§第13話 蟹味噌とDCT
場所はまた蟹来浜である。釣り人に扮したゴウウ・ライウが変な男に捕まり、伝説の神が降臨してこの浜の伝説を語るその男と漸く別れた後の事だ。二人は荷物から機器類を出し、アンテナや通信機をいじっている。
ゴウウ そっちはどうだライウ中尉。ここ……電波状態悪いな
ゴウウはインナーイヤータイプのイヤホンを片耳に入れている。ライウは流線型のヘッドセットに細長いメガネ型のゴーグル。腕と手指にはコントロールグラブを装着している。目の前にタブレット状の端末。パチン、と装備をロックする音。ブワン、という音が小さくヘッドセットから漏れる。
ライウ 接続準備完了しましたゴウウ少佐。状態悪いですがなんとか行けます。いつでも呼び出せるであります
ゴウウ では始める
ライウが腕のボタンを操作しかけた。途端。とんでもなく変な呼び出し音が二人の耳中に響き渡った。一瞬ビビる二人。
装置のランプが赤く点滅している。ヘッドセットを外してゴウウを見るライウ。とんでもない音とは——そりゃもうとんでもないとしか言い様がないくらいとんでもない。
ゴウウが頷く。ライウが急いでコントロールグラブを操作すると音が止まった。ライウは急いでヘッドセットをつけ、ゴウウはイヤホンに手をやった。
と、四角い画面が空中に出現した。空間ディスプレイか。そこに潤の顔が見えた。ただし画面ノ映像も声もザラザラでノイジーだ。
潤 つ……ながりま し……たね
ゴウウ パスコードを
潤 『ロビ……ンソ ンクル……クル ソ はカ カニ が……がお嫌い』
ゴウウ わかるかライウ?
ライウ は。なんとか
ライウはグラブの動きとパッドの操作をする。操作の動きが前衛舞踏としか思えない動きだ。面妖すぎるぞライウ。
ゴウウ どこかで聞いたな蟹の話
潤 わた……か か……カニ み ミソす き……んで すけ……ね
ライウ 認証完了
瞬間。ノイズが消えスパッと通信がクリアになった。小さく息を吐くライウ。
ゴウウ クリアになったな。よし。そちらの認証はどうか?
潤 クリアになりましたね。では当方の認証プロセスに入りますので暫く会話をして頂けませんか。ちなみに私は蟹味噌大好きです
潤の声もクリアだ。ゴウウ・ライウは顔を見合わせた。
ゴウウ 会話?
ライウ 声紋照合——でしょうか
潤 ご明察。さすがは大国の軍属エリートですね素晴らしいです。蟹味噌の次くらいです。
ライウはすかさず別の画面を立ち上げた。画面には三人の声の波形が重なって表示されている。なんか見た目カッコいいなこっちのシステム。
——二人は蟹味噌ネタスルー戦略を採用した模様。
ゴウウ では会話ついでに確認する。今回の作業はデータのダウンロードのみだな
潤 その通りです。スクランブル方式は如何致しましょう?
ゴウウは黙ってライウを見た。
ライウ DCTです
ゴウウはほんの少し眉をしかめてみせた。
ライウ 離散コサイン方式です
ゴウウは微妙に頷いた。分かってないな~これは。
ゴウウ DCTだ。リサンコサインだそれで良いか
潤 DCT。OKです
と、通話の向こう側で何かが終了したらしき音がした。
潤 認証完了しました。ご協力有難うございます。では改めまして。こらちはニン国代理のロビンソンエージェンシー潤間潤と申します。そちらはローカ人民共和国軍特殊情報部隊で間違いありませんか
ゴウウ そうだ。まず確認させて頂く。ニン国の諜報技術の何某かを頂けるということだがそれは確か?
潤 確かです。内容については今は詳しく申し上げられませんが
ゴウウ 了解だ。本国からすでに契約金の半額が振り込まれているはずだが
潤 確認済みです。残りはデータをお渡ししてからという事で承知しております
ゴウウ それで?データはどうやって?こちらはDCTリサンコサインだが
DCTという単語が使いたいだけかよ。それ以上使わない方がいいぞゴウウ。なんか向こう側の男がニヤついている気がする。
潤 DCTですね。それについて一つ提案があります。この回線はのセキュリティは強固です。しかし無線である事には変わりありません。こういう時に限って余計ななお客様がいらっしゃるんです。ですので当方としてはネット経由ではなく別のメディアでお送りする事を提案致します。お渡しは6時間以内。メディアはご希望通り何でも用意します。いかがでしょうか
二人は顔を見合わせた。ライウはゴウウに耳打ちする。
ライウ データはその場でというのが原則です。私は反対であります
ゴウウは軽く頷いた。
ゴウウ それはイレギュラーな話だな。データはすぐに受け渡される手筈と聞いている?この回線経由でお願いする。DCTで
潤 はい。承りました。それではネット経由でお送りします
ゴウウ DCTで
潤 DCTですね。ではセキュアFTPのポートを開いてください。ポート番号は2022でお願いします。スクランブルは
ゴウウ DCTで
潤 ハハ
潤の声が苦笑いに変わっとるやん。使いまくっとるやんDCT。ゴウウは得意気にライウに合図した。ライウはすぐさま例の妖しい動きでグラブとパッドを操作を始めた。
途端。ゴウウが止めた。二コンマ三七秒の間。戸惑った表情のライウ。妙ちきりんな姿勢のままフリーズしている。
ゴウウ 済まない。確かにそちらの言う通りだ。所詮ネットに完全なセキュリティは期待できない
ライウはマイクをオフにし、小声で反駁した。
ライウ 予定変更でありますか。我々のタイムスケジュールに余裕はありませんが
ゴウウ 分っている
ライウ ではなぜ
と言いかけたライウを抑え、ゴウウはイヤホンのマイクをオンにした。
ゴウウ ここは蟹味噌がお好きなロビンソンさんの言う事を聞こう




