91 閑話 あの人は今…
【エルーシャ】
年が明けて、疲れ切ったイルミナが帰って来ました。自分で選んだサルカンドの工房では見習いしかさせてもらえず、何か技術を教わろうとしても相手にされず邪険にされた。と悔しそうに話して来ました。
話を聞きながら、でも、それは貴女が望んで選んだ道だったのよね。と何度も口に出しそうになって、慌てて口を押さえてしまったが、イルミナはそんな私の態度が、自分の味方をしてくれていると取ったらしく、一方的に話して満足すると部屋に戻って行ったの。
イルミナが黙って工房を出て行った事について、何処で間違ったのかしら?と、ミスティーヌと話し合った時、きっと、お互いに何か掛け違っただけで、間違った訳では無いのよ。と思う事にしよう。と決めたのだけど、たぶん、イルミナ自身が間違った考えを持ったのが原因とは伝わらなそうね。
イルミナが自分勝手な行動をする迄は私の工房を継いでもらうつもりだったのだけど、今は悩んでいるの。だからイルミナに何がしたいのか改めて聞いてみる事にしたわ。
イルミナも悩んでたみたいだけど、結局はアクセサリーを作りたいって言って来たの。私も心を決めて、魔石にはもう拘らないのね?って確認したの。だって、魔石を使ったマクラメを否定して出て行ったのよ。アレだって作り方次第で、ブレスレットのようなアクセサリーに似た物は作れるのに。まぁ、繊細では無いけど。
それに私は忘れていないわ。ミスティーヌがワイヤー手芸で魔力の要らないアクセサリーの作り方を考えて、付与魔石のアクセサリー作りを考えてくれたのに、魔力を使わないって事でイルミナはそれを否定したのだから。
私はミスティーヌにもう一度相談して、ヤスミン様のビーズ編み工房に紹介してもらったの。手先の器用さを求められるかもしれないけど、それは努力次第で何とかなるでしょう?ジャレットちゃんだって作っているもの。丁寧に作業すれば出来るってミスティーヌは言ってたの。
それに、今度は目の付く場所で、直ぐに対応出来る場所で見届けたいと思ったの。ビーズは今、一番人気のアクセサリーだから、イルミナの虚栄心も満たされると思うし。ヤスミン様は貴族だからイルミナも反抗出来ない筈よね?少なくとも、それ位の常識は持っていると信じたいわ。
まだ渋っている感じのあるイルミナを連れてビーズ編み工房に行くと、ヤスミン様も、工房の他の方も、
『慣れてしまえばそんなには大変では無いわ。先ずは簡単なモチーフから作りましょうね。』
と優しく受け入れてくれたわ。たぶん、イルミナが勘違いしなければやって行ける筈。と私はホッとしたの。
聞いた所、最初にヤスミン様にモチーフ編みを教えたのはジャレットちゃんなんですって。勿論、ミスティーヌがジャレットちゃんに教えたみたいだけど、それなら、イルミナも頑張れるわね。と励ましたら、少しむくれていたのよ。12歳も下の子と一緒にされたく無い。って。なんか、心配が増えた気がする。
今、イスラールはカヴィヨンちゃんの影響も有って、ブリアさんの工房でブローチ台の磨きをさせてもらって褒められているし、イミエールは私の工房で簡単なマクラメを編んで、魔石の御守りを作っているんだけど。二人ともあの子達の凄さを身近に知って育ったから、目標にしても、嫉妬は無いのよ。
年齢の問題なのでしょうけど、あの子達と比べる意味が無いって、何時、イルミナに教えるべきかしらね。と言うよりも理解出来るのかしら?ううん、自分で気付かないと意味がないのよね。本当に悩みが尽きないわ。
【ソルトン】
レインボーを解散して、サイトバルとペアで活動していたが、サイトバルがミスティーヌちゃんの為にキュラスのギルマスになるので、ペアも解散となった。ソロでやる年でも無いしなぁと悩んでいると、アランギルマスから声が掛かり、サルカンドの冒険者ギルド職員になった。
安全な仕事に就けたお陰か、コルディが妊娠して、可愛い娘も産まれた。俺は嬉しくて、仕事に力が入るようになり、次に息子が産まれた時には副ギルマスに上がっていた。
