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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
3.5章_サイドミッション

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SS3.3_アウトロー・デイズ ~無法者たちの日常~

セントラル上空。


そこでは、2機のヘリがドッグファイトを繰り広げていた。

敵機に背後を取られて逃げているのは、ダイナが乗っているヴィラン側のヘリコプター。

それを追いかけているのが、警察側の攻撃ヘリである。


ヴィラン側のヘリは汎用ヘリコプター(多用途ヘリコプター)に武装を施した物なので、火力で戦闘用の攻撃ヘリに押されている。

先制されたこともあり、普通であれば、ここから巻き返すのは厳しい。


ダイナが梯子に掴まっていることもあり、アクロバティックな動きをする訳にもいかない。

‥‥ジリ貧である。


――この世界に、魔法が無ければ、の話しであるが。


「くらえ! 魔法のフルコース!」


フレアボール、敵機に回避を強いる。

マジックサイクロン、敵機を竜巻に閉じ込め機動力を奪う。

サンダーボルト、機動力を奪った敵機に雷の雨が降り注ぐ。


隙ができた。


ヘリのパイロットがすかさず、操縦桿を操り旋回する。

同機に搭乗しているクルーが、ヘリの扉付近に備え付けられているドアガンを射撃、動きの鈍った敵機に追撃する。


そして――。


「アイスランス。」


テレポートとマジックワイヤー、それから空中ジャンプを駆使して、ダイナが敵機に接近していた。

近接魔法の間合いに敵機の横っ腹を捉え、鋭利な氷塊が鉄の鳥を穿った。


敵機の揚力が衰え、墜落しはじめる。


ダイナは攻撃ヘリを蹴りつけて、空中に飛び出す。

空の海から沈みゆく船から離脱した。


テレポートで移動し、汎用ヘリから伸びる梯子を掴んだ。

パイロットが気を利かせて、ヘリを近づけてくれたおかげで、楽に梯子を掴めた。


墜落する敵機を、ヴィラン側は空から見送った。

クルーから、歓声が起こる。


ダイナの生身でのフライトに、心打たれたようだ。

パイロットが通信を入れる。


「やるな、まるで鳥のようだ。」

「ふふ~ん。それほどでも‥‥、あるけどね♪」


ドアガンを撃っていた銃手がマジックワイヤーを伸ばし、梯子に掴まったダイナを機内へと持ち上げた。

ダイナは、銃手に礼を言う。


「ありがと。」

「ナイストライ。」


銃手からサムズアップが返ってきた。

サムズアップに、サムズアップで答える。


ヘリの人員は、全員で4名。

パイロット・サブパイロット(副操縦手)・ガンナー2名。


助けてくれたお礼を言って、肩に掛けていたバッグを下ろす。

バッグの中身は、暴れ回ったせいで、半分くらいまで減ってしまった。


まあ、中身なんてどうでも良いのだ。

結局のところ、みんな暴れる理由が欲しいだけなのだから。


それが銀行強盗だろうが、コンビニ強盗だろうが、車泥棒だって良い。

小銭入れの、1クレジットを巡って戦争をしたって良い。


PvPの青い街とは、そういう世界なのだ。

――でも、やるならやっぱり、大きな仕事が良い。


「よし、お嬢さんをピータールイス(PL、ポイントL)までエスコートする。」


パイロットが操縦桿を切り、進路を決める。

パイロットの号令に、他の乗組員である3人が茶々を入れる。


「おてんば娘のエスコートねぇ?」

「それは、振り落とされないようにしとかないとな。」

「シートベルトでもしとくか?」


乗組員に、からかわれてしまった。

ぷく~っと、ダイナの頬が膨らむ。


「なんだとぉ~! あまり女の子をからかうと、ヒドいんだからね!」


乗組員の茶々に、ダイナはぷんぷんご立腹。

機内には、笑顔と笑い声が響いた。



都市部(センター)、某所。

複数あるPLの一角。


シャッターの閉まった平屋の建物の前で、2人組の男がタバコを吸っていた。


建物の壁に背中を預けている者。

歩道にヤンキー座りをしている者。


いずれも武装し、タクティカルベストという武器や弾丸をしまう上着を身に着けている。


吸っているタバコは、ノンタール・ノンニコチン。

フレーバーはエナジードリンク味で、タバコが吸えない人でも、気分と雰囲気を楽しめる。


