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プロローグ
人と、妖と、幽のもの。
この世には、相交わるはずのない存在たちが、時に寄り添い、時に擦れ違いながら息づいている。
人の心に沈む負の情は、やがて澱となり誰にも気づかれぬまま、静かに形を変えていく。そうして形を変えたものは“穢れ”と呼ばれる。
穢れに触れた者は、正しき心を失い、あるいは迷い、あるいは歪み、己の意図せぬ災いを呼ぶことすらある。
古より、その澱を祓い、穢れを鎮めるものたちがいた。
人にも妖にも、そして死してなお残る想念にも、そっと手を差し伸べ、静かに寄り添う者たちである。
位相の向こう側──
常人には決して捉えられぬ世界に潜むものたちと、言の葉を交わせる者はごく僅か。
だが、この国には確かに存在する。
見えぬ声を聴き、見えぬ影を視る、ある一族の者たちが。
これは、澱と穢れに寄り添い、ときに癒し、ときに鎮め、ときに語らいながら生きる者たちの──
掌の眼を受け継ぐ一族の物語である。




