64 私のビーズ工房を作ります。 取り敢えずキュラスの発展から進めます。
リーバスさんを巻き込んだので、ビーズ工房の話も煮詰まって来ました。工房の設立について、資金は全額私が出しますし、ビーズの作り方の指導も私がメインで動く事は決まっているのですが、最初はハリシエダ様が首を突っ込んで来ていました。でも、
『領主を支える夫人の優しさに甘えて、ミスティーヌ様の考えを何度もとるのは如何な物でしょうか?』
とリーバスさんに指摘されて諦めてくれました。リーバスさんが中心となって回しているお菓子屋さんは既に3店舗展開されていて、其方は私が関与せずとも安定して回されています。が、ハリシエダ様の木工工房の方は、材料が全て私頼りなままなのです。最初は無償で渡す契約でしたから真っ黒黒の黒字経営ですけど、そのせいか、勘違いしている様に見えるんですよね。
ハリシエダ様はサリシン義父様とマジェンダ義兄様にだいぶ扱かれましたが、未だに甘やかされた末っ子気質が抜けないようです。三子の魂という奴でしょうか。厳しいですが、成長が見られないです。
さて。ビーズ工房の場所が確保され工事が始まりました。キュラスの端の方のサルカンド寄りの場所で、近くには山から流れてくる小さめの川が有ります。その川から、私のインベントリを使った採取で石英が取れたので、此処に決めました。Eランク冒険者でも気軽に採取に来る事が出来る所がポイントです。
サイトバル兄様経由でアラン父様に依頼を出せば他領から仕入れる事も大丈夫でしょうが、取り敢えず、自領で済ませる計画です。サイトバル兄様のキュラスの冒険者ギルドの功績にも繋がりますし、なんと言っても、地産地消が領地を栄えさせる領政の基本だと考えています。
……因みにサフラメント国内で人気No.1の冒険者ギルドは、アラン父様の率いるサルカンドで、次いでキュラスだそうです。サイトバル兄様がアラン父様のやり方を引き継いで、初心者講習を始めたり、マジックバッグの貸し出しを始めたので、フェーブルやシャファーからも冒険者が集まって来てしまいました。
ここ迄領内の冒険者が集まる様になると、もう、ヴェルムの冒険者ギルドと称しても良いんじゃないかしら?(笑) でも頼まれてもいないのに、わざわざフェーブルとシャファーのギルドの面倒を見るのはねぇ〜。集まってしまう冒険者達は兎も角、サイトバル兄様の負担を考えても統合はナシですね。
あの2つが今でもヴェルム領主非公認の扱いなのは、領主夫人に挨拶も出来ないギルマス達が悪いからです。商業ギルドのギルマスが声を掛けてくれたそうですが、フェーブルとシャファーの冒険者ギルドのギルマス達は、とうとう挨拶に来なかったのです。たとえ領主非公認でも、王都のギルドから公認されているから問題は無いですし、態々苦労したいのでしょうから、私からは相手にしませんよ。
元々、王都の冒険者ギルドの後見を強調して、領主夫人の私を無視しているのですから、私からの支援が無くても気にならない筈ですよね。マジックバッグの件を知って、もし逆恨みでもされたら、私が抗議する番かしら?
サルカンドを真似たこれらの支援対策は、キュラスの冒険者ギルドだけが領主公認という事がよく分かる為の優遇措置にもなってます。と言うか、私個人が大好きな兄の手助けをしているだけとも言います。……当然ですが、マジックバッグはサルカンドで使っている物と同じ物を作って、廉価で提供しましたよ。最初に領主夫人の寄付として無料で渡そうとして叱られました。
『領主夫人として領の活性化を考えるのは良い事だが、遣り過ぎはいけない。キュラス以外から批判を受ける隙を作らない事も大切だ。キュラスのギルドには資金が無い訳ではないのだから。』
と、サイトバル兄様に言われてしまったので諦めました。あの二つのギルドから言い掛かりをつけられない為に、キュラスのギルドでは『貸与する特注のマジックバッグ』を『領主夫人にお願いして作って』もらい、『高額で買い』上げた。という実績が必要なのだと説明されたのを思い出しました。
あ、初級者支援マジックバッグは、キュラスとサルカンドでのみ、今も内緒で続けています。各ギルドのギルマスや副ギルマスのお目に叶った人が対象のクローズド支援です。内緒なので、声を掛ける相手にもマジックバッグの所持はBランクに上がるまでは秘匿にさせています。そこまでランクが上がれば、言い掛かりを付ける馬鹿は少ないだろう。と考慮した結果です。
閑話休題。ビーズ工房の話に戻します。昔のキュラスならいざ知らず、今のキュラスには、サイトバル兄様とリーバスさんという二大柱のギルマスがドンっと構えているので、人の流入も増えて活気に溢れ、栄えて来ています。そこで少しでも産業を広げたいのですよね。
サルカンドでは、サリーナさんに任せた工房が軌道に乗っているせいで、錬金術師に成りたがる子供が増えたそうです。私はダニエルの件で錬金術協会と交流していないのですが、アラン父様の話では、魔石を依頼して来る関係で、私に対して反省して謝罪したい。と言っている人も少なくないそうです。
サリーナさんの工房も、エルーシャ義姉様の工房も、協会に入っていない人にしか声を掛けないので、工房に入れなかった学生が諦めて錬金術協会に入る風潮が見えているとか(笑) なので、伝手を頼って、イルミナにまで声を掛けて来る上級生が複数居るのだそうです。
という訳で、リーバスさんはイルミナと組んで、錬金術師のスカウトに動いてくれています。サルカンドは私の実家もあるので、『話が通り易くて助かっています。』と喜ばれていますので、たぶん、良い人材を回して貰えそうです。学生さんによってはサルカンドから越して来る人もありそうなので、シェアハウスを用意した方が良いのかな?此処もリーバスさんに相談ですね。
話を聞きつけたキエランさんから、リストランテの学生も斡旋されているそうです。リーバスさんから私の作ったビーズの話を聞いて、リストランテでもビーズ工房を立ち上げられないか検討中だそうです。その時に中心となる人材を確保する為に、今から学生をキープしているなんて、深謀遠慮過ぎないでしょうか?
