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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
9章_厄災が眠る場所

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9.04_偏屈な男の護衛

社会とは、過半数の、無能な善人によって成り立っている。



ロスター=ランチ。

セントラルの台所を預かる、商い(あきない)人。


セントラル南部で生産された農作物や食肉、酒、海で獲れた魚介類。

それらを、セントラル全土に流通させる。


その管理と経営を任されている重鎮。


幼い頃より、エリート志向の親に厳しく育てられた。

将来は、医者か弁護士を期待されていた。

実に旧時代的な、古びた価値観の親だった。



ロスターは医学と薬学を修めたのち、食品会社に就職した。


国家の維持に必要なのは、剣とパン。


自分には剣の才能が無かったから、パンの方に人生を捧げることにした。


両親には幻滅され、家を追い出された。

親の敷いたレールの上を歩くフリをして、最後に番狂わせをしたのだから、当然だ。

親不孝であり、子供不幸な家庭だった。


ただ、高度な教育を施してくれたことだけは、感謝している。



家を追い出され20年。

今では、セントラルの台所を預かる重役にまで出世した。


真面目で勤勉。

少々偏屈で神経質なのが、たまに(きず)


周囲は彼を、「教会の若番頭」などと仇名している。


南部の農地は、セントラルの英雄オリーブが所属する、青石教会の「シマ」だ。


傭兵業で身を立てる彼らは、弾薬費の暗算はできても、食品の流通は門外漢。

なので、食品部門を任せられる会社を、自分たちで設けたのだ。


ロスターは、その「青石食品」の若番頭。


経営者としては若い、若干40歳でその地位に登り詰めた。


自らを律し、腐敗を切って捨て、教会や部下からの信頼を得て。

多くの敵を作りながら――。


セントラルで、敵が多いのは困りものだ。


彼奴等は、白昼堂々、暗殺を仕掛けてくる。

安定した住居は無く、狭く安全なセーフハウスを転々とする毎日。


今日も日が昇ったので、仕事が始まる。


スーツに着替え、身だしなみを整える。

髪が乱れぬように、ワックスで固める。


ハンカチと、胃薬を持って、出社。


教会の傭兵が住んでいるマンションを下りて、入口へ。


迎えが来ている。

風貌も、素行も悪い、暴力だけが取り柄の――――、エージェント。


傭兵ではなく、エージェント。



「「「うぃ~っす。」」」



マンションの入り口で、電子タバコを吹かす、エージェントがそこに居た。

道路に寝そべるチンピラをベンチにして、くつろいでいる。



「ロスターさんですね? ちぃーっす!」

「‥‥‥‥。」



腰に大きなリボルバーを装備した、パーカーの男が、ロスターに挨拶をする。


眉をひそめる。

自分の送迎を担当する、3人組を品定め。


これでも、多くの優秀な部下を育て上げ、多くの不穏分子を切って捨てた身の上。

人と商品を見る目には、自信がある。



‥‥傭兵の方が、まだ行儀が良い。



パーカーの男、セツナのスマートデバイスが点灯する。

ホロディスプレイが起動。


画面に、エージェントを束ねる親玉、CCC局長のディフィニラが映る。



「おはようございます。ミスター。」

「おはようございます。Ms.ディフィニラ。」



朝の挨拶を交わす2人。

まじまじと、また3人組を見るロスター。



「Ms.ディフィニラ、さっそくだが、護衛を変えてはくれませんかね?

