78 祝!新学期。 と、カヴィヨンの誕生日。
学校は無事に開校して、手探りになりつつも、快調な滑り出しを見せています。ハリシエダ様も、サリシン義父様の祝辞での誉められたのが嬉しかったそうで、ホッと一息吐いた感じです。
学校の事はベルトラン様にお任せで良いそうなので、また、何時もの仕事に戻ったのですが、少し気が抜けたのかミスをして気落ちしてますね。(笑) 職業学校の件で、ブリアさんに教材の相談を受けたのですが、トレントを使うつもりだったそうで、ブリアさんから滅茶苦茶ダメ出しを食らってました。
『領主様。トレントは高級素材な上にとても堅いのです。確かにカヴィヨン様は加工されましたが、あの時はうちの職人が付きっきりで補助をしていましたし、工具も全部うちで使っている物でした。
学校に教えに行く時はあんな高級な工具は持ち込みませんし、難しい加工や、時間の掛かる物は教えられませんよ。連れて行く職人も見習いに毛が生えた位の者の予定です。』
『私の工房はトレントが売りなのに、そのトレントを使えないなんて考えもしなかった……それでは商品化した所で売れないのでは?』
ガッカリした顔付きですけど、ブリアさんの対応が常識的だと思います。私は聞いているだけで口を挟む予定は有りませんが、顔に出てしまったようで、
『ミスティーヌ、君もブリアと同じ意見なのか?』
と聞かれてしまいました。当然ですよね。幾ら端材と言ってもトレントは高級品で、入手の難易度は高いのです。
『初心者の子供には、学校を作るのに使った木材でも充分だと思います。彼らは見習い職人でも無く、職人の仕事の体験をするのが目的なのです。
私はエルーシャ義姉様にも魔石は使わないようにお願いしました。スライムや一角兎の魔石なら自分で用意出来る子も居るかもしれませんが、魔法の付与は無理だと思っています。
ですから、子供達の身の丈に合った職業体験をさせて下さい。とお願いしてあります。』
私が一番最初に体験学習をお願いしたエルーシャ義姉様に、どんな目的で依頼したのかを話すと、ブリアさんはうんうんと頷き、ハリシエダ様は驚いた顔をしました。
『…また私は間違った方向に走り出そうとしていたみたいですね。他ではやっていない初の試みに浮かれていたようです。私は自分の領や工房の自慢したいと思っていたのですね。子供の為よりも…
ブリアはどんな体験を考えているのですか?』
『端材を使うのは取り入れます。ただ、大きさは整えた物を使います。自分達で考えて組み合わせるのでは無駄な端材まで用意する事になりかねません。それに出来上がりを統一する事で商品化し易いです。
とは言え、全く同じでは詰まらないので、簡単な彫り物位はさせる予定ですし、色塗りをする事で個性が出て、他には無い商品と言う売り文句も使えますよ。』
ブリアさんの説明では、両手に抱えて持てる位の大きさの小箱を作るそうです。糊で接着した上に釘で補強するので素人の作品でも商品になる予定だそうです。また、綺麗にヤスリ掛けした上に色を塗るので需要は有ると見込んでいるそうです。
材料費や職人の派遣費用とか、最初は領費から補填しようと思っていましたが、長い目で考えると、売れる物を作ると言う緊張感と、実際に売れてお金を稼げる。と言う経験は必要だと考えました。仮に赤字になってしまった時は補填せざるを得ないと思いますが、始めに補填有きで想定しなくても大丈夫では?と思い直したのです。
実際、エルーシャ義姉様の工房で商品が売られた結果、余剰金の発生で始まったのでホッと胸を撫で下ろしました。
カヴィヨンの誕生日は家族でお祝いしました。今回のデザートはクリスティとジャレットも参加して作りました。ハリシエダ様は飾り付けに参加して満足気です。カトリーヌとセドリックも飾り付けを手伝ってくれたようで、皆にお祝いされてカヴィヨンも嬉しそうです。
『ニイサマほど上手には出来なかったけど、美味しく作れているとカァサマにほめられました。』
と言いながら、二人で運んでくれた山盛りのクッキーにモリーノが一番喜んでいます。今回もサリシン義父様やマジェンダ義兄様家族の移動に転移で応対してくれていたので、モリーノ用のお菓子も沢山作って置きました。
