SS3.2_ハードライン
理外を臨む乙女、レイ。
銀髪灰瞳の女性は、理外者に「夢の跡地」を指差した。
そこに、エージェントたちが追っている世界の秘密があると言う。
詳しくは現在、CCC支部で調査部隊を結成し、先行調査が行われている。
その間、理外者たちは別の任務をこなし、力を蓄えるように指示が下った。
◆
M&C、PvPサーバーでは、秩序と悪の戦いの火蓋が切って落とされた。
セツナ、JJ、ダイナの3人は、悪側の勢力。
3人の連携と親睦を深めるために、銀行強盗に及んだところである。
そんな彼らに、警察が徒党を組んで、銀行に強行突破を仕掛けてくる。
問答は無用だし、不要である。
「Go! Go! Go!」
「Move on! Move on!」
過激な警察たちの声が屋外から押し寄せてくる。
3人は、ダイナの指示で銀行の屋上を目指す。
逃走用の車は、すでに潰されてしまった。
職員用のバックヤードから飛び出して、入り口近くにある階段を目指す。
すると、銀行の入り口が一層騒がしくなる。
人の足音と怒声に混じって、車のエンジンの高鳴る声が響く。
エンジン音は、何やらギッコンバッタンと段差でも駆け上がるような騒音を伴って、銀行に近づいて来る。
それは、3人が建物の入り口に広がる、エントランスフロアに到達した瞬間――。
ガラス張りの出入り口を破壊して、豪快な音を伴って屋内に押し入ってきた!
扉を破壊したのは、1台の覆面パトカーであった。
10数段の階段を車で登って、小型のパトランプを光らせながら、そのまま突っ込んで来る。
PvPサーバーでは、何をやっても良い。
ワルを取り締まれるのならば、器物破損、過剰防衛、何でもござれである。
自制心の枷から放たれた秩序勢力が、平然とダーティプレイをかましてくる。
パトカーは、犯罪者3人組の姿を認めると、アクセルを吹かし速度を上げて突っ込んで来る。
「Fuuuuu!! 名誉の一番槍ぃ~!!」
敵も味方も聞くことができる、オープンな無線を通して、ドライバーの声がクリアに聞こえる。
「逃げてみな! ノロマどもッ!」
ご機嫌な調子の覆面パトカーは、3人の中の1人を狙い突進する。
アクセルが高鳴って、突然の強襲に反応が遅れた、パーカーの男を跳ね飛ばした。
ボストンバックに詰めた札束が舞い上がる。
セツナはぶつかる瞬間、ボンネットに背中から飛び乗って、正面衝突を免れる。
車の天板をころころ転がって、床に落ちた。
「あぁ~‥‥、もう! そんなのアリ?」
ごちるセツナに、車の追撃。
車は、華麗なドリフトでボディを切り返す。
タイヤの滑るスキール音で、大理石の床に黒い落書きを描く。
アクセルが踏まれ、エンジンが高鳴り、現金の詰まったバッグを踏み潰して、再度セツナに突っ込んで来る。
それにダイナと、JJが反応する。
ダイナは、セツナに向かってマジックワイヤーを射出。
「レスキュー。」
車の直進軌道上からセツナを救出した。
代わりに、片手で火薬鎚を握りしめたJJが車の前に立つ。
「インターセプト!」
火花と黒煙が発生し、車の鼻先を下からカチ上げた。
車は宙を舞い、バックフリップを決めて、タイヤが上を向いて滑りながら着地した。
「――マジか!?」
ドライバーの驚嘆の声が通信から漏れ聞こえる。
その脇でダイナが、セツナを手繰り寄せて、手を貸し立たせていた。
セツナが2人にお礼を言う。
「ありがとう、二人とも。」
「へへ、災難だったね。」
ダイナが笑顔で返し、JJは鎚を持ち上げて、彼のお礼に答える。
すると、第2波の到着。
警察が銀行に踏み入り、同時に発砲を開始する。
ダイナとセツナは階段に走って逃げるが、JJが取り残されてしまう。
JJは、横転した車の影に隠れる。
JJは、2人に通信で先に行くように伝える。
「ここは任せろ! 考えがある。」
「OK、後で合流しよう。」
「任せたよ。」
セツナとダイナは階段を進み、突入部隊の相手を、JJがすることになった。
残りの2人は、2階建ての建物の階段を登り、屋上へと向かう。
さて、1階に残ったJJ。
彼を射殺するべく、彼が隠れている車に一斉掃射が行われる。
‥‥車には、ドライバーが乗ったままである。
ドライバーの乗った車が、味方からの銃弾を受け止める。