『庶民の装身具に、貴族が着ける宝石の様な装飾が簡単に付けられるなんて。しかも見せられたビーズは、宝石よりキラキラしい輝きを持っているのです。流石ミスティーヌ様が創っただけは有る。と思いましたが、それを他の誰かが作れるなんて思いもしなかった。先ずはキュラス。それは良いのだが、リストランテでも欲しい。二番手で良いのでリストランテにもビーズ工房を立ち上げて欲しい。』
熱の籠ったキエランさんの演説に、軽い眩暈を感じたのは何故でしょうね?
久し振りに木工工房にトレントを納品に行きました。多数注文が来ているそうなので、今回は多目に渡しておきます。トレント置き場に入るだけ出しておきたいな。と思っています。工房長に指定された所にトレントを出していると、カヴィヨンを連れたハリシエダ様が迎えにいらっしゃいました。
カヴィヨンは木工に興味を持っているようで、よくハリシエダ様と一緒に見学しに来ているそうです。私がいろんな物を作るのも見ているので、自分でも工作してみたいようです。カヴィヨンの魔力量はそこそこ多いので、錬金術を学んでも良いのでは?と考えています。…ハリシエダ様が羨ましがりそうですが。(笑)
ルガリア公から家具を贈られた為にバレてしまい、リストランテ家を通しての予約が多く舞い込んだので、当座の依頼分のエンシェントトレントも出しました。と言っても、在庫は余り多くは無い。と宣言しているので、もう予約自体は終了しているのですが、気付くのが遅れたので、この後も数年待ちのオーダーが溜まっているそうです。
キエランさんから、エンシェントトレントの販売をお願いされているので、2本程売る事になっていて、ブレアさんの工房に委託してありますが、値段を知ったブレアさんが驚いていました。アラン父様にSランクの冒険者に指名依頼を出せば、これより小さめのエンシェントトレントなら確保出来るとは思うのですが、依頼料は安くない筈です。失敗して足りなくならないと良いですね……。
忙しい事は良い事なのよ。たぶん。少し遠い目をしてハリシエダ様を見てしまったのは、ブレア工房長と私でしょうか。迂闊に予約を入れてしまったハリシエダ様は、やはり、現実を直視する能力が足りないように思えて仕方ありません。
材料の関係で現在は予約を終了しましたが、今のところ、材料を私が出している関係で超黒字会計な為、ハリシエダ様はご機嫌です。今後、私の持っているエンシェントトレントが無くなった時、冒険者に依頼して材料を確保しなければならなくなるのですが……それまでに、利潤を貯めておくようにブレアさんに助言しておきましょう。まぁ、相場を知った彼なら気づいているでしょうけど。
私の在庫が続く数年の間に資本を貯めておく為に、オーナーであるハリシエダ様の取り分は控えてもらう事を提言すると、案の定、驚く顔になってました。私とブレアさんは顔を合わせて苦笑してしまいました。
マジェンダ義兄様がキエランさんと一緒に来ました。お菓子屋さんの成功でリストランテが盛り上がっている話のついでの様な切り出しで、ビーズ工房の話を始めました。キエランさんの熱意が嫌でも伝わって来ますね(笑)
『キエランから、川に近い場所に工房を作りたいと申請されてね。織物の染色かな?と思って話したら、新しい産業になるって聞かされてね。詳しく聞いたらミスティーヌが絡んでいるって言うじゃないか。
直接説明を聞いた方が分かり易いと思って来てみたよ。』
と、笑うマジェンダ義兄様。公爵位を継いでしまって失敗したかもと苦笑している内容は、6割がサリシン義父様のやらかしらしく、それに貢献したモリーノを後で説教しなきゃと思いましたよ。
残りの殆どが私の不良在庫アイテム由来なので、私も話を聞いて反省しました。でも、其方は領費を潤しているので気にしなくても良いよ。と許してもらいましたけど。