 私は、野犬を雇った覚えはないのだが?」


「おやおや、面白いジョークですねミスター。

 彼らが、ご注文に頂いた、優秀なエージェントです。」



野犬呼ばわりされたセツナが、ロスターに()()を飛ばしている。

銃のホルスターを右手で叩きながら、電子タバコ (ノンタール)を吹かす。


彼の同僚であるダイナは、寝ているチンピラの顔にハンカチを被せ、ジュースを飲ませている。

ジュースは、たいそうウマいらしい。

()()()喜んでいる。


JJは、()()()()()()彼の懐から、財布を抜いている。


その様子を、ディスプレイに映ったディフィニラは咎める様子もない。

モニターの彼女は、ロスターの方を向いたままだ。



「最近は何かと物騒だから、腕の立つエージェントを寄越せと。

 そうおっしゃったと記憶しておりますが?」


「‥‥‥‥ご配慮感謝いたします。Ms.ディフィニラ。」


「良い1日を、ミスター。」



通信終了。

ディスプレイが消える。


セツナが、マンションの入り口前に停めてある車の、後部ドアを開ける。



「それではどうぞ、ミスター。」



こくり頷いて、乗り込む。

JJが運転席に乗り込み、ダイナが助手席に乗り込む。


少しバックして、少し停止。


改めて、出発進行。

セツナたちは、ロスターを会社へ送り届けるべく、車を走らせた。



‥‥路上から起き上がった、チンピラを跳ね飛ばして。





今日の仕事は、護衛任務。

なんでも、教会が管轄する会社の重役を護衛しろとのことだった。


なぜ、セツナたちにそんな仕事のお鉢が回って来たのか?


傭兵が、珍しくヘマをした。

それで、護衛対象が癇癪を起した。


自分の護衛を、傭兵ではなく、エージェントにさせるよう嘆願した。


そんな感じらしい。


1人の我が儘に、教会もCCCも振り回されている。

――のだが、オリーブもディフィニラも、対して気にしていない。


彼女たちからすれば、40歳のロスターでさえ、若輩だ。


若者の駄々に付き合うのも、先達の仕事。


彼には、少々肩の力の抜き方を覚えてもらおうと、そう考えた。

優秀な人間は、長く、こき使うに限る。

ここで壊れてしまっては困る。


CCCは、ロスターの嘆願を受理。

エージェントを派遣することにした。


CCC擁する、屈指の腕利き。


セツナ・JJ・ダイナの3人。


3人は、ディフィニラからこの仕事を聞いた時、なんとなく彼女の含意を読み取った。


お世辞にも、素行が良いとは言えない3人組。

建物を壊すついでに、任務をしてるとまで、影で噂される3人組。


それが、護衛を任される。


本来なら、大人の対応もできて腕も立つ、ジャッカルが受け持つような仕事。


それが、自分たちに回された。

これはつまり、こういうことだ。



――好きにやっていい。



取り合えず景気づけに、ロスターを暗殺しようと襲撃してきたチンピラを跳ね飛ばした。



「馬鹿! 何をやっているだね!?」



護衛開始早々、とんでもねぇことをやらかしたドライバーに声を荒げる。

護衛対象を乗せているのに、危険運転とは何事であるか!



「大丈夫、大丈夫。セントラルのチンピラは、丈夫だ。」



ルームミラーには、車に跳ねられて悶絶しているチンピラが映っている。


‥‥話が噛み合っていない。

この不良エージェントどもは、護衛の安全など気にはしていないのである。


一切、これっぽっちも。

あまつさえ、チンピラの無事を気にする始末だ。


そりゃあ、目の前で人死(ひとしに)が出ては、良い気分はしない。

今日1日のパフォーマンスに影響する。


だがしかし、そうではない!

そうでは、ないのだ。



どこ吹く風のJJは、後ろの席に座るロスターへ、財布を放り投げる。

さっき、チンピラからくすねた財布だ。



「そこに入ってるのは、あんたの値段だ。」



中身を見る。

10万クレジットと、ちょっと。



「お灸には丁度良いだろ?

