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セカンドライフ〜インベントリって素晴らしい  作者: 清香


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92 閑話 サリシン視点

 ショコラティエの学校の件と、カカオ農園の事業の件で、最近、タルピナスにいる事が増えて、自然とナイジェルに仕事を教えながら過ごしている。平民になったせいで目が覚めたのか、ナイジェルが仕事に真剣に取り組んでいるのでホッとしている。荒療治では有ったが結果が良ければ良しとしよう。


 目線が変わって物の見方が変わった事で気付いた事が沢山有ったと、仕事の合間にポツポツと話してくれるが、それは私が教えた事を学んでいなかったと言う報告か?と笑ってしまう内容も時々有り、受け取る側の教育不足というか環境の大切さを私も学んだ。


 マジェスタは打てば響くと言う感じで、私から学んだ事を直ぐに実践していたから気付かなかったが、ハリシエダで思わぬ躓きをした事で私も学んだと言う事か。息子だから皆んな同じでは無い。其々をキチンと見て対応しないといけなかったし、環境を調える事がこんなに大切だったとは気付けなかった私のミスだな。


 孫のユーリウスの秀才さを見て、カヴィヨンの優秀さを見て、カーチスにガッカリしたが、あれ程、環境の大切さを知らしめる比較対象は無かろう。同じ孫なのに、同じ嫡男なのに、こうまでも差が生じると、親の影響力の凄さに考えるものがある。私が政略結婚だからと投げ出さなければ、ナイジェル達も違っていたのだろうか?


 フォニウム殿にも苦労を掛けてしまった。タルピナスの為になるとは言え、カカオで巻き込んで、彼が最初に望んでいたゆったりとした第二の人生から外させてしまったが、忙しいとか煩わしいとか愚痴って来るものの、タルピナス領主時代に比べて笑顔が増えたのは救いだな。


 商業ギルドの立て直しをキエランと進めて貰っていたが、元々のんびりした気質の土地柄は如何ともし難く、そこは諦めて、利益の確保の必要性を叩き込んだ。他領のようにお金に汚いのは論外だが、みすみす資産を手放す事をするな。という事を教え込むのは大切だ。


 まぁ、今まで扱って来なかったカカオの件とか、ミスティーヌが言っていた紅鳥の件とかだな。特に紅鳥は国を超えて向こうからわざわざ来てくれるのだから、活用しなくては勿体ない。幸い、彼方ものんびりとしているから、此方の領内で採集して加工し、販売する分には問題にならないだろう。


 ………もしかしたらチョコレートの時と同じで、逆に加工の指導を頼まれるかもしれないが。


 ギルマスは今までした事が無いからやりませんは通用しないとキエランに諭されて顔を青くしていたが、それは単純に今までサボっていましたと申告しているような物なのだ。それに気付かない愚鈍さを純朴と表現するにはなぁ。問題は利益を追求するより、気楽さを取っても成り立っていた体制を改革する事だ。


 キエランの介入によって、やっと隣国のマウイカムの商業ギルドと歩調を合わせられたので、カカオ農園とショコラティエ学校の件が動き出した。


 ショコラティエ学校の件は、基本方針はミスティーヌが考えたレシピが採用された。元々、ミスティーヌがチョコレートのレシピを考えだして、彼方にも提供したのだから当然とも言えるが。


 先生は各領の店のショコラティエで、店で売り出している基本の物を教える訳だから、国毎で違いが有って当然と言うか、特色については其々で考えて作る事になった。優劣についてはお互いに触れない事になった。


 学校で使うカカオは、カカオ農園から収穫出来る迄の間、フォニウム殿の取引とは別枠で買い取りを契約した。条件として、マウイカムでの新商品レシピの相談などは私がミスティーヌに口利きする事になった。数年後にはナイジェルに引き継げると良いのだが。


 それと、以前マティスの領主から横口を挟まれたので、マウイカムのギルマスには、もしかしたら違う所から学校について話を持ち掛けられるかもしれないが、タルピナスとは無関係なので、基本方針やレシピの流出が無い様に釘は刺しておいた。


 彼方でも利益は莫大な筈だ。迂闊に漏らすとは思えないが、関わる人が増えればどんな人が関わるか判らない。彼方での国内の問題は兎も角、同じサフラメント国とは言え、敵対されている所に私は義理も情けも掛け無い。


 因みにカカオ農園は完全にマウイカムの主導で、此方はお金を払って勉強させてもらう事となっている。此方にはカカオが生えてなかったから育て方なんて想像もつかないからな。だから、カカオ農園については全て彼方の判断にお任せした。


