9.04_偏屈な男の護衛
社会とは、過半数の、無能な善人によって成り立っている。
ロスター=ランチ。
セントラルの台所を預かる、商い人。
セントラル南部で生産された農作物や食肉、酒、海で獲れた魚介類。
それらを、セントラル全土に流通させる。
その管理と経営を任されている重鎮。
幼い頃より、エリート志向の親に厳しく育てられた。
将来は、医者か弁護士を期待されていた。
実に旧時代的な、古びた価値観の親だった。
ロスターは医学と薬学を修めたのち、食品会社に就職した。
国家の維持に必要なのは、剣とパン。
自分には剣の才能が無かったから、パンの方に人生を捧げることにした。
両親には幻滅され、家を追い出された。
親の敷いたレールの上を歩くフリをして、最後に番狂わせをしたのだから、当然だ。
親不孝であり、子供不幸な家庭だった。
ただ、高度な教育を施してくれたことだけは、感謝している。
家を追い出され20年。
今では、セントラルの台所を預かる重役にまで出世した。
真面目で勤勉。
少々偏屈で神経質なのが、たまに瑕
周囲は彼を、「教会の若番頭」などと仇名している。
南部の農地は、セントラルの英雄オリーブが所属する、青石教会の「シマ」だ。
傭兵業で身を立てる彼らは、弾薬費の暗算はできても、食品の流通は門外漢。
なので、食品部門を任せられる会社を、自分たちで設けたのだ。
ロスターは、その「青石食品」の若番頭。
経営者としては若い、若干40歳でその地位に登り詰めた。
自らを律し、腐敗を切って捨て、教会や部下からの信頼を得て。
多くの敵を作りながら――。
セントラルで、敵が多いのは困りものだ。
彼奴等は、白昼堂々、暗殺を仕掛けてくる。
安定した住居は無く、狭く安全なセーフハウスを転々とする毎日。
今日も日が昇ったので、仕事が始まる。
スーツに着替え、身だしなみを整える。
髪が乱れぬように、ワックスで固める。
ハンカチと、胃薬を持って、出社。
教会の傭兵が住んでいるマンションを下りて、入口へ。
迎えが来ている。
風貌も、素行も悪い、暴力だけが取り柄の――――、エージェント。
傭兵ではなく、エージェント。
「「「うぃ~っす。」」」
マンションの入り口で、電子タバコを吹かす、エージェントがそこに居た。
道路に寝そべるチンピラをベンチにして、くつろいでいる。
「ロスターさんですね? ちぃーっす!」
「‥‥‥‥。」
腰に大きなリボルバーを装備した、パーカーの男が、ロスターに挨拶をする。
眉をひそめる。
自分の送迎を担当する、3人組を品定め。
これでも、多くの優秀な部下を育て上げ、多くの不穏分子を切って捨てた身の上。
人と商品を見る目には、自信がある。
‥‥傭兵の方が、まだ行儀が良い。
パーカーの男、セツナのスマートデバイスが点灯する。
ホロディスプレイが起動。
画面に、エージェントを束ねる親玉、CCC局長のディフィニラが映る。
「おはようございます。ミスター。」
「おはようございます。Ms.ディフィニラ。」
朝の挨拶を交わす2人。
まじまじと、また3人組を見るロスター。
「Ms.ディフィニラ、さっそくだが、護衛を変えてはくれませんかね?
私は、野犬を雇った覚えはないのだが?」
「おやおや、面白いジョークですねミスター。
彼らが、ご注文に頂いた、優秀なエージェントです。」
野犬呼ばわりされたセツナが、ロスターにガンを飛ばしている。
銃のホルスターを右手で叩きながら、電子タバコ (ノンタール)を吹かす。
彼の同僚であるダイナは、寝ているチンピラの顔にハンカチを被せ、ジュースを飲ませている。
ジュースは、たいそうウマいらしい。
震えて喜んでいる。
JJは、痙攣している彼の懐から、財布を抜いている。
その様子を、ディスプレイに映ったディフィニラは咎める様子もない。
モニターの彼女は、ロスターの方を向いたままだ。
「最近は何かと物騒だから、腕の立つエージェントを寄越せと。
そうおっしゃったと記憶しておりますが?」
「‥‥‥‥ご配慮感謝いたします。Ms.ディフィニラ。」
「良い1日を、ミスター。」
通信終了。
ディスプレイが消える。
セツナが、マンションの入り口前に停めてある車の、後部ドアを開ける。
「それではどうぞ、ミスター。」
こくり頷いて、乗り込む。
JJが運転席に乗り込み、ダイナが助手席に乗り込む。
少しバックして、少し停止。
改めて、出発進行。
セツナたちは、ロスターを会社へ送り届けるべく、車を走らせた。
‥‥路上から起き上がった、チンピラを跳ね飛ばして。
◆
今日の仕事は、護衛任務。
なんでも、教会が管轄する会社の重役を護衛しろとのことだった。
なぜ、セツナたちにそんな仕事のお鉢が回って来たのか?
