北川辺の世界
北川辺の世界
女が丸木舟を漕ぐ者がいて、川の上流の藻や草が茂る辺りを静かに進むと、舟の先で水面を睨んでいた女が、バッと網を広げて、水面に投げる。
ゆっくり引くと、モロコ、ハゼ、フナ、コイの稚魚などがいっぺんに取れた。
わーっという笑い声が聞こえる。
丸木舟は3隻程度、ゆっくりした利根川の流れに浮かんでいる。
いま、紀元前6世紀頃。
ここは、利根川の中流、北川辺の辺り、微高地に小屋が立ち並ぶが、周辺は湿地帯が広がっている。
と、その湿地帯に、足を膝まで浸かり、静かに入り込む親父がいた。
男は、水辺に両足を突っ込み、足で動きを感じて、ナマズの頭を押さえて逆の手で腹を抱えて抱えた。
親父は、大きなため息をついて、陸地に上がって行く。
微高地の先には、草木が茂る平原が広がっている。
平原の先に人影があった。
若い男が2人、弓を構えて進んでいる。
その先に別の男が、足を屈め、前進している。
静かに時が過ぎると、、、
草の匂いが濃くなり、風が止んだ。
その男が、バッと足を伸ばすと、その先で、キツネが走り出した。
シュッ、シュッ
弓がキツネに当たる。
キツネが倒れる。
足を伸ばした男がキツネに近づき、石斧で頭を叩いた。
彼らは、互いに笑顔になり、ホッとしているようだ。
今日はこれで3匹狩ることができた。
ピー
風が平原に吹いていた。
空高く鷹が跳んでいる。
微高地の小屋のある方に目を向ける。
立ち並ぶ小屋の間を抜けて行くと、広場があった。
ナマズを抱えた親父が、広場にいた。
平らな石の上で、ナマズを捌いている。
女どもが網の魚を抱えて、広場に入って来た。
広場では老人が、草を編んで、その周りで子供達が走り回っている。
広場には大きな小屋があって、中は広く真ん中に石を組み合わせた焚き火が赤く燃えていた。
その前に大巫女が座り、周りに侍女が4人足を地面に叩きつけ、踊っている。
大巫女は、上を向いたり、手を合わせて祈るような形をとった。
大巫女は、大きく頷き、バッと手を伸ばすと、赤く燃えていた火が青い炎となって立ち上った。
大巫女は目をつぶり、静かになった。
大巫女の周りが重たい空気に変わった。
侍女の一人が別の所で草の葉を煎じたお湯を沸かし、器に移し、大巫女の所に運んできた。
大巫女は、目を開けると、嬉しそうに微笑んだ。
「今日は、ナマズが鍋に入りそうだ。魚も大量に捕れた。若い衆がキツネを何匹か狩ったようじや」
大巫女は、侍女の運んだ器を手に取り、静かに語った。
北川辺の集落は縄文の理の強い集落であった。
空には白い雲が薄く広がり、鷹が跳んでいる。
春の爽やかな風が吹いていた。
ピー
鷹が円を描きながら遠くに消えた。




