65 子供達も成長しているようですね。
大きくなったお腹を抱えて、暖炉の前で縫い物をしています。カヴィヨン用に空間付与無しの普通のリュックを作ってあげたら、それを見つけたクリスティとジャレットにもねだられてしまいました。二人用にはまだ上手に歩けない幼児用のリュック物を作っています。
とっておき用に使っているインベントリに残っている前世の布地ですが、女神様の恩恵で変化しているので、普通に使えて助かっています。よく見たら少し違いますし、付与も掛けられたりしますけど。見た目は微妙な違いでしか無いので、騒がれた事もなく便利に使っています。
カヴィヨンに作ったリュックと違い、クリスティとジャレットのはぬいぐるみタイプにしました。モリーノに似せてカーバンクルの形に切り抜いた表袋と裏袋の間に薄く綿を詰めて縫い上げ、お腹に取り出し口を付けて物が入る様にして、キルトよりもフワフワに作りました。後ろに転んだ時には詰めてある綿がクッションの役目になって、怪我を防いでくれる事でしょう。
子供達に作ったリュックに付与を掛かけて空間を拡げていない理由は、物を入れた時の重さを感じてもらう為と、入れ過ぎて自分の持ち物を把握出来ないと困るからです。非常用の持ち出し袋を考えるなら、時間経過無しにしてお菓子を詰めるのも有りですが、普段使いのリュックにそこまでは必要ないでしょう。特に双子用のは、クッキーと飴などの、1回分のお菓子が入れば良いかな?と思って作っています。
出来上がったらお菓子を詰めて、両親の眠る丘に隣接したお花畑に出掛けるのも良いでしょうね。お腹の子達を出産して初めてのお出掛けが出来る頃には、お花が満開の気持ち良い季節に成っている事でしょう。
カヴィヨンは5歳の誕生日の洗礼を受けてから、かなりしっかりして来ました。フェンリル母様の魔法の勉強の成果もあって、生活魔法はほぼ完璧に使い熟しています。庭で遊んだ後に、クリスティにせがまれてクリーンをよく使っています。料理の前後にもしっかりと使っている様で、かなり高レベルに成っていると思います。粉だらけの服と甘い香りを目印におねだりしていたクリスティとジャレットが、
『このごろ、にぃにが、クッキーちゅくってないの。』
『かーさま、にぃににクッキーちゅくって、おねがいしたら、ちゅくってくれりゅかな?』
と相談に来た位です。(笑) 料理長が一緒に作っているとは言え、カヴィヨンの腕も上がってますからね。美味しいクッキーを作るのですよ。少なくとも、ハリシエダ様より上手です。先日、
『カヴィヨンにだって作れるのだから、私にだって作れる筈!』
と張り切ってカヴィヨンについて厨房に行って撃沈していました。……でもね、あれ程不器用だとは思っていませんでしたよ。フェンリル母様から聞いた話では、料理長の遠い目が印象的だったそうで、真っ白になった床をカヴィヨンがクリーンで綺麗にした時は、厨房に凄い拍手が湧き上がったとか。(笑)
後日、ハリシエダ様が再チャレンジなさっていると、料理長にこっそりと教えてもらって覗きに行き、厨房の破壊加減に、出入り禁止を提言致しましたよ。男子厨房に入らずではなく、領主厨房に入らずです。
ハリシエダ様って、領主としてはとても優秀な反面、不器用というか、多方面に考えを散らす事が苦手の様です。想像力が乏しいのかな?それとも、経験値が足りない?何ていうか、学校ではとても優等生だったけど、卒業したら埋没しがちな、そんな感じが有るのですよね。サリシン義父様やマジェンダ義兄様の教えを忠実に守って堅実な領政はするのですが……フェンリル父様もそう感じている様で、
『ミスティーヌ。アレを荒療治した方が良くはないか?屋台骨が揺らぐ事は無さそうだが、予想外に領地が発展し過ぎると、施策が追いつかなくて、馬鹿な事をしそうだぞ。』
と囁きに来ました。危機管理能力に疑問を持つ原因は木工工房の件でしょうか。材料などの私のフォローにも限度は有りますし、私が知らされない事には対応出来ませんし。ウーン……モリーノに頼んで、サリシン義父様を再教育にお呼びしても怒られないかな?
