表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリーダムガール  作者: 赫宗一
ミロスリー編
74/111

またしても

鍛冶職人グスタフに、新しいパートナー製作の依頼をことづけたあたし達は、ひとまずマーテリーの経営している宿に戻った。夜がけてきたのもあってか、やたらとお店の勧誘が多かったけれど、エルの巧みな話術の前では無意味だった。声をかけてきた人達を完膚なきまでに撃退していその様は、見ていて中々に爽快。ちょっとした見世物よりも楽しめる一芸に満足感を得つつ、辿り着いた宿屋の扉を静かに開いた。


「おっ、リノやんか」


宿に入るなり、聞き覚えのある声色が耳に届く。その持ち主を確認しようとカウンターに目を向けると、見知った男女の姿があった。


1人は、身長175~180前後。後頭部がハリネズミのようにトゲトゲした紫髪に、十分につり上がった漆黒の瞳。白色無地のシャツの上に、体格に合わないやや大きめの深緑色のコートを身にまとい、だらしない上半身とは反対に、下半身は身体にフィットした灰色のデニムを決めている。


もう1人は、身長155~160前後。人目を引く褐色の肌に、肩まで伸びた白銀の髪。隅が少しだけ伸びている、長方形状の灰色ニット帽を被り、決して相手に感情を悟らせないような翡翠ひすいの双眼。ノースリーブで薄手の黒チュニックに、ガジュア国で流行りの赤色のミニフレアスカートをなびかせている。


忘れるはずもない。男はネパルマ国で力を貸してくれ、女はシャンタ国であたしに刃を向けてきた―――


むくろ!?それに…えーと」


「エリン。エリン・ガラハッド。…リノ・レインバー、記憶能力が欠如している」


「ええい、うるさいわい!敵の名前なんざいちいち覚えてられるかっての!それよりも、どうして骸とアンタが一緒にいるんだ!?」


「…なるほど」


エルが放った低い声色で、あたしは2人の関係性を理解した。何故あの時に力を貸してくれたのか…理由は定かじゃないけれど、どうやら骸はあたし達の『敵』らしい。


「おいおい、何で俺は敵として見られとるん?エリン、お宅やらかしたんか?」


「シャンタでレインバーと刃を交えた」


「あっちゃー…。それなら、お宅と一緒におれば俺も敵と認識されるか」


しまったと、右手で顔をおおいつくす骸だが、その表情に一切の焦りは見られない。むしろ、この状況を楽しんでいるようにも感じられた。骸はカウンターから離れると、コートのポケットに両手を忍ばせ口元を緩ませた。


「まあ…ばれたんなら仕方ない。嘘ついても面白くあらへんし、正直に話すわ。大方リノ達の想像通り、俺は悪者の商人や」


「随分と余裕そうだね」


「仮に今攻撃を仕掛けてきたとしても、さばける自信があるからや。リノ…お宅の武器があれば話は別やったがな」


あたしが臨戦態勢を整えるよりも先に、エリンが自らの腰に提げている二対の白鞘しらさやに触れる。武器さえあれば圧倒出来るけれど、徒手空拳だけじゃさすがに厳しいだろう。諦めてほこを収めると、エリンも白鞘から手を離した。


「賢明な判断」


「前回負けたくせに…」


「今回は私の勝利」


「がー!ああ言えばこう言う!いくら師匠の弟子でも、やっぱり相容れなーい!!」


「ハッハッハッ!エリンは不器用なんや、許してやってや。…ま、一時休戦ってことで続きを話そか」


骸は付近に設置してある椅子に腰を下ろすと、あたし達にも余りの席に座るよううながしてくる。エリン以外のみんなが、言われるがままに同じく腰を下ろすと、骸は言葉を続けた。


「さて…何を聞きたい?」


「貴方の正体ですかね」


敵対感情を隠すことなく、エルの鋭い質問が先制攻撃を放つ。


「多分知っとるやろうが、俺はとある組織に所属しとる商人や」


「それが鬼血衆きけつしゅうと言う訳ですか」


「おおっと、やっぱり知っとったか」


「貴方がたの目的は何ですか?各地で問題を引き起こし、悪戯いたずらに混乱を招くその行為には、どのような意図が―――」


「決まっとる。鬼血衆の望みである『鬼』を世に解き放つことや。今はその下準備ってところか?」


「鬼…。シャンタ国の妖怪とは違う存在なんですか?」


「違う。確かに妖怪の中にも鬼は存在するけれど、私達の求めている『鬼』はもっと格上の個体。世界を喰らう程に…とても巨大な」


無機質ながらも迫力のあるエリンの台詞に、クーはたじろいで目を伏せる。以前にも、同じ組織の一員である孤月こげつから聞いていたが、世界を左右出来る程の力があると、本気で思っているのだろうか。敵の思想に興味はないけれど、その鬼に関しては興味がいた。


