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フリーダムガール  作者: 赫宗一
シャンタ編
35/111

とにかく大きな王様

「私としたことが、不覚を取りました」


エルはほおを赤らめながら、ちた木製の板の上に正座する。確かに不気味ではあるけれど、まさか失神しっしんするとは思わなんだ。貴重なシーンだったから是非とも写真に収めたかったけれど、魔法カメラを持ってきていないのがやまれる。

あたしは胡坐あぐらをかき、クーはエルにならって行儀よく並んで座る。焚き木を挟んだ反対側には、妖怪の面々が顔を連ねた。ろくろさん以外、凄く濃ゆい。


「さ、ほんならお話ししましょか。まずはうちらの自己紹介からやね」


「ろくろさんはいいとして、まずは俺からだな」


全身赤色の大男が、ずいと前に歩み出る。


「俺は赤鬼あかおに。力が自慢の妖怪だ。本とかじゃよく悪者扱いされるが、実際はそんなことないぞ」


「へー。上半身丸出しで寒くないの?」


「おうさ。俺の心はいつだって熱く燃えたぎってるからな!」


赤鬼と名乗った男は、ぐっと親指を立ててウインクする。強面こわおもての割にはやることが可愛らしく、見た目とのギャップに驚かされるも、みょうに親近感が湧いた。


「はははっ、赤鬼さん面白いね~♪」


「だろう?君達も、妖怪が恐ろしい生き物じゃないって分かってくれたかい?」


「おかげさまで。私達との違いは、見た目だけだと言うことですね」


「そうそう!いやあ、話が通じる子達で良かったぞ」


盛大に高笑いする赤鬼に、あたしは親指を立て返して、次の妖怪の紹介に移る。今度は、頭に大皿を乗せたくちばし持ちだ。


「次はオイラ…だね。オイラの名前は河童かっぱ。水を泳ぐのが得意な妖怪だよ」


「手が水かきみたいになってるのはその為なのね。どのぐらい速く動けるの?」


「え、えっと…このぐらい?」


河童は身振り手振りで、大雑把にその速さを表現する。何とも伝わりにくい、典型的な説明下手。会話があまり得意じゃないのがよく分かる反応だった。


「えっとさ」


「突っ込みは厳禁ですよ、リノ」


「河童ちゃんは人見知りで口下手なんよ。許したってね」


「ご、ごめんなさい…。オイラ、他人と話すことが全然なくって。それに女の子とかは特に…」


「気にしてないからいいって。それも個性の1つだしね。んで、後の2人は?」


手足の生えた壁は、片手を上げるも何も喋らない。両目はあれど口がないので、もしかしたら喋れないのかもしれない。


「あ…もしかして」


「オレ、ぬりかべ」


「喋れるんかいっ!!」


「突っ込み忙しいね、リノお姉ちゃん…」


「ぬりかべちゃんは通せんぼが趣味の妖怪なんよ。…嫌がらせではせえへんよ?」


「分かってますって!それだとただの嫌な妖怪じゃないですか!」


ぬりかべはしょんぼりと肩を落として、がっかり感を体現する。他の妖怪と同じく、コミカルで愛着の湧く反応だ。


「オレ、ワルイヤツチガウ」


「分かってるよ。悪い妖怪なら、とっくに成敗してるって」


「少なくとも、ここにいる方々はそうではないと、理解しているつもりです」


ならいいよ。そう言わんばかりに、ぬりかべは黙りこくった。案外さっぱりとした性格なのかもしれない。石像のように固まってしまったぬりかべに、あたし自身もよく分からないエールを送って、最後の紹介に入る。

巨大なかさに人間の片足をくっつけた一つ目。何故だか分からないけれど、この妖怪だけは覚えがある…ような気がする。デジャヴらしき現象にあたしが首をひねって考えていると、エルが何かを思い出したように口を開いた。


