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フリーダムガール  作者: 赫宗一
シャンタ編
41/111

交渉

「ふぃー。ひさしぶりの帰還きかん!」


妖怪ようかいの王にはじまる一連いちれん騒動そうどうえて人間(がわ)の世界にもどって来たあたし達は、まずさきいきう。よどんでいた妖怪ようかいの国とはちがう、新鮮しんせん美味おいしい空気くうきむねの中にまっていた不純物ふじゅんぶつのぞかれていくようで、清々(すがすが)しい解放感かいほうかんる。


空気くうきがおいしーい♪これぞシャバってやつ?」


「あるしゅ閉鎖空間へいさくうかんでしたからね。余計よけいにそう感じるのも無理むりありません。それよりも———」


エルは自前じまえのポーチをあさって、何かをさがしている様子ようすを見せる。あたしがその意図いと気付きづくよりもさきに、クーがこたえをみちびき出した。


「時間!」


するどいですね、クーちゃん。こうがわ常夜じょうやでしたので、実際じっさいどの程度ていどの時間が経過けいかしているのかが不明瞭ふめいりょうのままでしたから」


案外あんがい100、200年()ってたりして」


「こ、こわいこと言わないでよぅ、リノお姉ちゃん…」


冗談じょうだん冗談じょうだん♪んでエル、今何時?」


エルは携帯型けいたいがた時計とけいはりを見つめたまま何も言わない。けれど、小刻こきざみにふるわせるかたで、あたしは事態じたいさっしてしまった。エルからうばうように携帯型けいたいがた時計とけいり上げ、あせをかきながら表示ひょうじされている時刻じこくをおずおずと確認かくにんした。


午後14時32分。はりもしっかり時をきざんでいて、まっていたり、こわれているような感じはない。今度こんどは、反射的はんしゃてきに空を見上げる。ずっとおおかぶさっていたくもえ、さんさんとり付ける太陽たいようまぶしさがあたしの視界しかいさえぎる。日の位置いち時刻じこくらし合わせると、大体だいたい間違まちがってはいないだろう。


「ん?大体だいたい合ってると思うけど…」


「ですね。合ってないとこまります」


「んあっ!?ちょっとエル!その発言はつげんどーゆー意味いみ!?」


「言葉通りの意味いみですが?おどろいてくれたようでなによりです」


「…エルがやるとシャレにならん」


にやにやとほおゆるませてあたしの反応はんのうたのしんでいたエルに、これ以上ないくらいがっくりとかたとした。


「クスクス」


このやりとりを最後尾さいこうび静観せいかんしていた1人の少女が、笑い声をおさえながらよろこんでいた。水色の瞳に、金髪きんぱつストレートな短髪たんぱつうつくしい、ワンピースでうす黄色の民服みんふくに身をまとった少女…。そう、彼女はあたし達が世話せわになった宿やどあるじ、ミスティの妹。名はレスティ。


ミスティ本人ほんにんは『妹は妖怪ようかいに殺された」と主張しゅちょうしていたけれど、実際じっさいは雨のいのりを発生はっせいさせるためはしらとして、妖怪ようかいの国に幽閉ゆうへいされていただけだった。妖怪ようかい達から危害きがいくわえられたりした事はないらしく、その証拠しょうこ怪我けがとう一切いっさい見当みあたらなかった。


「あっ、ごめんなさい!つい…」


「ははは、いいっていいって。それよりも、久方ひさかたぶりに実姉じっしに会うわけだけど、緊張きんちょうしない?」


「そ、そうですね。もう何10年も会っていないような感覚かんかくなので、していないと言えばうそになります。でもそれ以上に、早く会って声がきたいんです。やさしくてあたたかい、お姉ちゃんの声を」


安心あんしんしてください。そのねがい、すぐ成就じょうじゅさせますので」


こいのキューピットか何かか、あたし達は」


乙女おとめチックで良いじゃないですか。ね、クーちゃん?」


「うん♪」


問題もんだいと言う名前のかべえた後は気分きぶんが良い。あたしは勿論もちろんのこと、エル、クーそれからレスティも、そろって上機嫌じょうきげん対立たいりつもんあとにし、談笑だんしょうまじえながらミスティの宿やどへとあゆみをすすめた。

