第0章:エラーコード001(Error Code 001)
腐敗した黒き大地。
空間そのものが悲鳴を上げていた。
闇の中から、イザベラ・フォン・ヴァン・ヘルシングが滲み出るように現れた。
銀の髪が滝のように流れ、暗紅色のボディスーツが致死的な曲線を強調している。
吸血鬼の公爵。
その紅玉のような瞳が、彼方に立つ少年を射抜いた。
口元に、軽蔑と冷笑が浮かぶ。
「結局、ただの乳臭いガキじゃない」
言葉が終わるより早く、彼女は消えた。
死の気配が、少年の背後で炸裂する!
竜の鱗さえ引き裂く鋭利な爪。
空間を歪めるほどの殺意を纏い、その無防備な首へと迫る!
だが、少年は振り返りさえしない。
彼の瞳の中で、淡い緑色のデータストリームが人類の限界を超えた速度で更新されていた。
『脅威レベル:殲滅級』
『警告:生命脅威を検知』
『全セキュリティリミッター解除』
『戦闘モード:無制限殺戮許可』
脳内で、冷徹な機械音声が轟く。
ブォォォン――!
爪が皮膚に触れた瞬間。
数千の銀光が衛星軌道を描き、少年を包み込んだ!
それは致命的な惑星のようだった。
極小の魔法矢が高速回転し、絶対防御圏を構築する!
ガギィィィン――!!
火花が飛び散る!
必殺の爪が、銀色の星屑によって強引に弾かれた!
イザベラの捕食者としての自信が、初めて凍りついた。
「面白いわね」
彼女は再び空間転移し、襲撃を繰り出す。
だが、銀色の嵐はすべての攻撃を完璧に迎撃した!
爆ぜる火花。
だが、防衛線は突破できない。
『スウォーム防御プロトコル有効。切り替え:攻撃モード』
銀の星屑が、唐突に軌道を変えた!
天地を巻き込む死の竜巻へと変貌する!
イザベラは弾幕の中を高速で穿つ。
空間シールドですべての攻撃を防ぎながら、彼女は失望を隠せなかった。
シールドに弾かれる光の粒。
それは魔法矢。
初歩中の初歩である最低ランクの魔法だ。
(期待外れね……)
だが、彼女は間違っていた。
AIによる補助の下、少年の魔法生成頻度は毎秒1200回以上に達していた。
それは人類の魔法史において前例のない――「完全なる実行」だった。
『目標の高機動性を確認。予測アルゴリズム実行』
『シミュレーション:1億7000万通りの空間跳躍ルート』
『結果:全移動ルート封鎖』
少年は、もう片方の手を上げた。
空が、装填された。
数千個の透明な水雷(機雷)が、音もなく半径一キロの空域を埋め尽くしていた。
一つ一つが座標計算され、完璧な立体的チェス盤を構成している。
内部に封印された火元素。
連鎖爆発の準備は整っていた。
「甘いわ」
イザベラが嗤い、姿を消す。
だが。
彼女がある座標に実体化した瞬間、その背中が「透明な何か」に接触した。
カッッ――!!!
無音の閃光!
壊滅的な連鎖反応!
空全体が光と熱の地獄へと化した!
一粒が百粒を誘爆し、百粒が千粒を誘爆する!
「ギャアアアアアッ――!!」
血族公爵の絶叫が夜空を引き裂いた!
華麗なコウモリの翼がエネルギーの奔流によってボロ雑巾のように吹き飛ぶ。
彼女は翼の折れた隕石のように墜落し、焦げた大地に叩きつけられた。
口元から黄金の竜血が溢れる。
薄れゆく視界の中、あの少年がゆっくりと歩み寄ってくるのが見えた。
彼女は見た。
その目に宿るものを。
それは怒りでも、恐怖でもない。
すべてを計算し尽くす、氷のような理性の光だった。
「貴様……一体、何者だ?」
少年は足を止めた。
口元がわずかに持ち上がる。
「僕? 僕はただの……生きたいと願う、工匠さ」
――そして、すべてが闇に帰す。
意識が再び点灯した時、彼は最初の鼓動を聞いた。