傭兵が、珍しくヘマをした。
それで、護衛対象が癇癪を起した。
自分の護衛を、傭兵ではなく、エージェントにさせるよう嘆願した。
そんな感じらしい。
1人の我が儘に、教会もCCCも振り回されている。
――のだが、オリーブもディフィニラも、対して気にしていない。
彼女たちからすれば、40歳のロスターでさえ、若輩だ。
若者の駄々に付き合うのも、先達の仕事。
彼には、少々肩の力の抜き方を覚えてもらおうと、そう考えた。
優秀な人間は、長く、こき使うに限る。
ここで壊れてしまっては困る。
CCCは、ロスターの嘆願を受理。
エージェントを派遣することにした。
CCC擁する、屈指の腕利き。
セツナ・JJ・ダイナの3人。
3人は、ディフィニラからこの仕事を聞いた時、なんとなく彼女の含意を読み取った。
お世辞にも、素行が良いとは言えない3人組。
建物を壊すついでに、任務をしてるとまで、影で噂される3人組。
それが、護衛を任される。
本来なら、大人の対応もできて腕も立つ、ジャッカルが受け持つような仕事。
それが、自分たちに回された。
これはつまり、こういうことだ。
――好きにやっていい。
取り合えず景気づけに、ロスターを暗殺しようと襲撃してきたチンピラを跳ね飛ばした。
「馬鹿! 何をやっているだね!?」
護衛開始早々、とんでもねぇことをやらかしたドライバーに声を荒げる。
護衛対象を乗せているのに、危険運転とは何事であるか!
「大丈夫、大丈夫。セントラルのチンピラは、丈夫だ。」
ルームミラーには、車に跳ねられて悶絶しているチンピラが映っている。
‥‥話が噛み合っていない。
この不良エージェントどもは、護衛の安全など気にはしていないのである。
一切、これっぽっちも。
あまつさえ、チンピラの無事を気にする始末だ。
そりゃあ、目の前で人死が出ては、良い気分はしない。
今日1日のパフォーマンスに影響する。
だがしかし、そうではない!
そうでは、ないのだ。
どこ吹く風のJJは、後ろの席に座るロスターへ、財布を放り投げる。
さっき、チンピラからくすねた財布だ。
「そこに入ってるのは、あんたの値段だ。」
中身を見る。
10万クレジットと、ちょっと。
「お灸には丁度良いだろ?
