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あい/抵抗  作者: 十矢


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活動休止?

 ああこれはなんですの。


 ん……ん……。


 なにか夢のなかのような、頭がボーッといたします。

 特に昨夜寝るまでは、こんなに身体も重たくなく、作業も順調でした。


 こちらの部屋は、基本的には寝室だけど、駅にいって電車で移動しなくても作業をできるくらいには、環境は整えてある。


 普段なら、こんなに朝早くに目覚めることも少なく、ベットから起きるのも、スマホで少しなにかをみるくらいしていれば、いつの間にか起きられるようになります。


 けれど、今朝はいけない。


 それに、この口から喉にかけての違和感がある。


 とりあえず水を飲もうと、ゾンビのようにはいながら、冷蔵庫のなかのペットボトルのお水を取り出す。

 そういえばこの違和感は数日前から、少しずつあった。

 そのため、お紅茶に少しレモンやはちみつを加えてみるのもいいのかもしれないと、お紅茶のペットボトルもあった。


 いまは、とにかくいつものお水にしましょう。


 テーブルの椅子にようやく座り、ペットボトルのお水をコップに注ぐ。

 そうして何度か飲んで、コップを置いたところでようやくいまの違和感に気づくことができた。



 ん。


 声が……。

 声が……でませんわ。


 ん゛ん゛。



 何度か咳ばらいのように、うなる。

 息はできているし、いまお水も飲めたのに、声だけでない。

 もう一度、と試してみる。


 けれど、おはようの、お……が既に声にならない。

 もしかして、風邪。

 たしかに、身体は重たい。

 それでも、風邪声くらいにはなりそうな気がする。

 なんでしょうか。



 ん゛ん゛。



 お水を飲んでみたり喉を触ったり、少し呼吸をしてみるも、声にならない。

 だんだんとパニックになっていく。


 え……声だけでない。

 お、お薬?


 慌ててお薬を探してみて、その箱にある説明書を読んでみる。

 どれに当てはまるのかさえわからないものの、風邪という(かす)かな言葉を考えて、痛みとめを飲んでみる。

 これは、いつも病院でも処方されるものだから、上手く効いてくれるといい。



 しかし、お薬を飲んでも、そのあと深呼吸をしても、焦るばかりだ。

 あとは、なにをしたらいいのかしら。

 なにをしたら……。

 頭痛もしてきたなか、昨夜のことを思い返していた。





 あかりさんたちが帰る前から、喉が変かもと思い、そのあとの買いもので、あまり刺激にならないものと少し多めに飲みもの、それにゼリーなどは買ってきた。


 さらに前日から、お紅茶を手にとっていたのも、たぶん同じ理由なのだろう。


 普段から、喉や声のだしかたに気をつけている。

 風邪も引かないように、しっかり水分補給と、それに少し塩分もとる。


 体調は、たしか数日前からよくなかった。

 でも、声だけなんて。

 とりあえず、なにかしなくては。

 身体が重たい。


 けれど、いつものように朝の準備をして、あまり食べたくない朝ご飯を食べて、ある程度は動けるようになった。


 今日は、配信部屋までいくのはやめておこう。

 幸い休みであり、簡単なあいさつをSNSであげると、あとは動画作りの予定だった。

 ミニノートパソコンで、できるだけはしようと椅子に座り、作業をする。


 作業はできるようだ。

 そう手も足も動くし、頭痛がするだけでアタマだって動く。

 そう思いなんとか、ミリロリ嬢様を動かしていく。


 数日前より声はあててあるものもあり、コンテンツとしては平気だ。



 お昼までなんとか、さきほどまでのことは考えないようにして、お昼ごろにまた不安がもやもやとする。


 明日の分は、なんとかなる。

 細かくなっているコンテンツをはめれば、一週間ほどはいろいろ保てるくらいには、準備してある。



 そうだ、シャワーを浴びましょう。

 切り替える。

 区切りのできたところまで保存すると、すぐにタオルや着替えを持っていく。

 もしかしたら身体を温めれば、いいかもしれない。



 けれど、今度は変にボーッと過ごしてしまう。

 シャワーのなか、これからのことが離れていかない。

 これから、声がでるようになる?


