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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
8.5章_ワン・マン・アーミー!

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SS15.03_王女様の言う通り 3

セントラル、洋上カジノ。


海に浮かぶ大きな遊び場には、たくさんの施設がある。


カジノだけでなく、ダーツやビリヤード。

血気盛んな腕自慢が、存分に腕を振るえるコロシアム。


美味しい料理やお酒が楽しめる、レストラン。

それから、海や空に囲まれた、プール。


こんなに広くて、楽しいから。

ついつい年甲斐もなく、はしゃいでしまう大人が後を絶たない。


また、このクルージング船は、紳士と淑女の社交場。

意気投合した相手が居れば、プライベートな空間が欲しくなる。


‥‥2人きり、誰にも邪魔されない場所が。





ハルとソフィアの、ブラックジャック勝負。


勝負はハルの優勢。

彼女のコインは、最初の2倍に増えている。


運には、自信があるのだ。

兄と違って。


ソフィアのコインは、最初とほぼ変わらない。

運が下振れている。


勝負に出たところで、ことごとく負けている。


その結果が、手持ちの差となっている。


2倍の差がついた段階で、いよいよ最終ゲーム。



ブラックジャックでは、ディーラーの手札に勝てれば、掛け金と同額の賞金が貰える。

つまり、勝てば掛け金は倍になって戻ってくる。


また、「21」の役ができれば、賞金は掛け金の2.5倍となる。



現在、ハルとソフィアの差は、2倍。

ハルは、何もしなくても、高確率で勝負に勝てる。


逆にソフィアは、全賭け(オールベット)からの大逆転を狙う他ない。


大勢は決した。

勝敗は、ほぼ決まった。


――ハルが、掛け金を前に出す。

手元のコイン、全てを前に出した。


オールベット。

ソフィアよりも先に、全てのコインを賭けに乗せた。


「にひっ!」、隣に座るソフィアに、笑顔を向ける。


ハルの笑顔に、ソフィアも微笑んで返す。

真面目なようでいて、思い切りの良いお嬢さんだ。



「後悔、するんじゃないよ。」



ソフィアも、自分のコインを、全て前に出した。


ハルがオールベットしたのだから、ソフィアは適当な額でやり過ごせばいい。

その方が、一発逆転を狙うよりも確実。


勝負に、勝つためだけなら。


だがしかし、そんな勝ち方、元傭兵のソフィアは許さない。


生意気な小娘が挑発してくるから、その勝負を、売り言葉に買い言葉で買った。


せこくて小さい勝ち方は、この場に相応しくない。


わざわざ、向こうがあえて勝負の場に降りて来てくれたのだ。

ここはオールベット以外、ありえない。



――勝負の行方、運命のカードが、2人に配られた。



‥‥‥‥

‥‥



勝利の女神は、最初から最後まで、ハルの味方だった。

今宵のハルは、勝利に愛されたラッキーガール。



ハルの手札(ハンド)は、7・7・7の、合計21。

この役は、スリーセブンという特別な役。


一緒にテーブルを共にしているカジノ客からも、感嘆の声が漏れた。


ローカルルールで、ハルの賞金が上乗せされる。

賞金は、掛け金の3倍に。


最終的なコインは、60万クレジット相当にまで増えた。



対するソフィアの手札は、3・J(10)Q(10)の、合計23。

合計が21を超えたので、バースト。


彼女の手元に、コインは1枚も残らなかった。


カジノで有り金を失った憐れな女は、年下のお嬢様に買われることになる。



「勝負あり、ですね♪」

「ああ、完敗だ。」



2人は、席を立つ。


約束通りハルは、ソフィアに何でも命令できる権利を手に入れた。


増えたコインは、テーブルに置いたまま。


そのコインで、一緒にテーブルを囲んだカジノ客に、高いお酒をプレゼント。

残った分は、ディーラーへのチップ。


