アオイバイト
大学も残りわずかで、夏休みだ。
講義も山場を越えて、あとは課題レポートの提出と、前期テストをいくつかこなすだけ。
でも、わたしは、大学のほかに二種類のバイトと、 "アイ" の活動と、それに引っ越しの片付けが残っている。
引っ越しは、なんとか夏休み前には終わったのでよかったけれど、アイの部屋は、あっという間に、わたしの荷物がつめこまれた。
でも、アイのアイテムのなかで、使ってるのは、バックの荷物と、アクセサリーと飾り棚やベットくらいで、残っていた服や下着、もらいものだろうプレゼント類などは、手をつけていない。
それは、アイが帰ってきてもいいように、というのと、元からアイは物をもたなかったのか、処分していたのか、まるで、わたしの荷物を受けいれるために空けてあったような、それくらい生活感がなくて、シャワー室や窓、玄関もきっちり過ぎるくらいに、キレイだった。
「アイは、ホントにここで生活してたよね」
たしかに、アイに招待されたときは、この部屋だったし、合鍵もこの部屋のものだ。
「どうして」
また、いつもの疑問を口にしてしまう。
「どうして、いなくなる前提のような行動なの。ねぇ、教えてよ」
アイの部屋の窓には、一羽の黒い鳥がよくとまる。
カラスではない。
鳴き声も違うし、どちらかとキレイな鳥だ。
その鳥が、なにか返事をしたような気がする。
窓のところまで移動して、開けようとすると、その鳥はどこかに飛んでしまう。
開けた先に、黒っぽい色をした鉄のように硬い羽根がひとつあった。
アオイの持つスマホは、契約はまだ残してあるけれど、いまはアイの持つ二つのスマホを使っている。
リリスタで、いつものように投稿しつつ、わたしの "アオイ" から続けているバイトからの依頼がきていることに気づく。
「はぁ。またメンドウな」
リリスタで投稿しておく。
"メンドー
動きたくない
でも結局やることになる
わたしのコスプレ喫茶ともうひとつの仕事は、なんでもレンタルのバイトだ。
でも、レンタルビデオではない。
わたし自身をレンタルして、依頼をこなすのだ。
でも、彼女彼氏だけではなくて、修理をしたりでかけたり写真を撮ったり、あるときは、アイドルの替え玉撮影をすることになり、慌てて水着やらを準備して、クセをマネして、マネージャーとうまく連携して乗りきったややこしいのまでくる。
「今回の依頼はなんだぁ」
もうこちらのバイトのときには、ヤケになるしかない。
まぁ、エ○に関することやキワどい撮影、ホテルに連れ込みなどは禁止されてるから、ある意味での芸能事務所扱いであり、コスプレ喫茶の事務所と少し関係していたりもする。
依頼は、リリスタのメッセージできたり、ラルルンからきたりするが、いまはアイの二つのスマホなため、ひとつにラルルンでわたしの引き継ぎをしてつかっている。
メッセージのラルルンは、アイはほぼ使っていなかったか、メッセージを途中で削除してしまったらしく、わたしの連絡以外はほぼなかったのだ。
「あ、これか」
またややこしいレンタル依頼だ。
少し前のが、レンタル買いもの依頼で、どうしても入りづらいお店に一緒に友だちとして入り、買いもののあと、お茶をして、ついでにカラオケおごりをされて、帰ってきた。
アイに会ったのは、レンタルゲームセンター彼氏で、ゲームセンターで彼女彼氏として待ちあわせをして、一緒にリリクラを撮影して、ゲームセンターでとれたものを一緒に持ち歩きたいという依頼だ。
そのときには、取った商品を落としてしまい、写真をとれなくて焦った。
アイになぜか、いろいろ聴かれたのは、その日だ。
そのほかにも、eスポーツ大会の助っ人やテニス大会の応援、サッカーの一日マネージャー、ゲームの相手、配信のなかのひとのデートの手伝い、とにかく、なぜだか、いい商売が成り立っている。
はじめ面接を受けた社長には、芸能活動をしてと頼まれたが、わたしは、リリスタのアイに夢中で、わたしがアイドルや歌手デビューをする気にはなっていなかった。
「わたし、デビューはしません」
「それでは、レンタル契約だけでいいね」
契約書には、断われる項目とプライベートと芸能の両立、連絡の手段、口座の登録など、こと細かい内容が書いてあった。
「あの。芸能活動って、わたし」
「あぁ、レンタル芸能契約だから、事務所契約はしないといけないよ。どちらにせよ、マネージャーはつくし、詳しくはそこの二人に確認しながら進めてよ」
わたしは、内心 騙されている気がしてきた。
デビューじゃない芸能活動で、アイドルじゃないレンタル活動でマネージャーがつく仕事ってなによ。
「あの。マネージャー契約とか、わたしそんな事務所に入るつもりじゃなくてですね」
「いいのよ。気にしないで。名前も適当につけるからね」
なんだか、わけがわからない。
募集のカードを配っていて、それの連絡先に連絡すると、ここを紹介されて、説明会かと来てみたら、もう契約らしい。
「もし、騙しているのでしたら、これまでの会話、すべて書いて持っていきますよ」
「そうね。それくらい慎重なほうがいいわ」
「じゃ」
「名前は、アオイにしましょう」
「アオイ」
「だって、ほら」
目線の先には、わたしが追いかけているアイの持つアイテム、ブルーのリボンとブルーのチャームがバックにつけてある。
「それは、わたしアイドルみたいな、チェックしているひとがいて」
「じゃ、決定。お願いしますね、アオイちゃん」
「はぁ」
仕方なく、自分を納得させて事務所契約、マネージャー契約、連絡の登録に口座番号を書いていく。
「先払いで、はじめに五万入りますね」
「は、お金とるんですか?」
「あぁ、違うわ。レンタル誓約していただいたひとには、はじめに活動費用が入るのよ。それで、衣装とか資格の準備とか、必要なら撮影とかします」
「もう、なんだかよくわからない」
「明日以降、三日くらいには入るから確認したあと、さっそく活動に入りますね」
こうして、活動費用が三日めのお昼には振り込まれていて、マネージャーに連絡すると、はじめての依頼についての準備について、教えてもらった。




