7.『王子様物語』
「っ!!!!び、びっくりした、、、。」
「あ、、、ご、ごめんなさい、、、。」
アイリスの目の前に現れた少年は、小さく地面にうずくまっている。
長い金髪が目にかかっていて顔がよく見えない。
「な、なにしているの、あなた。どなた?」
「え、えと、オリバー、、。君は?」
「アイリスよ!で、何しているの?」
アイリスは地面にしゃがみ、オリバーと名乗る少年に目線を合わせた。少年はアイリスが近づくと気まずそうに顔を晒す。
「あ、あの、ぼく、その、、、。」
オリバーは不安そうに、手に持っていた本をギュッと掴む。アイリスはその本に見覚えがあった。
「あら?その本。」
確かこの前ジークに紹介した、『王子様物語』だわ!
アイリスは目を輝かせてオリバーに話しかける。
「知っているわよ!面白いよね!」
「知ってるの?」
「ええ!もちろん!王子様がかっこいいわよね!」
アイリスが興奮した様子で話しかけると、オリバーも少し心を開いてくれたのか、ぎこちない笑顔を浮かべてアイリスに向き直った。
「そう、そうだよね!かっこいいよね!強くて勇敢で、それから、、、。」
頬を紅潮させながらオリバーは話し続ける。
前髪の奥から覗く目がキラキラと輝いているように見える。よく見るとこの少年、オリバーはかなり綺麗な顔立ちをしているようだ。
「ふふ。本当に好きなのね。」
本の話を始めるや否や顔色が変わったオリバーを見て、アイリスは笑顔で語りかける。
アイリスの言葉に我に帰ったのか、オリバーは一瞬表情をかたくしたあと、シュンと小さくなった。
「あ、、、。」
「?どうしたの?」
「あ、ごめん、変だよね、、、。」
「???どうして?」
何を言ってるのだろう?と不思議そうにオリバーを覗き込むアイリスに対して、オリバーは深く俯く。
「あの、もう7歳だから、こんなのばっかりじゃなくてお勉強とか、、。もうこの本はやめなさいって、、、。」
なるほど、オリバーの家はもしかしたら厳しいのかもしれない。貴族の中には子どもに娯楽を許さない人もいると聞いたことがある。
アイリスはうーんと唸りながら考えた。
まぁ、オリバーの家のことは分からないが、、それでも親に言われてこんなに面白い本を嫌いになってほしくないな。と考えたアイリスは、笑ってオリバーに話しかける。
「いいじゃない!何歳になっても好きなままで!」
「でも」
「それに!その本に出てくる王子様だって、人に言われて好きなものを諦めるような人ではないでしょ?」
「っ!」
本の中に出てくる王子様は、勇敢で優しく、紳士的な人だ。困っている人がいれば必ず助けるし、自分の夢を必死に追いかけるかっこいい人。
オリバーはそんな彼に憧れているのではないかと考えたアイリスはさらに続ける。
「王子様みたいな人になりたいでしょう?」
「なりたい!、、、なれるかな?」
不安そうにアイリスを見つめるオリバー。
そんなオリバーに対して、アイリスは呑気に笑って見せる。
「なれるわよ!きっと!」
(だからその本のこと嫌いにならないでよね!同士がいなくなるのは嫌よ!)
アイリスはその思いを込めてオリバーに笑って見せる。
アイリスの言葉を聞いて、オリバーの表情が変わる。大きく目を見開いて、驚いたような表情をしている。
そんなオリバーの変化にも気づかず、アイリスは笑ったまま続けた。
「それにしても、この本の面白さをわかってくれる人がいて嬉しいわ!!この前ジークに紹介したら、馬鹿にされたから、、、ん?ジーク、、あ!ジーク!!」
そこでアイリスはようやくジークハルトの存在を思い出した。
しまった、ジークに黙ってここまで来てしまったわ。早く戻らない怒られるわ!
焦ったアイリスは勢いよく立ち上がり、オリバーにこえをかける。
「ご、ごめんなさい!!用事を思い出したから、あの!失礼するわ!!」
「あ、!待って、、。」
オリバーの声に気がつかないまま、アイリスは走ってお茶会の会場に戻って行った。
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