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§第20話 もう一人のロビンソン

 ゴウウが進み出た。軍人顔に戻っている。


ゴウウ  タテヤマ通信 いえ。匂坂朔次殿。焼尭暁殿。あなたの非常時に対する判断力・行動力は素晴らしかった。ローカ国人民軍情報部として改めて依頼する。首脳会議のセキュリティチームの指揮をあなた方二人にお任せしたい


 ゴウウは手を差し出した。朔次はこの錯綜する状況にサクッと対応できずに錯乱している。


朔次  ん え いや?え 依頼?


 匂坂朔次は錯乱している。それは咲き誇る桜が朔月(さくげつ)の朔風(さくふう)に舞い散るように。


 四コンマ四四秒。


朔次  そうか……そういうことか。あんた達の芝居って事か。俺達を試すための


 漸く現実を把握したのか。真顔になった。一つ息を吐く。ちなみに暁はまだしがみついている。


ゴウウ  そういう訳では

朔次  いや失礼。分かった。その依頼をお受けする。タテヤマ通信全社を挙げて取り組むことを約束する


 朔次はゴウウの手を握った。ちなみに暁はしがみついている。


朔次  しかしこれ。これはどうなってるんだ?


 朔次は暁をひっぺがそうとするがどうやっても離れない。まるでこの日のために厳しい訓練と激務をこなしてきたと言わんばかりに。


 ゴウウとライウはただニコニコしている。


声  はっは~ん


 突如。拍手が響いた。


 あらぬ所から一人の人間が現れた。一気に場の緊張が高まる。


 若い女性だ。鍔の小さめのブーニーハットを被り、ティンパンツと生成りのTシャツ。両腕にはピッチリした黒いアームカバーをし、背には小さめのデイパックを背負っている。表情はあくまで明るい。


 誰だ?


声  なるほどねぇ~


 声の主が近づいた。顔を見れば――あの更紗紗綾(ささらさあや)に違いない。もちろんこの場の人間は誰も彼女を知らない。


 浜に横たわるあの男以外は。


紗綾  なるほどぉ。アイツに指定された最後の場所に来てみたら、サプライズの告白だったのね~これ。いや~凝ってるわ~


 場にそぐわぬ緊張感のない声に、一同はどう反応していいか明らかに迷っている。互いに顔を見合わすが、誰も知らない。


朔次  あんたは……だれだ?


 朔次が沈黙を破った。


紗綾  あ そうね。そうね。名乗らなきゃね


 紗綾は少し気取った態度で自己紹介をした。


紗綾  私 ロビンソンエージェンシーの更紗紗綾と申します

暁  サラッサラっすね

ライウ  ロビンソン?

ゴウウ  ではミスターウルマの


 場の空気が微妙なものに変化した。閏間潤のあの姿を思い浮かべたのだろう。


紗綾  そうそう!そうです。ニン国ロビンソンエージェンシーからの特任エージェント紗綾で~す!フフッそうだ アイツどこですか?潤間潤。見当たらないけど


 紗綾は周囲を見渡した。空気がグッと重くなった。皆は顔を見合わせている。


紗綾  まあいいか。うちの代表 いないみたいなんで私がしゃべっちゃいますね。代表代理として。フフフフフ


 上司よりも先に交渉先と話ができると、なんとなく「できるやつ」感がする。ビジネスパーソンは特に。だよなそこの君。これが「先に○○に会っておけ」とか命令されてからだと「今やろうと思ってたのに!はいもうやる気なくしました~もうやりませ~ん」となるから不思議なものだ。そこの君。お前だよ。


 紗綾は軽く咳払いした。


紗綾  ンッン。ええ。この件は二つの依頼が重なっています。まず最初の依頼人様は――ええと?


 依頼の確認をタブレット的な端末でやる紗綾。まだまだだな。覚えとけよ紗綾。


紗綾  ああ。こちら様です


 紗綾は暁を指した。皆が暁を見る。


紗綾  依頼内容は……え~


 と、タブレットをチラ見。まだまだだな~。で、暁と朔次の二人を交互に指す。


紗綾  このお二人をくっつける事で~す。あら。もうくっついてちゃったね~こんな演出だとは聞いてなかったけど。よかったね!