「オイオイオイ! オレの相棒を撃つんじゃない! 聞いてんのか!」
運転席側の窓を覗きながら、味方の射撃を止めさせようとする。
「構うな! 撃て!」
「墓に花は添えてやるぜ、ブラザー。」
「コラテラルダメージだ、致し方無い犠牲だ。」
平和のための、やむを得ない犠牲と味方の1人がのたまい、略式の十字を切る。
「ザッケンナ! クソがッッ!」
この世界では、プレイヤーの命は最も無価値である。
無価値であるから、味方であっても平然と切り捨てる。
敵に反撃の機会を与えないように、銃撃でカバーに釘付けにする。
この場では、それが次善の策なのだ。
例えフレンドリーファイアの設定がオンになっていても、それは変わらない。
デスしてもリスポーンするのだから、当然と言えば当然である。
車は防弾仕様なのか、存外と銃撃を耐えている。
これも、対人を想定するのならば、当然のカスタムではある。
JJは、火薬刀を手に持つ。
車の影に、左肩に掛けていた2つのボストンバックを下ろす。
刀の鞘についてあるレバーを引き、火薬と斬撃の準備。
レバーコッキングの音に気付いたドライバーが、今度は助手席側の窓を覗きながら声を荒げる。
「オイ! そっちはそっちで何をしようとしやがる!
相棒に傷ひとつつけてみろ! タダじゃおかないからな!」
上下逆さまになって抗議するドライバーに、JJはいつもの調子で返す。
「安心しろ、峰打ちだ。――助けてやる。」
刀の刃が上を向くように構えて、引き金を引く。
火薬が炸裂して、その勢いで刀が鞘から引き抜かれる。
刀を下から上に振り抜く。
峰で攻撃を行う。
「飛燕刃。」
炸裂した火薬が爆炎と爆風を巻き起こし、車に命中する。
「ヘイヘイヘイヘイッ!?!?」
車は爆風に煽られて吹き飛び、射撃を行う警察側に突っ込んで行った。
警察は、それを各々回避。
車は音と揺れを伴いながら、タイヤを床に着地させる。
「――お?」
横転から復帰した状況を理解し、喜ぶドライバー。
射撃が止んだ隙間を狙って、彼の車の助手席にバッグを抱えたJJが飛び込んで来る。
現金が車内に舞い、それを後部座席に乱暴に投げ込む。
「ひとつはアンタの取り分だ。相棒に、うんとオメカシさせてやれ。」
「マジ!!」
「今、俺は足が欲しい。分かるか? 最高のマシンと、ドライバーだ。」
ドライバーはクラッチを踏み、車のギアを操作する。
「ここにいるぜ! 任せな!」
‥‥ドライバーは、JJに懐柔されて、あっさりヴィラン側に寝返った。
愛車を傷つける味方よりも、愛車のことを気に掛けてくれる敵である。
車が、ドライバーの意思を汲み取り、タイヤを唸らせる。
彼もまた、乗り手たるドライバーに、平気で銃口を向けた仲間たちにご立腹のようだ。
ハンドルを通じて、互いの感情が伝わり合う。
車が動き出す。
屋内をドリフトで旋回しながら、隊列が崩れた警察を跳ね飛ばしていく。
「これは相棒の分だ!」
突然の裏切りに、警察勢力は反応が遅れ、それなりの被害を出した。
エンジンルームに閉じ込められた怪物が、屋内という狭い空間に雄叫びを反響させ、仇名すノロマを肉薄していく。
ひと暴れしたところで、風通しの良くなった出口から銀行を飛び出す。
速度の乗った車は階段をひとっ飛び。
「Fooooooo!! 最っ高のジャンプだ!」
銀行を包囲するパトカーを踏みつけて、青い街の風を追い抜きながら、車は現場から消えていった。
◆
セントラル銀行の屋上。
1階の階段を登り、営業フロアを見下ろせる2階の吹き抜けを通り抜けて、鐘楼に繋がる螺旋階段を駆け上って、施錠された扉を蹴破って、セツナとダイナは屋上に出た。
ここから、建物の屋上を飛び移って、戦闘区域から逃げ出すつもりだ。
銀行強盗において、ヴィラン側が勝利する条件は、窃盗物をポイントL(※)まで運び、ポイントLを一定時間防衛すること。
※ポイントLの由来は、資金洗浄の英訳「money laundering」から。
ポイントLとは、簡単に説明すると、窃盗物を詰め込み運ぶ、運送車のことだ。
そこに窃盗物を詰め込み、一定時間逃げ切ることで、窃盗物の所有権がヴィラン側に移る。
警察側は、それを阻止するために窃盗物の回収と、ポイントLの撃破を狙う。