甘い煙をもゆさせて、荷物が届くのを待っている。


PvPには、サーバー内のルールにもよるが、いくつかのポジションが存在する。


別にポジションがルールで決められている訳ではなく、プレイヤー個人の経験と、プレイヤー全体の集合知により、プレイスタイルとポジションの分化がなされていった。


積極的に犯罪を起こす、バンディット。

積極的に事件の現場を取り締まる、アサルト。


PLに持ち込まれた窃盗物を守る、ポーター。

PLに持ち込まれた窃盗物を押収する、ハウンド。


おおまかに、この4つのポジションが存在する。


今ここで、タバコを吹かしている2人は、ポーターということだ。


バンディットは、必ずどこかしらのPLを利用する。

ならば、PLに張り付いていれば、向こうから闘争(ゲーム)がやって来てくれる。


いわゆる、出待ちというヤツだ。


もちろん、あまりにもPLにポーターが集まり過ぎると、パトロールしているアサルト集団にPLの場所を特定されるため、そこは人数を分散し上手いこと誤魔化している。


重要な拠点なのに、守りが2人だけなのは、そのためである。


ヤンキー座りをしていた男が、タバコを地面に捨てて、新しいタバコをくわえる。

ポケットからライターを取り出す。


100クレジットで買える、安価なライター。

‥‥よく見ると、オイルがもう無い。


試しに、フリントホイールを回して、火を起こしてみる。

カチカチと、ライターが音を立てるが、火はつかない。


オイルが無いのだから、当然である。


タバコをくわえたまま親指を動かす彼の横から、ジッポーの火が差し出される。

高級感のある金属の音を立てて、柔らかい火が差し出された。


手で礼をして、火を拝借する。

タバコの先端に火がついて、フレーバーのエナジードリンクの香りが口いっぱいに広がる。


束の間の平和と安息を、一服の煙と共に吸い込む。


すると、空の方が騒がしくなってくる。

ヤンキー座りを止めて立ち上がる。


2人して、空を見上げる。

音はどんどん近くなり、周囲に植えられている植物を揺らす。


それから間を置かず、青い街の建物を掻き分けて、空からヘリコプターが現れた。

ヘリの所属はヴィラン側。味方のヘリである。


ヘリは、道路の上に止まり、そこからロープが垂らされて、プレイヤーが降りてくる。


1人は金髪の少女、バッグとリュックサックを担いでいる。

その彼女を護衛するように、2人の男が降下し、銃を構えて周辺のクリアリングにあたる。


少女が駆け寄ってきた。


「車を!」


新しく火をつけたばかりのタバコを投げ捨てる。

火を貸してくれた相方の肩を、2回叩いて合図する。


合図を受けた男は、タクティカルベストの肩に止められた無線で通信を行う。


「こちらポーター1、荷物が届いた。死にたいヤツはついて来い。」


無線を通じて、ポーター仲間たちにゲームの到来を告げる。


平屋の閉じられていたシャッターが開いた。

――捨てられたタバコは甘く燻り、良質な香りを漂わせている。



「こちらポーター2、了解した。そちらに向かう。」


路肩に留めた車の中で、運転席を後ろに倒し、週刊エージェントをアイマスクに寝転がっていた男が、車の無線を使い返答する。


身を起こし、運転席を起こし、助手席に乗っていた相方を探す。

「カワイ子ちゃん発見!」と言って飛び出して行った相方は、ナンパをするために外に出て行った。


驚いたことに、今もナンパの真っ最中だった。

いつもは、もうとっくに鉛弾をくらっていてもおかしく無いのに、今日は雨が降る。


いったい、何を話しているのだろうか?

‥‥‥‥。


時は少し巻き戻り。


「なるほど、ガンスリンガーはそのように立ち回れば良いのですね。」

「そうそう! ――って言っても、今作からのクラスだから、みんな手探りなんだけどね。」


相方の方は、女性アバターのプレイヤーを見つけて、自分たちの陣営に勧誘すべくナンパを決行していた。

()()がどうであれ、カワイ子ちゃんが居ると、テンションと士気が上がるのだ。


そんな訳で、彼は目についた見目麗しき電脳のレディたちへ、手当たり次第に声を掛けている。

いつもは、声を掛けて1分もすれば鉛弾をくらうのだが、今日は調子が良い。


けっこう話せている。オレの話術も捨てたものでは無い。

電脳世界の幸運の女神様にも感謝だ。


本当に――、まったくもって――。

まったくもって、最悪だ!