 農園に付いても知ったマティスの領主がカカオを育ててくれれば、国内で供給されるカカオが増えるだけで、タルピナスへの圧力が弱まるだろうから、それはどんどんやって欲しいものだ。


 国は違えども温暖過ぎる気候が似ているせいか、マウイカムの農民ものんびりした気質で、カカオ農園はのんびりまったり進んでいる。郷に入れば郷に従えなので、そこはお任せだ。カカオの実が収穫されれば問題無い。


 取り敢えず、タルピナスの二大事業が動き出したので、マジェスタとも協議して、正式にナイジェルを領主に戻す事にした。領主代理を勤めていた文官はそのまま領主補佐に就いてくれるというので、ナイジェル共々安心した。


 これでナイジェルは子爵の地位に就いて貴族に戻ったのだが、苦労して得た経験は得難く、成長したナイジェルは子爵本来の姿を見せてくれた。この件をマジェスタに手紙で伝えると、


 『ナイジェルも落ち着いて良かったですね。これでタルピナスの税もリストランテと同率まで引き上げられるようになると、私の領運営も楽になります。ナイジェルには今まで以上に期待してますとお伝え下さい。

 それから、ミスティーヌは相変わらずお人好しですが、必要以上に頼り過ぎるとソッポ向かれますから気を付けて下さいね。』


 ………釘を刺されてしまった。そう言えば、最近、モリーノ様が見当たらなくなったなぁ。

 


 アネトールの事はロヴェニアに任せ切りで、ナイジェルを通して時々は話を聞くようにしているのだが、相変わらず二人で妄想の世界に生きているらしく、ミスティーヌの悪口を言い合っているそうだ。離縁したとは言え、生活を私に頼っている以上、私を悪くは言えないし、子供達の態度が酷いと愚痴は言っても、そんな事の全ての原因は平民のミスティーヌだで締め括って、自分を正当化しているらしい。


 今となってはナイジェルも干渉されたく無いようで、あまり私邸に帰らずに仕事をしているようで、ナイジェルの子爵復帰は伝えていないらしい。私もタルピナスに来ているのに私邸には顔を出していない。どうしたものか。


 遅くはなったが、アネトールと向き合うべきかも。政略結婚だったからと放っておいたのは無責任だったと少しだけ反省してみたりもするが、うーん、最初に間違えたのは私の両親だよなぁ。流された私が悪い。って腹を括るべきかなぁ。離縁についても此方の言い分を一方的に言って投げ出したし、私も自分の責任について考えねば。


 ロヴェニアに対するナイジェルの態度を見ながら考える。仕事に逃げてしまうのは私の後ろ姿か?恋愛結婚の二人でさえすれ違うんだから私達は仕方ないで済ませられないよな。


 アネトールが反省するとはほんの僅かでも考えられないが、ロヴェニアの再教育の為に向き合う事にした。ロヴェニアが変わらなければカーチス達が大変だからな。


 ナイジェルと一緒に私邸に向かった。アネトールに離縁を申し渡した時以来だから何年振りだろう。ナイジェル達親子に部屋から出てもらい、数年ぶりにアネトールに向き合った。


 『サリシン様、お久し振りですね。貴方がタルピナスにいらっしゃる程余裕が出来たのなら、マジェスタはさぞ仕事が出来るようになったのでですね。ナイジェルもずっと仕事に係りっきりで、全然顔を見せなくなりました。体調が悪くなっていなければ良いのですが。』


 頬に手を当ててソッと小首を傾げる。アネトールお得意のポーズだ。なんと言ってたかな?確か、淑女のポーズだったか?こんな所は貴族らしくて良いのだが。最も、私はこのポーズに騙されたようなものだな。


 『マジェスタは既に代替わりを終えて良い仕事をしているな。お陰で私もナイジェルに付いてじっくりと教える時間が取れた。』


 『まぁ。やっとナイジェルにも興味を持って下さったのですね。マジェスタやハリシエダと違って貴方から見放されていたので、平民に落とされてしまったと私とても心配しておりましたの。ロヴェニアもどうして良いか判らないと不安がっていましたわ。

 フォニウム様が頼りないから私が後ろ盾になれれば。と思っていたのですが離縁されてしまいましたし。兄様には絶縁されてましたから頼る事も出来ず、肩身の狭い思いをしております。』


 此処で涙を流すアネトールを見て、勝手な事ばかり言うのだな。と再確認してしまったのだが、それを伝えたところで何にもならないが、伝えるのが私の仕事と思い直し、重たい口を開いたのだった。


