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零.『コスプレせす角田ひろし』


 自覚のある醜い肉体を露出した制服姿に号泣真っ最中の角田であったが、気を紛らわそうと鏡から目を逸らして右ポケットから携帯電話スマートフォンを取り出す。


 少し前に開封していた室内冷蔵設備で保管されていたコーラの缶に口をつける。


 他にもアルコール飲料が幾つか保管されている。しかし角田が仕事中の為お預け。


 新着メールが届いていないかメールの問い合わせをしてみるが。新着は一件も来ない。


 意味もなく電話帳を開いて、適当な人物の連絡情報を見ようと無意識にタップしている。


 イライラしているのだろうか、コーラをグビグビ飲んでから思い切りテーブルに叩き付ける。その叩き付け方に勢い余って飲み終わっていないコーラが小規模に噴射する。


 軽く手を濡らした角田であるが、まずはコスプレ衣装が汚れていないか確認している。


 急いで自分のバッグからタオルを取り出して濡れた左手を拭いている。


 どうやらコスプレ衣装にはコーラがかかっていないようだ。しかしそれと引き換えるようにして右手に持つスマホが濡れているのに気付いた。


 故障しては困るので急いでスマホを吹いている最中の事。角田が利用している115号室入り口のドアを何者かが3回ノックしてきた。


角田かどたさん。そろそろお時間ですのでスタンバイお願いします」


「はい。えっと角田かどたじゃなくて角田かくたですけごにょごにょ……」


 角田の遠慮がちな性格によって苗字の読み方が間違っていると指摘する声量が足らず、間違えて呼んだ係員に一言も伝わっていない。


 ため息を一回。これからナイトショーが行われる。角田が出場するコスプレ講座の開始予定時間は1時間後である。その下準備としてリハーサルを行う時間がきたようだ。


 本日の営業を行う上で、角田が担当する営業内容は今日の今日までほとんど聞かされていなかった。それでも、ただ単純に営業先がかの有名な豪華客船ロージクルー号であるという展開に期待して胸を躍らせていた。


 ロージメンナイトショーに参加するセレブ達の一員になれる。今朝は少し浮かれていたのかもしれない。


 角田が何故、このような女子高生の制服を使ったコスプレをして講演をするハメになったのか。彼が勤務している営業所は主に、洋服の生地として羊の毛から作られる天然繊維ウールを扱った商品開発部となる。


 ただいま角田が着ているミニスカのこの制服にもウールが使用されており、最終的には豪華客船を利用される海外のセレブ方に向けた当社の宣伝や、品質のアピールを目的とするものらしい。


 それが何の行き違いで角田が、まるで「私は変質者です」と言わんばかりの格好にさせられているのか。角田自身がこの状況を把握出来ていない。


 上司の松坂係長も同じくロージクルー号に乗船しているが、角田がコスプレの宣伝はしたくないと何度断ってもしても「他に手の回る人間がいない」と強制的にナイトショーの営業を任される。


 百歩譲って我が社のウールを使った制服のコスプレ着用までは良しとしよう。

 問題は、ナイトショーを取り仕切るロージメン運営関係者からの要望として「やるならとことんやってくれ」と言われた余計な一言だ。


 そのおかげで若々しい女子のメイクを追加注文で行い、一人孤独にこの部屋で号泣しながら待機していたのだ。


 その姿形はとても中途半端で、可愛げが一切表現出来ていない上に女子高生の魅力も伝わえられないただの変質者へと変貌を遂げてしまったのだ。


 角田は泣いている。ああ泣いている。


 それでも角田は男。やると決めたら最後まで絶望に屈する事なく堂々と胸を張って歩いていくしかない。


 ゆっくりと立ち上がり、再度鏡を見て身だしなみが乱れていないかチェック。目にかかった前髪を右手で払って、テーブルに置いてあるスマホをポケットにいざ戦場へ。


 スマホを取る際に、先程飲んでいたコーラの缶も一緒に触れて床に落として泡が吹き出る。


 今度は床がベトベトになってしまった。


 頑張るか死のうか一瞬迷ったけど、今は立ち止まっている時ではない。いざナイトショーコスプレ講座という名の戦場へ。


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