2話 あーちゃん、天罰を落とす
「あたくしたちも海に行きましょう!」
イリナが元気よく言った。
イリナはいつものように、ラナァの真ん前に陣取って座っている。
「海など別に珍しくもあるまい」
ドラゴン形態のアビスが尻尾を軽く振りながら言った。
「あたくしには! 珍しいのですが!? ヴェルテールは内陸国ですし!?」
「じゃあ行くぅ?」とラナァ。
「さっすがラナァ!」
イリナは両手でラナァの花を持って、それから頬をスリスリ。
「てゆーか」パメラが言う。「そんなに行きたいならシエルと一緒に行けばよかったのじゃ」
シエルは今、友達の家に泊まりに行っている。
そして明日は海に行くのだとか。
「妹が友達と遊んでいるところに、姉が乱入するのはちょっと……」
イリナがラナァを解放して、パメラに視線を向けた。
「それで?」ラナァが言う。「すぐ行く?」
「いえいえ!」イリナが首を振る。「明日、シエルたちとこう、偶然なんかたまたま、会っちゃった的な!」
「結局乱入するんかーい!」
パメラがバチコンとイリナの後頭部を叩いた。
まぁ別に痛くないのでいいのだけど。
「ふふっ、人間というのは矛盾の塊なのです」イリナが人差し指を立てて、ニコニコと言う。「正直、海で遊ぶシエルとその友達を鑑賞したいです」
「あー。確かにのぉ」パメラが頷く。「楽しそうに遊ぶシエルは見たいのじゃ」
「そうでしょう、そうでしょう」
うんうんとイリナが何度か頷いた。
「とはいえ、お泊りから乱入するのは気まずいですし」
「それで明日、偶然たまたま作戦というわけじゃの」
「ワシは行かんぞ」とアビス。
「誘ってませんが?」とイリナ。
「……いや、そこはせめて誘え。ワシも実は遊ぶシエルを見たいのだが?」
「じゃあ素直に『ワシも行く』と言えばよかったのでは?」
イリナが首を傾げる。
「アビスはね、ツンデレなんだよ」とラナァ。
「ツンデレ!?」とイリナが驚く。
「ツンデレとは?」とアビス。
ラナァがツンデレについてこんこんと説明した。
そうすると、アビスが顔を真っ赤にして「ちちちち違うし! ワシ全然、ツンデレとかじゃないし!」と尻尾をダンダンと打ち付けた。
「地面が揺れる、地面が揺れる! ストップストップ!」
落ち着け、とイリナが両掌を見せる。
「ワシ、ツンデレじゃないし」
「分かりました。分かりましたから。とりあえず、アビスも明日、一緒に海に行きましょう。シエルの晴れ姿を見ないと」
「まぁそこまで言うのであれば? ワシも行ってやってもよい」
「じゃあ決まりねー♪」
ラナァが歌うように言った。
◇
その頃のシエル。
グラッシ伯爵邸(コーデリアの家)の玄関前にて。
「伯爵邸、おっきい!」
「すごいですね。私の家なんてそこの物置ぐらいですよ?」
シエルが瞳をキラキラさせて言って、アデリタは肩を竦めつつ言った。
「え? あたしの家もだけど……」
「平民の家と比べても仕方ありませんわよ」
やれやれ、とコーデリアが肩を竦めた。
それもそうですね、とアデリタが頷く。
「とりあえず入りましょう」とコーデリア。
ちなみに三人はアヴァロン魔法学園で待ち合わせして、そこからコーデリアの馬車でここまでやって来た。
馬車もかなり高価で、椅子がふわふわしていた。
さて、伯爵邸の中に入ったシエルは、「ほえー」と玄関を見回した。
玄関の時点でめっちゃ綺麗で広い。
その上、高そうな鎧とかが無駄に飾ってある。
いや、無駄なのかどうなのかは、シエルには分からないけれど。
(金ぴかの鎧もある!)
シエルは目をキラキラさせて思った。
きっと純金製でお高いのだろうなぁ、とも思った。
(メッキだよ!)と分体ラナァ。
シエルはいつものように分体ラナァで髪を括っている。
出かける時はラナァと一緒じゃないと若干不安なのだ。
(そっかぁ! メッキかぁ!)
