。戦わず済んで良かった。
向かってくる人影。
「行こう」
例によってキが残ってくれる。3魔王と熊大将を連れて、有我は中つ国の者と会う。
「ようこそいらっしゃいました。コウチの方々」
「うん。一一人有我。よろしく」
「おお。一一人様ですか」
出迎えに来た者に、代表の所まで案内してもらう。
「中つ国。神族会議の席にようこそ」
強者が勢ぞろいと言った所か。この全員が神化を使えるとしたら、苦戦どころではない。コウチの総戦力を以ってしても勝てない。
だが、弱い。
迫力が足りない。恐らくだが、修練を怠っている。神無や自分達が行っているような鍛錬を行っているまい。誰を見ても、神無以上の迫力が無い。
寄り集まったカスだ。
「見るべきものは、これでオシマイかな」
「は。確かに、我々が中つ国の代表ですが」
「うん。これからコウチの属国として、頑張ってね」
有我には、最早何の興味も無かった。仕事が簡単に終わって良かったが。それでも手抜きせず、手続きを進める。
「歓迎会の用意が有ります。ごゆるりと・・」
「いや、いいや。忙しいし」
有我はあっさり帰った。これから、ヤマト攻略が待っているのだ。
「なんだあの態度は」
神族会議のメンバー。
「一一人とは、おごり高ぶった者のようですね」
「全く。あれでは人は付いて来るまい」
「しかし、それでこそ好機。エヒメとの連携もやりやすいと言うものです」
「おお」
「今はじっと時を待ちましょう」
中つ国制圧を軍に任せ、一旦家に帰る有我達。
「どうだった、中つ国は」
「期待外れ。神無ちゃんレベルがゴロゴロ居るかと思ってたら、ザコしか居なかったよ」
「そうか。そう、なのか」
二神の血筋は、遡れば中つ国に行き着く。そこから流れ、コウチにやって来たのが、神無の先祖だ。
憧れが、有った。
勢力争いの結果か、罪人であったか、理由は知らない。それでも、この二神より強い者が、中つ国の主要人員であったはず。
有我の力への眼力に、間違いは有り得ない。本当にザコしか居なかったのだ。
「神無ちゃんが強くなったってことだよ。代々の二神が研鑽練磨を怠らなかった。だからもう、中つ国より強い」
神無までが沈んでいるようなので、フォロー。
もう。
「梅ちゃんは忙しいかな」
「そこまででは有るまい。これからヤマトだから、それなりと言った所か」
「大忙しじゃない」
「ふ。恐らくヤマトとは戦わない。あちらの戦闘準備が行われていないらしい」
「へえ。意外。たった数百殺されただけで、挫けるなんて。そんなに層が薄かったの」
「何でも、ヤマトナンバーワンが殺られたらしい。蹴速のお手柄だ」
「それはもったいない。ボクが殺りたかったな」
「ははは!こういうのは早い者勝ち!蹴速の勝ちだな!」
「ちえ」
口を尖らせた有我が、神無の部屋を出る。1人、部屋に居る神無。
「中つ国。古里よ」
神無は虚空を見つめていた。
三鬼梅はヤマト後を見つめていた。ヤマトは戦えない。問題無い。問題はその後。フ・ズィは手を出さないのが良いか?幸いあちらには野心は無い。有れば、仕方なし。戦うしかなかったが。刀農が、果たして大人しく従うか。総討ち死にするのではないか。御都は。正将軍を戴く奴らは、やはり戦うか。
蹴速が、居れば。
戦略など要らない。全て力押しで勝てる。だが、蹴速は私の夫。コウチの何かではない。使ってはいけない。
そんな事をつらつら考えていると。有我が来た。
「お疲れー」
「ああ」
有我は甘い物を持ってきてくれた。ついでに人も。
「こちら、クマモトトップ、熊大将壱日」
「よろしくお願いします」
「うむ。それで、有我。こちらはどうしたのだ」
「これから大忙しでしょ?人材が要るだろうなあ、と思って。プレゼント」
有我め。厄介払いか。
梅にはお見通しだった。有我は単独最強だが、軍勢の率い方に於いては神無の足元にも及ばない。きっと使いこなせなかったのだろう。
あ、バレてる目だ。
「よろしく!」
有我は帰っていった。
「ふん。まあ、座ってくれ」
「はい」
目の前に居る人間。クマモトトップらしいが。この覇気の無さは。もちろん、自国を攻め落とされ自失というのは分かる。しかし、威圧感というものが、まるで無い。使えるのか、この幽鬼のような者が。
「おれの、戦場を、ください」
「ほう」
「きっと戦います。クマモトのために」
嘘だ。梅は直感した。熱が無い。こいつには、何も無い。
「良いだろう。とっておきの死線をくれてやろう」
「有り難き幸せ」
「うむ」
熊大将には、本部の一室を与える。
使い道は決まった。あのような者に与えられるのは、通常任務。お前に委ねる。
その頃、平特盛は。おニューの武器を漁っていた。新しい剣が欲しい。
