79 ついうっかりって、何処にでも有りますよね? フォロープリーズ
久し振りにプリシラ王太子妃様からお手紙が来ました。お使いのランティス様には何時ものチョコクッキーを渡しました。プルメリア国からチョコが手に入って依頼、神獣様への贈り物はチョコクッキーが定番になっています。……チョコが好きな神獣様達。幾ら食べてもお腹は壊さないので大丈夫なのでしょう。
お手紙によると、今年初等学校に入学したカーライト様がマジックバッグを欲しがっているそうなのです。カヴィヨンの一つ上でした。お祝いを忘れてましたね。ハリシエダ様にお話しして、早速、王宮に転移しました。
普段売れない様な壊れ性能のマジックバッグを放出する良いチャンスです!趣味が高じた物や遣り過ぎた物などインベントリで持て余し気味なのです。
勇んで乗り込んだのですが、『幾ら王族とは言え、常識の範囲内で。』と苦笑されてしまいました。結局、作り溜めた中から碧いポシェットタイプのマジックバッグを贈る事になりました。内容量は4M×4Mで時間経過無しの物になります。王子が持っても可笑しく無い見た目の物と言う事で選ばれました。
時間経過有りなら然程問題無かったのです。でも王子様の持ち物なら良いでしょう?今回はオプションで指定登録も付けたのでプリシラ王太子妃様には更に呆れられました。私は、
『お祝いを忘れていたお詫びです。』
で通しました。……昨年から領内の公務が忙しかったのと、自分の家族の事で満足していたから仕方なかった。と言い訳しても良いですよね?最近は公な冒険者活動もしていませんし、領主夫人としての公務もしてましたから、結構忙しかったのは事実です。
ついでに溜め込んでいた様々な物もロレーヌ王妃様に贈ってきました。レースで飾った物や、ビーズ刺繍がされている華美なバッグは女性向けですからね。目を輝かせたお二人に付け込みました。
折角王宮に行ったのですからね。と言うより、プリシラ王太子妃様の部屋に居るのを聞き付けたロレーヌ王妃様が顔を出して下さったのです。私がロレーヌ王妃様の部屋に突進した訳では有りません。このチャンスを逃してはいけないでしょう。何処かに贈り物をする予定も聞きまくりましたよ。
こっそりと宝物庫に置いて来なかっただけ、私の良識が働いたのだと思って下さい。(以前、宝物庫に侵入するのだけは辞めてくれ。とウォルトン王様から止められています。)
日常的に公務をしていると、ワイヤーの依頼をしているギブソン鍛治工房から連絡が有り、キャリーと結婚したベンから職業学校を鍛治工房で開く事は可能かと相談されました。
開校からの3ヶ月間で行った職業教室は学校に材料を持ち込んで対応したのですが、工房によっては難しい処も有ります。実は他の工房からも、学校に出向くより工房に来てもらった方が効率的だ。と声が上がって来ているのです。夏休み明けに予定のビーズ工房にも同じ悩みを相談されています。
私の関係している工房だから、私の処に話が来たのですが、私に決められる問題では有りません。なので、ハリシエダ様を通じてベルトラン校長に相談しました。
『技術室と言う、特別教室が必要かもしれませんが、今年度は其処まで予算が有りません。
しかし、一度に30人もの生徒を受け入れられる程大きな工房ばかりでは無いでしょう?職業学校としては遅かれ早かれ対応しなければならない問題ですね。』
そうなんです。どの工房でもたぶん、一度に数人しか受け入れられないと思います。分散して行うには……と悩んでいると、
『幸い、今月の職業学校は薬草園で農作業をする予定です。夏休み以降の職業学校の運用を工房単位から、学生のグループ単位にしてみては如何でしょうか?残りの6工房には長期間ご迷惑をお掛けしますが、5人位ずつのグループに分かれてそれぞれの工房を半年掛けて回るのです。』
とベルトラン校長が発言しました。工房長の皆さんはお休みを4回潰すだけだから…と我慢して受け入れて下さった筈です。既に3回ともそれで対応して来たのに、それをこちらの都合で、今後の工房からは少人数制に変えて、半年受け入れろ。と、誰が言えますか?
