87 初めての文化祭 〜 職業学校
実りの秋です。収穫祭が各地の集落サイズ?で開かれています。ヴェルムとしてまとまった大きなお祭りは有りませんが、秋と言ったらお祭りみたいな空気が漂っています。
一学期の職業体験で作ったミサンガやポプリなどは、授業が終わった後に一般の学校の生徒たちにも広がり、静かなブームになっています。職業学校で顔見知りになった職人さんを通して、個人的に工房に売り込んでお小遣いにする生徒も居るので、それを見ていたベルトラン様は学校の収穫祭を計画していたそうです。
『実は夏休みのレンガ実習の時に気づいたのです。レンガを作っていた生徒の一部が休憩中に集まっているのでこっそりと覗いたら、何人かが先生役になってマクラメを教えていたのですよ。
家から持って来た紐を使っていたので彩りは有りませんでしたが、少しずつ編み上がっていくのが楽しそうで。それに授業で商品になった経験から、上手に出来た物を集めて工房に持ち込んだら買い上げてもらえたそうです。
学校として売り出す機会を与えてみたら楽しそうですし、子供達の将来にも繋がりそうだなぁと思ったのです。でも、全員を対象にしているのに、職業学校の予算から出すのも違うかなと思ったので、初等学校の予算から材料を買って、放課後に有志の子供達が集まって作っていたのですよ。』
ニコニコと語るベルトラン様。女の子達が中心となり嬉々として作っている横で、輪に入れなかった男の子達も何かしたがっているので悩んだのですが、陶芸工房にお願いしまして型を借り、粘土を購入させてもらって小皿を作ったのだそうです。成形は型から外すコツがあって器用な子たちが作ったそうですが、乾かした後の色塗りはそれ程器用で無くても出来るので、残りの子供達も楽しめたそうです。
収穫祭ではそれらをバザー形式で販売するのだそうです。子供達が売り子をして、売上のお金も管理する。生きた勉強だと自慢されました。お客様となる来校者の対象の基本は家族ですが、初の試みとして商業ギルドでも告知してもらうので、来る人拒まずだとか。
『良いイベントだと思いますが、名称は素直に文化祭ではいけませんか?文化祭なら授業風景の紹介を入れて、学校の説明も出来ますよ。収穫祭にしてしまうとイメージが学校から外れて行きませんか?』
と聞くと、ベルトラン様はハッとして、
『あ、そうでした。周囲が収穫祭で盛り上がっていたのでつい。』
と笑って、学校行事は文化祭で告知する事になりました。既に準備は終わっているとの事で、告知から10日程先のお休みの日に、次年度の学校案内を兼ねた一日限りの文化祭が細々と開かれました。
学校の紹介は基本的に先生方がして下さって、子供達はマクラメと小皿の販売をしました。食堂の料理人さん達に一角兎の肉を提供したので、大量の唐揚げ串の販売もして貰えました。
子供達のバザーは、予め話を聞いていた工房からの情報で買いに来てくれた雑貨屋さんが、先に各家族が買っているのを待って、残りを全部買い上げて下さったそうです。元々、利益を出すのを目的としていない値段設定なので、仕入れ値よりも安いからと言ってくれたそうで、お互いにwin-winだったようです。
唐揚げ串を食べた家族からは、こんな美味しい物を食べているなんて狡い!と言う声があちこちから聞こえたとか(笑) 給食に唐揚げが出るのは月に数回だったと思ったのですが、それでも羨ましがられました。
ベルトラン校長先生の最初の取り組みという事で、ワザとこじんまりとした催しにしましたが、前回の学校説明会に来られなかった家族や、知り合いでグランダイの学校に通っている子のいる家の人達で、想像以上に賑わいました。
私達もカヴィヨンを連れてこっそりと参加しましたよ。認識阻害を軽く掛けたので目立たずに回れました。裏から皆の感想を聞きたいのと、カヴィヨンについて騒がれたく無かったからです。
カヴィヨンは小皿を5色と、マクラメを5本買いましたが、本当は従兄弟姉妹達の分も買いたかったそうです。でも独り占めはダメだよね。と考えて弟妹と自分のお揃いの分だけにしたそうです。
文化祭という名のバザーと学校説明会的な展示物でしたが、来年入学した後の想像が出来たようで楽しそうに回っていたのが妙に子供っぽくて、私達も楽しめましたよ。
後日、ハリシエダ様とベルトラン様を交えて文化祭の反省会を開きました。子供達にバザーを頑張ってもらおうと、発表会を先生主体で作ってしまったので、子供達から逆クレームが来たそうです。
