表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
掌の眼  作者: 瑠璃雀
夏休みの始まり
38/118

道明の相談 山でのキャンプ?

 その日の夜、道明は祖父と父に呼ばれリビングに来た。今日の復習をしながら宿題をやり終え、ちょうど一息ついた所だった。

「おう、よく来たな。まあ座れ。」

 祖父にそう声をかけられ、父にも頷かれて道明はソファーに腰掛ける。

「重さん所の件な。お前から出た話だし、一応その後どうなったのか話しておこうと思ったんだ。」

 母の壽子(としこ)がお茶を入れ、全員の前にそっと置く。その後、母も開いているソファーに腰かけた。

「重さんに断って山の調査をさせてもらったのが、この地図だ。」

 この地図は篁からコピーだからと手渡されたものだ。道明と母が地図をのぞき込む。


「え?これ、この山を良く知っている人よね?そうじゃないとここまで書けないわ。」

 母が言い、道明もそれには同意した。

「いや、初めてだと思うよ。二日半かけてほぼ全域を回ったらしいからな。」

 父の言葉に思わず道明は笑い出す。

「すっげえな、鷹兄。やっぱ変態だわ!」

 思わず言うと母や父、祖父までもが笑い出した。


 その後は篁から聞いた話と、今後についてお互いに合意したことを一通り報告した。

「危険はないのよね?圭さんと鷹也くんがついているなら安心だけれど。女の子がいるのに女性の付き添いがないのは、少し心細いかしら。‥体調のこととか言い出しにくいでしょうし。」

 母が少しばかり心配そうに言う。

「それにね、歩くペースや体力も一緒というわけにはいかないと思うの。圭さんも鷹也くんも、気を遣ってはくれるでしょうけど‥そこは心配ね。」

 更に言葉を続けたことで、父と祖父は顔を見合わせ頷き合った。そこまで考えていなかったが、言われてみればその通りだと納得したようだ。


「確かにな。まだこれから細かい打合せも必要だ。篁にもその件は話してみよう。」

 それを聞いた母は安心したようだ。

「でさ、俺らはいつ行けるの!?」

 道明は待ちきれないといった様子だ。何度も訪れたことのある場所だけに、今すぐにでも行きたいといった勢いだ。

「早くて夏休みだな。今の時期はまだ熊も危険だし、何より地滑りが起きそうな場所もある。土木と林業の者達で調査をして、費用を算出する必要もある。コース選定もせねばならない。」

 熊と聞いて道明はギョッとした。

「え?待って?‥そんな危険な所に鷹兄独りで行ったの!?」

 思わず父と祖父に食いついてしまう。実の兄以上に慕っているだけに、そんな危険なことをさせてしまったことへ反論したくもなったのだ。

「あー‥あれは大丈夫だ。妖や影たちとも関りが深いから、事前に察知も出来る。その上であの身体能力と知力があれば問題なかろう。‥いざとなれば、熊すら避けて通りそうだしな。」

 ははは、と笑いながら祖父が言い、父も一緒になって笑っている。

「いやだって、熊だよ?まあ確かに事前にいることが分かれば、見つかる前に逃げられるのか‥」

 道明は何とか納得し、それ以上の反論を控えた。夏休みには神楽祭もあるため、仮日程を組み、七海や遊馬、茜の中学生最後の大会日程の確認をしながら調整することにしたのだった。



 翌日、学校に着くなり道明は遊馬と七海、茜に声を掛ける。

「みんなのさ、部活最後の大会とか日程を知りたいんだよね。」

 そう言って山でのキャンプについて、昨夜話した内容を伝える。

「面白そー!‥確かに実際の浄化とか祓いって、俺ら見たことないもんなー!」と遊馬が、

「ええ!?ちょっと怖いけど!でもみんなが一緒なら大丈夫、かな?」と茜が、

「神楽が必要なんだよね?‥うー特訓しなきゃ‥けど鷹兄もいるんだよね‥」と七海が言い、三人は不安そうではあるものの、反応は上々である。まだ大会日程が出ていない可能性もあるのだが、神楽祭もあるため、先生に確認しようという話になった。


