そらくんとのアオイでーと敗ける編
「それで、そらくんさまは、よく見つけてくださいましたわね」
「それは、りーちゃんが変装していてもぼくにはわかりますよ」
「そらくんさま、お優しいですわ」
「うん……それは、よかったけど、その」
「はい。なんですの」
「そらくんさまって、なんでそんなことに」
「そらくんさまは、そらくんさまですわね」
「さまって言われても……なんていうか」
まさかですわね。
そらくんが、まさか妄想を……。
「破廉恥ですわね。いやだ、そんなこと考えるだなんて」
「なにも言ってません」
「ふ〜ん。隠すんですのね。いえいいですのよ、いくらわたくしでいやんなこと考えても」
「そんなこと、考えてないけどな。ツンツンしてますね」
「あらぁ、そんなにわたくしにデレデレしてほしいんですのね」
「甘えてくれるのは、ぼくとしては嬉しいですよ」
なんとか、わたくしは必死に格好つける。
さっきの出来事は、なにもなかったことにしたい。
まさか充電の所為で泣くことになるとは、想いませんでしたわ。
けれど、あまりにショッキングな出来事であったため、そらくんと素直に呼べなくなってしまった。
今日は一日そらくんさまで、通しておきましょう。
カウンターの隣に座るそらくんをちらちら見ながら、テーブルに置いてあるスマホと繋いであるケーブルをもて遊ぶ。
一見すると、さきほどの出来事は、なかったようにふるまってくれている。
なかったんだな、と思う。
なかったわ。
こうして、自身の記憶を改ざんして話しを進めることにした。
「それでそらくんさま、このサイレント茜パフェは、なに味かしらね」
「食べてみればわかるんですよ」
「ええ、食べてみれば、わかりますわね」
はい、とそらくんのテーブルの前に渡す。
「えと?」
「まず一口召し上がれ」
「そんな」
「ま、ま、いいですから」
わたくしは、この隙にテーブルの温かい紅茶を飲む。
カップを持ちつつ、ジーッとそらくんをみる。
「はぁ、わかりました」
なぜわたくしは、パフェをそらくんに味見してもらうのか。
それは、このすごい景色だからですわね。
サイレントっていう名前に騙されたんですわね。
背の高いグラスに入っている。
茜色にふさわしい赤。
アイスは三種類。
ストローのように刺さるスティック菓子。
チョコチップ。
アイスがいまにも零れ落ちそうだ。
赤すぎる。
何味かわからないわ。
ストロベリーならいけるけれど、もし違うベリーだと、ニガテ分野かもしれない。
それに、さきほどの削除済の記憶の欠片から、そらくんに少しはなにか刺激を与えたい。
「刺激。それは甘い理と、優雅な音色」
「美味しいです!」
「そう。よかったですわね」
「なんだろ、この味。いちごかな」
「よかったですわね」
あ、アイスが溶けていく。
グラスを伝うアイス。
あ、チョコチップが、ポロポロする。
「食べづらい」
「ですわね」
そらくんが、長めのスプーンですくい、こちらに差しだす。
「はい、あ〜んしてください」
「あ〜〜んん!」
パクッ。
あ〜んしましたわね。
ジンセイで初めての彼氏からのあ〜んで、照れてしまい、顔がヤバいことになっていますわね。
「んんしい」
「なんです」
「美味しい」
「それは、よかったです」
なんでこのひとこんなに冷静なのかしら。
彼女にあ〜んしましたよ、このひと。
あ〜んまでしておいて、なぜこんなに冷静を装うのかしら。
どう考えても、あとはエ○いことしか考えることがないはずなのに、平静にパフェをパクパクしてますわ。
もしかして、ですけれども。
「甘いモノお好きなんですね!」
「うん。好きかな」
予想が的中してしまった。
スウィートな可愛らしいはずのわたくしは、サイレント茜という宿敵に、見事に負けてしまったわ。
そう、さようなら、そらくんさま。
あとは、サイレント茜パフェと上手くやってね。
そこまでパフェにヤキモチは焼かないけれど、なんだか負けて顔が、少し引きつりますわ。
「そうなんですのね。わたくし、いままさにジンセイの甘難辛苦をくらいましてよ」
「このパフェ甘いようでいて苦味もありますね」
「ビターチョコですわね」
「ベリーとチョコあうんですね」
サイレント茜とあなたもなかなかに、お似合いですわよ。
わたくしは、またテーブルにあるケーブルをくるくるしてみる。
スマホの充電をみると、いまだ十七パーセントだ。
