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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
4章_夢の跡地

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4.05_上陸。

突如、輸送機に現れた銀髪灰瞳の女性。

レイの面影を美しい相貌に残した、歪んだ三日月はエージェント3人を圧倒。


機内の壁に叩きつけれて動けなくなったセツナにトドメを刺すべく、女性は彼の心臓に貫手を放った。

しなやかな腕は槍のように、長い指はナイフのように、セツナに襲い掛かる。


攻撃にためらいは無く、口角が吊り上がり、瞳には暗い光を宿している。


腕が伸び、指が迫り、彼に触れるその瞬間――、世界に色が戻って来る。

輸送機が亜空間を抜けて、テレポートの移動が終わったのだ。


すると、女性の姿が機内から消える。

同時に、セツナの目前まで迫っていた凶刃も掻き消え、輸送機の中に影も形も残さない。


脅威の喪失は突然に。それが訪れた時と同じく、突然に去って行った。

暗い月は沈み、輸送機の小さな窓から、青い空と白い太陽が覗いている。


輸送機が、彼女が去った影響か、あるいは戦闘の余波か、亜空間を抜けると大きく揺れて音を立てる。


「――なんだ!?」


パイロットのブレッドが、機体の異常な揺れに驚愕する。

揺れは、機体を一度大きく揺らすも、すぐさま収まった。


アリサは、すぐに輸送室に乗っている3人に通信を入れる。


「エージェントの皆さん、異常はありませんか?」

「‥‥‥‥。」


アリサの通信に、返事は無い。

セツナは、矢継ぎ早な状況の変化について行けず、呆けてしまっていた。


アリサの声で我に返り、自分の胸元へと顔を下げ、胸に右手を置く。

――穴は開いていない、無事なようだ。


床に伏していた、ダイナとJJも腕や脚がピクリと動き、身体を床から起こす。

2人に声を掛ける。


「2人とも、大丈夫?」

「うぅ‥‥、あんまり大丈夫じゃない‥‥かも。」

「くっそ‥‥、何だったんだ? あれは?」


戦闘状態が解除され、3人の体力が回復する。

貯まっていたアサルトゲージは空になり、重傷を負っていた身体は即座に全快した。


ダイナの爆ぜて焦げた腹部も、JJが負った胸と顔への火薬と重撃も、セツナの身体を裂いた三日月の痕も、綺麗さっぱり回復する。


この世界において、プレイヤーは不死である。

しかし、不死で無ければ、この世界の悪意には到底、打ち勝つことなど不可能であろう。


いつ、何時、自分にとっての死が訪れるのか分からない。

文明が崩壊した世界で、英雄になるという事は、そういうことだ。


死から学び、やり直し、与えられた使命を果たすのだ。

――心が折れるまで、何度でも。


セツナは、2人が無事を確認したあと、安堵の溜め息。

身体を壁に預ける。


ダイナは、上体を起こしたあと、自分のお腹をさすっている。

JJは、両手で顔を洗うように覆って、両肩を軽く回している。


それぞれ、取る行動は三者三様で違うものの、表情は三者一様に同じ。


身体の傷は癒えて痛みは消えた。

表情に苦悶は無く、困惑と疑問を色濃くを浮かべている。


輸送機の操縦室と輸送室を分ける扉が、静かに開く。

アリサが、返答の無い3人の様子を確認するために、扉を開けたのだ。


アリサが扉を開けると、こちらを見る3人の視線が集まる。

3人は、なぜかみんな床に座っている。


先ほどの大きな揺れと関係があるのだろうか?


