5話 ラナァ、突如伸びる
「入学式の様子はどうです?」
イリナがドキドキしながら質問した。
ここはラナァが根付いている聖域。
今日もいい天気で暖かく、ラナァは幸せを満喫していた。
「学園長が挨拶してるー」
ラナァが分体ラナァの情報を得ながら言った。
今日はアヴァロン魔法学園の入学式で、シエルが出席している。
もちろん、シエルのポニーテールを括っている分体ラナァも一緒だ。
「人類唯一の7星というやつか」
アビスは香箱座りしている。
「人間のくせに妾より上とは生意気なっ!」
パメラがプンプンと怒って腕を組んだ。
ちなみに、パメラはイリナの頭の上に座っている。
イリナはいつものようにラナァの真ん前に陣取っていた。
「それより」イリナが言う。「寮生活は想定していませんでした。大丈夫でしょうか?」
アヴァロン魔法学園は全寮制なので、シエルが次に聖域に戻れるのは夏期休暇だ。
アヴァロン魔法学園のある魔法王国は、ヴェルテール王国がある大陸とは別の大陸だが、季節は同じだ。
ヴェルテール王国から真っ直ぐ東に向かえば、魔法王国がある。
「大丈夫じゃろ」とパメラ。
「心配あるまい」アビスが言う。「ラナァがいる」
「そうですね。ラナァがいるので、ケガや病気などは心配していません。あたくしが心配しているのは、シエルのメンタルの方です」
「よく分からん」アビスが言う。「たかだが数日離れるだけだ。メンタルもクソもあるまい」
チッチッチ、とイリナが人差し指を振る。
「多感な時期の人間の子供は、その数日……いえ、数日どころか100日以上ありますが……とにかく初めての環境ですし、シエルは少し心が弱い部分がありますし、病んだりしないかなと」
「イリナは心配性じゃのぉ」パメラが言う。「ラナァに毎日報告してもらえば良かろうに」
「まぁ、それはそうですね」イリナがラナァを見詰める。「シエルが安心してのびのびと生活できるように、助けてあげてくださいね」
「はーい♪ のび♪ のび♪」
ラナァがクネクネと揺れながら茎を伸ばす。
ぐんぐん、ぐんぐん伸びるラナァ。
「え? ちょ、ラナァ、どこまで伸びる気です!?」
「どこまで伸びる? ラナァはどこまで伸びる? ランランラーン♪」
ラナァは楽しく歌いながらずんずん伸びた。
やがてラナァは雲を突き抜け、それでもまだ伸び続け、惑星の外へ。
それでもユラユラ揺れながら伸びに伸びて、惑星系の外側へ。
何もないなぁ、なんて思いながらラナァは限界まで伸びてみることに。
そうすると、気付いたら別の惑星系に到達していた。
「あ、誰かいるぅ」
ラナァは円盤の中に人間っぽい存在がいることを確認した。
その人たちは目がアーモンド型で大きかった。
ラナァは円盤に向けて葉っぱをフリフリ。
円盤の窓から、目の大きい人たちが手を振り返す。
彼らは異星人なのだが、ラナァに異星人という概念はない。
聖域から遠くにいる目の大きな人たち、と認識しただけ。
「ラナァこれ以上は伸びられないみたい」
今のラナァの能力では、隣の惑星系まで伸びるのがやっと。
いつかこの世界の果てまでいけるかな? とラナァは思った。
そして、まぁいけなくてもいいけど、とも思った。
どっちにしてもラナァは幸せなのだから。
で、ラナァはパッと元の大きさに戻った。
「おかえりなさいラナァ」イリナが言う。「どこまで行ったんです?」
「んー、星まで」
「「星!?」」
イリナ、パメラ、アビスが驚いて目を丸くした。
「さすがラナァだ」アビスが言う。「ワシですら、星までは飛べん」
「凄いのじゃ! 今度、星を持って来てほしいのじゃ!」
「いいけど、星って大きいよ?」
「どのぐらいじゃ? 妾では持てないぐらいか?」
「持てなーい!」
「では残念だが諦めるとするかのぉ」
パメラは意外と諦めが良かった。
「あたくしだったら持てます?」
「むーりー」
「そうですか。星は遠くにあるから小さく見えるだけ、ということですね」
イリナが言うと、ラナァがウンウンと頷いた。
◇
シエルはとっても落ち込んでいた。
なぜなら、入学式で新入生代表挨拶をしたのだが、噛み噛みだったのだ。
ここはSクラスの教室で、すでに入学式は終わっているのだが、シエルはずっと引きずっていた。
(元孤児でいじめられっ子のあたしには難易度が高いよぉ……)
グスン、と半泣きのシエル。
ちなみにシエルたちSクラスの生徒は10人で、全員が自分の席に座っている。
「さて、私がみなさんの担任になりましたローラ・ハリスンです」
教室の前で、女性教師ローラが淡々と挨拶した。
ローラは紺色のローブを羽織っていて、丸い大きなメガネをかけている。
髪の色はオレンジで、髪型は普通のロング。
特にオシャレやなんかはしていない。
見るからに知的な魔法使い、という雰囲気だった。
「先生は現在5しぇ……失礼、5星魔法使いです」
(教師でも噛むんだぁぁぁぁぁぁぁ!!)
