42 閑話
【サミュエル兄様】
ミスティーヌが色々と遣らかしているから、サルカンドは恵まれていると思う。と、調査結果を読みながらしみじみ考えてしまった。ミスティーヌが空間付与に使う魔石なんて、一角兎程度で充分なのに、それを揃えられない。って、あのマディソン子爵領の冒険者は何をしているんだ?
最初は1年で6回だけ。という契約だったのに、頼み込まれた結果、既に3年目に入り、累計で17回もマジックバッグを卸したのに、魔獣討伐の実績が上がらないなんて可笑しいだろう。とミスティーヌから指摘されて調べたら!新人に販売も貸与もされて無かった。
あのマジックバッグは本来なら原価ですら金貨5枚で作れる物では無い。それを可能にしているのはミスティーヌが請け負っているのからだ。原価を無視して安くしているのは、新人の育成の為なのに。そのミスティーヌの誠意を裏切って、高額で貴族に売っていたのがあのマディソン子爵で、高ランクの冒険者に値を上げて売っていたのがグローリーのギルマス。
他にも、最初の契約では誠実に販売していたのに、2年目も作ってもらえる事に気が緩んだのか、不正に走った貴族が数名見つかった。これはあのマディソン子爵が陰で糸を引いていたらしい。
この報告書を盾に、4年目の更新を目論んでいた王都のギルドと教会の言い分は却下されたから、まぁ、良しとするか。元々、付与魔術師の仕事を奪いたくない。と言っていたから、これからはミスティーヌ以外に『適正価格』で作ってもらう事だな。
ミスティーヌにも、低ランクの魔獣の乱獲を控えてもらって、今、溜め込んでいるだろう高ランクの魔獣の魔石で、時間停止のマジックバッグや、大容量のマジックバッグを依頼しようかな〜?自重しなくて良いって言ったら、きっと喜んで作るよね。ストレス発散にもなるかな?とは言え、うちのギルマスのストレスになるから、依頼は自重するけど。
ミスティーヌが新しく作ってサリーナさんに任せた工房だけど、ダニエル君に一方的に契約破棄された付与魔石を引き継いでくれたから助かったよ。何度かミスティーヌに泣きついたけど、キチンと任せられる工房を作ってくれて良かった。サリーナさんはエルーシャとも仲が良いし、よく交流しているようだ。魔石もミスティーヌが後見しているから途切れないようだし。このまま大きく育って欲しいから、商業ギルドとしても目を掛けて守らねば。
と思っていたら、またダニエル君が。『妹の物は兄の物。』って、無茶苦茶な事を言い出して工房の魔石を盗もうとしたらしい。何を血迷っているんだか?工房の魔石はミスティーヌが用意した物だし、ダニエル君の関与出来る物で無い事など分かりきった話だと思うのだが!挙げ句の果てに『俺が払った金で買ったのだから俺の物だ。』と言い出したらしいが、根本が違う。
ダニエル君が契約違反をしたから払った『違約金』はダニエル君の金では無い。最初からミスティーヌの物だ。それに、違約金を払ったのは魔導士ギルドではないか!商業ギルドは魔導士ギルドの遣り方に憤っているからな!
そもそも、ミスティーヌが後輩が可哀想だからと罰金を取り下げたにも拘らず、逆恨みか?魔導士ギルドに何を吹き込まれているかは知らないが、サルカンドでは最低の評価が付いた。少なくとも、商業ギルドと冒険者ギルドからはまともに取り扱わない事が決定している。
今回は犯罪行為なので詰所に突き出した。罰金だけで済ませてなんてやらない。ミスティーヌが優しくしている幸運を自分から手放すなんて、馬鹿な奴だな。
【マディソン子爵】
一人娘で可愛いカシューの為に、お祖父様の侯爵に頼み込んで、伯爵家の双子と仲良くさせてもらっていた。ゆくゆくはどちらかに婿入りしてもらえると思っていた。
カシューは正義感が強過ぎたのか、平民の娘の不正に気づき、問い質したのだが、逆に学校長からお叱りを受け、謹慎させられてしまった。その所為で伯爵家の双子と学校が別れてしまった。
あの学校には伯爵以上の者が居なかったので、お祖父様に頼んで王都の学校に入れようとしたのだが、何故か出来なかった。仕方がないのでカシューには良く言い聞かせて、波風を立てないように学校生活を送るようにさせたのだ。
だが、最終学年に上がった時に、公爵の息子が態々来たのだ。伯爵より公爵の方が良い。カシューの為に来たのだから、私はカシューを応援しようと決めた。
少し騒ぎ過ぎたのか、また学校長から呼び出された。また謹慎だという。何様なんだ!
謹慎が解けてカシューが学校に帰ると、数年前にカシューが指摘したあの平民が、寄りにも寄って公爵の息子に気に入られたと言うのだ!有り得ないだろう?公爵の相手が平民なんかだと?