家族に学校や寮の良い所を説明しようとしたら、その項目が無くて上手く伝えられなかった。や、私達の目線で説明出来なかったら意味が無いでしょう。とダメ出しまでされたそうで、先生方は苦笑いしてしまったそうです。
『それでも、家族や近所の人達に沢山説明してくれたお陰で、来年のヴェルム内の新入生はほぼ全員入りそうです。また、グランダイに通っている兄弟姉妹が居る親からは、全員此方に転校させたいと言われました。
金銭的な面もあるのですが、職業学校の取り組みで子供達が盛り上がって説明をしてくれた所為か、将来を考えると此方の方が良いと気付いたようです。
そこでお願いなのですが、職業学校の授業を、工房単位で募集出来ないでしょうか?今年は30人確定で一年間教わる事で動いてますが、授業を覗かせて頂いた処、工房の仕事に拠っては男女で別れる方が良い内容も有りますし、得意不得意に差が広がるものも有るので、不得意な子供達には勿体無いと思いました。
人数が変わらなければ、各工房の職人さん達に掛かる負担は変わらないと思います。来年度は職業学校に専門の校長が就くので、多少の手間は掛かっても対応可能なのではないでしょうか?』
ベルトラン様が真剣な顔で私に問い掛けます。職業学校は私が関わる事にしたので、
『私が職業学校を作ろうと思い付いたのは、自分の可能性を子供達が自分の手で掴めたら良いなぁ。と言う事でした。実際にやってみて理想に近付ける為に改変するのは必然だと思います。どれが正しいなんて最初から分かって始めた訳では無いので、ベルトラン様の意見は当然の内容だと思います。
来年度の工房側の年間計画が決まったら、それぞれの男女比を出してもらって募集を掛ければ、ベルトラン様の考えに即した物になりませんか?
今年は30人しか枠を作らなかったので、漏れてしまった子供達が非常に残念がった話は私も聞きました。そうですね、希望者には学びたい工房名を希望順に書き込める方式にして、第一希望の工房から埋めて行き、出来るだけ多くの生徒が参加出来る形式はどうでしょうか?希望順を参考に名簿作りさえ頑張れば大丈夫な気がします。』
と答えると、ハリシエダ様もベルトラン様も頷いてくれました。私は子供達に書き込んでもらう元になる一覧表を作って商業ギルドに赴き、ワトソンさんに初仕事の依頼をしましょう。あ、その前に来年の年間計画を立てて、どの工房に決めるかが先ですね。(笑) リーバスさんにもまだ加わって貰わなきゃ。かな。
そう言えば、最近、フェーブルのプレパトさんがリーバスさんに付き纏っているので、リーバスさんが困っているそうです。なんでも、ワトソンさんが職業学校に出向するなら、自分をキュラスのギルドに呼んで欲しい。とか言っているようで、
『フェーブルのギルドの仕事が満足に出来ていないのに、キュラスに引き抜いてもらえると言う考えが何処から湧いて出たのか不思議でなりません。
ワトソンの話を聞き付けたのは、フェーブルにビーズ工房かビーズ編み工房の支店を作ってくれと言う、他力本願の巫山戯た案件を持って来た時らしいのですが、ワトソンの補充要員としてリストランテから職員が派遣される事まで把握出来ていない時点で既にアウトでしょう。』
とリーバスさんはお怒りですけどね。シャフェーにビーズ工房を作ったのは、私がキュラスしか見ていなかったのを反省して、任せられる工房を探したらシャフェーでは見つけられた。と言う流れが有ったからです。
あの時フェーブルにはビーズを作っても良いと言うガラス工房が無かったのですよ。訳の分からない物は作れないと一方的に断られましたからね。仕方ないので手を挙げてくれた有志の職人だけを引っ張りましたけど。
『私の耳には入ってませんけど、あのフェーブルから来た職人が工房を開ける位に技術力が付いたのですか?』
と聞いた処、まだ蜻蛉玉を作るので精一杯らしく、まだビーズは作っていないようですと返答されました。
よく話を聞くと、元居たガラス工房では技術は教えて貰えなかったと言っていて、こちらに来て基礎から教えて貰えたのが驚きで、ついに蜻蛉玉を作れるようになった事さえ嬉しくて、次に移れないでいるようなのです。
周りはビーズを教えても大丈夫と評価しているらしいので、まぁ、拘りも満足すれば先に進めるでしょう。(笑) と言う話でしたから、彼がビーズを作るようになればフェーブルにも工房を出せるかもしれませんね。