 シャワー中に何度も、あ……を出そうとして、そして止まってしまう。

 シャワーをしても、でてからドライヤーをかけても、今度はボーッとしたままだ。



 改めて、寝てみる。

 あまり髪は乾いていない。


 少し寝れば、引くかも。

 そうですわ。

 もう一回寝て、覚めれば気分もよくなる。

 そう思い、まだ昼間なのに電気を消して、鍵も確認する。

 テーブルには、コップさえ置いたままだ。

 ペットボトルだけ、ベットの側におく。


 そして、寝転ぶ。





 どんどんと哀しみがくる。

 少し寝ていた気がする。

 今度は上で丸くなる。



 丸くなって、嫌な考えしかない。

 ミリロリ嬢様、サ終でしょうか。

 いやおわりにしなくても、活動休止でもいい。

 だけど、マネージャーに連絡する気分ではない。

 何度か、そらくんとあかりさんから、スマホに通知が来ていた。

 でも、ちらっとみて、またスマホを暗くする。


 活動休止と、終了がアタマをいったりきたりする。



 小さいりーちゃんが(ささや)く。

 もう、いいよ。

 もう、いいんじゃない。

 もう、いいよ。

 もう、これまでのことは……。

 もし……モシ……声がでなかったら。



 ピンポン。


 チャイムがなりビクッとなる。

 側にあったいろんな物を落としてしまう。

 だれ。

 そう思うと、再度チャイムが鳴る。

 丸くなっていた姿勢から動こうとすると、身体がやはり重い。

 玄関にゆっくりと近づくと、声が聴こえてきた。


「りーちゃん! 平気? いるよね!」


 そろっと鍵をはずし、顔をみせる。

 あかりさんが額に薄っすらと汗をだしながら、びっくりしている。

 よほど、ひどい顔をしているのだろう。


「もう! 連絡くらいみてよ!」


 気づくと、外は夜になっていたようだ。

 それほど、時計をみてはいなかった。

 けれどしゃべれないため、仕草でどうぞとする。


「ねぇ連絡みてた? 夜にいくよっていれたよ……どうしたの? なんか顔色が悪いし」


 そのまま部屋に入ってもらい、向かいあうと、へろへろとしゃがみこんでしまう。

 なにを伝えればいいのだろう。


「りーちゃん……?」


 テーブルにいつ置いたのかもわからない、広げたままの手帳のペンをつかむ。

 声がでないの、簡単にそう書いた。


「声……? 声がでないの?」


 うなづいている。

 すぐに、あかりさんが近くにきて抱きしめてくれる。


「そっか。それじゃ連絡もほとんどみてないのね。そらくんがあと二時間くらいで来てくれるとおもう」


 また、うなづいている。


「いつからなの?」


 わたくしがどう返事をしようか迷うと、あかりさんがスマホを取り出してみせてくれる。

 テキストのページで、画面のカーソルが止まっている。


「書いて」


 あかりさんから少し離れてから、あかりさんのスマホに書きはじめる。


 今朝から。

 でも、もう少し前からなんか変だなっておもっていましたの。

 でも、身体がダルいのと頭痛以外には、怪我もなにもありませんの。

 本当にですのよ。


「病院にはいってみたの?」


 そう聴かれて、はじめて病院にいくことを思い出した。


 いっていませんわ。

 お薬を飲んだこと、以外にはアタマを使っていませんでしたわ。


「これまでに、声がでないのあったの?」


 ありませんわ。

 いえ、その。

 小さい頃のことは、あまり覚えていませんから、もしかしたら、小さい頃はそういうこともあったのかもしれません。

 これは病気なのかしら。


「わかんないよ……」


 あかりさんが、わたしをみつめる。


 そんなにかなしいお顔をしないでください。

 わたくしまで、なんかうるっときましたわね。


「りーちゃん、とりあえずなんか飲もう。キッチンつかうね」


 そこで、ようやくなにも出していないことに気づいた。