「皆さん、どうかされましたか?」


困惑顔の3人に、困惑してしまうアリサ。


アリサの問いに、3人は同時に、今度は困った顔をする。

セツナが、苦笑いをして、アリサに答える。


「襲撃があった。亜空間の中で、レイに似た女性のね。」



3人は、アリサとブレッドに、亜空間で起こったことを共有した。


灰色の空間の中で、銀髪の女性と戦闘があったこと。

3人は交戦するも、圧倒されてしまったこと。

亜空間を抜けると、女性は影も形も姿を消したこと。


輸送室に、戦闘の痕跡は残っていなかった。

床や壁にあるはずの弾痕、火薬痕、壁に叩きつけれて歪んだ痕、どれも残っていなかった。


しかも、アリサが言うには、亜空間のトラベルは一瞬で終了したと言う。

交戦できるほどの時間的な猶予は無かったと説明された。


‥‥‥‥。

まるで、夢に浮かされていたようだ。


だけども、それが夢で無かったと、銃の残弾が示している。

亜空間で消費した弾丸は、銃のマガジンから消えていた。


ダイナの銃も、セツナのリボルバーも、残弾が減っていた。


その事実が、トラベルの間に何かがあったことの、わずかな証拠なのだ。

アリサとしては、事実の確認のしようが無いので、3人の発言を信じるしかない。


「不可解な点が多いですが、ご無事で何よりです。」


彼らを信じることにして、頭の中の疑問を隅に片付ける。


「当機は、まもなくオーストラリア大陸に上陸しますよ。」


セツナたちも、頭の中の疑問を各々で片付けて、気持ちを切り替える。


夢の跡地の調査。

今までに出された謎の答え合わせをするために、セツナたちはこの地に来た。

だのに、任務早々、謎がひとつ増えた。


ままならない、本当にままならない。


亜空間に現れた、謎の女性。

彼女が、レイと関りがあるのは、火を見るよりも明らか。


もし、次にレイと会うことがあるのなら、彼女のことも聞かなければならない。


輸送機の眼前には、オーストラリア大陸が見えてくる。


現実世界の鎖国にあっては、彼らにとって貴重な海外を体験できる機会。

窓から外を除くと、散り散りな雲の下に、赤茶けた大地がどこまでも広がっている。


母国の、飽きるほどの緑に包まれた大地とは、大きく様相が異なる国。


オーストラリア大陸の、西部台地。

国土の3分の2を占め、砂漠とサバンナが広がる大地へと、エージェントたち一行はやって来た。


オーストラリア大陸は、3つの地形に分かれている。

東部高地・中央低地・西部台地の3つだ。


東部高地は、現実世界では首都シドニーがあり、オーストラリアの人口はこの東部高地に集中している。

東部高地と中央低地を隔てる、グレードディヴァイング山脈という、全長3,500km・標高2,228mの山々が東部高地に降水の恵みを与えているのだ。


日本がすっぽりと収まってしまうような長い山脈。

それが、乾燥地帯の国土であっても、人が暮らせるだけの恵みを与えている。


中央低地は、半乾燥地帯が広がっている。

古くから羊や牛の放牧が行われ、居住区は少ない。


セツナたちが暮らしている時代では、緑化が進み人が住まえる居住区が増えているものの、やはり畜産が主産業となっている。

かつて畜産は東部高地が主流であったが、緑化が進むにつれて、その舞台はこの中央低地に移った。


広大な土地でストレスなく育った家畜の肉や乳は、非常に高品質として知られている。


オーストラリア牛、オージー・ビーフと呼ばれる牛肉は、赤身で脂肪が少なく、それでいて肉の旨みが凝縮されている。

さっぱりとしていて旨みが濃いため、食べ盛りの若者であれば、それを1kgのステーキで出されてもペロリと平らげられてしまう。


鎖国の時代にあっても、食に貪欲な日本人が輸入している美味である。


セツナも月に1度、行きつけのステーキハウスでオージービーフを食べている。

ステーキとハンバーグとのコンボメニューがお気に入り。


そして、此度の冒険の舞台である、西部台地。


オーストラリアと聞いて思い浮かべる、赤茶けた大地。

それは、この地に広がっている。


世界最大の岩石であるエアーズロック (ウルル)も、この場所にある。


現代では、環境の多様性を保護するために、あえて緑化を進めておらず、歴史を超えて過去のままの姿を維持している。

西海岸が発展するに留まり、ウルル近辺は今もなおサバンナの地形が維持されている。


輸送機の下にも、現実世界と同じ赤茶けた国土が延々と続いている。


「おお、赤い!」


日本では見られない環境に、そわそわし始めるセツナ。

異世界に行かなくても、現実だって、一歩外に出れば充分にファンタジーだ。


JJとダイナも、窓の外、窓の下の風景に見入る。


「広くて平らだな。」

「もう、海が見えなくなっちゃった。」


オーストラリアは、日本の国土の約22倍の広さがある。

