中
4
部屋に入ってため息をつく・・・あ。あれ。預かっていた物のことを思い出す。
「明日返せば良いわ。」
古びた小さい箱の中にハンカチに包まれてそれはあった。
翌朝、なんとなくそわそわしている自分に気が付いた。
もしかしたら変質者かもしれないのに・・・でも。あの頃は同じような子どもだった。変質者って事はないわね。おばあちゃんが神様の使いって言っていたけど・・・まさかね。
10時ぴったりにドアがノックされた。
「おはよう。」
「おはよう。」
今日も黒いTシャツに黒いズボンだ。黒が好きなのかな?
「かわいい。」
は?私に向かって修験がつぶやく。可愛いって?わたしが?
「うん。可愛いよ。」
口に出した?
「出してないよ。」
心を読んだの!!!
「読んでないよ。」
「読んでるじゃん!!」
「いや。強く向けられたから感じただけだよ。」
「人の心を勝手に読まないで!!」
しゅん・・って感じで小さくなった修験・・・
・・・・・ 我ながら理不尽なこと言ってる・・・反省してしまう。
「行きましょ。時間は有限よ。」
「僕と一緒に・・・」
は?
・・・
お店を冷やかして歩くのは楽しかった。
「はい。」
修験は私の目を向けた物を何でも買おうとしてしまう。
「いらないわ・・」
「これ。美味しそうなんだ。僕はいろんな物をたくさん食べたいから、少し食べてよ。」
そんなことを言われたら断れない。
「美味しいわ。」
「だよね。」
さすがにかき氷の半分こはいただけないって断ったら、次に別の色のを買って私に寄越した。食べたけど多い。もてあましていたら、
「残ったのをちょうだい。」
残すのを見越してのこと?
正直なところ、凄く楽しかった。昔遊んだときも楽しくて・・・・でも3日?
楽しい時間はあっという間だ。
「もう12時になるわ。帰らなくちゃ。バイトに遅れちゃう。」
「話が出来なかった・・・」
しょぼんとするので、
「またね。」
といったら、弾かれたように顔を上げて、
「また会ってくれるの?」
と言う。
「いいわよ。楽しかったし。でも、私苦学生だからね。ほとんど時間をとれないわよ。」
「僕が時間を見つけるよ。」
そう言って笑う顔は眩しかった。
5
まさか大学に来るとは・・・・
月曜日。いつものように学食に行ったら修験が待っていた。
「ほら。今日の特別メニュー買えたんだよ。」
2つの特別メニューを前に満面の笑顔。
「・・・あ・・ありがとう。」
・・
「ここの学生じゃないよね?」
「職員だよ。」
まさか?
「僕は情報処理にいるんだ。」
気のせいか、お祭りで見たより、年がいっているような気がする・・・
「同じ年じゃなかったの?」
食べながら聞く。
「少し上かな。」
曖昧に笑ってごまかすように言うから、
「少し?」
と突っ込む。
「あ。いや。その話はまた土曜日に。」
声を潜めて言う。
「土曜日?」
「ああ。10時にまた行くよ。」
修験は、さっとトレイを持って立ち上がって、颯爽と行ってしまう。後ろ姿を見ていたら、何人かの学生に声をかけられていた。本当に?ここの職員なの?
ぼうっとしている私の前に、倫子先輩が座った。
「どうしたの?ぼ~っと見て?」
「え・・・あの・・」
「見たわよ。岩田先生とご飯食べてたわね?」
「岩田先生って・・・知ってるんですか?」
「今年から情報処理に入って来た講師なのよ。なんて言うかな。独特の雰囲気があるわよね。」
「そ・・・そうなんですか・・・」
まさか?・・/本当に大学の講師?倫子先輩がまだ話を続けている。
「結構人気あるのよ。一緒にご飯食べたなんて、妬まれちゃうわよ。」
・・・まさか?
午後の授業は眠い。教職に就くために必要な教養はとらなくちゃいけないから、眠くてもノートを取るのに必死だ。
眠い2校時の時間が過ぎ、もう5時過ぎだ。急いでバイトに行かなくちゃ。
自転車小屋に言った私は思わず座り込んだ。自転車がない。確かに厳重に鍵を掛けておいたのに。辺りを見回すと、壊された鍵が落ちていた。どうしよう?
鍵を持って学生課に駆け込む。良かった。まだ職員が残っている。
「すみません。」
私の話を気の毒そうに聞いていた事務のお姉さんが、警察に届けるように教えてくれた。「防犯登録してありますよね?」
してない・・・お金がもったいなくてしてなかったんだ・・・
「出てこない可能性の方が大きいですよ。」
「どうしたの?」
「あ。岩田先生。」
顔を上げたら修験がいた。何でここに?
「・・・と言う訳なんです。」
「そうか・・ちょっと一緒に現場を見てくるよ。」
・・・・・
修験と一緒に自転車置き場にいる。
「・・・送ってくよ。バイトの時間だろ?」
「送るって?」
「車でさ。」
「でも・・・」
「遅刻しちゃうだろ?」
実のところもうぎりぎりだ。今日はビル清掃だけだから、時間に少し余裕があったはずなのに・・・
私は言葉に甘えて送って貰うことにした・・・
「ここが終わる頃迎えに来るよ。10時だよね?」
・・何で知ってるの?
「うん。そう。でも・・・」
夜の道を歩いて帰るのは危険だからって。修験に言い切られ、帰りも頼むことになった・・・
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