安い小遣いで、殺しなんてするもんじゃない。」
ロスターは、背もたれに深くもたれる。
財布を、横に放り投げ、腹に手を置く。
「くれぐれも、安全運転で頼むよ。」
「了解ボス。善処しましょう。」
危険で楽しい、危険が楽しい、朝のドライブが始まった。
‥‥10分後。
「――てかボス。オレら、朝飯まだ食ってないんすよね。」
「‥‥‥‥。」
「ボスは、もう食べました?」
「‥‥まだだ。」
「朝食はどちらで?」
「‥‥バーガーショップの、ドライブスルーに寄ってくれ。
5分ほど直進すれば、右側にある。」
「だってさ、JJ。」
「了解。」
JJは、ハンドルを切る。
片側3車線、右側通行の道路を、思いっきり左にハンドルを切った。
無駄にドリフトをして、無駄にスキール音を響かせて、進路変更。
来た道を引き返していく。
堂々と、交通違反。
「おい、直進と言っただろう!?」
「通り道にあったドライブスルーの方が、店員の愛想が良い。
それに――。」
ダイナが窓を開ける。
外の風が、車内に入り込む。
サイドミラーには、一行を追う車。
4台いる。
「来たね。」
問答無用。
ダイナが後続車にショットガンをぶっ放す。
こちとら、セントラルの秩序を預かるエージェントである。
ルール違反には、即銃撃。
ルールを守らぬ者に、法の庇護など存在しない。
彼らが暗殺者であったのなら、それで良し。
そうでなくとも、交通違反で銃撃制裁。
何の問題もないのだ。
ロスターは、頭を抱える。
「メチャクチャだ‥‥! 何なんだ君たちは!!」
傭兵でも、もうちょっと行儀が良い。
もうちょっと、引き金が固い。
もうちょっと、アクセルが重い。
ダイナが、射撃で1台片付けた。
爆発炎上した車両が、道路の真ん中で停車する。
残り3両が、一行を追いかけながら、射撃をしてくる。
「セツナ、交代。」
「オッケー。」
ダイナはショットガンのリロード。
セツナが窓から顔を出す。
グレネードランチャーをポンポンと撃って、追跡車の破壊を試みる。
6発撃って、1両やった。
身体を引っ込めて、車の中に帰る。
「JJ、チェンジ。」
「任せろ。」
「お、おい! 待ちたまえ!」
JJが、車から顔を出す。
顔どころか、身体ごと出てしまった。
JJは車の屋根に上り――。
運転席は、空席となる。
にっこり楽しそうになるダイナ。
「うわ~~♪」
助手席からハンドルを操作。
車が直進できるように、バランスを取る。
「おい! 何を遊んでいる! 早くオートドライブに切り替えろ!」
「ああ、それムリ♪」
声を荒げるロスター。
対するダイナは、にこにこ笑顔。
「この車、オートドライブ積んでないんだ。ハッキング対策。」
「‥‥‥‥。」
車両の後方で、爆発が起こった。
JJが、火薬刀で1両仕留めた。
残り1両。
武器を変える。
ルーフの上から移動。
車の後部、トランクの上へ移動する。
その様子を、後ろを振り返って確認するダイナ。
「――おっ?」
ダイナは見た。
パイルバンカーを担いだ、JJの姿を。
――火薬杭を、右手で抱え込む。
左手に火薬籠手を装備。
火薬籠手に点火。
ブースターオン。
「わぁ~~。」
「ぬぅぅん!!」
JJが、追跡車に目掛けてかっ飛んだ。
火薬の力で踏み込みやがったせいで、車のケツが沈む。
ケツが道路を擦り、火花が散る。
車の前方が浮き上がり、前輪も浮く。
「あわぁ――――!?」
悲鳴を上げるロスター。
「あはぁ~~――!!」
面白くなってきたダイナ。
器用に、運転席へ飛び移る。
小柄を活かし、スルリ。
座席を移動し、ハンドルを握る。
足に炎を纏う。
魔法で強化された脚力を使い、アクセルを踏む。
炎の力で、浮いた前輪が道路に着地する。
メーターパネルの針が、一気に上昇する。
車の背後で、大きな花火が上がった。
花火の衝撃で、今度は車のケツが浮く。
車の上に、パイルバンカー突撃を敢行したJJが戻って来る。
ケツが落ち着き、ハンドルも落ち着く。
彼らの後方には、炎上する車が4両。
ウインカーを左に。
ドライブスルーへ到着。
‥‥‥‥
‥‥