 安い小遣いで、殺しなんてするもんじゃない。」



ロスターは、背もたれに深くもたれる。

財布を、横に放り投げ、腹に手を置く。



「くれぐれも、安全運転で頼むよ。」

「了解ボス。善処しましょう。」



危険で楽しい、危険が楽しい、朝のドライブが始まった。

‥‥10分後。



「――てかボス。オレら、朝飯まだ食ってないんすよね。」


「‥‥‥‥。」


「ボスは、もう食べました?」


「‥‥まだだ。」


「朝食はどちらで?」


「‥‥バーガーショップの、ドライブスルーに寄ってくれ。

 5分ほど直進すれば、右側にある。」


「だってさ、JJ。」


「了解。」



JJは、ハンドルを切る。

片側3車線、右側通行の道路を、思いっきり左にハンドルを切った。


無駄にドリフトをして、無駄にスキール音を響かせて、進路変更。


来た道を引き返していく。

堂々と、交通違反。



「おい、直進と言っただろう!?」


「通り道にあったドライブスルーの方が、店員の愛想が良い。

 それに――。」



ダイナが窓を開ける。

外の風が、車内に入り込む。


サイドミラーには、一行を追う車。

4台いる。



「来たね。」



問答無用。

ダイナが後続車にショットガンをぶっ放す。


こちとら、セントラルの秩序を預かるエージェントである。


ルール違反には、即銃撃。

ルールを守らぬ者に、法の庇護など存在しない。


彼らが暗殺者であったのなら、それで良し。

そうでなくとも、交通違反で銃撃制裁。


何の問題もないのだ。


ロスターは、頭を抱える。



「メチャクチャだ‥‥! 何なんだ君たちは!!」



傭兵でも、もうちょっと行儀が良い。


もうちょっと、引き金が固い。

もうちょっと、アクセルが重い。


ダイナが、射撃で1台片付けた。


爆発炎上した車両が、道路の真ん中で停車する。

残り3両が、一行を追いかけながら、射撃をしてくる。



「セツナ、交代。」

「オッケー。」



ダイナはショットガンのリロード。

セツナが窓から顔を出す。


グレネードランチャーをポンポンと撃って、追跡車の破壊を試みる。


6発撃って、1両やった。

身体を引っ込めて、車の中に帰る。



「JJ、チェンジ。」

「任せろ。」


「お、おい! 待ちたまえ!」



JJが、車から顔を出す。

顔どころか、身体ごと出てしまった。


JJは車の屋根に上り――。

運転席は、空席となる。


にっこり楽しそうになるダイナ。



「うわ~~♪」



助手席からハンドルを操作。

車が直進できるように、バランスを取る。



「おい! 何を遊んでいる! 早くオートドライブに切り替えろ!」


「ああ、それムリ♪」



声を荒げるロスター。

対するダイナは、にこにこ笑顔。



「この車、オートドライブ積んでないんだ。ハッキング対策。」


「‥‥‥‥。」



車両の後方で、爆発が起こった。

JJが、火薬刀で1両仕留めた。


残り1両。


武器を変える。


ルーフの上から移動。

車の後部、トランクの上へ移動する。


その様子を、後ろを振り返って確認するダイナ。



「――おっ?」



ダイナは見た。

パイルバンカーを担いだ、JJの姿を。


――火薬杭を、右手で抱え込む。

左手に火薬籠手を装備。


火薬籠手に点火。

ブースターオン。



「わぁ~~。」

「ぬぅぅん!!」



JJが、追跡車に目掛けてかっ飛んだ。

火薬の力で踏み込みやがったせいで、車のケツが沈む。


ケツが道路を擦り、火花が散る。

車の前方が浮き上がり、前輪も浮く。



「あわぁ――――!?」



悲鳴を上げるロスター。



「あはぁ~~――!!」



面白くなってきたダイナ。

器用に、運転席へ飛び移る。


小柄を活かし、スルリ。

座席を移動し、ハンドルを握る。


足に炎を纏う。

魔法で強化された脚力を使い、アクセルを踏む。


炎の力で、浮いた前輪が道路に着地する。


メーターパネルの針が、一気に上昇する。


車の背後で、大きな花火が上がった。

花火の衝撃で、今度は車のケツが浮く。



車の上に、パイルバンカー突撃を敢行したJJが戻って来る。

ケツが落ち着き、ハンドルも落ち着く。


彼らの後方には、炎上する車が4両。


ウインカーを左に。

ドライブスルーへ到着。