セントラルの紳士淑女のあいだでは、コインは持ち帰らないのが「粋」とされている。


当然、今夜がカジノデビューのハルは、そんなこと知らない。

なんか、映画やアニメで観てカッコイイと思ったから、真似しただけ。


奇しくもハルは、周囲の紳士淑女から、「まだ若いのに粋な女性」との認知を得ることとなる。

ついでに、そんな若い淑女を連れてきた、ソフィアの評価も上がることになる。


若い女性をカジノに連れ込んで、評価が上がることに関しては、じつにセントラル。

終末世界を生きるには、これくらいのメンタリティが無ければ間に合わない。


宵越しの金は持たない、持ち帰らない。

それが、セントラルの粋。


ここは、人生一発逆転の場ではなく、大人の社交場なのだから。



増えても、持ち帰らない。

増やそうと、思わない。



コインに換金したクレジットは、もう返ってこない物として使うのだ。


カジノは、紳士淑女の社交場。

そんな文化があるからなのか、ギャンブル中毒になってしまうセントラル人は、異常なほど少ない。


増えて戻ってくると思うから、中毒になるのである。

(はな)から戻って来ないと思っていれば、中毒になりようがない。


‥‥ただ、大きな額で勝負をして、大衆の注目を集めたいという、ままならぬ承認欲求に振り回される大人は、後を絶たないが。


人間を管理するための、完璧なシステムなんて、存在しないのである。

空気や水のように、人の感情は抜け道を探す。


さて、ソフィアを好きにできる権利を手にしたハル。

カッコイイ大人の女性を、好きにできる。



「‥‥‥‥。ふふ――。ふへへへ――。」



口元が緩んだと思えば、到底、レディらしからぬ声が漏れ始めた。

‥‥(アイ)は、(ハル)を呼ぶ。



「敗者に権利など無いのだけれど、お手柔らかに頼むよ。」

「ふへ~~――。」



今日は、色んなハル君を見られるな。

そう思うソフィアであった。


2人はプールへと向かい、水着を買った。

水着だけ買って、船内のホテルへ向かった。


遊び疲れた大人が、柔らかいベッドで休める場所。

社交場で意気投合した紳士や淑女が、2人きりになれる場所。


ハルは、ソフィアをホテルに連れ込んだ。


やましい気持ちは無い。

ちょっと、ソフィアに水着を着てもらうだけだ。


――男が、マッチョマンの筋肉に惚れ惚れしまうように。

女だって、美人の素肌に興味津々なのだ。



仕方ない。

ソフィアは賭けに負けて、自分が勝ったのだから、仕方ない。


罰ゲームは、罰にならないと意味が無いのだから、仕方ない。



秘密や隠し事が、女の化粧とするのなら。

建て前は、女の洋服だ。


それが無いと外を出歩けないが、それがあれば大胆に、外を歩ける。


仕立てに、着心地。

美しければ美しいほど、良いとされている。





「ボタンを――、外してくれないかな? ハル君。」


「うぇ――!?」


「お願い。」



個室で2人きりになって待ち受けていたのは、ソフィアの反撃だった。


成人したばかりで、まだまだ遊び慣れていない小娘と、悪い遊びを一通りやったソフィアでは、経験が違う。


ソフィアは、ハルがチョイスした水着に、言われた通りに着替えた。

広いお風呂で着替えて、ハルの前に出てくる。


そこには、水着姿のソフィア‥‥‥‥。

ではなく、普段通りの格好のソフィア。


シンプルなワイシャツに、タイトなズボン。

その下に、普段とは違ってビキニを着ている。


‥‥ワイシャツは、腕まくりをするように注文しておいた。


シャツの袖を2回くらい折って、手首と腕がチラッと見えるくらいの腕まくり。

それが、良いのだ。


ソフィアは言われた通り、腕まくりをして出てきた。


――で、ここからが、この衣装の肝なのだが。


普段通りの服装。

普段とは異なる、ビキニ。


シャツのボタンを外せば、水着が白日の下に晒される。


この、いつもの服装で、いつもは見えない所が見えてしまう。

素肌をはだけさせ、首元とか、おへそとかが見えてしまう。


それが、良いのだ。(?)


