追放
荘厳さを主張するためだけに誂えられたステンドグラスから光が差し込む。高く昇った太陽の日差しは一層眩しいほどだった。
イグニスの足元で光っていたはずの魔法陣は太陽の光に叶わなかったように、眩い光を失っていく。
「信託を賜った。イグニス・グレイセス、お前にスキルは授けられない」
神官の侮蔑を含んだ言葉に、肩口で切り添えられた深紅の髪を揺らしてイグニスは頷いた。
そんなはずないわ、そう言って深紅の長い髪を取り乱す母に対して苦笑する。
イグニスの兄は両腕を組んで顔を顰めている、記念すべき日だからと整えたはずの礼服は両腕の下で皺になっていた。親類はスキルなしだと!? そう何度も大きな声で覆らない結果を繰り返していた。
水面のように光を浴びて輝くアクアマリンと同じ色合いの長い髪に、美を讃えた透明な青の瞳、イグニスにとってこの15年間の連れ合いであった彼女は深い理性を纏ってはっきりと口にした。
「私はイグニス・グレイセスとの婚約をこの場を持って破棄します」
「婚約の破棄を受諾した」
その瞳がいかに揺れていようとも、水が溢れないことに少しだけ安心する。教会で宣言をして、それを神官が見届けた。よって、婚約は正式に破棄された。
「イグニス・グレイセス、お前をグレイセス家から追放する。今後一切グレイセスの名を名乗ることは許さない」
平然を装った父の言葉に頷いてから、頭を下げる。
「15年間、世話になりました」
神官だけがイグニスを路上の汚いゴミを見るかのような目で見ていた。だから、イグニスは尚更深々と頭を下げる。それはつまり、それだけ世話になったということなのだから。
そうして、イグニス・グレイセスはただのイグニスとして教会を出た。