…いろいろあって、気は進まないのだが、(親が冒険者ギルドのギルマスをしているので、)形式だけ頭を下げに行った。貴族が頭を下げるのだ。有り難がって恐れ入るが良い。と思ったのに、『心ない謝罪をされても…』と、苦笑いされた。しかも、冒険者の派遣を断るだと⁉︎
私は子爵領に帰って冒険者ギルドを立ち上げた。王都の冒険者ギルドから派遣された職員達は、サルカンドの職員とはなんか違う気がしたが、多分、此方が優秀なのだろう。
数年後、王都の商業ギルドと教会が、各地の初心者の支援の為に超お買い得なマジックバッグを分配すると言う話が来た。時間経過有りの2M立方の物だそうだ。売値は金貨5枚。
1つ毎に魔石1個使うそうで、卸値は金貨3枚。魔石は各自で用意する。魔石はゴブリンや一角兎ので良いらしい。安い物だ。と喜んだのだが、どう言う訳か冒険者ギルドで魔石1個が銀貨2枚だと言う。商業ギルドに聞いたら銀貨3枚と更に高い。
優秀な冒険者はサルカンドの冒険者ギルドから離れず、此処で登録した初心者は使えない者が多いらしい。コネで押し込んだ職員を呼び寄せて問い質したら、王都から呼んだギルマスは、サルカンドでしている初心者支援とか言う事をせずに、援助金を自分の懐に入れているそうだ。
お祖父様に頼んで来てもらったギルマスなので、私が文句を言えないのを知っているのだろう。サルカンドのギルドでは銅貨5枚で買い取って、売る時は銅貨7枚と聞いたが、何故か売ってもらえないそうだ。…私がカシューに謝らせなかったから、逆恨みしているに違いない。
マジックバッグになる本体は教会で用意するのだから、魔石も教会で用意させれば良いか。そう考えて投げ出し、出来上がったマジックバッグは領主権限で取り上げてやった。ちゃんと金貨3枚は払ってやったんだ。文句はあるまい!
私はお祖父様にマジックバッグを見せて、誰に幾らで売るか相談した。容量は小さいが見た目が良い。貴族にだって売れそうな仕上がりに私は喜んだ。
【グローリーの冒険者ギルドのギルマス】
ダンジョンがあるのだから、もっと金回りが良くてもいい筈なのに、いまいち栄えていない気がする。そんな時に領主様からマジックバッグの話しが来た。『新人用に金貨5枚で販売するように。』と言われたが、価値を知らない訳でも無いだろうに?と疑問に思っていた。2M立方も入るのだからもっと高くても売れるし、新人には勿体ない。と独断で高ランクのパーティーを優先して売る事にした。値段も上げればバレないだろう。
最近オークションで、ダンジョンの魔獣が落とすアイテムが高値で売られているようだ。売り出しはサルカンドのギルドだ。何故だ?国内のダンジョンはここにしか無い。ここが一番ダンジョンに近いギルドなのに何故私のギルドに売りに来てないのだ?入り口にたむろしている商人に買われているようでも無いのに、わざわざ遠いサルカンドに行くのは何故だ?
そう言えば、カサワドで出たキメラがサルカンドで売られた時は、王都のギルドの後ろ盾があって一口噛めたらしい。今回も同じ事ではないか?ダンジョンはグローリーに有るんだからな。
私はギルドを通さずに遣り取りをする商人にも怒りを感じているのだが、商人を怒らせると自分の首を絞めかねないから我慢している。サルカンドのギルドは私の上前をはねているコソ泥のような者だから、私の主張こそ正義なのだ!
