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過労死して高校時代に戻った私、『人生計画』を破り捨てた  作者: 朧月 華


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第26話 灯火の守り手


国際的な成功の陰で、神崎が倒れた。過労による一時的な意識消失だった。病院の白いベッドの上で、彼は自嘲気味に笑う。


「たかが数日徹夜しただけだ」


しかし医師の診断は厳しかった。「このままでは、身体が持たない」


アレックスからの新しい契約書は、さらに野心的な内容だった。年間100校への導入、欧州市場への展開、新規機能の開発——すべてに短い納期が設定されている。


「これは…無理だ」藤原が契約書を置き、深くため息をついた。「神崎さんの体を考えれば」


森川のカメラが、病室の窓から差し込む夕日を捉える。神崎の横顔に、疲労の影がくっきりと刻まれている。


「俺たち、どこまで走り続ければいいんだろう」赤城の声には、珍しく迷いがにじんでいた。


その夜、夏希は一人でアレックスのオフィスを訪れた。


「契約の条件を変えてください」


アレックスの眉が動いた。


「それは難しい。投資家たちの期待がある」


「では」夏希の声は静かだが、揺るぎない。「私たちは契約を解除します」


その一言に、アレックスは初めて驚いた表情を見せた。


「何て?」


「私たちの目的は、世界を征服することではありません。一人ひとりの心に寄り添うことです」


アレックスはしばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。


「君たちの技術は、もはや君たちだけのものではない。世界中の教育者が待っている」


「だからこそ」夏希の目に涙が光る。「私たちは、もっと責任を持たなければならない。仲間を犠牲にしてまで広げる成長など、意味がありません」


病院を抜け出した神崎が、オフィスに現れた。顔色は悪いが、目は確かな意志を宿している。


「彼女の言う通りだ。私たちは、もっとスマートに進むべきだった」


神崎が新しい提案をした。「オープンソース化をさらに進め、開発コミュニティに委ねる部分を増やす」


アレックスは考え込んだ。


「それでは、収益が…」


「収益源を変えればいい」神崎の指がタブレットを滑る。「基本エンジンは無料化し、カスタマイズサービスやトレーニングで収益を上げる」


その提案は、ビジネスモデルの根本的な変革を意味していた。


一方、藤原は心理学の観点から別の提案をした。


「感情認識技術の倫理基準を作るべきだ。この技術が悪用される危険性もある」


森川と赤城は、実際の教育現場での活用事例をまとめ始めた。


「必要なのは、さらに多くの実証データだ」森川が写真を整理しながら言う。


「そして、教師たちのトレーニングプログラムも」赤城が付け加える。


一ヶ月後、新しいビジネスモデルが始動した。基本技術のオープンソース化は、世界中の開発者から賞賛された。そして、彼らが提供するカスタマイズサービスには、すぐに注文が殺到した。


「これなら」神崎が自宅のオフィスで新しいプログラムをチェックする。「無理なく続けられる」


医師の許可が出るまで、リモートワークが条件だった。


藤原は国際的な倫理委員会の設立に動き、森川は写真展を通じて技術の可能性を伝え、赤城は教師向けワークショップを開催した。


夏希は、すべての活動をスケッチブックに記録していく。それぞれが自分のペースで、自分の方法で貢献する姿を。


ある夕暮れ、回復した神崎が美術室に現れた。


「久しぶりだな」


机の上には、彼がいない間に完成した新しいバージョンのプログラムが置かれている。


「みんなで完成させた」藤原が微笑む。「君の基本設計を元に」


神崎の目が、プログラムのコードを行き来する。


「…よくここまで改良したな」


「当たり前だ」赤城が笑う。「俺たちはチームだろう?」


その夜、五人は久しぶりに全員揃って会議を開いた。テーマは「持続可能な成長」。


「私たちの技術は、もはや私たちだけのものではない」藤原が現状を報告する。「世界中の研究者が、さらに発展させてくれている」


「だからこそ」夏希が静かに言う。「私たちは、灯火を守る役目をしなければ」


森川が新しい写真を見せる。世界各国で、彼らの技術を使って子どもたちと向き合う教師たちの姿だ。


「私たちの想いが、こんなに遠くまで届いている」


神崎が新しい提案をした。


「次は、開発者コミュニティとの連携を深めよう。オープンイノベーションだ」


彼の目には、以前のような焦りはなかった。確かな歩みを続ける覚悟が光っている。



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