勉強を終えたカヴィヨンを交えて3人で遊び出した子供達の為に、お茶の用意をしながら、料理長から預かっているカヴィヨンの作ったクッキーを並べていると、香りに惹かれたモリーノがやって来ました。最近は、フェンリル父様から紹介されたフェニックス様に連れられて、プルメリアにも転移拠点を作って来たそうで、サリシン様を頻繁に連れて行っているみたいです。彼方のチョコをお土産として出してきました。
『モリーノ、いつの間に隣国迄飛べるようになったの?凄いわね。私も出産して落ち着いたら、いつかは行ってみたいと思っているのだけど、先を越されちゃったわね。
ただねぇ、折角のお土産でも、子供達にチョコはまだ食べさせられないから、代わりにプルメリアのお話をお土産話として聞かせてくれないかしら?珍しい話は子供達も喜ぶと思うのよ。』
と頼みました。子供達にとってプルメリア国は、チョコの国というイメージが強く、今一番の憧れの国なのです。とても暑い国なのも、流石はフェニックス様の国らしいですね。カカオやコーヒーの木をヴェルムにも植樹出来ないかと問い合わせをしましたが、カカオやコーヒーの木は寒さに弱いそうなので、この国では栽培が難しいと返答されたそうです。
……国境に面しているタルピナスならなんとか成りそうなのですがねぇ。あそこは元々農業が主産業ですからとても向いているのですがねぇ。特産品になったなら儲かりまくりで、一気に豊かになれるのです。ヴェルムがもっと暑い地域だったら。と残念で仕方が有りません。
ヴェルムでカカオの木を育てるとしたら、冬の寒さ対策としてガラスで温室を作る事となり、単純にカカオを輸入する何倍もお金が掛かりそうですし、作る温室の広さや、実る迄の期間を考えても現実的では無いのです。
サリシン義父様が気温などの生育条件に気付いて、タルピナスの産業を何とかしたいと相談に来たら提案しても良いかな?どのみち、直ぐの政策にはなりませんね。
皆が揃ったので、モリーノには私達の見る事の無いカカオの木について土産話をしてもらいました。
お菓子を食べながら、モリーノから話を聞くだけでも子供達の瞳が輝きだしまた。カヴィヨンが羨ましそうにチョコの話を聞いてます。カヴィヨンの視線にのまれ、うっかりお土産のプルメリアのチョコの話をしてしまったモリーノは、私とカヴィヨンの両方から睨まれてしまって逃げ出してしまいました。
チョコの話が半ばで終わってしまったので、消化不良状態になってしまった子供達にせがまれて、お土産に渡されたプルメリアのチョコを使ってチョコチップクッキーを作る事になりました。
プルメリアのチョコの方がザラザラした食感が強く、私の製法のチョコの方が滑らかでした。それにカカオの含有率も低く感じましたので、私のレシピで作った物とは違うかも。砂糖の塊の様なザラザラとした食感で甘過ぎる気がしますけど、カヴィヨン達には丁度いいかしら?
チョコを使ったクッキーは、普段のより小さく作ったので、クリスティとジャレットにも1枚ずつ上げました。カヴィヨンには3枚渡したので大喜びです。…でも、味わった感じが、ナンカヘン?と微妙な顔つきですね。コレハボクノノゾンデイタチョコデハナイ。と心の声が聞こえて来そうです。(笑)
皆で作ったチョコチップクッキーは、カヴィヨンとフェンリル母様によって、仕事中のハリシエダ様にも届けられました。『美味しいね。』とカヴィヨンを褒めながら完食したそうです。
後でモリーノに聞いたところ、あれは子供用のチョコらしいです。砂糖を大量に使って甘味を強調して、カカオを減らした物らしく、私の注意に従って考えられた製品なんだとか。大人用の高級チョコは、私のレシピに従って作られているそうで、滑らかな口当たりが売りの高額商品になっているそうです。
モリーノに頼んで、プルメリアの子供用のチョコのレシピを手に入れて、少し改良しました。砂糖とカカオの含有率は揃えて温度管理に注意して作ったところ、ザラザラ感が消えて滑らかな舌触りに成りました。更に板チョコの形態から、大きさも親指の先位の小さに変えて、一粒だけカヴィヨンに試して貰いました。
『甘くて、優しい味です。チョコレートを食べているなぁ。と、嬉しくなる味です。』
両手で頬を押さえての感想ですが、5歳児の食レポですか?と言いたくなりました。(笑) 問題は味ではなくて、舌触りでしたか。
このレシピで、この大きさなら、洗礼式を終えた子供達には大丈夫そうですね。数を食べ過ぎたら意味が無いので、販売する時にはキチンと数量を選定してから売り出すように、リーバスさんと相談しなくてはなりませんね。予め決まった数を箱か袋に入れて、限定商品にしたら良さそうです。
