+3 過去を語るのに感情は必要ですか?
3月4日
テレビ、新聞では、肩を揃えるようにして、
感情の伴わない無機質な文面、言葉により、
追悼の意が述べられていた。
5年前に都市圏を襲った原因不明の破壊現象。
それは、自然、建物、そこに住む人々を全て巻き込み、
残されたのは、雲ひとつない真っ青な空と、更地へと馴らされた地面だけだった。
災害特有の凄惨さや、生々しさは何処にもなく、
それが返って、人々に形の見えない恐怖を与えた。
兵器、天災、宇宙人の襲来など、様々な憶測が飛び交ったけれど、
証拠も、何もかもが消滅したため、調査そのものが、困難を極めた。
分かったことは、大気、土壌の汚染などは見受けられないこと、
そして、衛星画像が捉えた、都市圏一体を埋め尽くした青い光。
結局、原因は掴めぬまま、未曾有の大災害から、5年が、経過していた。
更地と化した広大な土地は、以前の様相とは姿形が異なるけれども、
5年の歳月をかけ、再び都市としての機能を取り戻すまでに、回復した。
ぼくは、その近傍にあった湖へと足を運んでいた。
風「ここは、相変わらず、だな。、、」
一面に広がる湖の景色を眼下におさめ、郷愁でも寂寥でもない
ひどく曖昧な感情が、僕の心に浮かんでいた。
意味のない問いにひたすら取り組むように、深く
思考を埋め、何処を巡ろうと、何処に進もうと、見えてくるものは何もない。
年を経て何度も繰り返している、そんな泥沼のような思考は、
少女の声より、断ち切られた。
凛音「大丈夫、ですか?」
風「んっ? ぁあっ、君は、、。。
うん。ちょっと 考え事してただけ。」
心配そうな表情で彼女は、僕を見つめていた。
凛音「そこに座りませんか?」
近くにあった木製のベンチへ、僕達は、歩くと、
少し距離を置き、並んで座った。
風「こんな所で奇遇だね、。」
その質問に、一瞬の間をおくと、彼女は、何の抑揚もなく
単調に答えた。
凛音「両親の御墓参りの帰りです。今日は2人の命日なので、。」
彼女の瞳に映っていたものは、何もなく、
ただぼくの姿を映すのみだった。
風「1人で来たの?」
凛音「姉と、 、 、 2人で、、。」
風「そっ か、、。」
僕は確かに安堵していた。
その自分が、とても奇妙でおかしく思えた。
凛音「あなたは、どうしてここに来たんですか?」
おそらく、あらかたの予想はついているのだろう。
その上で、彼女は、僕に尋ねてきている。
風「5年前のあの日に、僕は ここに いた らしいんだ。。
。。。。
答えになってる? 」
凛音「 、、 はい。 、、 」
優しく微笑むと、彼女は視線を湖へと向けた。
凛音「綺麗ですね。」
風「 うん。 、、 そう だね。」
僕も視線を彼女から、湖へと移した。
今まで何度も訪れているけれど、透き通った湖の景色は、僕にとって、
とても新鮮なものに思えた
そうして、しばらく眺めていると、彼女は立ち上がった。
凛音「私、帰るね。」
風「うん。それじゃ。。 、、」
また、と言うべきか戸惑っている僕を見ると、
くすくす と彼女は笑っていた。
凛音「またねっ。」
僕に手を振って、彼女は帰っていった。
僕は、その姿が見えなくなるまで、
見届けるのだった。
次回は3月6日 更新予定です