「なあ、良いの入ってね?」
「ねえよ。お前に使いこなせるものはな」
「客舐めてんのか?ああ?物理的に潰すぞコラァ」
「店舐めてんのか?ああ?三鬼様にお知らせするぞコラァ」
交渉が始まっていたが、少し時間がかかりそうだ。
「市販品で良いのか」
「神無さん!」
「二神様!」
「ははは!たまたま見かけたのでな!」
「このような粗末な店に、ようこそいらっしゃいました!」
「全く。こんなネズミの家みてーな店に入っちゃダメですよ」
「あ?」
「なんだ?」
「仲が良いな!顔馴染みか!」
「いえ腐れ縁です」
「昔の同級生です」
仲良さげな2人を見ているのも面白いが。丁度良い。
「今日はこれで、すまんな」
「いえいえ、滅相もない。またのお越しをお待ちしております!」
深々と頭を下げる店員。
「行くか」
「あ、はい」
よく分からぬままに付いて行く特盛。先導する神無は、二神の家に入っていく。
「なんすか。おれは特に悪い事も良い事も労働もしてないっすけど」
「ふふふ!」
まさか、処刑?嘘だろ・・・
特盛は最悪の妄想をし始めたが、悲しくなったので、途中でやめた。
神無に案内されて着いたのは、武器庫。刀剣から火砲まで、丁寧に手入れがされている1流品が、山のように有る。
うおおおおおお
特盛はヨダレを落としそうになったが、声と共に我慢した。
「好きなものを選べ」
「え?」
「お前も、そろそろ得物が要るだろう」
「え・・・」
な、なんだこの展開。おれも、いよいよ最前線に?ドキドキしてきた。
遠慮せず、1番良さげなのを選ぶ。
「んー」
確かに1流品。ヨダレが止まらない。しかし。
合わない。
特盛が普段使っている練習用の剣もそれなりに大きいのだが、もっと大きいものが欲しかった。力を全て伝達し、全てを委ねられる、おれの剣。
神無がさりげなく、場所を空ける。そこを無意識に見る特盛。
有った!!!おれの、剣!
刃渡り18メートル、横置きに、まるで床の配線に紛れるかのように置かれていた、埃まみれの、おれの剣。剣に見えなかったけど、おれのものだ!
「い、良いんですか、何をもらっても」
「ああ。俺の宝刀以外ならな」
「それはもちろん!では、このデカイのを」
「それを選ぶような気がしていた」
斬場刀。家ごと、拠点ごと、何もかも全てたたっ切る、馬鹿のために生まれた剣。重さ27トンの大型剣のため、3名家以外には使えず、更に取り回しも悪く、普通サイズがやっぱり良いね、となり倉庫送りになった不遇の剣。
今ここに、真の持ち主に会う。
斬りてえ。これなら、シロだって斬れそうだ。
さらっと反撃で死にそうな事を考える特盛。
「持てるか」
「当たり前じゃないすか」
上がらない。最初、片手で持ち上げようとして、どうにもならなかった。今は、両腕で挑んでいるのだが。
「お、おお」
上がらない。
「お前。斬る時も、そんな情けない声を上げているのか?」
ブチン
「オオオオオオオオオ!」
斬る時の、全身全霊を込める時の掛け声。
上がった!今や斬場刀は、特盛にしっかりと支持され、その手の内に。
「良し。出るぞ」
ここは武器庫の中だ。持って出なくてはいけない。刃渡り18メートルを。
「ひい、ひい、はあ、ひゅう」
情けない声を上げながら、特盛はやっとの思いで斬場刀を取り出した。最終的には神無に泣いてすがり、武器庫を破壊して出した。
「おれの剣!」
天高く、かざして見る。感、無量。
「そこまで喜んでもらえると、一肌脱いだ甲斐が有る」
「ありがとうございます!平特盛!粉骨砕身し!必ずやコウチの最前線!切り開いてみせます!」
全力で大見得を切る特盛。
「ん?」
「へ?」
「お前の任務は、フ・ズィの魔物退治だ」
「んん・・・ん?」
特盛は、フ・ズィの名前は知っていても、今、どのような役割でどのような意味が有るのか全く知らなかった。
「要するにだ。フォーデス山脈でやっていたのと同じだ」
「そうすか」
特盛の気が、しょぼんとした。
「お前にだから、任せるのだ。これは口外無用だが、さる要人をコウチに順応させるための処置だ」
「マジすか!」
「ああ。その過程でな、やはり共に戦い、共に飯を食うに限るとなってな。その護衛兼コウチの代表が、お前だ!」
「おおお!」
おれが、要人警護!すげえ!そんなエリート職に、このおれが!梅さんの推薦かなあ。ありがとうございます!
上手くノったか。
この件。特盛に預ける。
大丈夫なのか。あのような若い子に。
だからこそだ。やつを最前線に出す事を、私は恐れている。
だからと言って。
特盛なら、大丈夫。やつなら。
梅。お前がそこまで言うなら。
平特盛と熊大将壱日は、フ・ズィの魔物退治に出る事が決定した。