まぁどっちにしても綺麗なので、シエルには些細なこと。
「ひとまずあたくしの部屋に行きましょう」
コーデリアの案内で、シエルとアデリタはコーデリアの部屋へと移動した。
そこは一人で使うには広すぎる部屋だった。
ベッドも普通に三人一緒に寝れるレベルで大きかった。
それから、三人はお茶会をしたり、ベッドで飛び跳ねたり、庭園を散歩したり、伯爵邸でのお泊り会を満喫した。
そして夕食もすごく豪華で、シエルは今日も幸せだった。
夜はコーデリアのベッドに三人で寄り添って眠った。
◇
「さぁて、みんな寝たしラナァは散歩しよーっと!」
シュルシュルっとシエルの髪から解けて、ラナァは根っこで器用に歩く。
コーデリアの部屋の窓をソッと開けて、外へと繰り出す。
ここは二階だったけれど、ラナァにはあまり関係ない。
シュタッと地面に着地し、たくさんお花が咲いている場所へと移動。
「はぁいお花のみんな、ラナァだよぉ」
ラナァが言うと、お花たちが少し揺れた。
それはそれとして、木の枝に黒ずくめの男性が立っているのがラナァは気になった。
(あの人、何してるのかなぁ? 人間の考えることって突飛だから、考えても分からないかも! 聞いてみよぉっと)
◇
アサシンの青年は、グラッシ伯爵殺害の依頼を受けて、グラッシ伯爵邸の庭に潜んでいた。
全身黒ずくめで、まるで夜に溶けるような出で立ち。
その上、徹底的に気配を殺しているので、誰かに勘付かれることもない。
「そろそろ動くか……」
アサシンの青年が小さく呟いた。
主要な人物は寝静まっていて、頃合いだ。
「今宵も月が美しい……」
アサシンの青年が、音もなく木から飛び降り、それから空を見上げて言った。
「くっくっく……惨劇にはいい夜だ」
そして視線を戻すと、白い花が立っていた。
えっと?
青年は一旦、目を擦ってみた。
しかしやっぱり花が立っている。
根っこで立っているのだ。
「こんばんはー」
「花が喋ったぁぁぁぁあぁぁあああああ!!」
青年は後ろに飛びのいて、さっき降りた木の幹に背中を打ち付けた。
実に痛い。
まずいっ、俺としたことが大きな声を出してしまった、と青年は冷静さを取り戻す。
「花が喋るはずあるまい、幻聴だ」
「ラナァは喋るよぉ?」
「やっぱり喋ってるぅぅぅ!」
ダメだ、つい大きな声で反応してしまう、と青年。
(いやしかしね、花が立って喋ったら、誰だってビックリするだろう?)
青年はそう自分に言い訳をした。
「ねぇ何してるのぉ?」
白い花が能天気な様子でそう言った。
「ちっ、伯爵が魔物を飼っているとはっ! 始末するかっ!」
青年は短剣を構えて、白い花めがけて振り降ろす。
その瞬間、天から雷が落ちてきて青年に命中した。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
青年が悲鳴を上げてその場に倒れる。
◇
「あれ? あーちゃん?」
ラナァが空を見上げる。
そうすると、空に文字が浮かぶ。
『ラナァを攻撃するなんて許せない。やっぱり人間は滅ぼすべし』
「ラナァは平気だよぉ。滅ぼさなくていいよぉ」
てゆーか、あれ攻撃だったんだなぁ、とラナァは思った。
あんなの当たったところで1のダメージも受けない。
とはいえ、ラナァが攻撃されるところなんて誰も見たくない。
ちなみに最近のあーちゃんはいつもラナァをストーキ……見守っているので、タイミングよく救うことができたのだ。
『ラナァがそう言うなら、まぁいいけど』
新たにそう文字が浮かんだので、ラナァは右手(のような葉っぱ)を空に向けて振っておいた。
「結局この人、何してたんだろうね?」
ラナァは地面に倒れている青年に視線を移した。
青年は死んでしまったようなので、もう何も聞けない。
「まぁ、いっかぁ!」
ラナァは夜の散歩の続きを満喫してから、コーデリアの部屋へと戻った。
翌日、アサシンが庭で死んでいると伯爵邸が少し騒がしかった。
「まぁ、お父様が対処するでしょう。あたくしたちは海に行きますわよぉ!」
コーデリアはアサシンよりも友達との海の方が大切だった。