「いらっしゃいませ! ご注文‥‥を?」
「照り焼きライスバーガー、ひとつ。」
店員さんのスマイルに、JJは注文で答える。
‥‥車のルーフに座って、パイルバンカーを担いで。
「えっと――。ライス照り焼きバーガーを、おひとつですね。」
「ボク、サラダフィッシュバーガー。」
「じゃあオレ、このカエルの素揚げバーガーってやつ。
ボスは何食べます?」
「‥‥ベジタブルバーガーをひとつ。」
「カエルは?」
「いらん!」
「オーケー。じゃあボス、支払いよろしく。」
「「ごちそうさまです!!」」
「‥‥‥‥。
‥‥‥‥!!」
「まいど‥‥、ありがとうございます。
あはは‥‥‥‥。」
珍客の来訪に、笑うしかできない店員さんであった。
◆
セントラルでエージェントになって、約半年。
正確には、5ヵ月くらい。
たまに面食らう時はあるけれど、セントラルでの暮らしにも慣れてきた。
いまでは、セントラル人以上に、セントラルでの立ち振る舞いが身についた。
なんか、神経質そうな大人に、ファストフードを奢られせるくらいには、厚かましくなった。
「荒事をする人間に、こう言うのは何だがね‥‥。
君たちはもう少し、礼儀を弁えた方が良い。」
「セントラルでは、まともな方じゃないですか?」
「それは――。う~む‥‥。」
セツナの返しに、ロスターは黙ってしまう。
確かに、口が利けるだけ、セントラルでは上等の部類だ。
沈黙を誤魔化すために、ベジタブルバーガーを頬張る。
豆腐を使ったパテが、身体に今日1日の活力を与える。
新鮮なレタスにトマト。
酢とごま油、玉ねぎで味付けがされた和風ドレッシング。
胃に優しく、腹に貯まる。
‥‥横から漂う、カエルの素揚げの香りで、胃がムカつく。
バリバリと骨を砕く音が、車内に広がる。
「――鶏肉の、煎餅みたいな感じ?」
誰にも聞かれていないのに、味をレビューする。
「おいしい?」
「普通に鶏肉を食べた方が美味しい。」
「そうっかぁ。そうだよねー。」
ダイナは、魚のフライが挟まれているハンバーガーを頬張る。
片手で運転をしながら、片手でパクリ。
白魚の淡白な脂が、タルタルソースと良く合っている。
ハンバーガーを食べながら、ロスターは思う。
この連中は、礼儀を弁えていない。
傭兵連中の方が、まだ護衛対象を丁重に扱っていた。
それなのに、コイツ等ときたら――。
護衛者が乗った車で、チンピラを跳ね飛ばす。
護衛者が乗った車の、運転席を空ける。
交通ルールは守らない。
挙句、権力を盾に、ルール違反には即座に発砲する。
メチャクチャだ。
道理が存在していない。
腹を抑えるロスターに、ハンドルを握るダイナが質問をする。
「どうですかボス? 今朝のドライブは?」
「‥‥最悪だよ。」
「えぇー!!」
当たり前である。
護衛の意識が低いわ、メシはたかるわ――。
この連中、集合時間を守った以外は、碌なことをしていない。
むしろ、よく時間だけは守れたものだ。
‥‥それでも。
「‥‥‥‥。だが、偶には、こういうのも悪くない。」
「そうこなくっちゃ♪」
御守をされてばかりより、丁重に扱われるばかりより。
偶には、こういう事があっても良い。
ロスターとて、セントラル人なのだ。
鉄火場の中心で、バカをやらされるのも、悪くはない。
偶には、ちょっとだけ、そう思う。
「楽しんだよね、悪いことって。
ハンバーガーが、美味しいみたいに!」
ダイナは、ハンバーガーを平らげた。
ご馳走様と、ロスターに改めて礼を言う。
エリート若番頭と、不良エージェント。
互いの理解が進んだところで‥‥、次なる刺客。
道路に、人が飛び出して来た。
飛び出して来たというよりも、急に、道路の真ん中に現れた。
テレポートである。
「‥‥やるのかね?」
「もちろん♪」
車は急に止まれない。
道路に飛び出す阿呆に対し、アクセルを踏む。
車はスムーズな加速で、法定速度を超過。
ブレーキを踏むことなく、テレポートして来た阿呆に正面衝突。
寸前、セツナのスマートデバイスが鳴動。
異変を察知したJJが、ルーフの上から飛び降りる。
――ガシャン!