新しい年を迎えるお祝いに数種類のケーキを焼き上げて、あちこちに配りました。モリーノがホールケーキ1個のお駄賃で、私の代わりに配り歩いてくれました。私のお腹もかなり大きくなって来たので、お淑やかに邸に篭って新年を祝っています。年が明けたので、もう直ぐこの子達にも会えるでしょう。
昨年の暮れからビーズ工房に研修に来ていた学生さんにも、大量のお祝い料理を作り、お土産に持たせて帰省させました。材料が集まった秋口からポツポツと休みの度に来ては作っているので、既に売り物レベルのビーズが作られています。コツさえ覚えてしまえば、大きさを揃える事と、彩りの配色を注意するだけなので、キュラス出身の学生さんからは既に出来高制の支払いを受けている者もいます。
合格したビーズは、リーバスさん経由で被服の専門店に売られて行きます。新春のお祝いの席に着る服に装飾する為に、目の早い商人さんの奥様方から買われていったそうです。誰だってキラキラと輝く装飾品は好きになると思います。しかも手頃な値段で手に入るのですから、気付いた者勝ちな注文状況です。
…何処で購入したのか秘密にしたい人も多い様で、そんなに広まっている様には思えないので、今のうちに在庫を貯めておきたいですね。バレたら一気に広まりそうですもの。
キュラスに住んでいる学生さん達は回数を熟るせいか経験値が上がり、技術をほぼ会得しているみたいですが、サルカンドとリストランテの学生さんはそこまで慣れていないようで、今のところ、小さいビーズよりも、大きめな蜻蛉玉を主に作っているみたいです。最終的には両方ともマスターしてもらう予定なので、頑張ってもらいたいですね。
特にリストランテの学生さんはキエランさんの期待が大きく、ちょっと大変そうにも思ってます。でも、預かった子達にも達成感と技術力を持ち帰ってほしいので、基本を忠実に繰り返し作ってもらっています。技術をマスターしてリストランテに戻る時には、見本になるビーズを沢山持たせて上げようとは思っていますけど、それを忠実に再現する必要は無いない。という事も伝えなくてはと考えています。
小さい色ビーズを作る技術力は同じレベルが必須ですが、蜻蛉玉の様な一粒で成り立つビーズなら、独創性は個々で違っていた方が良いし、各自の個性は出た方が正しいと思っています。同じ物を作る必要性と、異なる物を作る独創性は、並び立つのだ。と理解してもらわないと、ビーズの未来が閉ざされると考えています。
新年の祝いが終わって、学生さん達が工房から学校に戻って行った頃に、イルミナが相談に来ました。
『叔母さま。私は卒業後、母の工房を継ぐ予定なのですが、キュラスの工房の様に、錬金術でアクセサリーを作りたいのです。私にも叔母さまの知識を教えてもらえませんか?』
今、義姉様の工房ではマクラメ編みを使った御守りが主流で、女性に人気の出そうなアクセサリーはあまり作っていません。イルミナはエルーシャ義姉様と違い付与は苦手なので、学校では錬金術を学んでいると話し出しました。
『私は魔力任せで錬金してしまうので、一般的では無いみたいなの。簡易的な物を考えても私とレベルが違うと、同じ物が作れるか分からないし、イルミナがどんな知識を持っているか、私は知らないわ。
イルミナにはイルミナの考えがあるでしょ?どんな事を考えているかを先に教えてくれないかしら?』
『サルカンドから派遣されて錬金している人みたいに、魔石を使ったアクセサリーを作りたいの。母さんの願いの魔石で私も自分が使いたくなるようなアクセサリーを作りたいです。』
『それなら、その錬金術士に教えを請う事を勧めます。だって、イルミナのしたい事をしている人なんでしょ?だったら、その人に教わるのが一番だと思うわ。』
イルミナに諭すように話すと、ため息を吐かれました。忙しいので子供のままごとには付き合えない。と既に断られたそうです。
『何の為に学校で錬金術を教わっているのか?と言われて部屋から出されたの。だって、学校ではアクセサリーの作り方なんてそんなに取り上げてもらえないわ。それに教えに来てくれた工房の人と私はセンスが合わなくて…』
自分の期待した物が作れないのは、錬金術が使えてもレベルに足りないのでは?と思ってしまいました。エルーシャ義姉様が工房を立ち上げたのは、イルミナが学校に通い始める前です。もの心付いた頃には工房に入り浸っていた筈です。そうなると、魔力不足?
『私が出産して、動き出せるようになったら、今、鈴を作っている人達に、糸の様に細いワイヤーの製作を依頼しようと思っています。私が立ち上げたビーズ工房に隣接させて、ワイヤーアクセサリーの工房を作る予定なのです。
でも、イルミナが引き受けてくれるなら、エルーシャ義姉様の工房を広げて、ワイヤーアクセサリーの部門を開設しても良いですよ。』
魔力に頼らないアクセサリーの作り方を提案してみました。思いもよらない回答にイルミナは呆気に取られてましたが、『母さんに相談してみます。』と帰って行きました。