 暁は幸せそうに頷いている。


朔次  ちょ ちょっと待ってくれ。それじゃこれまでの仕事は全部ウソか?ロー国との契約も?こんな事のために?


 朔次は暁を見て引っぺがそうとする。取れない。ぜってー取れない。金輪際取れない。


 紗綾は口の前に人差し指を立てて振る。なんかちょっとウザいな.


紗綾  チーッチッチチッチ。わがロビンソンエージェンシーはそんな野暮な事は致しません。仕事は全て本物です

朔次  じゃあこいつらとの契約は本物なのか

ゴウウ  もちろんよ

紗綾  もちろんで~す


 朔次は周りを見渡した。ゴウウ、ライウ。急襲掃討部隊隊員――彼らはゴウウの配下だろう。


紗綾  彼らは全員本物のロー国情報部員さんです。あ 部員さんって学校の部活みたいだねハハッ


 微妙な空気。今それ思ってても言うかな。紗綾はもう一度咳払い。


紗綾  ンッン。ええと。通常なら顔を合わす事のないロー国とニン国の情報員を安全に出会わせ 延いては互いの接点を作り出す事。それがもう一つの依頼です。そうですねロー国のお二人さん


 ゴウウ・ライウは頷く。


朔次  あんたら……グルだったのか

ゴウウ  依頼者ですわ。でも首脳会議の件は本当に知らされてなかったのよ。私達が協力したのはあなたがた二人の件だけよ


 ゴウウはすっかり自然な女言葉になっている。


朔次  このエマージェンシー騒ぎは?

ゴウウ  あれはロビンソンさんからの注文よ。お二人の件について騒ぎを起こしてほしいと


 朔次はしばし絶句した。なぜEM攻撃信号が潤のパスコードで解除できたのか。その謎の答えはここにあった。この人たちは慌てすぎて気付いていなかったが。


 朔次は息を吐いた。


朔次  なんてこった。情報戦で完全に後手を引いたって事か。お前もなんだな暁

暁  課長ごめんなさい黙ってて


 と謝りつつも暁は朔次からは離れない。朔次は暁の頭を噛もうとしたが、何の抵抗もしない暁に躊躇い、止めた。


ゴウウ  ごめんなさいとは言わないわ。情報はより早くより詳しく持った方が優位になるのは当然だから。まあ貴男がひと目見たときから相当経験を積んでるのは確信していました。実際に無茶な状況を押し付けることで貴方達の能力をこの目で確かめる事ができて私としては満足です。ただ……まさかあんな事になるなんて


 ゴウウは浜の向こうに目をやり、隊員に指示をした。隊員が二人、素早く移動した。


紗綾  ん?そうそう。そうです全ては本当の仕事です。当然謝礼も出ます。どうぞロビンソンエージェンシーをご信用ください

朔次  情報戦でここまでやられて……何をどう信じろっていうんだ


 と、ゴウウとライウが寄り添いあった。ん?それもかなりべったりだ。ん?これは意外なラブリー展開か。それを見て暁は負けじと朔次にしがみつく。


朔次  え あ?ええ?あんたら それは

ゴウウ  ええ。私たちもロビンソンエージェンシーのおかげで一緒になれたんです。今回の協力はそのお礼です

朔次  な……なんだよそれ。もういい。なんか疲れた……お前いい加減離れろや!


 引っぺがそうとする朔次。離れまいとする暁。なんか立ったままの絞め技対決みたいになっている。


紗綾  フフ。信用頂けた様でなによりです。ラブラブじゃん んもう!フフフ!それで?アイツはどこ?潤は?


 一同は目を逸らせて沈黙した。


紗綾  わかった~野グソでしょ。アイツそういうの平気だからアハハ


 さらに目を逸らせる。


紗綾  ねえどこ……え 目を背けるような場所でしてるの?野グソ

ゴウウ  いやそうじゃなくて。実は

朔次  あの~。ミサイルの巻き添え食ってな

紗綾  え?

暁  お亡くなりになったっす


 今度は紗綾が沈黙した。


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