『…ベルトラン校長、私は反対です。各工房に余計な負担を掛ける訳にはいきません。それでは来年、職業学校を開校出来なくなります。』
私の考えが伝わったかの様にハリシエダ様がきっちりと言いました。二人とも表情が暗いです。学校の予算が足りない中、工房に負担を掛けない、若しくは、最小限の負担で乗り切る為のアイデアを考えます。
『私が言い出した職業学校です。個人で全額寄付はしませんが、無利子無期限で貸し付けをしますので、夏休みの間に空き教室の改造をしましょう。
取り敢えず必要な施設として、高温の窯が有れば良いのですよね?とは言え、室内に窯は設置出来ないので、校舎の外、校庭の一角に作る事になりますけど。』
鍛治工房、ビーズ工房、陶器工房、ガラス工房などは窯が無いと作品は作れない可能性が有ります。食堂やお菓子工房などは寮の調理室を使う予定なので問題無いのですが、代用できる施設の必要性を忘れていました。私の提案に、
『そうだね。職業学校を決めた時に最初に気付くべきだったね。お父様や兄様に知られたら、だからお前は詰めが甘いのだと叱られる案件だね。領費の予算から貸し付けられないか検討してもらうよ。
いっその事、夏休みの特別授業として、希望者にレンガを作ってもらって、窯を作るのはどうだろう?作ったレンガを学校の予算で買い取れば良いのだし。職人が作る訳では無いので、材料費だけで済ませられないだろうか。
学校で粘土を捏ねて箱に詰めて成形、陰干しまで済ませて、数人ずつ交代で持って行って窯で焼く。割と良い案だと思うのですが。』
ハリシエダ様が私の提案を形にしてベルトラン校長に提案してくれました。窯はレンガを積み上げて作ります。レンガを積み上げて窯を作るには熟練した職人が必要ですが、そのレンガ自体は形が決まっていて成形枠が有ります。粘土をキチンと捏ねてあれば子供でも充分レンガは作れる筈です。
陶器職人を目指す子なら誰でも体験したいと思われますし、粘土を捏ねるのは楽しそうです。夏休み中の特別授業という事で枠外の生徒にも声を掛ければ、通えない子達の代わりも集まるでしょう。
早速、リーバスさんを通して陶器工房にレンガを焼く為の窯の借り入れを申込みました。ついでに捏ねた粘土とレンガの成形を指導する職人見習いを借りる約束ももらって来てくれました。出来るギルマスさんです。因みに、陶器の訓練授業も別枠で残してもらってます。此方は正規の授業になりますから。
ベルトラン校長を通して夏休み中の特別授業が発表されると、学生達の悲喜交々な声が上がったそうです。フェーブルから来ている職業学校の生徒からは、夏休み中の寮に残れないか?と問い合わせがあり、キュラスやシャフェーの職業学校から漏れた生徒からは定員を超える申し込みが来たそうです。
結局、寮の夏季閉寮は変わらず、家から通える生徒のみでまとめられました。最後まで粘っていたフェーブルの生徒は泣く泣く親に引き摺られて帰ったとか。うん。楽しい学校で良かったね?
夏休み明けには生徒達が作ったレンガで組み立てた窯が完成しました。レンガを焼いてくれた陶器工房の授業で用意した食器を使って窯入れが行われる事になり、ハリシエダ様が呼ばれて行きました。親方が火を入れて、無事に食器が焼かれ、寮で使われる事になりました。
この件が子供を通して保護者達大人に広がり、グラダインに洗脳されていた、キュラスへと言うかヴェルム領のイメージに罅が入って来た様です。つまり、フェーブルもシャフェーもヴェルム領の一員という自覚が生まれた様です。リーバスさんに指導されて変わった商業ギルドの追い風も大きいと思います。
この一件の余波に、ナント!ハリシエダ様の元にフェーブルとシャフェーの冒険者ギルドのギルマス達が頭を下げて来たそうです。何を今更?と思ったのですが、昨年、王都の冒険者ギルドでリストランテとルガリアのギルマスから提案と言うか、問題提起があったのだそうです。
『サルカンドで始まった初心者教育ですが、隣接するキュラスにて指導する場を見学させてもらいました。命大切を掲げて、自分の力量を自覚する処から始まり、魔獣の弱点を暗記させていくやり方は、いきなり魔獣と戦わせて向こう見ずな若者の心を折り、大怪我をさせるだけの今までの魔獣討伐を反省させられるばかりでした。
是非、我が領でも導入出来ないか検討を始めましたよ。
そう言えば、ヴェルム領ではサルカンドの流れを勧めるキュラスとそれ以外で、冒険者の質がくっきりと別れていて判り易かったですよ。ギルドの質はあからさまに違いましたし。
そして、そのキュラスのギルマスから教えてもらったのですが。フェーブルとシャフェーのギルマスがヴェルム領主に挨拶に行かず、指導を受け入れないのは王都の冒険者ギルドの指示だそうですね。』
