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4.06_第三次エミュー戦争。

人類は、エミューに2度の敗北を喫している。


第一次世界大戦が終戦した後に勃発した、第一次エミュー戦争。

魔法と魔力が地球に持ち込まれた後、楽園が崩壊し、魔力汚染が原因で勃発した第二次エミュー戦争。


そして今、青い街の住民が、赤茶けた大地に降り立ち、第三次エミュー戦争が勃発する。


前線基地を襲撃している、エミューの子孫であるE-REX。

魔力汚染により、恐竜の力と凶暴さを獲得した彼奴等から、人間の領域を守るのだ。


「エミューは、後退歩行するための筋肉が退化してるから、そこを意識して戦おう。」


上空からの降下時間を使って、3人は打ち合わせをしていた。

セツナが、動物の知識を2人に共有して、戦い方を組み立てる手助けをする。


「分かった、助かる。――フォーメーションはどうする?」


JJの問いに、ダイナが答える。


「E-REXは、前線基地の四方から攻めて来てるから、手分けしよう。

 JJは西側。セツナは東。南はボクが。一対多が得意なメイジを真ん中に置く布陣で戦おう。」


北側にはジャッカルが出撃している。

そこが現在、最も攻撃が苛烈だ。


そこをCEに乗るジャッカルに任せ、残りの三方面をダイナたちで受け持つ。


CEは、戦闘評価においてエージェント100人分の戦闘能力があるとされている。

E-REXが相手でも、そう簡単に遅れは取らないだろう。


なので、残りの三方向を3人で抑える。

ダイナを南に置いて、左右にJJとセツナ。


多数相手の殲滅能力に秀でるメイジのダイナを真ん中に配置して、左右で何かあった場合のバックアップを担当する。


赤茶けた大地が近づいてきた。

それぞれ、着地地点を定め、空中で別れていく。


地上には、黒い点が多数、前線基地に押し寄せている。

E-REXの群れだ。


攻撃ドローンがE-REXに銃撃をして群れを追い払おうとしているが、速力に秀でる彼らを捉えるには至っていない。

やはり、直接叩く必要がある。


セツナは、空中でポーションとコアレンズを取り出す。

青い液体の入ったポーションが輝き、それはコアレンズの形となった。


ポーションだったコアレンズを、魔導ガントレットのスロットに装填する。


パッシブの「青い活力」が発動。

ブレイブゲージを1つ消費して、アサルトゲージが2本分回復した。


さらに、ブレイブゲージが消費されたことで、パッシブの「英雄願望」が発動。

追加でアサルトゲージが1本回復する。


青い活力は、セツナがボルドマン戦でも使用していた。

その後、アップデートで調整が入り、仕様変更がされている。


現在は、ポーションの使用にブレイブゲージが要求されるようになった。

いわゆる、弱体化である。


ノーコストで使えた頃よりも、重いパッシブになったが、それでもアサルトゲージを2本回復できるのは強力。


――2本あれば、魔導拳士はコアスキルを使うことができる。


コアレンズを、ガントレットのスロットに装填した。


「ソードコア――。」


ソードコア × シルバームーン = 銀なる大輪(フルムーン・クリーオ)


空から銀色の光が降り注ぎ、宙を下るセツナを包む。

空から彼を追って、満月の姿をした銀の剣が顕れる。


銀の剣は、セツナを追い抜いて、先に地上に落ちていく。


スキル発動、 ≪ライトニングアクセル≫ 。

ライトニングアクセルは、ライトニングエッジが、パッシブの「風切る六本爪」によって変化したスキル。


セツナの足が稲妻を纏う。

稲妻が、それを纏う者に、電光の速力を与える。


空中を、雷のように急降下。

先を落ちている満月の剣に追いついて、柄を握りしめた。


満月の大剣に秘められた力が身体に流れ、勇躍の加護を獲得する。


身体を捻り、空中で旋回、大地はすぐそこ。

敵もすぐそこ。


着地に合わせて、スキル ≪シルバームーン≫ 。

大剣が銀月の輝きを放ち、権能を行使する。


落下の力と、回転の力。

それを大剣に込めて、赤茶けた異国の大地に縦一文字、叩きつけた!


