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エピローグ まだ、呼ばれなくても

数日後。


Rain Crownのメンバーが、いつものレッスンルームに集められた。


夏鈴は前回と同じように椅子へ座っていた。


背筋を伸ばして。


膝の上で、指を重ねる。


違うのは。


今度は、期待していることを自分で分かっていた。


「では、次作の選抜メンバーを発表します」


胸が鳴る。


一人目。


二人目。


三人目。


名前が呼ばれるたびに、夏鈴は拍手した。


ちゃんと嬉しい。


でも。


同時に、自分の名前を待っている。


前なら。


期待していないふりをしていた。


どうせ今回も。


そう思っていた。


今日は違う。


呼ばれてほしい。


ちゃんと。


桃澄夏鈴と。


四人目。


五人目。


残りが少なくなる。


胸の奥が、だんだん苦しくなる。


それでも。


目を逸らさない。


最後の一人。


スタッフが名前を読む。


――違った。


「以上です」


拍手が起こる。


夏鈴も手を叩いた。


少しだけ遅れて。


それでも。


ちゃんと。


「おめでとう」


そう言えた。


◇


発表が終わったあと。


夏鈴は一人で廊下に出た。


静かな場所まで歩く。


窓の前で止まる。


息を吐く。


「……あーあ」


思ったより、声は普通だった。


でも。


目の奥が少し熱い。


期待した分だけ。


やっぱり、悔しい。


「夏鈴?」


後ろから楓花の声がした。


夏鈴は振り返らない。


「うん」


「大丈夫?」


前なら。


きっとすぐに答えていた。


大丈夫。


平気。


また次があるから。


でも。


夏鈴は少しだけ黙って。


「……ううん」


と言った。


楓花は何も言わずに待つ。


夏鈴はようやく振り返った。


「悔しい」


少し笑う。


その瞬間。


涙が一つだけ落ちた。


夏鈴は慌てて指先で拭う。


「やだ。こんなの」


「いいじゃん」


「全然よくない」


「なんで?」


「お嬢様が泣いてるみたいじゃん」


楓花が吹き出した。


「そこ?」


「そこ大事」


夏鈴も、つられて笑う。


少しだけ。


呼吸が楽になる。


「でも」


楓花が言う。


「期待してたんだね」


「うん」


夏鈴は今度は迷わなかった。


「した」


「そっか」


「次は入りたい」


その言葉も。


前よりずっと自然に出た。


◇


その日のレッスン。


16人で全体曲を合わせた。


夏鈴は、いつもの立ち位置に入る。


誰かの代わりじゃない。


仮でもない。


自分の場所。


音が流れる。


夏鈴は鏡を見る。


中央には恋。


その周りに15人。


一人ずつ。


違う。


当たり前なのに。


以前は、前にいる子ばかり見ていた。


今は。


端の子も。


後ろの子も。


ちゃんと見える。


そして。


鏡の中にいる自分も。


「止めます!」


振付師の声。


音楽が止まる。


「桃澄さん」


呼ばれて、夏鈴が顔を上げる。


「はい」


「今の入り、すごくよかった。そのままでお願いします」


一瞬。


夏鈴は目を丸くした。


「ありがとうございます」


たったそれだけ。


選抜発表じゃない。


コンセプト発表でもない。


ただ。


今ここにいる自分を見て。


良かったと言われた。


それが。


今日は、少し嬉しかった。


◇


レッスン後。


楽屋で荷物をまとめていると。


紡が近づいてきた。


「落ちたね」


「言い方」


「だって落ちたじゃん」


「もうちょっとあるでしょ」


「じゃあ……惜しかったね?」


「知らないでしょ」


「確かに」


夏鈴は呆れて笑う。


そこへ莉歌も来る。


「でも、次は入りたいんでしょ」


「うん」


「ならいいじゃん」


「何が?」


「まだ悔しがれるってこと」


夏鈴は少しだけ黙る。


「莉歌しゃん、たまにいいこと言うよね」


「たまに?」


「たまに」


「訂正して」


「しない」


二人が言い合っていると。


少し離れたところにいた真姫が、静かに口を開いた。


「夏鈴」


「ん?」


「今日、ちゃんと悔しそうだったね」


夏鈴は少しだけ目を細める。


「見てたの?」


「見てないよ」


「もうそれいいって」


真姫が小さく笑う。


「でも」


少しだけ間を置く。


「前より、ちゃんと自分の名前を待ってた」


夏鈴は何も言わなかった。


その言葉だけが。


静かに胸へ入ってくる。


「……うん」


それだけ返した。


それで十分だった。


◇


次のライブ。


16人でステージに立つ。


選抜曲が終わる。


夏鈴が出ていない時間もある。


少し悔しい。


でも。


その気持ちを、もう恥ずかしいとは思わなかった。


全体曲のイントロが鳴る。


夏鈴は自分の位置へ走る。


ライトが点く。


歓声が上がる。


そして。


「こすずー!」


聞こえた。


夏鈴は迷わず、その方向を見る。


笑う。


前より少しだけ大きく。


手を振る。


選抜では。


まだ、名前を呼ばれていない。


コンセプトでも。


まだ、呼ばれていない。


それでも。


ここでは。


ちゃんと。


自分の名前を呼んでくれる人がいる。


桃澄夏鈴は、その声へ向かって笑う。


センターには、センターの光がある。


歌姫には、歌姫の光がある。


ダンスで目を奪う子にも。


空気を変える子にも。


どんな場所でも。


自分の色でステージに立つ子にも。


それぞれに。


その子だけの光がある。


前でも。


後ろでも。


選ばれても。


まだ選ばれていなくても。


Rain Crownに、端役はいない。


16人全員が。


それぞれの場所で。


ちゃんとキラキラしている。


そして。


夏鈴も、その一人だった。


選ばれたい。


その気持ちは。


これからも、きっとなくならない。


いつか。


発表の場で。


「桃澄夏鈴」


その名前が呼ばれる日まで。


いや。


呼ばれた、その先も。


夏鈴はきっと。


自分の場所で。


自分の光り方で。


笑っている。


今はまだ。


名前を呼ばれなくても。


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