「そういや七海、神楽はどうなんだい?」

 茜と遊馬が席を立ったところで、道明が小声で尋ねる。

「‥うーん。私さ、おばあちゃんの神楽がすごく好きでね、それを見て憧れたの。だからそうなりたいんだけど、まだ分からないことだらけでさ‥」

 やはり小声で七海は言い、ため息をついた。

「わたし、選ばれなかったことでおじいちゃんやおばあちゃんに恥をかかせちゃったかもって。何かそれでパニックになっちゃった。‥間違えなかったことより大事なことがあるんだって、何となくそう思ってはいるんだよ?けどまだ私には分からないんだ‥。」

 七海は少し寂しげに呟く。

「そっか。けど俺はそうやって頑張ってる七海をすげーと思うよ。‥正直もう、二度と神楽なんてやらないって言いだすかと思ったし。」

 道明がそう言って笑うと、七海もフッと笑顔になった。

「あは。‥そんなことすら考えてなかった。もうね、『どうしよう』だけがぐるぐる。‥鷹兄にめっちゃ詰められたし、めっちゃ怖かったし。あの時の鷹兄は大魔王だった!」

 道明と七海は声を上げて笑った。


(七海もこんな風に話せるくらいには元気になったんだな。‥けどまだ神楽に対しては怖いと思っているみたいだ。)


 お務めという社の清掃がある。これは式を授かっている者たちが持ち回りで社に行き、その際にも短い神楽を舞うのだ。

 茜の話では、その時の七海は顔色が真っ青で今にも倒れそうだった、と言っていた。それでも必死に神楽を舞い終え、震える手で清掃をしたのだそうだ。

 そしてそんな様子を見たからなのか、神様が来られて七海に何事かを囁いていったのだという。そこから少し落ち着きを取り戻し、無事にお務めを終えたそうだ。



 その後は授業に集中し、皆真剣にノートを取っている。中間テストの点が良かったのも影響しているかもしれない。普段手遊びや落書きに夢中な遊馬ですら真面目に授業を受けているのだ。これまでの勉強会は、稀に鷹也が現れるくらいでそれぞれが勉強しながら教え合うことが多かった。さくら先生の登場がかなり良い影響を与えたのは間違いなかった。



 七海と遊馬は弓道部へ、茜は剣道部へそれぞれ行った後、道明は帰り支度をして空手道場へと急いだ。7歳から始めた空手も身体に馴染んでおり、現在は二段を所有している。この道場に何名か同年代はいるが、二段を取得できたのは道明だけだ。それでも驕ることなく真摯に練習を続けているため、道場内での人望も高い。

「そう言えば師範、もし熊に遭遇したらどうするんですか?」

ふと聞いてみたくなり道明が尋ねると、師範は笑いながら手を振った。

「とにかく慌てず騒がず、目を反らさずに静かに後退するしかねえな。親子連れに遭遇したら話にならん。人間相手と野生動物相手じゃ話はまるっきり違うからな。お前も間違っても一発くれてやろうなんて考えるなよ?」

 道明は笑いながら首を振る。

「無理ですって。スピードもパワーも違いすぎる。ただ師範くらいになったら、素手で倒せたりするのかな?って思っただけです。」

 師範はそれを聞いて笑い出す。

「そんなこと出来るわけなかろう?そりゃ、万一逃げきれずにやられそうになったら、一か八か攻撃するかもしれんが。その前に逃げるのが先だ。」

 師範ほどに強くてもやはり、逃げることが第一優先なのだと道明はしっかりと心に刻み込んだ。4月誕生日の道明は、15歳になってすぐに段位認定を受け、誰よりも早く二段を取得した。誇らしい気持ちでいっぱいだったが、師範から「慢心することなかれ」と口を酸っぱくして言われている。

「ありがとうございます、師範。やっぱり野生動物は格が違うんですね。万一遭遇しても、師範から言われたことを思い出して対処します。」


 師範は笑顔で頷いた。才能もあり、努力家でもある。そして慢心することなく、言われたことを素直に受け止めて実践するのだ。

「うん、いい心がけだ。これからも精進しなさい。」

「はい!」

 そんなやりとりをした後にふと父と祖父の言葉を思い出す。

『いざとなれば熊すら避けて通りそうだしな』

 身長は確かに高いが、体格はさほどがっしりしているようにも見えない。しかし、以前手合わせしたときには全く歯が立たなかった。とにかく当てることが出来なかった。とはいえ、熊と対峙しても避けられるのだろうか?

(まあ鷹兄の場合、そんなことになる前に察知して距離を取るか‥)

「うーん‥久々にまた手合わせをお願いしようかな‥」

 そんな風に思う道明だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