冒険者の中で話題になっている内容から始まったリストランテのギルマスの質問に、王都のギルマスは、
『私は領主を無視していいだなんて発言はしていない。』
としか答えられなかったそうです。でも、その後にルガリアのギルマスから、独身時代の平民だった私に対する無理矢理な依頼を指摘されて、
『当時はSランクとは言え平民の冒険者に過ぎなかったし、指名依頼を出しただけだ。彼女が結婚して貴族になってしまった為に、指名依頼を出しても断られてしまい、グランダイ公を初めとする何人もの貴族からの依頼を失敗して、私の方こそ不利益を被った。』
と怒りまくった上に、自分は被害者だと声高に叫び出したりしたのだとか。
その後ぶつぶつと呟いていた言い訳によると、最初に王都の冒険者ギルドを蔑ろにした私が領主夫人なのだから、そんな奴にすり寄るな!とは遠回しに伝えたらしいです。領主夫人に頭を下げるなとは言ったが、領主を蔑ろにしろ等とは言ってないそうです。確かにギルマス達はハリシエダ様にしか挨拶しませんでしたね。
王都の冒険者ギルドのギルマスの態度に不信感を募らせたお二人は、こっそりと副ギルマスを抱き込み、ギルマスの不正を暴いたそうです。
新ギルマスに昇進した副ギルマスの指導で王都の冒険者ギルドが変わり、リストランテとルガリアのギルマスも手を組んでアラン父様に頼み、サルカンドの初心者支援を全国的に展開する動きになったそうです。
此処に来て二つのギルドのギルマス達が領主に挨拶に来た理由が判りました。マジックバッグですね。各領地で用意するらしいのですが、私が作ったマジックバッグは、ヴェルムではキュラスの冒険者ギルドにしか渡していません。
ギルマス達から直接頭を下げられた訳でも、今迄の謝罪をされた訳でも無いので、私が提供する必要は有りません。余分に支払う事になっても、私以外から購入すれば良いだけです。お高いマジックバッグの購入は経済の為にも良い事でしょう。
実質、ヴェルムで業績がキチンと有るのはキュラスの冒険者ギルドだけです。現在ではヴェルム全体としての冒険者ギルドを運営していると言っても過言では有りません。あの二つのギルドはここ数年で形骸化していてまともな実績は有りませんから、独立している意味も無いのです。
数ヶ月のオハナシアイの結果、キュラスの冒険者ギルドは名前をヴェルムに変え、残りの二つは支所の扱いになりました。反省した態度の見られないギルマスと副ギルマスの4人は更迭されて、一冒険者に戻るか、他領に移るかを選択させられたそうですが、トップが変わった王都では拒否されて、文句を言いながらグランダイに行ったそうです。
マジックバッグ作成に関しては、私は魔石付与だけをしています。領主夫人の仕事の一環という扱いで、支払いは領費に組み入れてます。バッグを作る工房も立ち上げ、産業が活性化され、商業ギルドを仲介する事で私が表に立たなくても良い事になり、安定して供給するラインが組めました。
仕事なので付与する内容は同じです。飽きた時は自分の趣味に走っても良い約束ですが、折角作っても売れないのはストレスなので、一般常識の範囲内?で付与しています(笑) と言っても趣味のマジックバッグは本体も作るので、1ヶ月に1or2個しか作りません。高額商品は数を作ってはいけないのです。私、学習しました。
伯爵夫人としての教育もほぼ終えて、貴族としての行動も身に付いて……はいませんが、知識として受け入れられる様になって来たかなぁ?私も常識的に行動出来る様になったわね。なんて思いながら毎日を過ごしています。
公務の合間にジャレットと一緒にアクセサリーを作ったり、カヴィヨンと一緒にお菓子を作ったり、子供達と触れ合う時間を大切にしながら過ごしています。
最近、クリスティの魔法熱は少し冷めた様で、今は木工工房の工作に興味が移っている様です。基本的にカヴィヨンの真似がしたい様なのですよね。でも、ブローチになる台を作ったり、簪に使えそうなスティックを作ってはジャレットに渡しているのですよ。ヴィクトリア様へのプレゼントに使って欲しいのだそうです。
カトリーヌは相変わらずハミングしながら絵本を見てますし、セドリックはカトリーヌの横で大人しく絵本を覗き込んでます。この二人は本を与えておけば機嫌が良いので、ある意味手が掛かりません。まぁ、大人しいからと言って目を離すつもりは有りません。
カヴィヨン以外の4人はまだお昼寝が必要なので、一緒に居られる時は子守歌代わりに読み聞かせをしてます。子供達が本好きなのはそのせいかもしれないと思っています。因みに私が居ない時にはカヴィヨンが読んであげてます。よく出来たお兄様です。




