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現代天狗奇譚  作者:
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1/3

はじめ



チン・・・


「ありがとうございます。42円のお返しです。」

 客は終始無言だ。こんな客ばっかり。嫌になっちゃう。たまに

「ありがとう。ねえ。この後・・暇?」

なんて声をかけてくる男がいるけれど。そんなのはもっと嫌。



「時間だから上がっていいよ。」

 おばちゃん店長さんが声をかけてくれた。いつの間にか外は暗い。もう6時なんだね。梅雨時なのにまだ雨がないからありがたい。早く次の所に行かなくちゃ。


「ちょっと待って。これ持って行きなさい。」


 店長さんが私にパンをいくつか渡してくれた。彼女は時々総菜パンを私にくれる。これが男の店長さんだったら下心あるのかと警戒するところだけれど。彼女はいい人だ。


・・・・・


私はアルバイトを2つ掛け持ちしている。昼間は学生。3時か4時頃からコンビニでバイト。次はビルの清掃だ。それは10時頃まで続く。遅くなるけどお金は良いからやめられない。この2つのバイトが奨学金で大学に行っている私の生きる術なのだから。パンをかじりながら自転車を漕ぐ。6:30にはビルに入らなくてはいけない。




ビルの清掃が終わり、外に出るとすでに真っ暗だ。いや。今夜は月が皓々と光っている。綺麗。もうすこしで満月だ。


 ・・・見とれている場合じゃない。明日は1時間目からの授業だ。早く帰らなくては。自転車をやっぱり精一杯漕ぐ。夜の町はやっぱり怖い。酔っ払いや変人も時々見かけるから。たまに強い視線を感じることがあって、それがさらに怖さを呼ぶ。



 安普請のアパートの駐輪場に自転車を止め、さっさと2階への階段を駆け上がる。

かちゃ・・・ドアを開けて部屋に入り後ろ手で鍵を掛ける・・・やっと安心な空間に帰ってきた。今日は天気が良くて良かった。



 




 翌朝、炊きたてのご飯に納豆と漬け物で軽く朝食を済ませる。タンパク質に炭水化物。野菜も摂取してるからとりあえず大丈夫だ・・・よね。



 愛用の自転車はこちらに出てくる時奮発して買った物だ。盗まれるといけないよって言われて鍵はしつこいくらい掛けている。青い自転車。いつものように気が付くと必死で漕いでいる。なんでかなあ。ゆっくり行けば良いのに。


 1時間目は教育原理。私の夢は教師だ。いつかきっとなってみせる。


 


お昼は学食。日替わりの格安メニュー狙いだ。今日はなんと290円でナポリタンが食べられるって。最後の1つをゲット。


 座って食べ始めたら目の前に倫子先輩が座った。

「あら。ゆみちゃん。今日はゲット出来たのね。」

「はい。ここのところ連敗だったんですけれど、今日は最後の1枚をゲット出来たんです。」

先輩は笑ってA定食を食べ始めた。そこにはゼリーのデザートがのっかっている。いいな。最近甘味なんて滅多に食べないからなあ・・・



倫子先輩が私のトレイにゼリーをのせてくれた。

「はい。頑張るゆみちゃんに。」

じっと見ていたのがばれたのかな?

「え。いいんですか?」

つい、笑顔になっちゃう。いただいたからって訳じゃないけど、この人本当にやさしい。理学部の院生なのに、やっぱり教師になりたいって教育課程も取り直しているんだ。すごいな。良く時間があるよ。



午後の授業はドイツ語だ。眠くて切ないけど。頑張るよ。




そしてコンビニバイト・・・ビル清掃・・・ 外に出たら

「満月?」

気のせいか、赤い・・・嫌だな。




 赤い月を見ていたら思い出したことがあった。神社だ・・



小学生の頃、親に死に別れた私は、T市のおばあちゃんの家に引き取られていた。そのおばあちゃんの家の近くに・・・少し小高いところのうっそうとした森の中にその神社はあった。




 家からは割と近いし、近所の友だちと一緒に、よく神社に行って遊んでいたものだった。

 あれはいくつの頃だったか。小学校の中学年頃だったと思う。神社で待ち合わせをしていたのになかなか友だちが来ないことがあった。


「まだこないのかなあ。」

 待ちくたびれて境内の大きな木に寄りかかったとき、がさがさ・・・と言う音がして黒い影が私の前にまるで飛び降りてきたかのように現れた。




「わ・・」

びっくりしたけど、・・私と同じくらいの子どもだった。

「だれ?」

知ってる子じゃない。黒っぽい服装をしたその子は何となく赤ら顔って言うのかな?うっすら赤い顔をして私を見ていた。鼻が高い。

「あなたはだあれ?転校生なの?」



・・・



「そ・・・そうだ。」

「はじめまして。私は石田優美(ゆうみ)って言うの。あなたの名前は?」

「お・・・俺は・・岩田修験(しゅげん)

「お坊さんみたいな名前だね。」





 それから私達は鬼ごっこしたり、石蹴りしたりして遊んだ。修験はとっても足が速くてすばしっこく、私には捕まえることが出来なかった。私が息を切らして立ち止まっていると、わざと目の前にもどってくる。悔しくてまた追いかけて・・・



 石蹴りは私の方がうまく出来た。それで修験が悔しがって、何回も何回も

「まだだ。もう一度だ。」

なんて言うから、繰り返ししているうちに真っ暗になってたんだった。


 お腹がへった・・・不意に気が付いた。見ると満月が皓々と光り、空は一面の星だった。・・・何だろう月が赤いような?