窃盗物を全て回収できれば、警察側の勝利だ。
窃盗物の現在位置は、両陣営に共有される。
なので、ポイントLが移動できる車両であり拠点であっても、窃盗物をそこに詰め込むと拠点の位置もバレる。
拠点の位置が固定だと、待ち伏せが横行し、戦況が鈍る。
かと言って、何の制約も無く移動できると、かくれんぼになってしまう。
その問題を解決するために、アルファポイントは移動が可能であるものの、ブツが積み込まれると現在地が割れるようになっている。
待ち伏せもできないし、かくれんぼもできない。
これにより、スピーディーなゲーム速度を実現している。
PvPサーバーでは、このような警察とワルの小競り合いが、セントラル全域で展開されている。
小競り合いには、どちらの勢力の飛び入り参加も大歓迎!
経験者も、初心者も、ガチ勢もエンジョイ勢も、みんなでパーティを盛り上げよう!
セツナとダイナは、小高く突き出た鐘楼から隣の建物に飛び移る。
パルクールを駆使して、上からポイントLに向かう。
輸送車は遠隔操作も可能だが、ここに呼ぶのは危険だ。
ある程度、相手の戦力を削ぐか、散らす必要がある。
銀行から逃走する2人を、追っ手が囲む。
建物をパルクールで登り、前に行こうとする2人を遮り、同時に退路も断立てれしまう。
付近をパトロールしていた部隊に、屋上で囲まれてしまった。
部隊の人数は6名。
PvPで、この人数差は厳しい。
セツナとダイナは背中合わせになって、警戒する。
危機的状況の2人に、今度は空からの助け舟。
「よう! そこの2人組、面白そうなことをしているな! 俺たちも混ぜてくれ!」
通信で、さわやかな青年の声が聞こえてくる。
上空を見上げる。
人数的な不利を覆す、乗り物の登場である。
空から戦闘ヘリがやって来た。
戦闘と人員輸送の、両方をこなせる機体である。
戦闘ヘリが、2人を囲む警察たちに、機銃の掃射をお見舞いする。
「これがパーティの参加料だ。受け取ってくれ。」
機銃の射撃により、包囲が崩れる。
その隙を見て、2人は包囲を抜け出す。
同時に、ヘリも2人に追従する。
ヘリの両扉が開き、そこから銃を構えたプレイヤーが身体を乗り出し、逃走の援護射撃をする。
2人が包囲網を振り切ったところで、ヘリから梯子(舷梯)が下ろされる。
これに掴まれという事らしい。
ヘリが梯子を垂らし、高度を下げる。
しかし――。
ヘリの機内にアラートが響く。
警察側のヘリにロックオンされている。
「クソッ! 対応が早いな。2人とも急げ!」
ヘリが上昇を始める。
ダイナが、テレポートで梯子まで移動する。
ボストンバックを持っている彼女が最初である。
テレポートの移動限界ギリギリ。彼女の手は、最後の一段目にギリギリ届いた。
2人捕まるのは難しそうだ。
それを確認したセツナは、ヘリのパイロットに通信を入れる。
「もう出して! こっちは何とかする。」
パイロットは高度を上げ、フレアを撒き、敵のミサイルをやり過ごす。
「すまない! 武運を祈る!」
セツナは、屋上からサムズアップをして、ダイナとヘリを見送る。
そんな彼の背後から、魔法が飛んで来る。
第七感、魔力のうねりを背中の触覚が捉える。
フロントフリップをして魔法を回避。
火球が、彼の居た場所を焦げ付かせた。
(――ファイヤーボール。)
振りかえると、そこには魔導ガントレットを装備したプレイヤーが1人立っていた。
奇しくも、同じクラスのプレイヤーが邂逅を果たす。
この2人、実は初対面では無い。
セツナとダイナが初めて出会ったサーバーにて、セツナがポーションを渡したエージェント。
セツナの前に居るプレイヤーは、その時の人物である。
‥‥お互い、顔を覚えては居ないが。
袖が触れ合う多少の縁は、何とも数奇なものである。
セツナも、魔導ガントレットを装備する。
両者、同じ魔導拳士クラス同士。
こんな状況で無ければ、マイナークラスの同志としてクラス談議に花を咲かせたのだろう。
眼前の魔導拳士が、右手に炎の魔力を溜める。
見間違えるはずはない、≪ファイヤーボール≫ だ。
セツナも、右手に炎の魔力を宿す。
そして、このスキルの出始めを、キャンセルする。
≪炎撃掌≫ を、 ≪ブレイズキック≫ でキャンセル。
ゼロステップキャンセル!