そう憤ってサルカンドのギルドに通告書を送って、王都のギルマスにも『サルカンドのギルドの不正』を綴った申告書を提出してやった!コレで金とアイテムが私の元に戻る筈だ。受付に行き、ワザと声高に、『サルカンドのギルドでは冒険者を不当に使役してダンジョンに潜らせ、荒稼ぎしているようだ。皆も騙されないように気をつけて欲しい。』と告げておいた。
サルカンドからの返信を読む。娘が?サルカンドのギルマスの娘…? あ‼︎ Sランクのソロだ! 彼女の実力なら潜っていられるし、最近の発表では王家の依頼でダンジョン調査をしていたらしい。いや、だが、ここに売りに来てもいい筈だから、その点をつけば?…とまだ甘い事を考えていたのだが…
ダンジョンで窮地を救われた新人パーティーがサルカンドのギルドで保護?されていたらしい。受付を確認すると、『そんな事もあったが、何時も通りに上にランクの肩を持った。』と報告された。新人パーティーの告発でマジックバッグの件も知られてしまった。王都のギルマスからは、私の不正のみお叱りを受けた。マジックバッグの不正の調査が行われて、何人かの貴族の名前が上がったらしいが、ギルマスで訓告を受けたのは私だけだった。
【碧い紅玉】
『サンドローズがオークションにかけられて金貨10枚の値が付いた。虹色に輝くサンドローズも出品されて、それには白金貨の値が付いた』
とギルマスに聞いて、ダンジョンの13階層に向かったのだが、何故かセーフティルームに閉じ込められてしまって、気付いたら入り口に戻されていた。それは俺達だけでは無く、入り口には他にも数パーティーが戻されていた。戻されたパーティーの共通点は、サンドローズを求めて10階層以下の階層で活動していたらしい。
取り敢えず、ギルドに行って情報収集すると、ダンジョン改変があって、地下に降り易くなったらしい。女神様から『ダンジョンレベルを下げた。』と神託が出た。と聞いて、他のパーティーも色めきだっている。俺達も取得していたアイテムを売って、装備を改めて準備し直してからダンジョンに戻った。
いよいよ11階層に降りる。前回はサンドワームの群れに苦しめられたが…単独でしか出ないみたいで、簡単に倒せる。サンドクラブもそうだが、弱くなった⁉︎俺達が強くなったのなら嬉しいのだが。
前回よりも楽に12階層に降りた。此処でも、サンドスネークが小さい?サンドワームもキングでは無さそうだ。そして、群れて無いので倒し易い。
13階層でキングサンドワームが出て倒すと、サンドローズが出た!アイテムで出たサンドローズは心持ちキラキラして見える。今までの様にサンドローズを探すが、中々見つからない。やっと5個手に入れたので、下に降りる事にした。
ドラゴン擬きやサンドトータスなど、前回なら苦戦していたのに、今回は一回り小さいせいか、かすり傷で倒せた。そして、ボス部屋のサラマンダー。流石にポーションの減りが大きかったものの、無事倒せて宝箱を手に入れた。炎耐性付きの指輪が入っていた。
16階層からは寒くなるので、暑さに慣れた身体にはきつかった。それでも、雪山系の魔獣の毛皮の魅力は大きいし、チャレンジする価値は有る。装備を取り替えて下の階層に降りた。
流石に群れて出て来る上に素早いので、気が抜けない戦いが続き、中々進まない。でも、各階毎に出来たセーフティルームのお陰で回復しながら下を目指せる。何より、マジックバッグの存在が大きい。ギルマスに選ばれたパーティーにしか販売されていなかった筈が、噂を聞きつけて探しに行ったサルカンドの商業ギルドでは普通に売られていたのだ。それも新人パーティー用として!価格も2割引⁉︎で金貨4枚だった。グローリーで俺達は金貨8枚を出したのに。
啞然としていると、受付嬢に声を掛けられ、マジックバッグの価格に驚いていると伝えると、『アレは支援用のだから特別ですが、Bランク以上のソロの方向けの支援用には、金貨30枚で4M立方のマジックバッグも有りますよ。時間経過遅行タイプで、基本的にソロ用で転売禁止の制約付きで契約してもらっています。とは言え、パーティーの方にも同じように契約して頂ければ、各パーティーに1個だけは売っていますよ。』と言われて当然契約して買ったのだ。安過ぎて申し訳ないけど、嬉しい!
下に行くに連れて魔獣は強くなり、毛皮や肉は嬉しいのだが、体力の消耗も激しい。上の階層で獲ったアイテムの肉から食べていたが、焼いて塩を振るだけだと飽きてくる。アルミラージの肉が出た時に思った。同じ兎の肉ではあるが味はどうなんだ?
強い魔獣の肉程美味いのが分かり、ホワイトオークに立ち向かった時の掛け声は『肉よこせ!』だったが、アイテムの肉の旨さは格別だった。塩だけでここまで美味いのだから、キチンとした料理になったらどれ程美味いのだろう?売る以外の肉も確保しようと思ったのは俺だけじゃない。
女神様の言葉を信じて下を目指して進み、肉や毛皮や薬草などを収集して行った。20階層のボス部屋に辿り着いたのも実は初めてだった。数年前にSランクの少女とAランクの兄が2人だけで30階層を踏破しているので、仲間に相談して『Sランク1人とAランク1人で出来たのなら、レベルが下がってる事もあるし、Aランク5人のパーティーである俺達でも倒せるんじゃないか?』と結論づけてボス部屋の扉に手を掛けた。
シルバーグリズリーとシルバーアルミラージの群れは強かった。レベル下げてこれなのか⁉︎と思ったが、ボロボロにならながらもなんとか倒せた。宝箱からは氷魔法が付与された剣が出て来た。剣を取り出すと宝箱が消えて、魔法陣が出て来た。皆で乗ると、『入り口』『21階層』と書かれたパネルが宙に浮かんだ。
21階層に足を踏み入れた事は無い。このボス部屋に来たのも初めてだ。でも、迷わず『入り口』を触ったのだ。