小さいバッテリーで大容量が売りのため、容量はあるのだろうけれど、もしかして、充電スピードはイマイチだったのだろうか。
結局、パフェをほとんど食べ終えてしまい、そのあとで気づく。
「あのぉ」
「あ! パフェほとんど食べてしまいましたね。りーちゃんが頼んだのに」
「いいですのよ」
「お紅茶おかわりしますわね」
そらくんの紅茶とわたくしの紅茶を頼むと、スタッフはにこやかに去っていく。
その後ろ姿を観ているそらくん。
「かっこいいひとですね」
「賢そうで、やり手ですわね」
「Vでイケメンのかたいませんでしたか」
「あ、ええ。クズレさまですね」
「どういうお名前なんですか」
「クズレ勇者さまですね。本来はじめは屑de勇者だったのですが、キャラクターが個性的で、クズレって呼ばれて名前を改名しましたわね」
「そっかぁ。ミリロリ嬢様以外、あまり興味なかったからな」
さらっとわたくしをほめてくれる。
ほめ上手なところは、ほめてもいいけれど、できればクズレさまみたいには、なってほしくない。
「クズレさまは、とても配信では人気がありますけれど、よくリスナーのお人とケンカしていますわね。あとファンサとリアル出逢いを少し勘違いされていますわね」
「リアル?」
「ええ、まぁわたくしが申し上げるのもなんですけれど、リアル恋をさせておいて、資金を上げさせてからの勘違いする人が悪いんじゃないとか、言われるかた」
「リアルヤバいですね」
「会ったことありますわ」
「リアルで?」
「リアルで」
「それは、平気でしたか? 怪我とか」
「仕事ですわよ。それに、事情聴取の最中でしたから、わたくしの勝利ですわね」
なぜだろう。
そらくんは、少し複雑そうな表情だ。
これは、もしかして嫉妬……。
「嫉妬とかは、特にしませんね」
「シット! してもいいんではなくて?」
「いえミリロリ嬢が勝ったのなら、それでいいかな」
一度どこかで負けてみたほうがいいのかもしれない。
そらくんはたしかに優しいけれど、なんだろうときどき、メラメラッと嫉妬させてみたくなりますわね。
どうすれば、このそらくんに嫉妬させられるかももう少し思案しておかないと、今後の恋愛に関わりますわね。
どうやらわたくしに必要なのは、勝利の方程式ではなくて、嫉妬の方程式らしいですわ。
「そらくんさまは、ミリロリが負けたら、どうなさいますか」
「よくゲームでは敗けてますね」
「ゲームももちろんですけれど、駆け引きとか」
「ポーカーとかも弱そうです」
「カードゲームもですけれど」
「前に格闘で敗けてました」
「……メッチャ負けてるやん」
「そうですね」
「……敗けてこそジンセイ」
そう勝ってばかりもいられない。
敗けがあるからこそ、敗けるこそジンセイ。
「りーちゃん、意外と敗けプライドなんですね」
「いやん」
「なぜ!」
「いま敗けてから身包みはがされるイメージとかしませんでしたかしら?」
「誤解がすごい」
「過ちこそ経験」
「至極真っ当です」
スタッフが紅茶を持ってきてくれた。
テーブルのお皿を少し下げてくれる。
下げるときに、さきほどのヤリ手スタッフがニコリと笑う。
わたくしも愛想笑いをしておく。
「なかなかのイケメンですわね」
「りーちゃんは、イケメン好きなんですか」
「……そんなことないですわね」
「どういうのが、タイプなのかな」
「タイプですか。それは男の子のですわよね?」
「そうです」
……このそらくんは、なにをおっしゃっているのかしら。
そらくんが、タイプに決まっているですわね。
いえでもこの場面で、それはアナタのことよ、というとまるで愛の告白ですわ。
それは、嫉妬の方程式からは、いかがなものかと。
仕方なし。
少しだけ積むとしましょうか。
「そらくんさまは、もちろんわたくしのことがタイプですわよね?」
「そうです」
「わたくしのことが好きと?」
「そうです。好きです」
あっさり告白され過ぎて、返って照れるのを忘れてしまうほどだわ。
照れてないですわ。
えへ、照れてないですわ。
「ま、そうですわよね。特に照れたりとかしませんからね」
カップを持ち上げて、紅茶を飲む仕草は、どこか余裕があって、そらくんは、どことなく笑っているような感じがする。
「わかってくれているなら、いいです」
このそらくんというひとは!
このそらくんというひとは!
わかっているならいいですと!
そう言いましたわね!