M&Cには、ゼロステップキャンセル、通称Zキャンセルというものが存在する。
前作の初期に発見されたバク技、「トラベリング」や「ダブルドリブル」と呼ばれる挙動を、正式なゲームシステムとして調整したキャンセルテクニックである。
Zキャンセルは、「連携の0回目に対する裁定とルール」によって仕様が規定されている。
――規定によれば、一部のスキルは攻撃の出始め、つまり連携の0回目をキャンセルできる。
この、0回目の連携は、Fキャンセル属性のスキルでキャンセルができる。
これを、ゼロステップキャンセル、Zキャンセルと定義する。
つまり、Zキャンセルとは、スキルの出始めに、Fキャンセルスキルを発動することで成立する。
≪炎撃掌≫ をZキャンセル。
≪ブレイズキック≫ で走り出す。
――規定によれば、Zキャンセルをした技を、同じ連携中に再度使用すると、キャンセルしたところからモーションを再開できる。
「ファイヤーボール。」
敵の魔法が放たれ、火球が迫って来る。
≪ブレイズキック≫ をFキャンセル。
≪炎撃掌≫ を発動。
溜め動作なく、掌の上に火球が生成され、それを握りつぶす。
「炎撃掌。」
飛来する火球を、太陽の掌底が掻き消した。
――規定によれば、Zキャンセルを使用した場合、その連携中に他のキャンセル動作をすることはできない。
0回目の連携にして、最後の連携。
それをZキャンセルと呼称し、実装する。
セツナの足が止まる。
Zキャンセルは、他の連携に繋ぐことができない。
対して、相手は ≪ファイヤーボール≫ をCキャンセルして後隙をキャンセル。
≪ブレイズキック≫ で接近してくる。
彼我の距離が縮まる。
この距離で有効なスキルは――。
「「飛燕衝。」」
同じタイミングで、同じスキルが発動する。
同じスキルは、相殺を起こし、余波で突風を起こす。
――Cキャンセル。
≪ブレイズキック≫ 。
突風に怯まず、2人は走り出し、さらに距離を詰める。
「「ブレイズキック。」」
後ろ回し蹴りが交差し、衝突する。
再び相殺を起こし、反動で2人の距離が離れる。
相手は、後ろに滑りながらコアレンズを取り出し、魔導ガントレットに挿入する。
「ソードコア――。」
ソードコア × シルバームーン = 銀なる大輪
空から銀色の光が降り注ぎ、魔導拳士の周りを包む。
光が収まると、両手にはエストックとカランビットナイフが握られていた。
(やっぱり、そのスキル人気だよね。)
新月の二振りは、握る者の素早さを強化する。
強化された速力で、一気にセツナに迫り肉薄する。
速度とエストックのリーチを活かして、セツナの胸を突く!