‥‥‥‥

‥‥



「いらっしゃいませ! ご注文‥‥を?」


「照り焼きライスバーガー、ひとつ。」



店員さんのスマイルに、JJは注文で答える。

‥‥車のルーフに座って、パイルバンカーを担いで。



「えっと――。ライス照り焼きバーガーを、おひとつですね。」


「ボク、サラダフィッシュバーガー。」


「じゃあオレ、このカエルの素揚げバーガーってやつ。

 ボスは何食べます?」


「‥‥ベジタブルバーガーをひとつ。」


「カエルは?」


「いらん!」


「オーケー。じゃあボス、支払いよろしく。」


「「ごちそうさまです!!」」



「‥‥‥‥。

 ‥‥‥‥!!」



「まいど‥‥、ありがとうございます。

 あはは‥‥‥‥。」



珍客の来訪に、笑うしかできない店員さんであった。





セントラルでエージェントになって、約半年。

正確には、5ヵ月くらい。


たまに面食らう時はあるけれど、セントラルでの暮らしにも慣れてきた。


いまでは、セントラル人以上に、セントラルでの立ち振る舞いが身についた。

なんか、神経質そうな大人に、ファストフードを奢られせるくらいには、厚かましくなった。



「荒事をする人間に、こう言うのは何だがね‥‥。

 君たちはもう少し、礼儀を弁えた方が良い。」


「セントラルでは、まともな方じゃないですか?」


「それは――。う~む‥‥。」



セツナの返しに、ロスターは黙ってしまう。

確かに、口が利けるだけ、セントラルでは上等の部類だ。


沈黙を誤魔化すために、ベジタブルバーガーを頬張る。


豆腐を使ったパテが、身体に今日1日の活力を与える。


新鮮なレタスにトマト。

酢とごま油、玉ねぎで味付けがされた和風ドレッシング。


胃に優しく、腹に貯まる。


‥‥横から漂う、カエルの素揚げの香りで、胃がムカつく。

バリバリと骨を砕く音が、車内に広がる。



「――鶏肉の、煎餅みたいな感じ?」



誰にも聞かれていないのに、味をレビューする。



「おいしい?」

「普通に鶏肉を食べた方が美味しい。」


「そうっかぁ。そうだよねー。」



ダイナは、魚のフライが挟まれているハンバーガーを頬張る。

片手で運転をしながら、片手でパクリ。


白魚の淡白な脂が、タルタルソースと良く合っている。


ハンバーガーを食べながら、ロスターは思う。

この連中は、礼儀を弁えていない。


傭兵連中の方が、まだ護衛対象を丁重に扱っていた。


それなのに、コイツ等ときたら――。


護衛者が乗った車で、チンピラを跳ね飛ばす。

護衛者が乗った車の、運転席を空ける。


交通ルールは守らない。

挙句、権力を盾に、ルール違反には即座に発砲する。


メチャクチャだ。

道理が存在していない。


腹を抑えるロスターに、ハンドルを握るダイナが質問をする。



「どうですかボス? 今朝のドライブは?」


「‥‥最悪だよ。」


「えぇー!!」



当たり前である。

護衛の意識が低いわ、メシはたかるわ――。


この連中、集合時間を守った以外は、碌なことをしていない。


むしろ、よく時間だけは守れたものだ。

‥‥それでも。



「‥‥‥‥。だが、偶には、こういうのも悪くない。」


「そうこなくっちゃ♪」



御守をされてばかりより、丁重に扱われるばかりより。

偶には、こういう事があっても良い。


ロスターとて、セントラル人なのだ。


鉄火場の中心で、バカをやらされるのも、悪くはない。

偶には、ちょっとだけ、そう思う。



「楽しんだよね、悪いことって。

 ハンバーガーが、美味しいみたいに!」



ダイナは、ハンバーガーを平らげた。

ご馳走様と、ロスターに改めて礼を言う。


エリート若番頭と、不良エージェント。


互いの理解が進んだところで‥‥、次なる刺客。


道路に、人が飛び出して来た。

飛び出して来たというよりも、急に、道路の真ん中に現れた。


テレポートである。



「‥‥やるのかね?」

「もちろん♪」



車は急に止まれない。

道路に飛び出す阿呆に対し、アクセルを踏む。


車はスムーズな加速で、法定速度を超過。


ブレーキを踏むことなく、テレポートして来た阿呆に正面衝突。


寸前、セツナのスマートデバイスが鳴動。

異変を察知したJJが、ルーフの上から飛び降りる。


――ガシャン!