満月が大地で爆ぜた。

大剣から溢れた銀色の魔力が、地上を我が物顔で疾駆する恐竜の群れを襲い、一網打尽にした。


同胞が、月の隕石を前に倒れたのを認めて、生き残りはセツナに敵意を剥き出しにする。


地面に突き刺さった大剣を、女神の愛情の如き重さの大剣を、全身を使って肩に担ぐ。


満月の剣は、本来は英雄が振るうべき得物。

「英雄願望」を抱いているような凡百には、満足に振るうことままならない。


E-REXの群れが、ぐるりと統率を率いてセツナに方向転換。

体長2メートルほどの軍勢が、時速50kmほどで突進してくる。


E-REXの祖先、エミューはヒクイドリ科に属する鳥類。

ヒクイドリは、オーストラリア大陸にも生息していた。


E-REXは変異と進化の過程でヒクイドリとも交雑し、ヒクイドリの特徴である鋭い爪と、頭にカスクという固いトサカを持っている。


鋭い爪は3本あり、その1つはかぎ爪になっている。

2本の鋭利な爪で敵を抉り、かぎ爪は内側に湾曲して敵を引き裂く。


足は、ヒクイドリに似ていて、恐竜の脚のように太い。


この太い脚は、強靭であるだけでなく、驚異的なスタミナと速度の源。

さらにE-REXは、この脚で約5メートルの跳躍を行う。


体長2メートル、体重120kgという、鳥類にしてはあまりにも筋肉質が過ぎる体躯。

中型の敵は、この筋肉質なフィジカルからの突進で蹂躙し、大型の敵には跳躍から体重を乗せた踏みつけ。


退化した翼は、飛ぶことはままならないが、空中での姿勢制御には役立つ。

尻尾は、爬虫類のように長く伸びて、それは地上での姿勢制御の役目を果たす。


100kgを超える巨漢が5メートルの高さから落下すれば、それだけで相当な威力となる。


そこに、足元の凶器による追撃が加わる。

鋭利なかぎ爪が、踏みつけて飛び降りる時に敵の肉を割き、体力を奪っていくのだ。


ずば抜けたスタミナを持つE-REXの狩りは、持久戦。

敵が体格で勝っていても、群れで踏みつけ、肉を削いで体力を奪い仕留めていく。


仕留めた獲物は、頭の固いカスクで骨を砕いて、骨髄をすする。


変わり果てたオーストラリア大陸において、E-REXは生態系の限りなく頂点に近い位置に君臨している。

楽園が崩壊した後の、新たなこの地の支配者なのだ。


E-REXの軍勢が、セツナに襲い掛かる。


セツナは、大剣を肩に担いだまま、横に一回転。

この大剣はまともに振るえない。遠心力の助けが必要だ。


満月の剣に、再び光が集まっていく。

大剣を肩から下ろし、両手で振るう。


横薙ぎの一閃が放たれ、銀色の刃から三日月が伸びていく。

三日月が、先駆けの群れを両断した。


更に満月の一撃。

横に旋回した力を利用して、大上段の一閃。


大剣を背中に抱えるようにして、大剣を大地に目掛けて振り下ろした。

満月が爆ぜる。E-REXの次鋒の群れを月の隕石が絶滅させた。


振り下ろしたら、素早くテレポート。


彼が居た場所を、中堅以降に続く大群が、地響きを立てながら通過していった。

あの波に飲まれたら、タダでは済まない。


ざっと目算だが、残り30頭は居る。

100kgを超える体重で踏みつけられては、人間の身体なんてあっという間に肉塊にされてしまう。


仲間が大勢倒れたというのに、彼らの攻撃は止まない。

魔法が無い世界の野生動物とは、感性と価値観が全く異なる。


E-REXが頂点捕食者たる所以は、外敵を徹底的に排除する、この凶暴性。

エミュー由来の繁殖力が、この無謀なまでの習性を生存戦略として成り立たせている。


地響きを立てて、土煙を上げる群れに、肌の表面を怖気が舐める。


乾燥した空気を肺に取り込んで、大剣を肩に担ぐ。

大剣の重みが、身体に喝を送り込む。


勇躍の加護、セツナは跳躍。

満月が、空高く昇る。


E-REXは、それに反応。

群れの先頭集団が、満月を追いかけて跳躍する。


満月の力も、女神の加護も無い、純粋な野生と筋力による跳躍。

たったそれだけで、セツナと同じ高度まで迫る。


(コイツ等、飛ぶのか!?)