急遽呼び出されたリーバスさんを迎えて、新産業の会議になってしまいました。除け者にされたハリシエダ様が少しむくれていますけど、木工工房で安易に受けた発注が片付くまでは、余所見している暇は無いと思うのですよ。だいたい、お菓子屋の時だって、リーバスさんが仕切ってくれたから多店舗展開出来たのですし。丁度良い事にマジェンダ義兄様が居ますし、ハリシエダ様にお説教してもらいたいな。
『公爵様、キエランさん。お尋ねになっているビーズ工房の件ですが、まだ、材料集めの段階です。ガラス職人に声を掛けて、職人も集め始めましたが、メインは錬金術師を考えています。
今、サルカンドの学生とリストランテの学生から募っておりまして、工房の設備が整い次第、ミスティーヌ様にご教授頂く事になっています。と、同時に今、宿舎の施工中です。』
いや、そんな大それた事業みたいな報告の仕方は辞めて欲しいです。親方になってくれる職人さん以外は卒業したての学生さんを集めているだけですし、リーバスさんの話では、学生の半分はリストランテに帰る予定だと聞いてます。
『マジェンダ義兄様、そんな大袈裟に反応されると困ります。ほら、こういうガラス玉を装飾に使えば、庶民でも気軽に買えるのでは?と思い立って相談したのが始まりです。
何故かリーバスさんが盛り上がってしまったのですよ。私は小さな工房のつもりだったのに…』
と拗ねた言い方をすると、キエランさんが、
『見解の相違ですね。こんな素敵な物を庶民だけで満足すると思いますか?逆に下級貴族達が群れると思います。宝石に匹敵する輝きをだと、公爵様も思うでしょう?』
『そうですね。透明なガラス窓や食器は有ったけど、こんな加工は思い付きませんでしたね。何かを混ぜて色を付ける。それを組み合わせてパーツを作り、アクセサリーを作る。本当にミスティーヌの発想は素晴らしいと思うよ。
キエランが興奮するのも分かる気がするよ。お菓子屋と一緒で、領地を代表する産業にしよう。』
まぁ、考えの相違と言われてしまえばそれまでだし。私は表に出なければ良いだけです。という事で、ヴェルム、リストランテ其々の商業ギルドの預かりとして、私はヴェルムの隠れオーナーになる事に決まりました。リストランテはクリミアナ義姉様です。
『アクセサリーを扱う工房ですので、オーナーは女性の方が良いでしょう。』
とキエランさんが提唱して決まりました。表はギルドが対応するので、クリミアナ義姉様は立ち上げ資金を出すだけ。私は資金と技術の提供だけです。
文化祭を終えて、少し余裕が出来た学生を数人ずつ、休みの日に呼び出して錬金術でビーズに加工する技術を教え始めました。一応、理論から伝えますけど、難しくするつもりはありません。見本は大量に創ってあります。困ったら見て作れば良いと思います。
工房の倉庫には大量の材料が集まっています。ビーズは小さいので、ビーズだけ作るのならたぶん、数年分以上の量が集まっているのではないでしょうか?工房近くの川では最近、石英が採れなくなってしまった様で、今はギルドへの依頼は止めてます。
工房長を頼んだガラス職人さんは、学生達の練習している錬金術を見て、あの技術をガラス窓に使えば、綺麗な模様入りの窓が出来るかもしれないと気付いた様で、絵画の様な装飾窓のアイデアをリーバスさんに相談しているそうです。
『ミスティーヌ様がおっしゃっていた、ステンドグラスという技法をガラス職人に教えても良いでしょうか?予め作っておいた色付きの板ガラスを割って材料にして組み合わせて窓を作るのなら、錬金術でなくても、職人の技で作れそうですよね。』
錬金術を学んでいないガラス職人にも作れそうなアイデアは有りませんか?と聞かれて、前世の教会で見たステンドグラスを思い出したので、リーバスさんに伝えておいたのです。
まだ試行錯誤の段階で、原価計算もしてませんが、材料を僅かしか使わないビーズとは違い、材料を大量に使う窓ガラスでは高額過ぎて、売る相手を選ぶと思うのですよね。試作品が出来たら、先ずはサリシン義父様を通して王家に献上かな?それとも教会でしょうか?
……私のやらかしではないので、女神様案件ではないですよね?




