第3話『星眼』
リリカ 僧侶 光の浄化魔法が得意
ドルゲン 戦士 頬に大きな傷がある
アーレス 魔法使い あらゆる魔法を扱う
ラドクリフ 剣士
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【聖女の地下洞窟】第五階層──
アーレス・ドルゲン・リリカは慎重に通路を確認し、歩いていく。うなり声はまだずっと反響している。
毒蛇とガイコツ剣士が立ちはだかるが、一蹴。
出くわしたモンスターを蹴散らしながら、三人は進む。
「第四階層と出現するモンスターは似てるな」
ドルゲンがそう漏らすと、アーレスが答える。
「はい。似ていますね。今の私たちが苦戦する敵はいませんが、ゴーレムの警戒は怠らないように」
「分かってますよ……五年前のリベンジをしてやるんだ」
アーレスは進みながら、壁際に点在する光る石に気づいていた。
(あれは魔石……まさか、壊された? いや、そんな心配はないはずだ)
一方、リリカは心ここにあらず。
何度かドルゲンに「集中しろ」と怒られている。
通路にはすえた匂いが広がり、リリカはそれを吸っていた。滞留した強い残り香のようだ。
かび臭さと腐敗臭、その奥から僅かに……リリカの懐かしい記憶を揺さぶる匂いがした。
「ラドクリフの言っていた言葉を、よおく思い出して……」
そのときリリカは、妖精の言葉を思い出した。
なぜか思い出したのは、五年前のあの時の記憶。それは【聖女の地下洞窟】にやって来る前日のこと。
リリカとラドクリフが、最後に二人きりで話した記憶だ。
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涼しい朝。トムル村そばの森を、リリカとラドクリフは手を繋いで散歩していた。
リリカはチラとラドクリフの横顔を見た。彼の横顔が好きだった。
彼は幼さの残る顔立ちではあるが、目の色が濃く、強い。道の先まで真っ直ぐ見通しているような星に似た輝きを放っていた。
小鳥の鳴き声に耳を澄ましながら歩いた。しばらく沈黙が続いたが、やがてラドクリフが話し始めた。
「なあリリカ、君はアーレス先生のことをどう思う?」
「優しい先生よ。わたしの本当のお父さんはもう亡くなっちゃったけど、時々本当のお父さんみたく感じる」
「そうか……」
リリカは「なぜそんな質問をするの?」と軽く笑った。
「いや……おれはそこら辺が分からなくなってさ」
「分からないって何が?」
「先生を信じて良いのかが分からない」
リリカの表情が曇り、「何でそんな事を言うの?」と、怒気をこめた声でラドクリフを詰めた。
「先生は、わたしの両親が野盗に殺されたあと、わたしを保護してくれた。あなたも先生に助けられたじゃない?」
「ああ……助けられた。奴隷としてクズに飼われていたおれを引き取ってくれた。それはもちろん感謝している」
「じゃあ」
「おれだって信じたい。でも見てしまったんだよ……」
「見たって何を?」
気がつけば、森の入口の近くまで戻ってきていた。
「二日前に教会へ行ったんだけど……」
ラドクリフがそう言いかけたとき、アーレスの大きい声が聴こえた。
「二人とも〜 朝ごはんを食べに行きますよ〜」
リリカとラドクリフが見ると、森の入口にアーレスとドルゲンが立っていた。
「やった。朝ご飯だって、ラドクリフ」
「ああ……」
「あ、でも言いかけてたよね。教会がどうしたの?」
ラドクリフは先にいるアーレスの顔を見た。彼の鋭い目がアーレスに刺さる。纏わりつくような圧を感じた。ラドクリフは目線を逸らし、リリカに言った。
「今度また話すよ……」
「え? うん……」
ラドクリフが、ほんの一瞬辛そうな表情を浮かべた。
「腹減った。それより朝ごはん行こうぜ」
ラドクリフは笑顔になった。
(気のせいか)
リリカは、その時そう思った。
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「あぁ……うぅ……」
うなり声は大きくなっていった。反響の仕方ですぐそばに居るのは分かる。三人は警戒し、足を止めた。
奥の通路の角、何者かの体が少し見え、ゆらゆらと揺れているの分かった。
半身が出た。その者の切なげな目がゆっくり動いた。
「アンデッドか!」
ドルゲンが銀の斧を構える。
「おかしいです。アンデッドは、第十八階層の敵のはずです」
アーレスが魔法の杖を握りしめた。
(何なの……この感じ)
なぜかリリカの心の中に懐かさが広がった。
アンデッドはその全貌を見せた。ゆらゆらと揺れながら、三人を順番に見ていく。
リリカのところで視線が止まった。
アンデッドの目が微かに見開いた。
「うぅ……あぁ……!!」
アンデッドが足をこちらに向けた。ゆっくりと近づいてくる。
ドルゲンは重心を低く落とし銀の斧に力を入れ、アーレスが魔法の杖の先に炎を起こした。
「待って!」
ドルゲンとアーレスが、同時に顔をリリカに向けた。
「あのアンデッドの胸当てをよく見て!」
リリカに言われ、ドルゲンが注視した。
「おい……まさか、あれラドクリフか……?」
リリカの涙腺が緩み、涙が浮き上がる。それから、「はい」と言った。
(待て待て待て……!!)