そう音がして‥‥、車が止まった。
「‥‥およ?」
バックオーライ。
アクセルを踏んで、加速。
もうイッチョ正面衝突。
やっぱり、止められる。
ぶつかった相手は、まるで車止めのポールみたいに、動かない。
それどころか。
今度は、車が押し返された。
強制的に後退させられる車両。
事情を知らぬ後続車に激突。
接触事故が発生。
訓練された民間人は、即座に避難。
セツナは、自分のシートベルトと、ロスターのシートベルトを外す。
「ボス。一緒に外へ。」
言った瞬間。
空からCEが落ちて来た。
車はペシャンコ。
CEの足元で、大爆発を起こす。
CEヴェノム・クラウン。
サウザントの所有するCE。
このヴェノムは派生型で、有人操縦が可能になっているモデル。
CEのフォールを、セツナはテレポートで回避した。
「わー、敵さんも派手だねー。」
小脇に、ロスターを抱えて宙を飛んでいる。
「ボス。もうひとっ飛びしますよ。」
「分かった。‥‥‥‥ん?」
スキル ≪ライトニングアクセル≫ 。
空中を、霹靂と駆ける。
「おわぁ!?」
雷の力で空を駆け、ビルの壁にお邪魔する。
ガラス張りの壁に、張り付く。
抱えられているロスターは、借りて来たネコみたいに小さくなっている。
‥‥落ちたら、確実に助からない高さ。
ビルに当たった風が、吹き上げて腹を冷やす。
「ボス、恨みをたくさん買ってますね~。」
「早く! 早く屋上で下ろしてくれ!」
悠長なセツナに、大声で命令をするロスター。
「まあまあ、そう言わずに。」
セツナが、壁から手と足を離す。
魔力で支えていた身体が、重力によって落下していく。
ロスターを伴って。
「おわぁぁぁあああああ!!!!」
「Foo~!!」
地上が、ぐんぐん迫って来る。
重力による加速で、どんどん視界は狭まってくる。
眼下では、暗殺者との戦いを繰り広げる、エージェント。
テレポートで車から脱出したダイナが、CEの攻撃を真っ向から受けている。
スキル ≪魔導真書オルラスビルガ≫ 。
Zキャンセル。
スキルの出始めを、 ≪魔導真書ブレイズキック≫ でキャンセル。
CEヴェノムの得物、カットラスの上段斬りを、素手で受け止めた。
≪オルラスビルガ≫ は、無敵属性のスキル。
Zキャンセルすると、その無敵を僅かに残して、ステップを踏める。
上段斬りを受け止められたヴェノムに、空から落ちてきたセツナとロスターが攻撃。
スキル ≪ライトニングアクセル≫ 。
いつもよりも物理的に重い攻撃が、ヴェノムの頭部を捉える。
ダイナの追撃。
スキル ≪魔女の七つ道具≫ 。
武器を召喚するスキルで、カイトシールドを召喚。
左手に装備。
盾に、 ≪魔女の飛燕衝≫ をエンチャント。
魔女の魔力が盾に付与され、聖属性の雷を纏う。
「でやぁっ!!」
ビルガステップからの、シールドアッパー。
踏み込み、沈み込んだ勢いで跳躍。
ヴェノムの胸部に、雷属性の左を叩き込んだ。
怯み、後退するヴェノム。
その背後には、セツナとロスター。
スキル ≪魔女の一撃≫ をZキャンセル。
エンチャント ≪魔女のシルバームーン≫ 。
赤紅の三日月が、セツナの足から放たれる。
紅い三日月は、女の執念、女の妄念。
執念深い女のように、三日月はCEをセツナの方へと手繰り寄せる。
ヴェノムがバランスを崩す。
後ろに倒れる。
「おわぁぁああああ!!!」
リアクション担当のロスターが悲鳴を上げ、テレポートで消える。
移動した先は、仰向けに倒れたヴェノムの上。
「は?」
そこには、ちんまいエージェントのダイナも居る。
彼女は、何やら魔法を唱えている。
パッシブ発動「法の拡大解釈」。
スキルを変質。
スキル ≪ハウス・カースマイン≫ 。
CEの胸の上、ダイナを起点に、薄ら暗い球体が展開される。
太陽の光を吸収し、周囲を10メートルを、薄暗がりに包む。
ロスターの心臓が冷える。
心臓に、氷を流し込まれるような、心の凍る感覚。
それは、夕暮れの呪いに罹った症状。
スキル ≪ハウス・カースマイン≫ 。
呪いを撃ち込む夕暮れの禁忌は、拡大解釈により、呪いの範囲が広がる。
呪いの解釈を広め、周囲にいる全員を呪う。