北半球と南半球の反対側に位置しているだけあって、何から何まで対極的に思える。


そうやって、窓の外の景色を堪能していると、通信が入る。

通信の主は、前線基地に駐屯している、ジャッカルからだ。


「こちら前線基地のジャッカル。」

「ジャッカルさん、こちらアリサ。」


本任務の指揮官であるアリサが、ジャッカルの応対をする。


「前線基地に、E-REXの襲撃。かなり数が多い、増援を依頼したい。」

「了解。全速力で向かいます。――到着まで、5分。」


「了解。俺も出撃し、E-REXの掃討にあたる。アリサ、CEの出撃許可を。」

「CEの出撃要請、受領します。直ちに出撃し、驚異の排除を。」


互いに、手短に連絡を取り合って、通信を終えた。

端的かつ手短に、プロ同士のやり取りだ。


すかさず、ブレッドがセツナたちに通信を入れる。


「聞いた通りだ。飛ばすぞ! シートベルトをしっかりしとけ!」


窓から視線を離し、席に着席して、シートベルトを着けた。

輸送機の速度が上昇し、機体が大気を切り裂いて、微小に振動している。


足の裏やシートから、空気を切り裂いた衝撃が微細な振動となって伝わってくる。


機体は、全速前進。

前線基地を襲撃している、E-REXの排除へと急行する。


‥‥E-REX?


疑問に思っていたところに、輸送室にホログラムディスプレイが表示される。

そこには、ダチョウのような鳥? が表示されている。


ダイナがセツナに声を掛ける。


「生物博士。出番だよ。」

「頼んだ。」


ダイナに続き、JJもセツナに解説を求める。


「えぇ~‥‥。」


聞き慣れない生き物の名前に困惑しつつも、表示されたダチョウ(仮)をまじまじと見る。

オーストラリアで、ダチョウに似た生き物と言えば、覚えがある。


「もしかして、E-REXってエミューのこと!?」

「その通りです。セツナさん、お詳しいですね。」


セツナの困惑混じりの発言に、アリサが答える。


エミューとは、ダチョウに似た鳥類で、ダチョウ次いで巨大な鳥である。

ダチョウと同じく地上を走り、ダチョウ同じく強靭なフィジカルと俊足を誇る。


‥‥そして、地球において唯一、人類に勝利したことがある鳥類である。


アリサが、E-REXの詳しい解説に移る。


「E-REXは、セツナさんが言った通り、元々はエミューという鳥でした。

 しかし、人類が科学界に持ち込んだ魔力の影響を受けて、変異した個体が目撃されるようになりました。

 それが、E-REXです。」


「地球の生態系には存在しなかった魔力が原因で――、魔力汚染が原因で変異したってこと?」

「はい。E-REXは、鳥の祖先である恐竜の特性を有しており、非常に凶暴です。」

「先祖返りしたんだ。」


エミューは、比較的穏やかな性格であり、積極的に人を襲うようなことはしない。


‥‥ただ、ただちょっと大食漢で、ただちょっと繁殖力に優れていて、オーストラリア農家の畑を荒らしまわっただけである。

そして、それを排除しようとした人類は銃器で応戦するも、エミューに決定的な打撃を与えられず、人類側の物資が尽きて戦争に敗北した。


「E-REXは、進化の過程で動物の肉も食べるようになりました。

 エミューの頃と同様に、草や昆虫も食べますが、群れで他の動物を狩ることもあります。

 また、特定の縄張りを持たずに、強靭な脚力を活かして常に移動を行いながら生活をしています。」


「長距離を大移動しながら暮らす捕食者は、厄介だなぁ‥‥。」

「彼らが原因で、オーストラリア大陸は人類が住めない大地となっています。」


行動範囲が広く、凶暴で、大食い。

しかも群れで行動して、繁殖力が高い。


なるほど、エミューに人類が2度目の敗北をするには充分な理由だ。

前線基地は、このE-REXの習性と、巡り合わせの不運によって、憐れ狩りの標的にされてしまったのだ。


E-REXの解説が終了したところで、輸送機の速度が少し緩む。


「良し! 目的地の上空だ。ここからは、自分の脚で現場に向かってくれ。」


ブレッドがエージェントに通信を入れ、輸送室の後部が上から下へと開いた。

そこから飛び降りて現場に向かえという事だろう。


輸送機には、指揮官でありオペレーターのアリサが搭乗している。

危険な戦闘区域に不用意に近づく訳には行かない。


3人はシートベルトを外し、席から立ち上がる。

機内に入り込む風が、服や髪を煽る。


互いにアイコンタクトを取って、頷きあい、3人同時に空へと飛び立った。


「セツナさん、JJさん、ダイナさん。お気をつけて。」


3人は青い空から、赤茶けた大地へと降りていく。

異国の大陸を舞台に、いよいよ冒険が始まる!

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