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§第19話 逃亡劇からの……

 皆はそれぞれ荷を担ぎながら、浜から離れて三神山中を歩いていた。皆、押し黙っている。最後に見た閏間潤の姿が頭から離れないのだろう。


 その重苦しい沈黙をゴウウが破った。


ゴウウ  それで?どういう事だ?なぜ我々は山登りをしてるのか説明しろ

朔次  あんたの相棒はよく分かってるみたいだぞ


 朔次は顎をしゃくり、ライウに説明を押しつけ……もとい、促した。


 ライウは一瞬嫌そうな顔をしたが、話し始めた。上司に講釈するみたいで居心地が悪いのだろう。


ライウ  あのキラキラは間違いなくアルミ箔です。あれが空中に一定の濃度で存在するとあらゆる電磁波の伝搬が妨害されます。あの爆発地点から半径五〇〇米以内は通信ができません

暁  GPSもアクセスポイントも反応ないっす


 暁はポケットのコンパクト通信機を確認して呟いた。


朔次  あんたならこの意味が分るだろう

ゴウウ  我々は今情報的暗闇にいる――という事か。ならここで息を潜めていれば

朔次  いいかねぇちゃん


 朔次が遮った。あ。そう言えばゴウウは女性だったな。軍人的言葉遣いのおかげで不明になっていたが。


朔次  チャフミサイルを炸裂させてこの状況を作り出した側の次のアクションは三通りだ。一つ。チャフによってこちらのミサイルコントロールを不能にしておき次は本物を打ち込む


 皆、ぞっとした顔。ロー国が次のミサイルを装填してるイメージが湧いたか。


暁  さっきのは目くらましってことっすか

ライウ  次は確実に打ち込めるであります

暁  怖ぇっす

朔次  あの場所から離脱したのはそういうことだ。二つめ。この攻撃はあんたらが発信した緊急信号への対応策だな


 朔次の言葉はゴウウに向かった。


ゴウウ  ああ

朔次  ならこのチャフはあんたらを逃がす作戦とも考えられる。だとすれば何らかの脱出手段が用意されるはずだ。緊急信号発令後の対応を聞いたのはそれを確認したかったんだ。だがあんたの答えは曖昧だった


 ゴウウの表情が硬くなった。その先の事を分かっているのか。別の結末を予測しているのか。


暁  てことはお迎えが来るんすよね。どうなんすか?


 暁はゴウウに真剣に尋ねた。ゴウウは唸るような沈黙の後、重い口を開いた。


ゴウウ  それは状況次第だ。わが国の最高レベルの緊急事態における迎撃プランでは……救命は優先されない

朔次  なるほどな。お国柄で薄々分かってたが

暁  あれ。あそこ


 暁が少し離れた場所を指さした。山の中腹の道。そこは比較的整備された未舗装の山道だ。そこにカーキ色のワゴン車が2台、止まっていた。手回しされていたのか。


暁  あれで逃げろって事じゃないっすか

ライウ  よかった

朔次  まあオレ達は別扱いだろうがな。そして三つ目の可能性。それは相手にも時間ができたという事だ

暁  あれ


 と、ワゴン車からぞろぞろと人が出てきた。五、六、いや七人か。全員が黒い戦闘服。そして手には――


暁  武装してるっすあの人たち!!

朔次  救援じゃないなあれは。三つ目の答えは


 朔次はゴウウの表情を確かめる。動揺を隠せないゴウウ。


ゴウウ  掃討部隊の直接攻撃

暁  後始末っすか!こええっす!

朔次  くそう。チャフのエリアに戻るぞ!


 朔次がすぐさま指示を飛ばした。やや放心気味のゴウウの肩を強く叩く。


 次の瞬間。


 ブブブブブ……という異音。正面上空に飛行物が現れた。8ローターの中型戦闘ドローンだ。下に棒状のものがぶら下がっている。

ドローンの場合、機銃掃射は不安定なため、小型の局地爆弾による攻撃が旨となる。真上に来た。


暁  なんすかあれ

朔次  戦闘ドローンか。いいもの持ってるじゃねえかローカさんよ……くるぞ!


 投下。爆弾にもローターが搭載され微調整が可能だ。それ故、ターゲット到達には一米四方以内の精度がある。


朔次  散開して木の間に入れ。チャフの残ってる空間に向かえ!あっちだ!