威力の乗った突きは、攻撃を放った後も、慣性で地面の上を滑っていく
それを、セツナは背中から地面に倒れることで躱す。
背負っているリュックサックがクッションになって、いつもよりも気軽に背中をつけられる。
地面に倒れ込んだ勢いで、胸椎のバネに力を溜める。
月の慣性で滑る拳士の腹に、キックを放った。
相手がセツナのキックに反応する。
逆手に持ったカランビットナイフで、セツナの足裏を刺して受け止めようとする。
互いの思惑が交差――。
結果、腹部への一撃は防がれ、ナイフの防御は躱され、蹴りはナイフを持つ腕に命中した。
銀月の拳士が後ろにのけぞる。
セツナは、キックの余力でそのまま態勢を起こし、マジックワイヤーを射出。
のけぞる拳士の片脚にワイヤーを撃ち込む。
ワイヤーが命中したら、それを引っ張る。
脚を取られた拳士は、その場に転んでしまった。
セツナが追撃をしようと前に出ると、拳士はテレポートで瞬間移動をする。
第七感がテレポートの流れを感知する。
拳士は、自分の背後に現れる。
チャールストンステップを踏みながら後退。
リズムを取り、姿勢を低くして、エストックの懐に入り込むように。
そして、再び腹部への蹴りを構える。
拳士は、咄嗟にナイフを構え、伸びてくるであろうセツナの足を切り裂こうとする。
攻撃を受けても、懐に入られても、慌てない。
流石は魔導拳士、密着戦闘に慣れている。
しかし――。
(――なんちゃって。)
軸足に溜めた力を解放。
身を屈めた上体から、バックフリップ。
腹部へのキックはブラフ。
低い体勢で宙返りをしてエストックの隙間を掻い潜りつつ、伸ばした軸足で拳士の頭を狙う。
低空ムーンサルトキックが、見慣れない動きに不意をつかれた拳士の顔面を捉えた。
「うぐっ!?」
セツナは、両手を地面につけて着地。
そのまま振り返り、 マジックワイヤーを地面に撃ち込む。
続けて、≪ブレイズキック≫ を発動。
脚を動かさなくとも、ワイヤーの力と、魔力の推進力が身体を前に押し出す。
ワイヤーを切り離し、推進力を活かしてスライディング。
両膝立ちの状態で拳士に接近する。
懐に潜り、とにかくリーチに優れるエストックを振らせない。
エストックを振れないならば、当然、攻撃手段はナイフに絞られる。
逆手持ちのナイフが、外から内へと、横方向に振るわれる。
それを、魔導ガントレットで受け止める。
ナイフ程度であれば、ガントレットの装甲でも受け止められる。
完全にダメージを殺すことはできないが、今は刃を受けられるだけで十分。
ナイフを握る相手の左手を、セツナの両手が捉える。
ガントレットで覆われた右手でナイフを巻き取り、相手の手首を取って、ナイフの刃先を相手の方へと向ける。
それを、両手の力で、相手の腹へと押し込む。
ナイフは、使い手の腹に深々と刺さった。
ダメージで、拳士の身体が、くの字に曲がる。
セツナは膝立ちから勢いよく起き上がり、相手の前に突き出た頭部に、下から頭突きをして追撃。
くの字の身体が、今度は後ろに倒れそうになる。
相手の足を踏んで、エストックを強奪。
エストックは刺突剣でありながら、刃を持つ。
つまり、突くだけでなく、切る攻撃も可能である。
奪ったエストックの柄を左手で握り、右手を刀身に添える。
添え手という動作で、本来は片刃の日本刀で取られる動作。
添え手をすることで、近い距離でも充分な力を刃に伝えることができる。
足を踏みつけ自由を奪い、エストックを胸に押し当て、それを袈裟に流し、切り裂いた。
――勝負あった。
奪ったエストックを投げ捨てて、残身。
拳士の体力は空になり、身体が砕けて消えていった。
‥‥‥‥。
セツナは、感慨に耽る間もなく、屋上を走り出す。この追いかけっこは忙しない。
ある武術家をして、「ナイフを握った素人は怖くない」という。
なぜか問うと、「ナイフを持てば、それしか使わなくなる」という。
武器を持つと、意識がそればかりに向いて、他の技を使わなくなるのだ。
ソードコアは確かに強力だが、そういった人の意識が、弱点を作ってしまうのかも知れない。
自戒せねば。
脚を動かしつつ反省をしていると、先ほど戦った相手から、セツナにチャットでスタンプが送られてきた。
GGスタンプ。「グッドゲーム」を称えるスタンプが送られてきた。
スタンプの他にコメントで、「お見事」と、ひと言だけ添えられていた。
――思わず、嬉しくなってしまう。
セツナも、同じスタンプを返した。
ひと言、「銀月剣カッコイイよね」と添えて。
青い街の過激な戦いやパフォーマンスは、両者のリスペクト精神により成り立っている。
面白いゲームとは、面白い戦いとは、最終的にはプレイヤーの努力によって作られるのだ。
なぜならば我々も、この世界、このゲームの一部であるのだから。