アラン父様やマリアナ母様も来てくれています。二人からはサルカンドで発売しているチョコレートと、文房具を贈られました。
『最近は落ち着いて来たが、お菓子を求めて来る商人が多くて、無理難題を吹っ掛けられる度に領主が駆けつけていたよ。王都以外にもチョコレートの専門店が出来たらしいが、噂ではミスティーヌの店のを買って売っているらしい。中にはプルメリア国から買い付けたのも有るそうだよ。
ただ、傷んだのでも平気で売りつけるそうだから、二次被害に気をつけた方が良いかもな。サルカンドでは箱の内側に美味しく食べられる日付を記入して売り始めた。実際に食べる者にしか気付けない場所で悩んだそうだ。売る時は箱を更に包んで売るから、転売目的で購入する商人には簡単には気付かれないと思うが。
まぁ、何処かから聞いて始めたらしいから、ミスティーヌの処では対処済みなんだろう?』
確信犯で聞いて来ますね。勿論です。
『半年位前でしょうか?フォニウム様から相談されました。フォニウム様がプルメリア産のチョコレートとカカオの卸売り店を開いたので、それまでは対応しきれていなかった商人も買いに来るようになったそうです。一応、材料をお求めの際には基本のレシピは付けているそうですが、作れる料理人が見つかるかどうかが鍵でしょうと言われてます。
材料のカカオも高価な物ですし…元が取れそうに無かったら次の手で思い付くのは転売でしょう。商人にしてみれば買い付けた商品を自分の店で売るだけですし、利益を出す為に価格を更に高くするのは当然の行為ですから、問題になるとは思っても無いでしょう。』
契約もせずに勝手に自分の店で売るのですから、責任も自分でとってくれるのなら、私は気にしません。万が一、勝手な事をした癖に、責任だけ押し付けに来られるのは嫌なので防衛策を取っているだけです。
大人達が胡散臭い話をコソコソとしているのを他所に、子供達はお誕生会を楽しんでくれています。クリミアナ義姉様とヴィクトリア様の胸を飾っているブローチを見てジャレットが喜んでいます。折角なので、私もそちらの話に混ぜてもらいましょう。
『ジャレットちゃんは凄いわね。こんな素敵なブローチは初めてよ。お友達にも自慢してしまったの。』
ジャレットはヴィクトリア様のお下がりのドレスを着てニコニコ顔です。本当に可愛いです。ジャレットの胸にもヴィクトリア様と色違いのブローチが輝いています。それを指差しながら、
『コレがさいしょなの。トリアねぇさまのはコレの次に作ったの。お花はたくさん作ったから、まだ作れるの。』
小さな花を幾つか纏めて花束の様に作ってあるブローチは、花の色や葉の枚数を変えるだけで雰囲気が変わります。クリミアナ義姉様に私が作ったのは少し大きめで重さも出てしまったので、重量軽減の付与がこっそりと掛けて有ります。ジャレットの作るのは花が3輪と2枚の葉で出来ているので大丈夫です。
『ジャレットちゃんは手先が器用なのね。羨ましいわ。私も作ってみたくなったわ。』
クリミアナ義姉様も頷いているので、急遽ビーズ教室の開催になりました。(笑) 侍女に材料を揃えてもらって、真ん中にジャレットとヴィクトリア様が並んで座って始まりました。
『ねぇミスティーヌ、私も作りたいわ。実はフォニウム様に連れて来られたフランセがとても羨ましがっているの。ジャレットからもらったと知って複雑な顔をしていたけど。まだアネトール義母様の影響が抜けきらないから仕方ないけど、それでもかなりまともになって来ているのよ。
……たぶん、私が作ってあげたのなら素直に喜ぶと思うの。』
フランセ様は私が会った事が無い、ナイジェル義兄様の娘ですね。サリシン義父様から漏れ聞こえた話では、一旦貴族籍を抜かれて現実を見せつけられたせいで、ナイジェル義兄様は深く反省して態度を変えたそうです。フォニウム様が優し過ぎて付け上がっていたけど、そのフォニウム様から見捨てられてやっと気付くって、遅すぎると思いましたよ。
私に酷い対応を取っていたナイジェル義兄様しか知りませんが、このまま成長すれば数年でタルピナス子爵に戻せそうだとマジェンダ義兄様は言っているそうです。ただ、ロヴェニア義姉様の方がアネトール義母様に傾倒し過ぎていて足を引っ張っているとか。アネトール義母様が諸悪の根源だと私は思っています。