 ごめんなさい。

 気が急いてしまいましたわ。


「いいの。キッチンつかう。あ、鍵しめなくちゃね」


 あかりさんが、まず玄関に向かい、鍵を閉めたあと、キッチンで飲みものを準備してくれる。

 あかりさんが愛人でよかった。

 とてもそらくんが来るまでの時間、保ちそうになかった。

 はい、と準備してくれたのは、いつも飲む自然水だ。


 そうですわ。

 お紅茶もありますの。


「ううん。いつもの飲もうよ。こういうのは、いつもの通り、ね」


 とても高校生とは、思えない態度だ。

 わたくしのことを妹みたいと言ったのは、わたくしが頼りないのではなくて、あかりさんが基本的にしっかりとしている姿勢なのだろう。


「熱はあるの? あと……」


 熱はあるのかもですが、ずっと丸くなっていたから、正直頭は、上手くいかないのですわ。


「……できちゃった、とかはないの?」


 一瞬なんのことかわからない。

 けれど、あかりさんが上手く時間をかけてくれるため、はっきりとした。


 それは、しっかりとしてますわ。

 そらくんと、いままでにえっちとかはないの。


「そっ……か。ねぇ聴いてもいいかな?」


 なんですの。


「そらくんが仕事おわってからくるけど、冷静に話せそう? もし、いま話せないなら、そらくんに来ないでって」


 それは、なんとか出来そうですわ。

 あかりさんがこうして来て、スマホでの会話してくれましたから、本当に少しだけ落ちつきましたわ。


 テーブルに置いていた手をつかんでくれる。

 また泣きそうになる。


「りーちゃんは、上手く説明できそう?」


 上手くかは、わかりませんが、そらくんにもしっかりと伝えなくては、いけませんわ。


「わかった」


 そういうと、あかりさんは水をぐいっと飲む。

 そのあと立ち上がり、窓の外をみたあと、カーテンを引く。

 カーテンすら、閉めていなかったといま気づいた。

 スマホの画面をあかりさんにみせる。


 ちょっと顔洗ってきますわ。


「そうだね。化粧水もつかう?」


 化粧水は、ありますわ。


 あかりさんと離れつつ、やはりあかりさんはお姉さんらしい。

 はじめて会ったときから、随分といろんな仕草をみてきたけれど、その合間で妹を気づかうような感じで、わたくしに接するときがある。

 きっとそれが、姉というあかりさんの姿なのだろう。


 洗面台で顔を洗い、そのあと化粧水をつかいつつ、まぶたの腫れがあることを発見する。

 泣いていた記憶などないのに、腫れているのは、やはり泣いていたのだろうか。


 ペシペシと顔を叩いてから戻ると、あかりさんがノートを広げている。

 もう少し元気が残っていれば、背中から抱きつくのだけど、いまはそこまで甘えてみる余裕すらないらしい。


 そちらはなんですの。


「りーちゃんの様子を少し書いてみてます」


 なにか、あかりさんに話したからか、さきほどよりはいい気はします。


「本当ですか。少し寝ていていいですよ」


 そんなに眠くないですわよ。


「りーちゃん顔洗う前は、ホント真っ白でしたよ。少しリラックス、できないか」


 いいえ。

 ひとりはだめね。

 いまはリラックスしましたわ。


「そらくんが来るまでもう少しあります」


 テーブルにあるコップの水をごくっと飲んだあと、深呼吸を何度かする。


 さっきよりはよさそうですわ。

 でも、声はまだですわね。


「無理しないでください。こういうときは、ひとまずいつもの通りに」


 ありがとうございますわ。


 ベットに移動したあと、スマホで書いて伝えた通り、さきほどよりは落ちついて丸くなる。

 すると、あかりさんもベットの隣にきて、心配そうにしつつ、話してくれる。

 わたくしは、途中からはうなづくだけにした。

 少し眼を閉じていたのかもしれない。



 ピンポンという音がして、ビクッとなった。