アーレスの表情に僅かに焦りが浮かぶ。
「し、しかし胸当てが同じと言うだけでは彼だと断定できません!」
ゆらゆらと確実にアンデッドは歩を進める。その目はリリカをしっかり捉えている。
「先生、ではあの目を見てください。あの星のような強い輝き、ラドクリフしかいませんよ」
リリカがそう言うと、ドルゲンも続いた。
「だな。間違いねえ。あいつはラドクリフだ。……生きてやがったんだな」
ドルゲンがそう言いながら、構えを解いた。それから目に涙を溜め、体を震わせた。
アーレスは、真っ直ぐアンデッドの目を見た。
(あの目……私に反抗してきたあの目だっ!!)
アーレスはぎりっと奥歯を噛み締めた。
(何で生きている? 魔石のゴーレムが殺しそこねたか!!)
アーレスが持つ魔法の杖の先がさらに燃え盛った。ドルゲンとリリカが思わずそちらを見る。
「さぁ、お二方も戦闘の準備をしなさい」
「おい、先生。なに言ってんだよ! あいつは仲間だぞ!」
「先生、わたしはラドクリフに攻撃出来ません!」
「あなたたちこそ何を言っているのですか? もう彼は人間じゃありません。モンスターです」
アーレスのその言葉に、二人は気圧された。それは冷徹で残酷な言葉。
「で……でもっ、彼はラドクリフなんです!」
リリカは強くアーレスに訴えた。
「煩いですよ……」
アーレスの表情が、みるみる悪魔のように歪んでいく。
「せ……先生?」
「おい、どうしたんだよ、先生!」
リリカとドルゲンは異変を感じ、顔が青ざめた。
「私たちは世界平和のために、聖女の幸玉を取りに来たのでしょうがぁ! 目的を忘れるなぁぁ!!」
それを聞いたアンデッドが叫んだ。
「うぅおおぅ、あああああ……!!」
三人は一斉にアンデッドを見た。
壁際に等間隔で落ちている魔石の欠片が紫色の光を放ったあと、形を変え、アンデッドに変化した。
(これは……ラドクリフくんが、魔石の力を操っているのか!?)
三人は、前後をアンデッドの群れに囲まれてしまう。
「ほれ見なさい……モンスターの本性が出ましたよ」
「くっ……」
ドルゲンは悔しさを噛み締め、リリカは言葉を失い、先にいるラドクリフを見つめた。
他のアンデッドたちは前進し、ラドクリフだけが足を止めた。
三人は背を寄せ合い、一箇所に固まる。
「さあ、戦闘準備をしなさい。死にますよ!」
「ちくしょう……こんな残酷なことあってたまるか!!」
ドルゲンは銀の斧を構えた。
(どうして、ラドクリフ……)
リリカは僧侶の杖を控えめに構えた。
アンデッドたちが徐々に加速し、三人のもとへ駆けた。
第4話に続く




