「ローマの休日」のスローリーディング その18
◎場面7 その3
ジョーは自分のアパートの部屋に入る。
長椅子に眠っているアンを抱き上げてベッドに移す。
そして彼女に呼びかける。
やがてアンは眼をさまし、自分が今どこにいて何をしているかを理解していく…
(英語のセリフ)
〇アン: Did you bring me here by force?
〇ジョー: No, no, no... quite the contrary.
〇アン: Have I been here all night...alone?
〇ジョー: If you don't count me, yes.
〇アン: So I've spent the night here-with you.
〇ジョー: Oh, well, now, I- I don't know if I'd use those words exactly, but from a certain angle, yes.
〇アン: How do you do?
〇ジョー: How do you do?
〇アン: And you are?
〇ジョー: Bradley, Joe Bradley.
〇アン: Delighted.
〇ジョー: You don't know how delighted I am to meet you.
〇アン: You may sit down.
〇ジョー: Well, thank you very much. What's your name?
〇アン: Er...you may call me Anya.
〇ジョー: Thank you, Anya. Would you like a cup of coffee?
〇アン: What time is it?
〇ジョー: Oh, about one thirty.
〇アン: One thirty! I must get dressed and go!
〇ジョー: Why? What's your hurry?-there's lots of time.
〇アン: Oh no, there isn't and I've- I've been quite enough trouble to you as it is.
〇ジョー: Trouble? You're not what I'd call trouble.
〇アン: I'm not?
〇ジョー: I'll run a bath for you. There you are.
(私訳)
〇アン: 無理やり私をここに連れて来たの?
〇ジョー: いや、その反対だよ
〇アン: ここで一夜を過ごしたの。私一人で?
〇ジョー: 僕をのぞけばね
〇アン: つまりあなたと一夜を共にしたのね
〇ジョー: その表現はあまり正確とは言えないな。しかし別の見方をすれば、そうだ
〇アン: (ジョーの言葉を聞いてアンはなぜか微笑んで)よろしく
〇ジョー: よろしく
〇アン: あなたは?
〇ジョー: ジョー・ブラッドレーだ
〇アン: 光栄ですわ
〇ジョー: こっちはもっと光栄だよ
〇アン: 掛けてよろしい
〇ジョー: (ジョーがベッドの足元に座ったのでアンは慌てて足を引っ込める)これはどうも。君の名前は?
〇アン: 私の名前は…アーニャ
〇ジョー: ありがとう、アーニャ。コーヒーはどう?
〇アン: 今、何時?
〇ジョー: 一時半ぐらいだ
〇アン: 一時半!(アンはベッドから飛び出す)すぐに着替えて行かなくちゃ
〇ジョー: どうして?何も急ぐことはあるまい。時間はある。
〇アン: ないわ。これ以上迷惑をおかけしては
〇ジョー: 迷惑だって? とんでもない
〇アン: 違うの?
〇ジョー: お風呂の準備をするよ。(ジョーはバスルームに入っていき、バスタブに湯を入れる。そしてバスタオルをアンに渡す)さあどうぞ。
(ちょっと一言)
①目を覚ましたアンは自分がパジャマを着ていることに気付く。
Are these yours?「これはあなたのパジャマ?」
と尋ねた後で、ハッとした表情で布団の下に手を入れる。
何かを確かめた後でホッとした表情が彼女の顔に浮かぶが、この間何のセリフもない。
彼女は何をハッとしたのだろうか?
実は自分が口から出した言葉が現実のものになってしまったのではないかという不安がアンを襲ったのだ。
私のこの断定の根拠は前夜の大使館の寝室での伯爵夫人との会話にある。
こうだ。
「パジャマの上だけで。…何も着ないで寝る人がいるのをご存じ?」
そして幸いなことに今アンは「パジャマの上」だけでなく「パジャマの下」も身に着けていることを確認し、ホッと安心したのだ。
②この後二人の会話が続くが、ジョーの機智にとんだ会話がチャーミングだ。
「私は一晩中ここにいたのね…一人で?」
「僕を勘定に入れなければ―その通り」
「つまり、私は一夜を過ごしたのね…あなたと?」
「いや、まあ、正確に言うとそういう表現は適切ではないと思うけど…ある意味では…そうだ」
アンは暫く何かを考え、やがてにっこり笑ってジョーに握手を求める。
「はじめまして」
さて、ここで何故アンの顔に笑いが浮んだのだろう。
このシーンの前にも後にもヒントらしきものを私は見つけることが出来ず、原作の英語のシナリオにも笑いの理由は書かれていない。
答えを訊きたくても、監督のウィリアム・ワイラー、脚本のダルトン・トランボ、そしてここでの笑いの主のオードリー・ヘプバーンのいずれも、もはやこの世の人ではない。
「モナリザのほほえみ」ならぬこのシーンの「アンのほほえみ」は私の積年の謎だ。
③コーヒはどう?」Would you like a cup of coffee?「
とジョーは立ち上がる。
見ると小さなテーブルの上にコーヒーメーカーがあり(1953年のコーヒーメーカーだ!)手回しよくカップが二つ置いてある。これには準備が良すぎて笑いを誘われる。
しかし結局、アンはジョーが入れようとしてくれているコーヒーを飲むことはなかったことはこの後のシーンで分かる。
まことにおっかないイタリア人の掃除のおばさんが部屋に入ってくるのである。