「そう言えば…ミスティさんの話に、傘の妖怪の話が出てましたね」


「身長が2mにも届くぐらいたけの長い傘の妖怪って言ったね。じゃあ、ミスティさんの妹さんをここに連れて来たのも貴方が…?」


クーの疑問に対して、傘の妖怪は後ろめたそうに目をそらす。嘘がつけない性格らしく、その態度がまさに肯定だと主張していた。


「ねえ、傘の妖怪君。ミスティさんの妹さんをどこへやったの?」


「そ、それは…王様の所です」


「王様?ろくろさんが言ってた?」


「そうなんよリノちゃん。この子…からかさ小僧ちゃんは、その王様の命令で無理矢理働かされとるだけなんよ。責めんといてあげて」


からかさ小僧と呼ばれた妖怪は、申し訳なさそうに目を伏せて、謝罪の意を示す。本意じゃないと分かった以上、余計な追求は無用だ。今は、その王様について聞く必要がありそうだ。…と、その前にあたし達の自己紹介を簡潔に行い、それから本題に入る。


「ねえろくろさん。王様って一体?」


「名前の通り、ここ妖怪の国の頂点に君臨くんりんする妖怪や。人間界と同じで、強い妖怪が上に立つ決まりなんよ」


「…つまり、位の低い妖怪達は、王の命令には絶対服従だと言う訳ですか」


「残念ながらね。王様の考えは分からんけど、人間界に住んどる女子おなごを連れて来ては、自分の手元に置いてるようなんよ」


「それはただの変態では?」


「ち、違うと思うけど…」


エルの冗談に、クーはがくっと頭を下げてのリアクションで応える。あながち間違ってなさそうな回答だと思うけれど、それだけじゃないだろう。おそらく、人間界に降る魔障雨と何か関連性があるのではとにらむ。

あたしの推測と同意見なのか、エルはあたしに意味あり気な視線を送ると、人差し指を突き立てた。


「会いに行ってみましょうか。その王様に」


「お、おいおい正気か!?君達みたいな可愛い子が王様の所に行ったら、どんな仕打ちを受けるか分からんぞ!」


「か、可愛いってそんな…。じゃなくて!!さっき言った妹さんの件もあるけど、それ以外にも聞きたいことがあるんだ。納得するまでは帰れないよ」


「本気なん?」


少なくとも、あたしとエルはだけれど。クーは今回の件もあるので、聞いてみないと分からない。あたしが口を開こうとすると、それを遮るかのようにクーが立ち上がった。


「本気です。皆さんに酷いことをさせる王様には、ガツンと言わないといけませんから!」


「クーちゃん、大丈夫?」


「心配してくれてありがとう、リノお姉ちゃん。でも…もう大丈夫」


クーの瞳には、使命感に近い煌めきの光が宿っていた。悪は決して許さないその正義感に、あたしは関心を覚える。大した根性だなあ。


「ははっ、了解。ただ、いつものことだけど」


「無茶はしない!…だよね?」


「OK。それを分かってくれてるなら問題なし!」


「と、言う訳で。ろくろさん、その王様の居場所を教えてくれませんか?」


ろくろさんは、困ったように首をひねって悩んだような様子を見せる。やっぱり上下関係がある以上、そう簡単に情報を開示出来ないのかもしれない。もし仮に駄目だと言われても、自力で捜す気でいるけれど。


「うーん、そやねえ…別に構わへんけど、うちは心配や」


「問題ないですって!たとえ妖怪の王様だろうが、叩き伏せてやりますよ!」


「ちゃうよ。王様を改心させようとしてくれるのはありがたい話なんやけど…正直、あれは手に負えんよ?」


「…どう言う意味ですか?」


「外に出てみるといい。多分、君達驚くぞ」


赤鬼に誘われて、あたし達はちた木製の扉を開けて外に出る。何があるのかと周囲をくまなく見渡すも、薄暗い闇の空が広がっているばかりで、妖怪らしき姿は見えない。


「ちょーっと赤鬼さん!なーんも見えないけど!」


「向こうの山」


赤鬼が指差した方角を凝視すると、奥に見える山岳の一部が、ずれたように錯覚する。まさか山が動く訳がない。


「山が動いたように見えたけど、気のせいだよね?」


「いえ…気のせいではないようですよ、リノ」


山だと思っていた『それ』は、山じゃなかった。大地を揺らしながら動き出したのは、まさしく妖怪の王の名に相応しい、人間の姿に似た青色の巨人だった。


「あれがうちら妖怪の王様…ダイダラボッチや」

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