E-REXが、ここまでの跳躍をできることを、セツナは知らない。

エミューとは、走鳥類とは、飛ぶのではなく走るものだ。


上空は安全地帯だと思っていたアテが外れる。


E-REXの鋭利なナイフは、大剣の一撃よりも速く届く。

一度、体勢を崩されれば群れに轢かれて終わる。


――テレポート。

自分が、JJとダイナに言ったことを思い出す。


エミューは、前にしか進めない。


テレポートで、空を飛ぶ集団の背後を取る。

スキル ≪ブレイズキック≫ を発動しながら、空中ジャンプ。


壁を蹴るように、E-REXの方向へと飛び立ち、横薙ぎに放たれた炎の蹴りが、最後尾のE-REXを捉えた。

茶色い羽毛が覆う、胴体に蹴りが突き刺さる。


固い。羽毛が固く、そして滑る。

脚が滑って、有効な打撃にはならなかった。


だが、本命は次の攻撃。

半円を描く太陽の力を使い、満月を輝かせる。


脚から炎が消えて、背負った剣に月が満ちる。

青い空に昇った月が一閃と輝いて、空を目指した鳥を叩き落とした。


青い空に月が昇るなど、まさに青天の霹靂(へきれき)

予想だにしない出来事。


セツナの足を、雷が包む。

魔力が溜まり、霹靂と裂け、電光石火となる。


スキル ≪ライトニングアクセル≫ 。

雷が落ちるように大地を目指し、両脚は大地を踏みしめた。


雷は、青天を斜めに落ちて、その影響で地面を土煙を上げて滑る。

大剣を担ぎ直す。


素早く着地して態勢を整えて、E-REXの狩りを徹底して拒否する。

月のように冷たく、地を駆ける動物が、決して我が身に触れることを許さない。


再度、E-REXたちが徒党を組んで突進してくる。


それは、頂点捕食者たる慢心。

肉体と頭数に頼った狩りは、それが通用しない相手には無意味。


確かに、それは一度でも成功すれば勝負は付く。


一本の糸口、一つの突破口。

取っ掛かりがあれば、後は数と質の暴力で、地上を駆ける津波で飲み込めば良い。


しかし、そこに至るための戦術、つまり頭が足りていない。


セツナは突進をテレポートで横に回避する。

突然、標的が消えることにE-REXは驚きつつも、彼らは脚を前に進める。


群れの横に移動したセツナは、マジックワイヤーを射出。

適当な個体にワイヤーを撃ち込んだ。


ワイヤーが巻き取られ、体重と筋力で劣るセツナが、E-REXに引きずられる形となる。

E-REXの健脚が、セツナを彼らの駆ける速度の世界へと招く。


時速50km。

生身ではとても体験できない。

人類最速をもってしても、この世界には到達できない。


車なら一瞬でこの速度に到達するが、生身で味わうこの速度は、恐怖心を抱くには充分な速度。

大地を滑りながら、E-REXの群れに近づく。


E-REXを乗りこなし、恐怖心を乗りこなし、月の勇躍の加護を使い――、空へと飛んだ。


飛ぶ直前に、 ≪ブレイズキック≫ を発動。

セツナの宿す速度が、E-REXを上回る。


大剣が銀色に輝く。

大剣は、宙で縦に回転し、隕石となって大地に突き刺さり――、爆ぜた。


恐竜が絶滅するのも、時間の問題であろう。



セツナは、大剣を肩に担いで、周囲を確認。

自分の担当は、片付いたらしい。


先ほどの戦いは、徹底して敵の接近を拒否する、とても冷たい戦い方だった。

近強遠弱のバランスからは考えなられない、「待ち」の戦い方だった。


だが、それがE-REX戦では次善の策であったように思える。

まともに殴り合いができる相手ではない。


1対1ならば、それも叶うだろう。

しかし、50頭ほどがガン首を揃えて突進してくるのだから堪らない。


シチュエーションによっては、追っ手からひたすらに逃げる、逃走イベントとか脱出イベントの類いである。


数と質の群れ。

本来、魔導拳士が苦手としている集団相手の戦闘も、ソードコアのおかげで幾分か楽になった。


ありがたい。月の女神様、万々歳だ。


息をつくセツナに、プレイヤー用の通信から連絡が入る。

声の主は、JJだ。


「あ~、ダイナ。援軍を頼めるか?」

「OK。任せて、いまそっちに行く。」

「頼む。()()()()()()()()の相手は、1人じゃ荷が重い。」


‥‥‥‥。

ティラノサウルス?


セツナが、ツッコミを入れる。


「JJ、今は冗談を言っているような場合じゃ――。」


その瞬間。

セツナを照らしていた太陽が、陰る。


雲も木立も無い場所で、セツナの上に影ができる。


――空からの強襲。

咄嗟に大剣を目の前に構える。


大剣は、甲高い音を立てて、火花を巻き散らす。

身体が、攻撃の威力で後退していく。


「ごめん、こっちも忙しくなった。恐竜退治、がんばって。」


そう言って、セツナは大剣を担ぎ直した。

刀身にヒビの入った、亀裂が走る満月の大剣が、肩に乗る。


眼前には、ボクシンググローブを装備した、一匹のカンガルーが立っている。

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