はじまり
「はぁ…疲れた………」
私、木村あまねは仕事から帰るなり、バッグを床へ投げ捨て、ソファに寝転んだ。
安定を望んで公務員になったことに後悔はない。
リストラや生活苦の話をテレビでよく目にするが、収入に不安もなくクビになる心配もほぼないからだ。
けれど、毎日の満員電車での通勤には身を削られ、人との付き合いには気を遣う。
上層部は短期間で転勤になるからか、もめ事をおこさない事だけを大事にし、若手には少し強く言うと、パワハラだと騒ぎ出し、ともすれば休む口実にまでする次第だ。
中間管理職である今が一番疲れる現状だと言える。
「宝くじ当たらないかな………」
当たったらすぐに仕事を辞めよう…。
読みたい漫画も、見たいアニメもたくさんある。
しかし、ひとたび見始めてしまうと、続きが気になって途中でやめることができないので、夜更かししてしまい、翌朝後悔する。
毎日好きな時に好きなことをしよう…。
そうだ、仕事を辞めたら、物もそれほどいらないから断捨離して小さな家を買おう………。
あまねは現実逃避をしつつ、いつものようにスマホでパズルゲームのアプリを開いた。
8年ほど前から続けているゲーム。
同じ色のブロックを3つ以上並べて消していく単純な無料ゲームである。
課金要素が一切存在しないという、現代では珍しいゲームだった。
「今日は何かイベントやってるかな?」
イベント日はコインやアイテムといった報酬が多くもらえるが、最近はイベントの開催も減りユーザーも減ってきているようだ。
私は、その代わり映えのない単純さが好きだ。
また、特に何かに使えるわけでもないコインだが、増えていくのが貯金のようで嬉しくて、毎日ちょっとした隙間時間を見つけてはプレイしていた。
今日もいつものように、寝転がりながら30分ほど遊んでいると…。
やや高めで、可愛らしい声が聞こえた。
「僕が作ったゲームで遊んでくれてありがとう!」
そこにいたのは、白銀の髪に一筋だけエメラルドグリーンのメッシュを入れた少年だった。
作り物のように整った顔立ちに、宝石を思わせる金色の瞳。
あまりにも美しく、あまりにも現実離れしている。
まるで、人の姿を借りた何かが、そこにいるかのようだった。