それに、ソフィアは元傭兵。

シンプルな服装に、ラフなスタイル。


ビキニの上にシャツ。

シャツのボタンを留めずに、銃の整備を、タバコを吸いながら行う。


メタリックでメカニックな作業音。

時おりする、ライターの着火音。

一服タバコを吹かしたあとの、吐息。



――カッコイイ!



ハルにはマネできない、大人の色香。


あえて素肌の露出を限定することで、「水着を着ている」のではなく、「服を脱いでいる」というシチュエーションに変換する。


非日常的な水着ではなく、いつもの服の、いつもとは違う顔、違う一面。

ふとした瞬間に漂う、色気。


それが、良いのだ。

‥‥良い、らしい。


明晰な頭脳が、たくましい妄想を脳内で上映させる。


そして、その妄想は、ついに現実に。


カジノで負けたソフィアを、カジノで勝ったお金で買って、妄想を叶えた。


しかしハルは、あっさりと主導権をソフィアに取られてしまうのだ。

ソフィアは、ハルの希望に完全には従わず、ワイシャツのボタンは留めたままだった。


水着は、白いシャツの中に隠れたまま。


そのシャツのボタンを、ハルに外して欲しいと。

そうお願いした。


フリーズするハル。

余裕そうな顔のソフィア。


生来の負けず嫌いが発動して、ボタンを外すハル。


胸元のボタンを外す。

第2ボタン――、第3ボタン――。


外すたび、心の中の、感情の扉が開いていく。

中から、背徳感が出てきて、広がっていく。


なんだか、すごく、いけないことをしている感覚に襲われる。

合意の上なのに、ここは電脳なのに、頭が痺れていく。



‥‥‥‥ちょっと、楽しい。



最後のボタンを外して、ソフィアの肌が露わになった。

ハルの妄想した、シャツとビキニスタイルの完成だ。



「――ベルトを緩めて、ズボンのボタンも外してみるかい?」



真っ赤な顔を、横に振った。

耳まで赤くして、逃げるように距離を取る。


距離を取って、ソフィアの素肌を、まじまじと見る。


若い。

年齢以上に、若く見える。


彼女の年齢は、だいたい35歳のはずだ。


なのに、20代かその辺りの容姿にしか見えない。


身に纏う雰囲気や、目つきの鋭さで大人に見えているが、見た目は実年齢のひと回りも若い。



「あ、あの――!」

「ん? なんだい。」


「お、お腹、触ってみても‥‥、いいですか?」

「敗者に権利は無いからね。好きにするといい。」


「じゃ、じゃあ――。お邪魔します。」(?)



恐る恐る手を伸ばして、ソフィアのお腹に触れる。


細く引き締まった腰。

縦に割れた腹筋。


きめ細かい、すべすべの肌。



「おぉ――!!」



感動。

素直な感動。


感嘆の声を上げる。


ソフィアは、左眼の眼帯を指で叩く。



「怪我の功名、ってヤツだね。

 傭兵なんかをしていても、美しさへの憧れは、捨てられない。」



ソフィアの若さの秘訣。

それは、ディヴィジョナー化したことにあるらしい。


ディヴィジョナーのもたらす不死性が、不老をもたらしているのだ。


‥‥‥‥。

ゆえに、懸念している。


人をディヴィジョナー化させる(すべ)を持つサウザントが、美をチラつかせて女性を毒牙にかけないのかを。


彼奴等は、極めてカジュアルに、人をディヴィジョナー化させる。


たった1発の弾丸で、永遠の若さが手に入るとしたら?

永遠の美が、手に入るとしたら?