「ありがとうございます、ご丁寧に。

 まだ、ハードVRに慣れてなくて、分からない事だらけなんです。」

「いいって、いいって! 最初はみんな初心者なんだからさ。」


目の前の、(ツラ)の良いオンナ‥‥。





なんか瞳が怖い!


別に、こちらを睨みつけてきているという訳ではない。

むしろ、社交的な笑顔を浮かべている。


金髪碧眼の笑顔が、荒んだ女日照りのコミュニティに眩しい。


ベレー帽に修道服という格好は、都市部の端っこにある教会のそれだ。

こんな世の中だから、修道服のデザインには、軍服の意匠が見られるものになっている。


彼女の物は、それを少々アレンジして改造しているようだ。


太陽のような笑顔に、カッチリとしつつ、楚々とした服装。

これは人気者になれる逸材だ。


しかし、こんな暴力と闘争の世界に身を置く者だから分かる。

この女はヤバい!


瞳の奥に、肉食獣のような凄みを隠している。


――直感では無い、確信がある。

この女に背中を見せたら、()られる!


自分からナンパを仕掛けておいて、都合が悪くなったら「ハイさよなら」とかいうチキンは、死んで然るべき。

青い瞳が、言外に「まさか、逃げませんよね?」と凄んでいる。


男に与えられた選択肢は、このまま彼女と、青い日盛りの下でお喋りを続けることだけなのだ。


彼女は恐らく、中身も女性なのだろう。

あまり、リアルを詮索するつもりは無いのだが、それとなく分かってしまう。

居住まいや立ち居振る舞いが、長年女性として生きてきた者のそれだ。


だがしかし、彼女の纏う雰囲気は、強者のそれだ。

どうせ今の状況だって、「怖いことされたら、銃を抜けばいいか。」くらいの感覚でいるのだろう。


ハードVR歴が浅いのに、妙に肝が座っている、場数慣れしている。


年頃の女性にありがちな、「きゃ~」とか「わ~」とかの、キャピキャピした感じが無い。

女社会の人間というより、男社会の空気に慣れている雰囲気だ。


勝負の、酸いも甘いも知っていて、戦いの中の楽しさと悔しさを面白がっている面構え。

それでいて、女であるという強みと、男の弱みを利用するのを躊躇しない、面の厚さ。


目の前の、感謝の笑顔が、楚々として明るい太陽が、オレはとても怖い。





――正直に言って、ご褒美です。(!?)






‥‥この男は、生粋のバカであった。


「そういえば、その格好に2丁拳銃のガンスリンガーって、もしかして――。」

「分かりますか! これ、ノエル=ヴァレンタインっていうキャラを真似してみたんです!」


グイっと、身体をこちらに寄せてくる。

どうやら、クリティカルを引いたようだ。


気圧(けお)されてしまう。


「それはまた、レトロな格闘ゲームのキャラが好きなようで‥‥。」

「はい! 小さい時から好きで、ハードVRなら私も彼女に近づけるかなって!」

「‥‥ん? もしかして、ここ最近ゲーセンで見かけるようになった、格ゲーが強いプレイヤーって――。」


後ろから車のクラクション。

どうやら仕事の時間らしい。


「ごめん! 仕事だ! お喋りできて楽しかったよ!」

「すいません、こちらこそお引止めして。ありがとうございました。」


またね~と、男性は車に乗り込んだ。

車は、改造されたマフラーから、品の無いエンジン音と黒い煙を吹かせながら、セントラルの街並みに消えていった。


車内では、助手席に座った男が、ほっと一息。

タバコに火をつける。


「いや助かった。取って食べられるところだった。」

「‥‥‥‥?」


要領を得ないナンパ男の発言に、疑問符を浮かべながらハンドルを操作する。


金髪碧眼のバトルシスターは、車を見送り、空を見上げる。


プレイヤーネーム、ハル。

本名、久遠(くおん) 遥花(はるか)


(私もこの世界に来たんだよ、お兄ちゃん。)


ハルは、混沌の青い街を見学する。


ハードVR、M&C。

――面白そうだ。

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