元々はラキアさんがしていたんだけど、サイトバルの補佐としてキュラスに行っちまったから、席が空いてたんだ。でも次が中々決まらなかったらしい。ラキアさんが凄すぎたのと、まぁギルマスが優秀な人だからな、居なくても何とかなっちまったんだけど。
ただなぁ、正直言って、オレで大丈夫か?って、オレが一番思っていたぜ。なんせ、スッゲエ改革が有ってさ。あのミスティーヌちゃんがマジックバッグを大量に作って納品してくれるってんで、国を挙げて大騒ぎになったりとか、なぁなぁで期間が伸びてる?って思ってたら、それに関する不正が発覚して大問題勃発とか。
一番大変だったのは、冒険者の底上げ?ってか、冒険者の学校を作っちまったんだよ、アランギルマス。ミスティーヌちゃん一人が優秀だから悪目立ちするんだ。他にもそこそこ優秀な奴が大量発生すれば目立たなくなる筈。とか言ってさ。どんなに教育したって、ミスティーヌちゃんレベルは無理だと思うんだけど。
本音は、ミスティーヌちゃんがこっそりとフォローしてたから助かっていた若者達が、それに気付かず無茶して早死にしたり、大怪我してしまう若者が増えた事を気にしていたらしい。工房に入った初心者が何も知らずに仕事出来るか?冒険者だって見習い期間が必要だろう?って、酒の席で溢していた。
ホント、領主様が頭上がんねって言ってたの聞いた時は、なんて人の下で働いているんだろ。って、信じらんなかったな。でも、コルディがサルカンドの冒険者ギルドは凄いね。ってすっごく喜んでくれたのが嬉しかった。だから、頑張ってついていこうって思ってるんだ。
まぁ、いろいろあった事の裏に、あのミスティーヌちゃんが居るって知った時は、なんか、笑えたけど、納得出来た。なんつーかさ、優しいんだよ。自分より弱くて、頑張っている奴に。
………オレも昔助けられた事を思い出したんだ。何で忘れていたのか分からないけど、どうしてか、オレだけ思い出した。誰にも話しちゃいけない気がしたんだけど、我慢出来なくてコルディにだけ、そっと仄めかしたんだけど、コルディは思い出せなかった。
サイトバルがギルマスを訪ねて来た時、コソッとあのマジックバッグの事を聞いてみたんだ。何時の間にか使っていて不思議に思わなかったマジックバッグ。どうして手に入ったか思い出したんだけど、確証が欲しかった。
『オレ、昔、凄い性能のマジックバッグをサイトバルから譲ってもらった事が有ったよな?』
って聞いたんだ。サイトバルってばアッケラカンと言いやがった。
『あー、アレか。ミスティーヌが俺の家族に二組くれたから、一つ譲っても良いかって聞いたら、ソルトンには世話になったから良いよ。って言ってくれたから、譲った。』
オレもミスティーヌちゃんより弱くて頑張っている奴だったみたいだな。
【ミラード】
ミスティーヌさんの付与魔法がカッコいいので、僕も使えたらなぁと思い、魔法の練習の仕方を聞いたら、上級学校で教わる以外に、実践して経験を積む事を教わった。友人数人とパーティを組んで冒険者活動をしてみよう。となったんだけど、とても難しかった。
アランお祖父さんに冒険者の心得を教わって、数人で魔法の練習をさせてもらったんだけど、まず、魔力操作?って言うのが難しい。お貴族様は基本的に魔力が多いらしく、発動も簡単らしいんだけど、平民の僕達は魔力が少ないから、動かすのも大変らしい。
アランお祖父さんが言うには、平民なのに魔力が多いミスティーヌさんが可笑しいんだって。まぁ僕は平民並みの魔力量だから真似出来ないのは理解している。兎も角、直ぐに出来るものじゃ無いって事は理解出来たので、皆んなと一年位は頑張ったんだけど、冒険者になりたい訳では無かったので、僕はそこで諦めた。
でも、素材採取には向いていたみたいで、薬草には詳しくなったな。薬草は冒険者ギルドだけでは無く、両親の働いている商業ギルドでも取り扱っていたから、場合によっては商業ギルドにも売りに行っていたんだ。そこで顔を繋いだせいか、卒業したら両親の居る商業ギルドで雇ってもらえた。
いろんな商会との取引や工房とのやり取りを学びながら仕事していたんだけど、此処でもミスティーヌさんの話題が出て来た。領主夫人となって貴族になったんだけど、相変わらず、いろんな事をして周りを振り回しているみたい。勿論、良い意味でね。