「ねえ、その鬼ってのはどうやったら現れんの?」


「それはNG。教えたら絶対邪魔されるやん」


「レインバーだけには教えられない」


「ふふ、完全拒否ですねリノ」


「笑いどころじゃないでしょ、エル。…んじゃあ別の質問。下準備って?」


「ハハハ、エルノアあたりならもう分かっとるんやない?」


骸が話を振ると、エルは帽子のつばを下げる。ある程度は把握しているような反応だった。


「あくまで推測の範囲で、ですが。これまで出会った方々の話から察するに、各国で騒ぎを起こして負のエネルギーを発生させ、それを何らかの道具を用いて収集している…。鬼とやらの復活に向けて」


「ほぉー、流石はエルノア。いい線いっとるやん」


「レインバーより賢い」


「いちいちうるっさいわ!まあ、アンタ達の計画とやらが順調に進んでるのは分かった。…そういや弧月のおっちゃは?」


「そもそも鬼血衆は単独行動が主でな。定期連絡の時ぐらいしか、他のメンツと顔を合わせたりはしないんよ」


「んじゃ、どうして骸とエリンギは一緒に行動してるんだ?」


わざと名前を間違えてやったら、案の定エリンは反応した。普段は無表情を貫いている為に、別の一面を見せるとすぐ分かる。僅かに眉根を寄せて、震える手を白鞘にかけた。


「レインバー。挑発のつもりなら無駄だよ」


「いや、めっちゃ動揺してっけど」


「ハッハッハッ、これは傑作!!」


「骸…。貴方もちりになりたい?」


「おお、こわいこわい。冗談や冗談」


エリンは不満気な表情を隠そうともせず、付近の壁にもたれかかって腕を組む。可愛くない奴だと思っていたけれど、からかうと案外面白いかもしれない。…と、和んでいる場合じゃなかった。気を取り直して骸と話を続ける。


「話を戻すけど、何で2人は一緒に行動してるんだ?」


「別に変な意味やないんやけど、俺達は相性が良くってな」


「会話面が骸さんで、戦闘面がエリンさんということですか…?」


「正解。クーストラちゃんは賢いな。俺は人と話すの好きなんやけど、荒事はちょいと…な。だから、それをエリンにおぎなってもらっとるんや」


「確かに、言い換えれば月と太陽という言葉が似合いそうな感じですが…」


「やろ?ま、そういう事や」


骸は嬉しそうに声を弾ませた。確かにエルの言う通り、骸とエリンは対極の存在だ。あまり評価したくはないけど、お似合いと言えばそうなのかもしれない。


「それで?リノ達はまだミロスリーにおるつもりなんか?」


「やらないといけないことがあるからね。おおっと、口が裂けても言わないからね?」


「俺達も秘密にしてる事があるんや、そのくらい分かっとるよ。ただ…何となく察しはつくがな」


あたしの腰回りを観察していた骸は、不敵な笑みを見せた。どうやら武器の事は完全に見透かされているようだ。負けじと強気な表情で返して見せると、骸は満足そうな様子を覗かせた後、静かに立ち上がった。


「ま、お互い頑張ろうや。次に会った時は…」


「おうさ。アンタらの悪だくみ、阻止してやるから」


「期待しないで待っとる。行くで、エリン」


カウンターに金貨ペカを置くと、骸とエリンは建物を後にした。今の状況なら、あたし達を確実にやれたはずなのに、本当に最後まで攻撃してこなかった。骸は自身が言っていた通り、争い事は苦手らしい。一悶着して、何とも言えない脱力感があたしの身体をむしばむ。


「はぁ…。よー分からん」


「そうですね。ああして話していると、本当に敵なのか疑わしくなります」


「でも、骸さんがエリンさんを止めてくれて助かったね」


「ほんと。あのエリンギめ、次会ったらボコボコにしてやる」


「あーら、いらっしゃーい❤」


いつの間にやらカウンターに姿を現していたマーテリーが、あたし達を歓迎する投げキッスを送ってくる。相変わらず気持ち悪いけど、今はそれがありがたかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