それから30分。ようやくミスティの宿やどへと辿たどく。レスティの心の準備じゅんび確認かくにんしてから、ゆっくりと入口いりぐちとびらよこながした。


「いらっしゃ…あら?」


「どーもミスティさん。また来-たよ」


「今日もとまっていってくれるの?ふふ、うれしいわ」


「へへっ。それはそうと、ちょっちミスティさんが話があるんだ。とびっきりのうれしい話が」


うれしい話?もう、大袈裟おおげさに言って。期待きたいしちゃうわよ?」


おどろかないでよ~…ジャーン!!」


半開はんびらきにしていたとびら全開ぜんかいにして、あたし達は玄関げんかんすみる。目の前にあらわれた人物じんぶつたいし、ミスティは奇跡きせきでも見ているのかと思わせるほどに目を見開みひらき、やがて大粒おおつぶなみだをこぼした。


うそ…!そんな、まさか…!!」


「ただいま。お姉ちゃん」


何も言わず、おもいをうでにのせて、ミスティはレスティをぎゅっときしめた。時にすれば一瞬いっしゅん出来事できごとだけれど、2人にとっては長いあいだはなれていた空白くうはくの時間をめる、大切たいせつな時間だ。感動かんどう再開さいかいにもらいきしたクーは、グスグスとはなをすすって目の前の光景こうけいき付ける。


エルは無言むごんのままクーにハンカチをし出して、出ようと合図あいずおくってきた。水()らずの場にいつまでもとどまるのは邪魔じゃまだと思ったんだろう。同意どういしたあたしは、目尻めじりまったなみだるクーをれて宿やどを出た。


「いやあ、良かった良かった」


「まだこれでわりではありませんよ。これからリノには一芝居ひとしばいってもらわないといけないんですから」


「分かってるってエル。さてさて、そろそろ来ると思うんだけど…」


あたしが周囲しゅうい見渡みわたすと、中央ちゅうおう広場ひろばかって移動いどうする人達がえていることに気付く。それにともなって、大地だいちるがす振動しんどう徐々(じょじょ)ちかづいてくることも。時間ぴったり。妖怪ようかいの王のご到着とうちゃくだ。


「み、みんなげろ!妖怪ようかい襲撃しゅうげきだ!!」


「あいつら、ついに俺達人間を根絶ねだやしにするつもりなんだ!!」


げるって言っても、どこにげればいいのよ!?」


るか!でもとにかくとおくにげるしかねえだろ!?」


街の住民じゅうみん達は、安々(やすやす)対立たいりつもん結界けっかいやぶってすすんで来る、妖怪ようかい王ダイダラボッチの姿すがたおそおののき、各々(おのおの)が思い思いの言葉をき出しては、いずこかへとはしり出す。いわゆるパニック状態じょうたい。ノイスターサの入口いりぐち付近ふきんは、恐怖きょうふとまどう人達でごったがえしていた。建物たてもの悠々(ゆうゆう)えるあの背丈せたけじゃ、無理むりないのかもしれない。


しずまれいッ!!!」


ダイダラボッチの大喝だいかつで、街中まちじゅう喧噪けんそうがピタリとんだ。何もらない人間からすれば、恐怖心きょうふしんからか反射的はんしゃてきしたがってしまうのだろう。その場にいるすべての人間の視線しせん一斉いっせいそそがれたのをはだで感じたのか、ダイダラボッチはすこ緊張きんちょうした面持おももちで、しずかに口をひらいた。


「俺様は妖怪ようかい頂点ちょうてん君臨くんりんする王、ダイダラボッチ。此度こたびは、長きにわたり人間達とのあいだしょうじていた亀裂きれつ修繕しゅうぜんにやって来た」


うそをつくな!何かしら理由りゆうをつけて俺達をころしに来ただけだろうが!!」


街人の1人が大声でそうさけぶと、周囲しゅういの人達も合わせておのれ主張しゅちょうをよりつよめる。いわゆる同調圧力どうちょうあつりょくと言うやつで、問題もんだいえるには少々(しょうしょう)厄介やっかい障害しょうがいだ。


「…それがのぞみだと言うならば、かなえてやらんこともないが?」


「ヒッ…!本性ほんしょうあらわしやがったな!?かえれよ、人(ごろ)し!!」


「そうだ、かえれ!!」


ダイダラボッチが手を出さないのをいいことに、街人達は容赦ようしゃのない罵詈雑言ばりぞうごんびせて、精神的せいしんてき攻撃をくわはじめた。この光景こうけいにエルとクーも思うところがあるのか、エルは帽子ぼうしつばげて時をち、クーは何か言いたげな表情ひょうじょうのまま、群衆ぐんしゅう見据みすえている。くだけじゃなく、こうして実際じっさいの当たりにすると、そのふか亀裂きれつが見てれた。

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