 『君がもっと視野を広く持って、堅実に生きていてくれたのなら、今とは何か変わっていたとは思えないか?周囲に頼るだけで自分では何もせず、欲望のみを優先して自分の思い通りにならないと他人のせいにする。そんな生き方をしている事を正しいと言い切れるのか?』


 私がゆっくりと、言葉を選びながらはなしだすと、やはり、理解出来ないと言う表情になった。何度となく手紙が来たがずっと無視されて来たのに、それでも、自分に都合の良い言い訳と、自分の欲求のみを綴って来るアネトール。彼女の中に反省という言葉は存在していないのだろう。


 数年振りに会う私を、アネトールの願望を叶える為に、復縁を求めに来たと思っているかもしれないとナイジェルが予想していたが、誰から見てもそう思われているのだな。と力無く笑ってしまった。


 『自分の力で伯爵の地位を得ているミスティーヌは今も冒険者としての活動を続けている上に、ヴェルムの為にと新しい産業を起こして領を繁栄させている。

 今、公爵夫人として、かつての君の地位にいるクリミアナは、マジェスタと共に領主夫人としての仕事を熟した上に、ミスティーヌの力を借りて自分の工房を運営し、領の繁栄に一役をかっている。

 君は私の為に、リストランテ領の為に、何をしてくれた?

 私が君に感謝しているのは息子を産んでくれた事だけなのだが。』


 キッとキツい目付きで私を睨んでいたが、続いて述べた私の言葉に呆然とした表情になった。


 『だって、私は子供を3人も産み育てて、他に余裕なんて有りませんでしたわ。それに貴方も私に仕事を手伝ってとは言いませんでした。』


 『クリミアナも3人の子を育てながら仕事をしていたし、ミスティーヌは5人の子育て中だが、ハリシエダよりも働いている。

 私が君に仕事を頼まなかったのは能力不足だったからだ。君が唯一育てたナイジェルは兄弟の中でどうだった?今のナイジェルはあの頃を反省して堅実に働き出しているよ。知ってるかい?

 有り得ない話だが、現時点でクリミアナやミスティーヌが離縁されたとしても、二人とも自力で生活していけるよ。だが、君が洗脳したロヴェニアは無理だろうね。ナイジェルが言っていたが、お金は何処かから湧いて来る物で、自分は使うだけしか出来ないそうだよ。』


 此処まで言ってもアネトールは理解出来ないみたいだった。これが私の責任なんだな。アネトールの両親の教育が悪かったのが根底だが、結婚後に導かなかった責任が私には有る。と言うか、愛情は無かったが、長年の情けは有るのだよ。今でもな。


 此処に来る前にナイジェルと話し合ったのだ。フォニウム殿に似れば堅実だったかもしれないロヴェニアが、アネトールに憧れてしまった為に現実を見られない貴族になってしまった。それを止められなかった、変えられなかったのはナイジェルの責任なんだ。それをナイジェルは認めて受け入れている。


 今頃ナイジェルが話しているだろうが、誤った考えを改めない限り、ロヴェニアもアネトールと二人で軟禁されるかもしれない。王都で考え方を改められたカーチスの為にも、堅実な方に舵を取らなければいけない。


 二人とも自力で生きていけないのは分かっているから、安易に離縁して追い出せない。でも後の憂いを断つ為には今までの様な自由は認められない。


 私の言葉に泣き崩れているアネトールを見下ろしながら考えていると、ドアがノックされた。声を掛けるとナイジェルと泣き顔のロヴェニアが入って来た。 


 『父上、ロヴェニアにも出来る所から仕事を手伝ってもらう事にしました。社交的な関わりから始め、部下の家族とも交流して仕事に活かせる関係を築いてもらいます。

 以前、ミスティーヌ様からお話のあった紅鳥の羽を使った装飾品ですが、服飾ならロヴェニアも興味が持てるそうなので、そちらの産業を興してみたいと考えてます。』


 泣いた後がはっきりと分かる顔だが、俯かずに此方を見て、


 『もし、宜しければ、ミスティーヌ様に協力をお願いして頂けないでしょうか。今までの事は深く反省しておりますので、それもお伝え出来ると良いのですが、その、いきなりお手紙を送っても大丈夫でしょうか?』


 あぁ、ロヴェニアは大丈夫そうだな。と安心した。話し合いの結果、ナイジェルと連盟で書いた手紙を私が預かり、ミスティーヌに渡す事にした。


 黙り込んでしまったアネトールを置いて、私はリストランテに戻ったのだった。

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