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お花のラナァは今日も幸せ  作者: 葉月双
2章

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4話 シエル、気付く


「何か卑怯な真似をなさったのでは?」


 赤毛の令嬢が言った。

 令嬢の周囲には貴族の子供たちが集っている。

 令嬢の声がよく通ったので、周囲がシンと静まった。


「あ、あたしは別に……」


 シエルはビクビクしながら言った。


(うわぁぁぁぁん! 恐そうな人に絡まれたよぉぉぉぉ!!)


 シエルはソッとアデリタの背中に身体を半分隠した。


「結果に間違いはない」


 厳つい男性教官が令嬢に向けて言った。


「あらそうですの。では逸材ということですわね」


 令嬢は扇をパッと広げ、口元を隠して言った。


(なんで扇を広げたの!? なんで口を隠したの!?)


 シエルには令嬢の動作が完全に無駄な動きに見えた。


「私語を慎んで次の試験に向かえ!」


 厳つい男性教官が大きな声で言って、アデリタがシエルの背中を押す。



 次の試験は、校庭の隅の方に10人単位で集まって、それぞれ星を一定時間浮かべるというもの。

 ラナァは人間たちが必死に星を浮かべる様子を見ていた。


 そうすると、知り合いを発見。

 ヴェルテール王国の王子で、2年前に呪いの炎に焼かれていた彼である。

 ラナァは王子に求婚されているので、彼については世界図書館でしっかり調べてある。


 王子の名前はヘルト・ホーイフェルト。

 シエルと同じ13歳で、銀髪に緑の目。

 ラナァに人間の顔の善し悪しは分からないが、女の子たちがヘルトを見て頬を染めている。


「見てくださいシエル」アデリタも王子ヘルトを指さした。「すごいイケメンがいますよ」


「本当だ! すごっ!」


 シエルは目をまん丸くしてヘルトをガン見した。

 挨拶したくなったので、ラナァはヘルトの頭の中に話しかける。


(やっほー!)


 ラナァが挨拶すると、ヘルトがビクッとなった。


(危ないっ! 星が消えかけちゃったよラナァ!)


 ヘルトは焦った様子で言った。


(そうなの?)

(あ、星っていうのはね……)

(うん。知ってるー)

(知ってるの!? さすがラナァだね!)


(アヴァロン魔法学園の試験でしょ?)

(え、すごい! 正解! ラナァは僕のこと何でも知ってるの!?)

(そうだね。だいたい知ってるかも)

(そっか。嬉しいな)

(ラナァも毎日嬉しい)


 ラナァは小さく揺れた。

 今のラナァはシエルの髪を括っているので、シエルのポニーテールも少し揺れた。


(ところでラナァ、久しぶりだけど、どうしたの?)

(挨拶しただけー)

(そっかそっか。挨拶ありがとうね。アヴァロンを卒業して一流の魔法使いになったら、改めてラナァに結婚を申し込むよ)


(結婚は検討中だよ)

(検討してもらえて僕は嬉しいよ)

(うん、それじゃあまたねー)


 ラナァが心の中で葉っぱを振った時、ちょうどヘルトたちのグループの試験が終わった。

 そして次はアデリタとシエルのグループである。

 教官の指示で、シエルたちが星を浮かべる。

 シエルとアデリタは余裕そうだが、他の子たちは少しキツそうに見えた。

 教官が終わりを告げるまでに3人が脱落した。



「シエルはすごいですね」アデリタが言う。「汗1つかいてないです」


 ここはアヴァロン魔法学園の校舎の廊下。

 次の試験は筆記なので、受験生たちは教官に連れられて教室へと向かっている最中だ。


「あ、えっと、うん、ありがとう?」


 シエルは困惑していた。

 アビス、パメラ、イリナの指示で、シエルは一日中星を浮かべたこともあるのだ。

 よって、この程度はできて当たり前。


「ここです」


 教官が教室の前で立ち止まり、戸を開けて中に入った。

 受験生たちがそれに続く。

 みんな好きな場所にそれぞれ腰を下ろす。

 シエルとアデリタは隣同士で、少し後ろの方にした。


「さっきのイケメンがいますよ」とアデリタ。

「後ろ姿もイケメンだね」とシエル。


「服がかなり綺麗なので、間違いなく貴族ですね」

「そう思う」


(ま、あたしには何の縁もない人物だけどね)