「しまった。早く帰らなくちゃ。おばあちゃんが心配する。」

「あ・・・送るよ。」

「修験も帰らないと困るでしょ。」

「あ・・いや。同じ方向だから。」



修験と二人でほとんど走るように家に向かう・・・息切れしている私を修験が最後には負ぶってくれて家の近くに着いた。向こうで騒ぐ声がする何だろう?


「お・・俺。帰る。またな。」

「うん。また遊ぼうね。」

「こ・・・これ。」

修験は私に何かを押しつけた。

「次に会うときまで持っててくれ・・・」



「え?」

私が問い返そうとしたら、もう修験はいなかった。







「優美!!!」

後ろからおばあちゃんの叫び声がした。

「おばあちゃん。遅くなってごめんなさい。」

「帰ってきてくれたんだね。」




わらわらと何人かの大人と、遊ぶ約束をしていた子達と先生がやってきて口々に

「無事だったんだね。」

「どこに行ってたの?」

って聞いてきた。

「え?神社だよ。待ち合わせしてたのに誰も来ないから心配してたんだよ。」

「何言ってるの。皆が優美のこと待ってたのに来ないから、迎えに来たんだよ。そしたらおばあちゃんがとっくに行ったって教えてくれてさ。」

「それも3日も前のことだよ。」

驚くべき事を口々に言ってくる。


「うそ・・・私、転校生と一緒に今まで神社で遊んでたんだよ。」


皆は顔を見合わせた。

「転校生?」

先生が

「転校生なんて来ないわよ。」

そう言ったのでびっくりした。






 そう。そんなことがあったんだ。


・・・それから警察の人や先生や校長先生に攻めるようにいろいろ言われて・・・

 家出じゃないし、嘘も言ってないってなかなか信じてもらえなかったけど。修験から渡された物を見せたらおばあちゃんが納得してた。

「美優は山の神様に会ったんだね。」



 他の人達もおばあちゃんが納得したことで引っ込んだけど・・・友だちからは痛い子だと思われたんだね。それからあんまり友だちと遊ばなくなったんだ。



 中学校まであの家から学校に通い、成績が良かった私はN市のN高校に推薦で進学出来た。

 N市にはおばあちゃんの家から通えないから下宿ってのを生まれて初めてした。

・・高校3年の時おばあちゃんが死んでしまい・・家の処分や何やらでかなり精神が削られた。


 大学もN大学に推薦で入学出来、奨学金を貰って通っているって言うわけだ。







 月があのときも赤いようだったなあ・・・

私は月を見ながら考えた。あれ?気のせいか?月に黒い影がよぎったような気がした。カラスかな?

 私は自転車でまた家を目指す。いつものように。



 駐輪場に自転車を止め、階段を駆け上がる・・人が私の部屋の前にいる。だれ?

黒っぽい服装の人だ。警戒しながら部屋の近くに行き

「どなた?」

と聞く。


その人は私を見て嬉しそうに笑った

「優美ちゃん?」


だれ?

「私をご存じですか? 」

「僕だよ。岩田修験。」


・・・・


 あの面影はどこにあるのだろう?すっかり忘れておぼろげな記憶の奥のその顔は?

なかなか整った顔立ちの鼻筋の通った若い男は心底嬉しそうな顔だ・・・これがイケメンって言う物だろうか?



・・・・・


でも、私は警戒心丸出しだ。

「そんなに警戒しないで。」

困ったように眉を寄せて私を見る。

「するわよ。転校生なんて嘘だったし。帰ったら3日もたってたし。」

つい怒ったように言ってしまう。あ。近所の人に五月蠅いかな?


「そ・・・それは・・」

焦っているみたいだ。

「誘拐したかったの?なんなの?」

少し声を潜めて聞く。

「とにかく、部屋に入れてくれないか?」

は?女性の一人部屋に入り込もうっての?冗談じゃないわ。

「いやよ。」


 私を見て修験はため息をついた。

「そうだね。女性の一人暮らしの部屋に男が入り込むなんてダメだよね。」

 分かっているんじゃないの。


・・・


「また来るよ。」

「来なくて良いわよ。」

「せめて話を聞いて欲しいんだ・・」


・・・・・


 なに?その切なそうな顔。私がいじめてるみたいじゃないの。


私は迷った。

「明るいところで。人目のあるところなら。」

「明日はK神社のお祭りだろう?一緒に行かないか?」


・・・・・

・・・・・


「私はバイトよ。」

「明日は土曜日だから、午前中は暇なんだろ?」

 よく知っているわね。

 確かに私のバイトは1時からだ。



・・・


「いいわ。」

「あす。ここに迎えに来るよ。」

「分かったわ。でも、バイトに遅れるわけにはいかないからね。」

「10時に。」


・・・・・






ふと・・思い立って始めました。前中後編くらいで終わる予定です。

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