呪われた者のうち、最初にダメージを受けた者。
その者が、呪いの犠牲者となる。
人を呪わば穴二つ。
デスマッチだ。
不公平で、最悪な――。
自分が絶対に勝てる状況で仕掛けられる、一方的なデスマッチ。
セツナがCEの胸部を、大地を震わせる脚力で踏み抜いた。
呪いの領域内で、最初の被弾者が出た。
デスマッチ、決着。
呪いが、CEの内部で膨れ上がる。
膨れ上がり、高温となり、赤く爛れ、爆ぜて外に飛び出した。
テレポート。
3人で、赤く噴き上がる噴水を眺める。
ダイナが杖を構える。
跳躍し、スキルを発動。
杖の先に、火球が発生する。
セツナが大地を踏み割る。
岩塊を、炎を纏った足で蹴り飛ばす。
火球と岩塊が、CEに向けて飛ぶ。
燃える隕石となって、赤い噴水が上がるCEの胸部を、横から殴った。
呪いにより脆弱になった装甲が剥がれる。
胸部装甲が剥がれ、コックピットが露出する。
機体の中から、いかにも戦いを知らない、一般人が出てくる。
赤い眼をした、一般人。
サウザントが流通させている、「ルシフェライザー」。
赤く爛々とした瞳は、その兵器を使っている証拠。
赤い結晶を銀で包んだ弾丸は、体内のディヴィジョナー因子を活性化させる。
誰でも手軽に、なおかつ安全に、ディヴィジョナー化できる。
一般人でも、戦う力を得ることができる。
ロスターの周辺が最近、物騒だった理由。
彼の護衛である傭兵が、ヘマをした理由。
それは、ルシフェライザーを使う一般人が、ロスターの暗殺を企てるようになったから。
恨まれているのだ。
切り捨てた連中から。
被害者意識は、事実を捻じ曲げ、歪んだ義憤をもたらす。
赤目の一般人は、怒りの双眸をロスターに向ける。
ロスターの方からは、2つの銃口が、一般人へ向けられた。
「グッモーニン。」
セツナが挨拶。
拳銃の引き金が引かれた。
ディヴィジョナー因子を鎮静化する、「イニシャライザー」を含有した弾丸が放たれる。
弾丸は命中し、赤目は大人しくなった。
――2度寝を、お昼まで。
周囲の安全を確認。
残存する敵は、いないようだ。
JJが、3人に合流する。
「ボス、ご無事で?」
「‥‥‥‥。」
声が出ず、首を縦に振ることしかできなかった。
JJの背後では、ディヴィジョナー化した人間が5人ほど、道路で寝ている。
強力な力を得ても、相手は素人。
ディヴィジョナーのタフさに慣れてさえ居れば、何とかなる。
ダイナは、腕時計を確認。
「会社への出勤、間に合うかな?」
ロスターは周囲を見る。
一連のてんやわんやで、道路は大混乱。
訓練された住民は避難し、無人になった車が道路を塞いでいる。
「タクシーを捕まえるにしても、時間が掛かりそうだ。」
セツナが、指をパチンと鳴らす。
妙案があるらしい。
「なら、良い方法があります。
アリサさん、空、大丈夫そう?」
オペレーターのアリサに、空の状況を聞く。
セツナが質問をする前から、アリサがコンソールを操作している音を、通信機は拾っている。
「少々お待ちください――。
周辺に、宅配ドローンなどは飛んでいません。
目的地をこちらで設定しておきますね。」
「ありがとう。」
通信を終える。
スマートデバイスを手に取る。
側面のボタンを、ポチッと。
『センチュリオン、オーバードライブ。』
空に魔法陣が描かれて、空からCEがフォールする。
CEプロトエイト。
最高時速、350km。
「‥‥‥‥。」
無言で、極彩色のカラスを見上げるロスター。
橙色の錆止め塗装がされた機体に、セツナが乗り込む。
JJが、ロスターを機体の肩に乗せる。
ダイナも、反対側の肩にちょこんと腰かける。
「いくよ~~。」
「「いいよー。」」
「‥‥‥‥。」
CE空へと飛び立ち、浮上する。
機内のモニターに、目的地の方角と距離が表示される。
アリサが、前もって設定してくれていた。
‥‥彼女もだいぶ、彼らに毒されてきた。
‥‥‥‥
‥‥
結局、ロスターは遅刻することなく、会社へと出社した。
その日の帰り、彼はガンショップに赴き、銃を購入。
スーツ姿で、シューティングレンジに籠ったという。
サイドミッション「偏屈な男の護衛」クリア!