そう音がして‥‥、車が止まった。



「‥‥およ?」



バックオーライ。

アクセルを踏んで、加速。


もうイッチョ正面衝突。

やっぱり、止められる。


ぶつかった相手は、まるで車止めのポールみたいに、動かない。


それどころか。

今度は、車が押し返された。


強制的に後退させられる車両。


事情を知らぬ後続車に激突。

接触事故が発生。


訓練された民間人は、即座に避難。


セツナは、自分のシートベルトと、ロスターのシートベルトを外す。



「ボス。一緒に外へ。」



言った瞬間。

空からCEが落ちて来た。


車はペシャンコ。

CEの足元で、大爆発を起こす。


CEヴェノム・クラウン。

サウザントの所有するCE。


このヴェノムは派生型で、有人操縦が可能になっているモデル。


CEのフォールを、セツナはテレポートで回避した。



「わー、敵さんも派手だねー。」



小脇に、ロスターを抱えて宙を飛んでいる。



「ボス。もうひとっ飛びしますよ。」

「分かった。‥‥‥‥ん?」



スキル ≪ライトニングアクセル≫ 。

空中を、霹靂と駆ける。



「おわぁ!?」



雷の力で空を駆け、ビルの壁にお邪魔する。

ガラス張りの壁に、張り付く。


抱えられているロスターは、借りて来たネコみたいに小さくなっている。

‥‥落ちたら、確実に助からない高さ。


ビルに当たった風が、吹き上げて腹を冷やす。



「ボス、恨みをたくさん買ってますね~。」

「早く! 早く屋上で下ろしてくれ!」



悠長なセツナに、大声で命令をするロスター。



「まあまあ、そう言わずに。」



セツナが、壁から手と足を離す。

魔力で支えていた身体が、重力によって落下していく。


ロスターを伴って。



「おわぁぁぁあああああ!!!!」


「Foo~!!」



地上が、ぐんぐん迫って来る。

重力による加速で、どんどん視界は狭まってくる。


眼下では、暗殺者との戦いを繰り広げる、エージェント。


テレポートで車から脱出したダイナが、CEの攻撃を真っ向から受けている。



スキル ≪魔導真書(グリモワール・ジーア)オルラスビルガ≫ 。


Zキャンセル。

スキルの出始めを、 ≪魔導真書(グリモワール・ジーア)ブレイズキック≫ でキャンセル。



CEヴェノムの得物、カットラスの上段斬りを、素手で受け止めた。

≪オルラスビルガ≫ は、無敵属性のスキル。


Zキャンセルすると、その無敵を僅かに残して、ステップを踏める。



上段斬りを受け止められたヴェノムに、空から落ちてきたセツナとロスターが攻撃。

スキル ≪ライトニングアクセル≫ 。


いつもよりも物理的に重い攻撃が、ヴェノムの頭部を捉える。


ダイナの追撃。

スキル ≪魔女の七つ道具ヘックス・フェシトビフ≫ 。


武器を召喚するスキルで、カイトシールドを召喚。

左手に装備。


盾に、 ≪魔女の飛燕衝ヘックス・ジルヴァルズ≫ をエンチャント。

魔女の魔力が盾に付与され、聖属性の雷を纏う。



「でやぁっ!!」



ビルガステップからの、シールドアッパー。


踏み込み、沈み込んだ勢いで跳躍。

ヴェノムの胸部に、雷属性の左を叩き込んだ。


怯み、後退するヴェノム。


その背後には、セツナとロスター。

スキル ≪魔女の一撃≫ をZキャンセル。


エンチャント ≪魔女のシルバームーン≫ 。


赤紅(あかくれない)の三日月が、セツナの足から放たれる。


紅い三日月は、女の執念、女の妄念。

執念深い女のように、三日月はCEをセツナの方へと手繰り寄せる。


ヴェノムがバランスを崩す。

後ろに倒れる。



「おわぁぁああああ!!!」



リアクション担当のロスターが悲鳴を上げ、テレポートで消える。

移動した先は、仰向けに倒れたヴェノムの上。



「は?」



そこには、ちんまいエージェントのダイナも居る。

彼女は、何やら魔法を唱えている。



パッシブ発動「法の拡大解釈(ハウス・ルール)」。

スキルを変質。


スキル ≪ハウス・カースマイン≫ 。



CEの胸の上、ダイナを起点に、薄ら暗い球体が展開される。

太陽の光を吸収し、周囲を10メートルを、薄暗がりに包む。


ロスターの心臓が冷える。


心臓に、氷を流し込まれるような、心の凍る感覚。


それは、夕暮れの呪いに罹った(かかった)症状。


スキル ≪ハウス・カースマイン≫ 。

呪いを撃ち込む夕暮れの禁忌は、拡大解釈により、呪いの範囲が広がる。