私はフォニウム様としか交流が無いので、あちらの状況は存じませんが、クリミアナ義姉様は一族のまとめ役と言う事もあり、掌握されているそうです。フランセ様を知らない私に異論は無いので、クリミアナ義姉様には私が教える事になりました。
『コレが私の特注で作って貰っているワイヤーと言う物です。ビーズの小さい穴に通すので、細くしなやかに作って貰っています。コレにビーズを通していろんな形に作って行きます。』
案の定近寄って来たマリアナ母様にもワイヤーを渡して簡単な花の作り方を教え始めました。
こうしてみると、ジャレットはとても手先が器用なのだと実感しました。クリミアナ義姉様も恐る恐るビーズを通して花を作っているのですが、マリアナ母様が……穴が小さくて見えないのよ。と文句を言い始めたので、私が受け取って続きを作る事にしました。
それぞれ好みの色のビーズで作っているので、出来上がりは同じには見えませんでした。同じで無い事が良いのですよね。と言って見せ合い、満足して終わりました。
ユーリウス様とレイチャイルド様は、カヴィヨンとクリスティの4人で庭に出て、魔法を使っているみたいです。いつの間にかフェンリル母様が見張ってました。(笑) 昼間でまだ明るい為、クリスティのライトは判りにくかったみたいでしょげてますが、ユーリウス様やレイチャイルド様、カヴィヨンの魔法に大はしゃぎしています。
『ユーリ兄様の魔法はパワーや速さが凄いですね。レイ兄様の魔法は綺麗です。』
カヴィヨンがホゥっと息を吐きながら言うと、
『カヴィヨンこそ、どうしてそんなに繊細な魔法操作が出来るのだろう?僕なんて先生から習っていてまだ合格をもらって無いのに。』
レイチャイルド様が感嘆のため息を吐きながら話しを繋げます。カヴィヨンはちょっとだけ首を傾げると、
『魔法は全部フェンリル母様に教わっているので、フェンリル母様の教えが素晴らしいからだと思います。魔力操作がキチンと出来ないと、新しい魔法を教えてもらえないから、頑張っています。』
ふふふ。フェンリル母様が嬉しそう。ユーリウス様も頷いて聞いてますね。クリスティはカヴィヨンを眩しそうに見ているのかしら?なんか微笑ましいです。それを室内から眺めていたマジェンダ義兄様が、
『ハリシエダ、カヴィヨンの魔法は凄過ぎないか?アレって本当はユーリウスよりも強い魔法が使えるんじゃ無いのか?流石、ミスティーヌの息子だよな。』
と話し掛けると、ハリシエダ様は、
『カヴィヨンは本当に女神様に愛されているんだと思うよ。自分の息子ながら敵わない事が多くてね。特にカヴィヨンの作るお菓子は職人級に素晴らしいんだ!』
と自慢しています。いや、女神様に愛されているのはハリシエダ様も同じなんですけどね。まぁ、不器用だし?才能と言う分には貰っていないから、気付かないと言うか。女神様との遣り取りとか、もう忘れていますね。(笑)
こうなって来るとカトリーヌとセドリックの肩身が狭そうです。でも、女神様に会えないのは仕方ない事ですし、以前の様に頻繁に会えていた方が可笑しかったのですよね……
カトリーヌとセドリックとは普段あまり会えないから〜とオジィチャマ二人が構い倒しています。まぁ、たまには存分に二人と遊んでもらいましょう。カトリーヌは歌う事が好きでハミングしている事が多いのですが、今日はオジィチャマにねだられて歌っていますね。その横でセドリックも手拍子を打っています。
歌い終わるとオジィチャマ達からジュースとお菓子をもらい、二人とも嬉しそうです。カトリーヌはまだあまり上手に話せないので、歌も言葉では無く、アーと言う音だけで歌っています。幼児なので甲高い声の筈ですが、カトリーヌの声は硬質な感じが無く、滑らかでとても耳に気持ち良い響きなのです。カトリーヌは音楽の才能、ギフトをもらっているのかもしれませんね。
セドリックは何時もカトリーヌにくっ付いていて、カトリーヌのする事を真似している事が多いです。まだ自己主張が無いので、コレからが楽しみな処が有ります。好きな事が早く見つかると良いなぁと思って見守っています。