 そんなことを考えていると、教官を補助する生徒たちがテスト用紙を配った。

 テスト用紙は2枚で、1枚は魔法知識、もう1枚は一般知識の問題だ。


「では早速始めてください」と教官。


 みんなが一斉に問題を読み始める。

 シエルはサクサクと魔法知識の問題を解き進め、そして首を傾げた。


(これ、問題あってる? めちゃくちゃ簡単なんだけど……)


 自宅の書斎の本の方が難しい。

 シエルが周囲をチラチラっと確認すると、みんなうーんと唸ったりペンを回したりしていた。


(……まぁ、いっか)


 魔法知識の問題を解き終わり、シエルは一般知識の方へと移行。

 そちらも特に難しくはなく、サクサクと進んだ。

 全ての問題を軽く解いてしまったシエルは、勉強を教えてくれたイリナに思いを馳せる。


(イリナお姉ちゃん……このぐらい普通です、って言ってあたしに色々教えてくれたけど……絶対に普通じゃないよ)


 何度、頭が破裂すると思ったことか。

 本当にこんなに勉強しなきゃいけないの? と何度も泣きそうになった。

 正直、アヴァロンに合格するだけなら半分以下の勉強量で十分だった。


(やっぱ教皇になるって言われてた人は違うなぁ……。うん、薄々そうじゃないかなぁって思ってたけど、イリナお姉ちゃんは普通じゃない!)


 そもそもあの人、前世は魔王とかだし、とシエルは小さく首を振った。

 その上、ラナァを産み出したのだから普通であるはずがない。


「そこ」教官がシエルを指さす。「問題が難しくて諦めたのなら、もう出て行っても構いませんよ?」


「え? 違います。その、もう終わりました」


 シエルが言うと、周囲がざわつく。


「静かに」


 教官が手を叩くと、教室が静まる。


「本当に終わったのですか?」

「はい……」

「よろしい。では採点しましょう」


 教官が言うと、補助の生徒がシエルの机からテスト用紙を回収。

 そのまま教官に渡す。

 ちなみにこれが最終試験なので、採点の結果で合否が決まる。

 もっとも、ここまで進んだ受験生の大半がこの筆記テストで脱落するわけだが。


「まずは一般知識の方から」


 教官が赤ペンで丸を付けていく。

 シエルは間違いなく全問正解だという自信があったので、特に何も考えずにボーッとしていた。


「ま……満点です……」


 教官が驚愕した様子で言って、教室内が大きくざわめく。


「し、静かに! 静かに!」


 教官がパンパンと手を叩く。


「信じられません……満点なんて……」


 教官がジッとシエルを見たので、シエルはつい手を振ってしまう。

 それを見て、教官が苦笑い。


「では次に、魔法知識の方も採点しましょう」


 教官が再び赤ペンで丸を書き始めた。


(これ、もしかして適度に間違えた方が良かったんじゃ……?)


 シエルはそんな風に思ったけれど、後の祭りである。


「満点……」教官が呟く。「……まさか、我が校始まって以来の満点合格者……」


 教官は震えながらシエルを見詰めた。

 シエルは「どうも」とだけ言った。

 他に何を言えばいいのか分からなかった。

 とりあえずアヴァロンには合格したのだけど、変に目立っちゃったなぁとシエルは思った。


(いじめられたらどうしよう……)


(パンチすれば?)とラナァ。


(あ、あたしのパンチで勝てるかなぁ?)

(分からんなーい)

(ですよねー!)

(ラナァがパンチしようか?)

(うーん、それは相手が粉々になるからダメ)


 学校で肉片が飛び散るような事態は避けたい。


(ラナァでも、イリナに手加減を教わったよ?)

(それでも! ダメ! そもそもイリナお姉ちゃんの手加減は信用できないっ!)


 その後、シエルは合格者向けの説明を色々と受けてからホテルへと戻った。

 イリナとアビスに合格を告げると、2人は飛び跳ねて喜んだ。

 アビスが飛びすぎて天井を貫いたけど、ラナァが【リペア】ですぐに直してくれた。


「さすがワシの娘!」アビスが上機嫌でシエルの頭を撫でた。「いやぁ、シエルには全然これっぽっちも魔法の才能がないから、ビクビクしておったのだが、実に良かった」


(あたしは気付いた! ドラゴンの基準は信用ならないっ! てか聖域に住んでる人たちの基準かな! 言わないけど!)


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