 朔次の指示が飛ぶ。皆それに従って木々の間をすり抜けて走る。


朔次  伏せろ!


 皆が伏せて頭を守る姿勢になる。上下関係がある訳ではないがそれだけ朔次の声の響きには突き動かされる力があるのだ。


 着弾。地面の土が吹き上がり、周囲の木の破片が飛び散る。


朔次  起きろ!進め!ゴゥゴゥゴゥ!


 皆走り出した。木々の間を縫う。走りながら暁が叫ぶ。


暁  あれ味方じゃないんすか!

朔次  救命を諦めた時点で現地にいる者は全て敵と判断する――そうだな


 朔次はゴウウに確認する。もちろん走りながらだ。


ゴウウ  そうだ。全ての証人と証拠を消す事。それが掃討部隊の役目だ

朔次  後方に注意!


 と、後ろからビッという音がした。同時に複数の足音。つまり――部隊が追ってきたのだ。手にはライフル。銃端が光った。ビシッビシッと木の幹を削ぐ。露出した岩に当たり火花が散る。


暁  うへぇ~勘弁しろっす~


 走りながらゴウウが朔次に聞く。


ゴウウ  何故チャフの中に戻る?浜に出たら丸見えじゃないか

朔次  その手前ギリギリで様子を見る

ライウ  通信攪乱でありますか

朔次  そうだ。チャフの中では奴らも通信できない。地上部隊もヘリも連絡が取れないから先回りして待ち伏せしにくい。散開しても連係プレーできない。奴らは一本道をぞろぞろ降りてくるしかねぇ

ゴウウ  チャフを逆手に取った防衛作戦か

暁  課長さっきから凄いっすぅ!


 暁はもうウキウキだ。掃討部隊が今、上の道からズンズン迫ってるのにな。推しに恐怖は勝てない。推し、強し。


 数十秒後、朔次達は見晴らしの利く、少し開けた場所まで降りてきた。まだ森の中ではあるが視界は良く、浜が木々越しにちらりと見える。追っ手を迎撃するには良い立地だ。道から土手を上がれば待ち伏せできる。


 空にはチャフまだキラキラしている。その向こうには抜けるような青い空。


 朔次は一息つき、言い放った。


朔次  その代わり

ゴウウ・ライウ  その代わり?

朔次  俺たちも同じだ。分断されたら個別攻撃を防ぐことはできない。だから

暁  だから?

朔次  俺の傍を離れるな!


 言葉が山にエコーした。何度も跳ね返っては響いてくる。


 間。


 空間がフリーズした。全ての音が止まった。青空。そしてキラキラ。


 暁とゴウウ・ライウが顔を合わせゆっくり頷きあった。どういうことか。


 暁が朔次に近づく。そして静かに、しかし力強く頷く。


暁  ハイ!


 パンパンパンパン!という音が響いた。朔次は一瞬構えた。が、様子が違うのを感じた――機銃掃射でもないライフルの狙い撃ちでもない明るい破裂音。これはクラッカーだ。その場にいた二人――ゴウウとライウが鳴らしたのだ。拍手が聞こえる。


 そして拍手は二人だけではなかった。いつの間にか追いついていた人達がいた。そう。掃討部隊だ。彼らは何故かニコニコしながら拍手をしている。


 ん?どういうこと?


 暁はさらに近づく。朔次の目の前に立ち、ずっと目深に被っていた帽子を脱いだ。ハラリと長い髪がほどけた。暁の瞳は恋する乙女のそれであった。


 暁は目に涙を浮かべ、もう一度強く答えた。


暁  ハイ!


 そして朔次にしっかり抱きついた。朔次は――ただフリーズしている。そりゃあさもありなん。他の皆は拍手しつつ輪になって二人を囲んだ。なんだなんだ――『エバ○ゲリ○ン』TV版最終回か?


 チャフは少なくなったがまだ舞っている――朔次が周りを見渡しながら叫ぶ。


朔次  おおおい!おいおいおいおい!なんなんだこの展開は?

ゴウウ  よかったわねぇ暁さん


 女言葉になっているぞゴウウ。あ 女でいいのか。


ライウ  うぅぅよかったぁぁ~


 ライウは涙ぐんでいる。皆はニコニコしつつそれぞれに祝福の声をかけ、この状況をを互いに喜び合っている。


朔次  うぉい!だから!どうなってんだって!


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