シエルはビックリして目を丸くした。
「あら? 5つ星ですって?」赤毛の令嬢がバサッと扇を広げながら言う。「さすがはSクラスの担任ですわね」
(だからどうして扇を広げるのぉぉぉぉ!?)
貴族の考えること分からなぁぁぁぁい、とシエルは思った。
「みなさんはSクラスですので、5星になれる可能性は高いと言えます」ローラが言う。「特に今年は粒ぞろいですし」
ローラはシエルを見て、アデリタを見た。
「当然ですわ!」赤毛の令嬢が扇を自分の胸に当てながら言う。「魔導名門グラッシ伯爵家の長女、このコーデリア・グラッシ様がいるのですから!」
「元気がいいですが、少し黙ってくださいね」
ローラがニッコリ笑いながら言った。
「あ、はい……」
赤毛の令嬢コーデリアはしゅんとして頷いた。
「さて、みなさんには順位が付けられています」ローラが淡々と言う。「現在の1位はシエル、2位はアデリタ、3位はヘルトで、コーデリアは4位ですね」
「ぐぬぬ……わたくしが4位……」
コーデリアは扇を畳んで、ギュッと握りしめた。
(てゆーか、もう生徒の名前を覚えてるんだ! すごっ!)
シエルはとっても感心した。
シエルはアデリタの名前しか知らなかった。
「この4人はSクラス10人の中でも特に抜けていますが」ローラが鋭い目で言う。「テストの結果次第で順位は入れ替わります。最悪、Aクラスに落ちる可能性もありますので、真面目に授業を受けましょうね。先生は真面目な生徒は好きですが、不真面目な生徒は嫌いです」
アヴァロン魔法学園は完全実力主義で、クラスによって待遇が違う。
例えば、Sクラスの生徒は全員が1人部屋を与えられている。
ここでは身分もお金の有無も何も関係がない。
ただただ魔法使いとして優秀か否かが全てなのだ。
「さて、それでは1位から順番に自己紹介をどうぞ」
ローラが言って、シエルが慌てて立ち上がる。
そして噛み噛みで「シエルでしゅぅ」みたいな情けない自己紹介を終えた。
アデリタは和やかな雰囲気で自己紹介。
そして次はイケメン少年ヘルトの番。
「知っている人もいるだろうけど、僕はヴェルテール王国の王太子ヘルト・ホーイフェルト」
(んんんんん!? 王子様!? あれぇ!? ヴェルテールってあたしの住んでる国じゃない!? んんん!? あれれ!? ヴェルテールの王子って、もしかしてラナァに求婚したあの王子!?)
シエルは驚愕し、頭の中が軽いパニック状態になっていた。
「ま、この学園じゃ身分に価値はないみたいだけどね」とヘルトが肩を竦める。
そんな動作までイケメンだった。
なんで違う大陸で自国の王子様と同じクラスになるのか。
もしかして運命……? とか考えて頬を染めるシエル。
しかし。
(って、ライバルがラナァじゃ勝ち目ないや)
速攻で諦めたシエルであった。