 あかりさんは、わたくしをなでてくれる。


「そらくんですよ。いってきますね」


 あかりさんは、スマホを手に玄関に向かう。


「ひかり……」

「……そら」


 ガチャと鍵をあけて、そらくんを通す。

 そして、また鍵を閉める。


「そらくん早かったですね」

「うん。バイト終わったらすぐにのれたから」

「そうですか」


 そらくんが、丸くなったわたくしの側にくる。


「りーちゃん……おそくなった。あかりさんから聴いたけど」


 わたくしがなにか書くものを探すと、スマホを渡してくれる。


 そうですの。

 声がでませんわ。

 でも、あかりさんが来てくれましたわ。


「そっか……」


 さっきのはなんですの。


「どれのこと」


 ひかりってやつですわ。


「あぁ、あかりさんが部屋からすぐにでないように、お互いにつくったんだ」


 なにそれ。

 やけますわね。

 秘密まで仕立ててやりますわね。


「あかりさんは、ときどき勢いででてきたりするから」


 あかりさんが、遠くから睨んでますわよ。


「あ、あぁ」


 第二彼女とは、随分と上手くいってるんですわね。


「第二……まぁね。それで声がでないのいつからですか?」


 わたくしは、あかりさんに説明した内容をしっかりと話す。

 今度は、そんなに泣きそうにはならなかった。


「喉の病気とか、前にはあった?」


 以前健康診断や内科を受けたときには、なにも言われてはいませんわ。


「そっか」


 ちらっとあかりさんをみている。

 わたくしが、どうぞと手を出す。


「うん」



 あかりさんとそらくんが向きあう。

 なにかを話している。

 もし……をそらくんに話すべきか、迷ってしまう。

 ミリロリ嬢様の仕事のことではない。

 あかりさんと話すことで、仕事のことは少し時間を置くのもいいかもしれない、と思えた。


 そらくんが眼の前にきて、あかりさんは隣に来てくれる。


「りーちゃん、少し聴いてもらっていい」


 スマホでなんですの、と打ちこむ。


「これ、いまみてました」


 それは、いくつかの症状を検索したものらしい。

 画面に言葉がでないや声が出てこないひとたちの症状がある。


 心因性。


「りーちゃんが、ここの部分でなにか心あたりがあるのかなって話してました」


 ここしばらくの活動やあかりさん、そらくんを含めた行動をゆっくり振り返る。


 心あたり……ってやつが多すぎますわね。


「そっか」


 ほら、そらくんもそんなに落ち込まないでくださいまし。


「今日ここに泊まっていくことにします」


 え……?


「あかりさんと二人で話して、りーちゃんが声がでないのに帰れないって」


 大変嬉しいけれど、お二人は平気なんですの。


「平気ですよ。りーちゃんと一緒に寝る」


 お二人に何度か、意思を確認してみても、あかりさんは一緒に寝るといい、そらくんは、床で丸くなってるからいいよ、と言ってくれた。

 お二人に、もし……のことは話せなかった。

 わたくし自身が話したくなかったのかもしれない。



 あれだけ最強メンタルを豪語していたわたくしも、こうも予想外なことが起こると、動揺してしまうらしい。

 そらくんとあかりさんが、交互にシャワーをつかい、まるで旅行の続きのように、わたくしもスマホで会話をする。

 寝る間際まで、お二人は会話をしてくれた。



 最後部屋の電気を消しても、声がだせないから、どうしたらいいのと叫ぶこともなく、あかりさんの横の表情と、少し遠くのそらくんの気配を感じて、薄くなる意識があった。


 もし一日経っても、二日経ってもこれなら、わたくしにも考えがありますの。





 朝になった。


「おはようございますわ! お二人とも」

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