呪いの解釈を広め、周囲にいる全員を呪う。


呪われた者のうち、最初にダメージを受けた者。

その者が、呪いの犠牲者となる。


人を呪わば穴二つ。

デスマッチだ。


不公平で、最悪な――。

自分が絶対に勝てる状況で仕掛けられる、一方的なデスマッチ。


セツナがCEの胸部を、大地を震わせる脚力で踏み抜いた。

呪いの領域内で、最初の被弾者が出た。


デスマッチ、決着。


呪いが、CEの内部で膨れ上がる。

膨れ上がり、高温となり、赤く爛れ、爆ぜて外に飛び出した。


テレポート。


3人で、赤く噴き上がる噴水を眺める。


ダイナが杖を構える。

跳躍し、スキルを発動。

杖の先に、火球が発生する。


セツナが大地を踏み割る。

岩塊を、炎を纏った足で蹴り飛ばす。


火球と岩塊が、CEに向けて飛ぶ。

燃える隕石となって、赤い噴水が上がるCEの胸部を、横から殴った。


呪いにより脆弱になった装甲が剥がれる。


胸部装甲が剥がれ、コックピットが露出する。


機体の中から、いかにも戦いを知らない、一般人が出てくる。


赤い眼をした、一般人。


サウザントが流通させている、「ルシフェライザー」。

赤く爛々とした瞳は、その兵器を使っている証拠。


赤い結晶を銀で包んだ弾丸は、体内のディヴィジョナー因子を活性化させる。

誰でも手軽に、なおかつ安全に、ディヴィジョナー化できる。


一般人でも、戦う力を得ることができる。



ロスターの周辺が最近、物騒だった理由。

彼の護衛である傭兵が、ヘマをした理由。



それは、ルシフェライザーを使う一般人が、ロスターの暗殺を企てるようになったから。


恨まれているのだ。

切り捨てた連中から。


被害者意識は、事実を捻じ曲げ、歪んだ義憤をもたらす。



赤目の一般人は、怒りの双眸をロスターに向ける。

ロスターの方からは、2つの銃口が、一般人へ向けられた。



「グッモーニン。」



セツナが挨拶。

拳銃の引き金が引かれた。


ディヴィジョナー因子を鎮静化する、「イニシャライザー」を含有した弾丸が放たれる。


弾丸は命中し、赤目は大人しくなった。

――2度寝を、お昼まで。



周囲の安全を確認。

残存する敵は、いないようだ。


JJが、3人に合流する。



「ボス、ご無事で?」

「‥‥‥‥。」



声が出ず、首を縦に振ることしかできなかった。


JJの背後では、ディヴィジョナー化した人間が5人ほど、道路で寝ている。


強力な力を得ても、相手は素人。

ディヴィジョナーのタフさに慣れてさえ居れば、何とかなる。


ダイナは、腕時計を確認。



「会社への出勤、間に合うかな?」



ロスターは周囲を見る。

一連のてんやわんやで、道路は大混乱。


訓練された住民は避難し、無人になった車が道路を塞いでいる。



「タクシーを捕まえるにしても、時間が掛かりそうだ。」



セツナが、指をパチンと鳴らす。

妙案があるらしい。



「なら、良い方法があります。

 アリサさん、空、大丈夫そう?」



オペレーターのアリサに、空の状況を聞く。

セツナが質問をする前から、アリサがコンソールを操作している音を、通信機は拾っている。



「少々お待ちください――。

 周辺に、宅配ドローンなどは飛んでいません。

 目的地をこちらで設定しておきますね。」


「ありがとう。」



通信を終える。

スマートデバイスを手に取る。


側面のボタンを、ポチッと。



『センチュリオン、オーバードライブ。』



空に魔法陣が描かれて、空からCEがフォールする。


CEプロトエイト。

最高時速、350km。



「‥‥‥‥。」



無言で、極彩色のカラスを見上げるロスター。

橙色の錆止め塗装がされた機体に、セツナが乗り込む。


JJが、ロスターを機体の肩に乗せる。

ダイナも、反対側の肩にちょこんと腰かける。



「いくよ~~。」

「「いいよー。」」


「‥‥‥‥。」



CE空へと飛び立ち、浮上する。


機内のモニターに、目的地の方角と距離が表示される。

アリサが、前もって設定してくれていた。


‥‥彼女もだいぶ、彼らに毒されてきた。



‥‥‥‥

‥‥



結局、ロスターは遅刻することなく、会社へと出社した。


その日の帰り、彼はガンショップに赴き、銃を購入。

スーツ姿で、シューティングレンジに籠ったという。



サイドミッション「偏屈な男の護衛」クリア!

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