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第三話 隣の席の君


 

 A君が亡くなった事を告げられた日の帰り道、僕は駅のホームで、彼を最後に見たあの日のことを思い出していた。


 僕は、彼を守ることが出来なかった。そして彼は心に傷を負ったまま死んでしまった。悔やんでも悔やんでも悔やみ切れない。


 どうして僕は君の苦しみにもっと早く気付いてあげられなかったんだろう。

 許されるならば、もう一度君と会って話したい。


「A君……」


 線路の奥から電車がやって来るのが見える。


 僕はそっと目を閉じて、彼の顔を思い浮かべた──





 気付けば僕は電車の中にいた。

 いつの間に乗ったんだ、と辺りを見回していると隣に座っていたおばあちゃんが話しかけてきた。


「あんた、そんなに慌ててどうしたんだい? 何か忘れ物でもしたんかえ?」


「あ……いや……」


 口ごもりながらも、ポケットの中のスマホを取り出そうとした時だった。


 あれ……? 

 スマホが無い……というか鞄も何も全て持ってないじゃないか!


 慌てていると、電車の中でアナウンスが響いた。


 ──次は終点……終点……お忘れものにご注意ください……


 扉が開くと、中にいた乗客がぞろぞろと降り始めた。

 終点がどの駅かも分からないが、取り敢えず降りなければと扉から外へ出ようとしたその時だった。


「保戸塚さん?」


 後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

 振り返るとそこにいたのは、死んだはずのA君。思わず目を見開いて彼を見つめる。


「何で君がここにいるの?」


 いやいや、それはこっちの台詞だよ……と言おうとしたが、何故か声が出なかった。


「もしかして、間違えて乗っちゃったのかな」


 彼はそう言うと、前の車両の運転席へ向かった。顔は見えないが、車掌さんに何やら話しかけている。

 そして暫く話し込んだあと此方へ戻ってきた。


「保戸塚さん、君はここで降りちゃ駄目だよ。この電車また折り返し運転するみたいだからこのまま乗ってて」


 ──A君はどうするの?


「俺はこのまま降りるよ。行かなきゃいけないところがあるからね」


 声は出ないが、彼は何故か僕の心の声を聞き取っているように見受けられた。


「……扉が閉まるから、行かなくちゃ」


 A君はそう言うと、僕に背を向けて電車を降りた。


 無意識に追いかけようとするも、目の前で閉まってしまう扉。


 ──A君……行かないで……


 まだ声は出ない。


 ……違う、僕が本当に伝えなくちゃいけないこと……それは……


 電車の窓を勢い良く開け、彼に向かって叫んだ。


「……私……いや、僕は生きる! 自分に嘘をつかないでありのままに生きるよ! 君の分まで生きるから!!」


 A君は此方を振り返ると、笑って僕に手を振った。


 そこから電車は猛スピードで走り出し、辺りの景色も一瞬で見えなくなった。


 そして僕の意識もそこで消えた──





 目が覚めると僕は病室にいた。

 隣には泣いている母の姿が見える。


 何があったのか尋ねると、どうやら僕は線路上に落ちて気絶していたと答えてくれた。電車が通過する前に誰かが気付いて急いで救助してくれたみたいだ。

 救助してくれた人曰く、人が倒れているとの声が聞こえたそうだが、その声の主はどこにも見当たらなかったとのこと。


「生きててくれて良かった……」


 母は力一杯僕を抱き締める。本当に僕のことを心配してくれていたのだと痛感した。


 ──ありのままに生きる。 僕は彼と約束したんだ。


「母さん……あのね、話したいことがあるんだ……」





 次の日、僕の姿を見てクラス中がざわついた。

 

 僕は長かった髪をバッサリと切り、制服もセーラー服から学ランへと一新した。


 いつも通りに席に座り、授業の準備を始める。するとB子が僕の目の前にやって来た。


「ルカちゃん……その格好どうしたの?」


「ん? 変かな?」


 笑いかける僕にB子は戸惑いつつも、首を横に振った。


 本鈴が鳴り、担任が教室に入ったと同時に全員が慌てて席に着く。


 僕は隣の席を見た。

 

 もう君がここに来ることはない。でも君は僕の心の中で……いや、僕の隣で生き続けている。


 僕は自分らしく生きる。君が隣にいる限り。



最後まで読んでくださった方々、有り難うございました。


今回のこの短編小説はLGBTで悩む方々を中心に

ストーリーとして書かせて頂きました。


主人公の名前は馴染みを持って貰うために実名、

それ以外の登場人物は他の誰にも置き換えられるようにという意味を込めて、A君、B子などと匿名とさせて頂いております。


また他に「君が世界の犠牲となれ」という作品も連載中です。

もし良かったら足を運んで頂けると幸いです。

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