サルカンドではその中でもショコラ工房がダントツかな。国中を探しても3ヶ所しか無い店舗の内の一店がサルカンドに出来たんだ。アランお祖父さんによると、
『まったく、問題事ばかり投げてくる。マリアナが絶対に騒ぐから、その前に対策しましょう。って工房作るなよな。取り敢えず、個人名義じゃ無くてギルド所有扱いにしたのと、領主の後ろ盾を獲ったのは褒めても良いが。それで無くても王都のギルドから目ぇ付けられているってのに。
あぁあ、王都の馬鹿供がやらかさなきゃ口利いてやる事も出来たんだけど、ミスティーヌを下に見て嘲っていたからな、ミスティーヌの感情的に今更無理だろうしな。
例え上を挿げ変えても、暫くは様子見だな。』
って言ってた。ショコラ工房は垂涎の的だからね。
『冒険者ギルドも商業ギルドもミスティーヌさんを大切にしなかったから、王都のギルドが相手にされないのは当然だよ。ミスティーヌさんは個人的にも王都の商会と取引してないから、レシピの詳しい説明は手に入らないだろうから、職人の舌を鍛えて作るしか無いだろうな。』
と父さんも笑っているし、他領に嫁いで領主夫人になった今でもミスティーヌさんに助けられているのは、内の家族仲の良さだからね。僕も昔から可愛がられていたし、それはカヴィヨンちゃんや他の従弟妹達に返しているよ。まぁ、まだ貰う方が多いけど、これは気持ちの問題だからね。
マリアナお祖母ちゃんのやらかしパワーを抑えるのが、一番ミスティーヌさんの助けになるって言うのが我が家の常識みたいな事になってるから、僕はギルドで得た情報を利用して情報操作するんだ。そう、新製品でブロックが僕の役目。(笑) マリアナお祖母ちゃんが騒ぐ前に、既に商品化されてるよ、残念。ってガードするんだ。
ミスティーヌさんが何気に作ってプレゼントしてくれた物を、これは売れる!ってミスティーヌさんに迷惑掛けるからね。アランお祖父さんが防波堤を頑張ってくれるけど、一人で抑えるのは大変だからさ。(笑)
僕は両親より身軽に動けるから、休みを使ってカヴィヨンちゃん達と交流させてもらってるけど、ホント、ミスティーヌさんは凄い。平民の僕らを只の従兄弟姉妹同士って枠で括って差別しないから、気楽に遊べる。って言っても、そこは、裏でこっそりとではあるんだけど、それでもイスラール達と同じ態度で過ごせるのは嬉しい。
まぁ、僕からしたら皆んな年下過ぎるけど、カヴィヨンちゃんの能力はピカイチで、僕には真似が出来ない位凄い。魔力はミスティーヌさんの遺伝だろうから置いとくとして、それ以外はどんな英才教育を受けて、どれだけ努力したのか想像もつかない程なんだ。
おやつに出してもらったクッキーとか、木工細工とか、僕が紹介して売り出したい。………あ、これをしたらマリアナお祖母ちゃんになっちゃうからしないけど、充分にお金を取れるレベルだと思う。クリスティちゃんの作品も、手作り感があって趣きが有るし、ジャレットちゃんに至っては、教えた物が商品化されるレベルだし。
この三人の従弟妹達は誕生をお祝いしているけど、年齢詐称を訴えたいレベルで才能が咲き誇っているんだ。嫉妬なんて考えられないレベルさ。自分を振り返るとちょっと淋しいけど、自慢の従弟妹達だね。
ミスティーヌさんが言うには、女神様に贔屓されてるって、困ったように言うけど、才能に女神様の贔屓が合ったとしても、それに見合う努力をしているんだから、良いんじゃないかなって僕は思っている。
努力しても魔力が伸びず、魔法が使えなかった僕だけど、それは、女神様の贔屓が無かったんじゃなくて、それが普通なんだと思っているからね。僕の人生に必要無かったから、女神様が与えてくれなかっただけなんじゃないかな?だって、今の僕の生活に切実に必要を感じないもの。
どんな流れだったかな?と読み返していた時に思い付いた話です。
リアクションマーク、ありがとうございます。こんな設定になっていたと気付かず、驚きました。とても嬉しかったです。




