わたしはブルー
今日は、夜にコスプレ喫茶の時間が短めなバイトがあるため、少しだけ時計を気にしてしまう。
「まだ平気ね」
駅をでて、十分くらいしたところにファストファッションのお店があり、そこに入る。
けっこうにぎわっているなか、いま着ているのと似たようなショートパンツと、もう少し長めなロングのをみつけるも、少し色や形が気にいらない。
「うーん。もう少しタイトか、ブルーめかな」
試着室前に持っていくが、やはりイマイチで、戻してしまう。
すぐにお店をでて、次のファッションのお店にいく途中で、男の子二人に声をかけられる。
「モデルどうっすかね」
「え、いいえ」
「じゃ、連絡先だけでも」
「あのナンパですか」
「ナンパでもいいけど、写真だけでも、どうですか」
「いえ。いりません!」
さっさと、二人から逃れてから、スマホで、リリスタ投稿してみる。
"ナンパだか、モデルだか誘われた
でも、怪しいの
「ふぅ」
後ろを振り返ると、まだその男の子二人は、こちらをみていた。
気づかないフリをして、次のお店に入る。
"アースアンドファンタジーウインター"
「ここは、知ってる」
人気のBGMが流れるなか、店内をみていくと、さきほどのよりタイトなジーンズと、ダメージ風なショートパンツがあった。
試着室で、はいてみる。
「うん。お尻の形もいい感じ」
すぐにお会計に持っていき、
ブラックカードで支払いをすます。
外にでたあとで、二つめのショッピングバックの写真を撮って、投稿しておく。
「ホントは、ここの袋もお気に入りなのよね。でも、ギフトじゃないし」
駅のロッカーのところで、買ったパンツも収めると、駅ビル内にある
スタートバックスに入り、チョコフラペを注文する。
写真を忘れないで、撮る。
"チョコ
スマホをみると、ラルルンが、何件もきていた。
座りながら、チョコフラペを飲みつつきてる通知を流していくと、いくつか気になる連絡がきていて、それだけ返事をしていく。
その間にも、リリスタの返信とリリスタマークは続いてる。
あとは時間みて、コスプレ喫茶にいくだけ。
「それにしても、アイはずっとこんなの続けてるんだね」
アカウントフォロワーは一万を超えていて、今日だけで、また百は増えた。
通知はずっとなり、投稿するたびに返信がくる。
「一ヶ月くらいしたら、二万くるかな。まさかね」
スタートバックスのカウンターで、四十分くらいいて、ゆっくりしたあと、リリスタに投稿してから、移動することにする。
"チョコよき
冬にはいちご
ふと、気になる。
アオイのときには、アイの一番でいたくて、ずっと一番リリスタマークを狙って、アイ通知がなると、すぐにスマホをチェックした。
いまは、アオイがいないから、誰かがその一番を狙っているのかもしれない。
わたしの一番は、
って投稿しようとしてやめた。
すぐに、五件ほどマークがつく。
このうちの誰かなのかもしれない。
「アイコンと、ネームもそろそろ覚えないとなんだよね」
きっとみんなアイの何者かになりたくて
必死でリリスタに投稿して返事をもらうのだろう。
かつて、わたしはそのひとりだった。
そして、そういえばと思い出して、手帳をみる。
ストーカーあり注意、という手帳の一覧を思い出したのだ。
「ストーカー」
あっと、気づくとリリスタで、
会いたいとか会おうよとか、連発してくるひとがいて、それかも、と思う。
たしか、元恋人らしい。
あれ、そしたら、わたしの元恋人って意味になるのか。
「ヤバいね」
移動して、駅に向かい、ナンパの男の子たちがいないことを確認しながら、来た道を戻っていく。
駅の改札に入る前に、ちらっと後ろを向くも誰もついてきていないはず。
駅の時計を確認すると、時間はちょうどいいはずだ。
駅ホームでボーッとしているとすぐに、電車が到着する。
あとは、バイト先の駅で降りて、バイトのコスプレに着替えればいい。
電車に揺られながら、あの不思議な状態を思い出す。
アイのツンデレキャラのシフト時間が、空いてしまっているはずと、バイトに応募しにいくと、まるでわたしを待っていたかのように、即日アルバイトが決まってしまう。
「シフトはいつ入れますか?」
「はい。あの大学生なため、平日午前からは講義も入るため、夕方や夜か、休日が主なのですけど」
「では、夜の時間三、四時間と、休日の空いてる日にシフトを入れましょう」
「はい」
「あ、それから、ときどきプライベートなことなのですが、休みたい日があります」
「ええ、いいですよ。事前申請するか、二日前までに、シフト連絡をリーダーに伝えてください」
「はい」
帰りに、仮に埋められたシフト時間表をみると、それは手帳にかいてあったアイの予定とほぼあっていた。
違うのは、わたしのプライベートな "バイト" 時間の日程だけ。
でてから、もう一度手帳と見比べた。
「まるで、アイの穴うめをわたしがするのが、わかっていたみたい」
駅から、歩いてコスプレ喫茶の前にたつ。
看板をみながら、その裏口にまわる。
今日から、わたしは "ブルー" と呼ばれる。
それは、 "アイ" のバイトのときの呼び名だった。