プレパトさんの立場なら、支店を出して欲しいと言い出す前に、自分で動いて職人を育てる。若しくは工房長を説得してビーズ工房を始めたいからと助力を乞う。位は自力で出来ていなければいけないと思うのですが、気付けないのでしょうね。
この件に関してオプショさんの動向は聞きませんでしたが、リーバスさんの意向でプレパトさんは降格か左遷で決まりでしょうね。シャフェーに私がビーズ工房をプレゼントしたのだからフェーブルも貰って当然。と言う考えが明け透け過ぎて話にならない。とキュラスでは見ているそうです。
閑話休題。ワトソンさんにギルドに来た目的の職業学校の相談の話をしたら、当然のようにリーバスさんを呼んできました。まだ、名ばかりの専任だからと、笑っていない目で。
相談の結果、来年講師役に決まった工房の一覧表を作成したら、工房の名前と、教える作業内容の一覧表を作るのはワトソンさんの役割で、その一覧表を持って学校に行き、子供達に説明して希望を取り、誰がどの工房を受講するかを決めるのは私の役割になりました。
因みに、今年受講した生徒は対象外になります。次回以降は受講していない工房のみ対象となります。と説明して貰って、希望票を書いてもらいました。名前と学年を書いてもらって提出された希望票を手に、会議室に籠ります。お手伝いとしてワトソンさんに来てもらいました。私の考えた遣り方を理解して次に繋げてもらう為です。
工房毎に第一希望の子供の名前を年齢が上の順から書き出し、30人以下だった工房は確定します。30人以上の工房はその後で決めるのですが、其処で落とされた子供達の中で、第二希望以下の工房名に注目して空きがある工房へと割り振るのですが、やっぱり、偏りが酷かった気がしました。年下の子供達は来年以降もチャンスが有るので、第一希望でも通らない子がかなり出ました。
木工工房では女子に人気が無く、服飾工房は男子に人気が無いのは分かっていたのですが、意外と陶芸工房に女子の人気が有り、学校の薬草園には男子が興味を持ってくれてました。農家の子供達が高値で売れる薬草に注目しているという事なのでしょうか。
予め、工房長から男女比の提案はもらっていましたが、希望者優先で割り振ったので、工房によっては偏った所も出てしまいました。特に鍛治工房には予想以上の女子が集まり、何でかな?と思っていたのですが、ビーズ編みのワイヤーに惹かれたらしいです。工房が違うと授業では教えられないのにね〜と苦笑いされました。
人気の薄かった工房に関してはギルドに持ち帰って、対策を練る事になりました。その工房の人気なのか、その職種の人気なのかが気になったそうです。因みに、ショコラ工房の参加は無いので、逆の人気は有りましたよ。希望票の余白に、本当はショコラ工房が〜とキュラス出身の子供達を中心に何人も書いていました。
ショコラは原料問題が有りますし、数年後にはタルピナスに専門学校が立ち上げられるので、最初から入ってませんし、今後も入らないのですが、キュラスに本店が有るので期待した子供達が多いのでしょうね。高額のチョコを食べられるかも?との期待も有りそうですが。
取り敢えず、来年の職業学校の名簿が出来あがりました。工房毎の出席表を用意しました。これは簡単だったのですが、問題が露呈しました。
『今回は30人を除いただけの選出で、こんなに大変に感じましたが、来年からは、更に細かく選別する必要性が有るんですよね。』
と、出席表を抱えたワトソンさんが呟きました。
『その為に、学年毎に子供達の表を纏めて保管するのです。子供毎に、どの工房を修了しているのかを残しておかなければいけません。それをサボると後で大変な作業をする事になりますよ。』
と脅すと、ワトソンさんはしくじったと言うような表情になりました。けどね、毎回の積み重ねがきちんとしていれば、それ程大変には思えないので、私の考えている方法を説明すると、顔色が戻った気がしました。
今回使った希望表の形態で、各職種名を横軸に、生徒の名を縦軸に書いた表を作って、受講の有無を書き込むだけです。学年で管理すれば卒業と共に名簿の廃棄も出来るので、分かり易いと思います。
あ、カヴィヨンは職業学校には登録しませんよ。新入生ですから。それ以前に必要有りませんからね。職業学校は将来の仕事を決める為の参考に作ったので、遣りたい事が決まっているカヴィヨンはたぶん参加しないと思います。上限の決まった枠なので、不必要な参加は遠慮させないとね。