「……そう? じゃわたくしの部屋にくる?」
「えっ……うん」
「あ、ちょっとお化粧室にいきますわね」
わたくしは、カタッと紅茶のカップを置くと、そらくんを見ずに歩きだす。
鏡の前についてから、わたくしはワタクシの顔をみる。
「朱すぎる」
もうわたくしの精神力は、一パーセントもない。
そのあと、なにやらあった気もするけれど、あまり覚えていない。
たぶん精神力がない所為で、記憶すら落としてきたのだろう。
気づくと、部屋の鍵を開けるところだ。
「りーちゃんの部屋なんですね」
「ええ」
「ほんとにいいんですか?」
「イラッシャイマセ」
「オジャマシマス」
「スリッパハゴザイマセン」
「ワカリマシタ」
わたくしは、なぜ自分の部屋で、そらくんにお紅茶を出しているのかしら。
おコーヒーのほうがよかったかしら。
冷蔵庫を開けてみるもおコーヒーはなかった。
パタン。
まだコポコポいう電気ポットを置き去りにして、テーブルに向かう。
わたくしのど緊張が伝播しているのだろう。
そらくんは、部屋に入ってからしゃべらなくなった。
来るまでは記憶にはないけれど、たぶん、あんなに楽しくおしゃべりしていたはずなのに、そらくんでも緊張するんだなと勝手に想う。
そのまま黙ってお紅茶のカップを置く。
座る。
ゆら〜と立ちのぼる湯気。
仄かな香り。
ここの部屋は配信部屋ではないため、小さい編集用のミニノートのパソコンと、その他、いくつか買い揃えた本と雑誌、スマホのギアアイテムが少しあり、あとの部屋は衣装部屋、ベッドルーム、そしてここのリビングだ。
小さいクローゼットには、いまもいくつも私服がかけてある。
小さいタンスには、これでもかと普段着と、パジャマなどが入っている。
テーブルには、少し小物が置いてあるだけだ。
配信部屋は別の場所にあって、それ以外のモノは、倉庫をひとつ借りている。
紅茶をかき混ぜる音と、ときどきアイのアカウント宛だろう通知の音がするだけで、ほかの音はしない。
静かね。
わたくしの鼓動のほうが、余程うるさい。
な、なにかしゃべって。
そらくんがなにかしゃべってくれないと、なにも話せない。
熱いお紅茶を少しずつ飲むと、喉が乾いていたのだと気づく。
無言。
それは時として、視えない刃。
時間だけは、経っているはずなのに、わたくしの頭のなかは、空白だ。
空っぽって、空なんですのね。
そんなことを考える。
あまりにも話さない時間があると、ヒトは極地にいくのだとこのときわかった。
「しゃ、シャワー浴びたいですわね」
「え?」
「あ、その前にお手洗いいきますわね」
「はい」
お紅茶をぐいっと飲みほすと、お手洗いにいき、そこでボーッと考える。
なぜ部屋に彼を招いてのひと言めがシャワーなのか。
もうなにも考えられないですわ。
お手洗いからでるなり、手を洗うとすぐにタオルといちおう可愛いらしいデザインの下着を手に、脱衣室に逃げる。
すでになにも考えていないらしいわたくしは、そのまま脱いで、シャワールームで身体を洗う。
ボーッとそらくんを置いてシャワーを浴びること四十分。
ようやくでて、パジャマに着替えてドライヤーをたっぷりかけて、部屋に戻ってみると、テーブルの場所でそらくんがいる。
それは、そうだわ。
おかしい。
いや、わたくしがおかしい。
「つかれました。ね、寝ますわね」
「……うん。おやすみなさい」
「おやすみなさいまし」
いつの間にか充電し終えたスマホを持ち、ベットの部屋にいき、丁寧にそらくんにお辞儀をしてから、ベットに寝転ぶ。
そのまま枕に頭を載せながら、想う。
わたくしの恋は、これでサ終ですわ。
なにかのゲームのバッドエンドロール音が、頭に鳴り響く。
こんな意味不明な女のことなんて、いくらそらくんでも見捨てるだろう。
「ヒトコトめが、シャワーってなんなのわたくしは……」
うずくまりスンッと泣きべそをかいていると、だんだんと本当に眠くなりはじめ、疲れていたのは、ホントだったのだとわかった。
頭痛で目が覚めた。
ベットの部屋には誰もいない。
当然だ。
あまりに頭がボーッとしているため、熱でもあるのかしらと思い、温度計のある場所を思い浮かべた。
「アタマイタイ」
頭痛薬を飲もうと、ノロノロと立ちあがり、ベットの毛布もそのまま落とした状態で、リビングにいった。
そらくん← いましたわ。
すっかり忘れていた。
たぶんパソコンテーブルの脇にあったのだろうブランケットをかぶって丸まっている。
寝息を立てているため、寝られたらしい。
「わたくしは、バカですわね」
そうだったわ。
そらくんが、わたくしを見限って何も言わずに、出ていくなんてことないのに。
「そらくん、寝顔ははじめてかもですわね」
頭痛のなかでも、なにかほっこりした。
そーっと起こさないように、テーブルにあるリモコンで、エアコンをつける。
そうだわ。
昨晩からの出来事で、一曲描けそうですわね。
失敗ばかり恋のサ終アクアリウム。
コップを手にとると、冷蔵庫にある自然水を入れて薬を飲む。
そのあと、そらくんを蹴飛ばすことなくパソコンテーブルの前に座る。
パソコンの電源を入れた。