なびく人間は、きっと多い。



科学者の悪癖が出ている。

思考が、うっかりデートから脱線してしてしまう。


なので、ハルは話題を振って、思考を呼び戻す。



「そう言えば、ディフィニラ局長も、若々しいですよね?」



御年、50代から60代。

だが見た目は、若々しい。


‥‥プロレスのリングに、煽情的な衣装(ユニフォーム)を着て上がるくらいには、若々しい。



思考が戻ってきたソフィアは、ハルに顔を近づけて、ひそひそ話。



「内緒だけど、教会のオリーブさんも、同じくらい若い。」

「えっ!?」



青石教会の司祭、オリーブ。

ハルの上司であり、ソフィアの恩師。



「でもでも、オリーブさんの見た目は――!」


「お婆ちゃんみたいな格好をしているだろう。

 あれ、魔法で化けているのさ。

 教会は、傭兵をまとめているからね。

 若い女がトップだと、舐められる。」


「威厳を出すためって、ことですか?」

「そういうこと。」



いま明かされる、衝撃の真実。

オリーブの、あの朗らか(ほがらか)お婆ちゃんの見た目は、仮の姿だった。


本当の姿は、ディフィニラと同じく、煽情的な衣装でプロレスできるほどに、若々しい。

同性としては、羨ましい限りであろう。


ただ、そうなると気になるのが――。



「なんで、お二人はそんなにも若々しいのでしょう?」

「それについては、アリサが興味深い仮説を立てていたね。」


「アリサさんが?」


「ああ。仮説によれば、私たちの遺伝子に、魔法界の人間の情報が入り込んでいるらしい。」


「‥‥‥‥?」


「キミが、”楽園”に遠征へ行ったことで、明らかになったことさ。

 私たちが魔法を使えるのは、我々がディヴィジョナーに感染しているからだ。

 魔力は地球にも存在していたが、それを知覚する術を、誰も持っていなかった。」


「ディヴィジョナーは、情報に感染するウイルスのような物なんですよね?」


「その通り。

 そして、感染の仕方も、ウイルスに似ている。

 人に感染するディヴィジョナーは、人から人へ移りやすい。」


「――なるほど。つまり私たちに感染したウイルスは、魔法界に住んでた人間由来の物だと。」


「うん、そうだよ。」



若さの話題から急遽、ディヴィジョナーの講義が開かれることになった。


ソフィア先生の講義を、ハルは受講する。


‥‥水着姿の先生からの講義。

非常に、アンバランスだ。


先生は、気にした様子もなく講義を続ける。



「それで、ここからが重要。

 我々がディヴィジョナーに感染したとき、我々に、横方向の進化が起こった。」


「横方向の進化‥‥。

 世代交代による淘汰や突然変異ではなく、生態系との繋がりで偶発的に発生する突然変異。」


「ふふ。やはりハル君は、よく勉強をしてるね。

 その通り、横の進化とは、世代交代を介さない進化のこと。

 よく例に挙げられるのが、DNAの二重らせん構造だね。」


「二重らせん構造は、生物の細胞に感染したウイルスが起源だと言われてますね。」


「そうだね。

 その横方向の進化を、ディヴィジョナーはもたらした。

 おかげで、我々は魔力を知覚できるようになった。


 魔法界の人々――。

 魔力を知覚し、魔法を使えるフロド人の、能力や特徴を獲得した。」


「フロド人‥‥。特徴‥‥。」



フロド人。

聞き覚えのない単語だ。


魔法界の人間を指して、ソフィアはフロド人と呼んだ。


先生から、補足が入る。



「銀月の女神、アリアンロッド。

 あるいは、アリアンフロド。


 彼女の名になぞらえて、魔法の大陸をフロド大陸と呼び、人々をフロド人と呼ぶことにしたんだ。

 今までは、滅んだ文明の文字を、無理やりこっちの言葉に訳していたけどね。


 ハル君が楽園で、新月を名乗る女神に出会ったことで、研究が進んだ。」


「なるほど‥‥。

 それで、フロド人の特徴っていうのは?」


「それがズバリ、若さだよ。」


「???」


「フロド大陸は、魔法がある世界だからね。

 不老長寿の存在は、残された遺跡からいくつも発見されていた。


 ”雪かぶり”と呼ばれていた魔女は、300年も生きていたとされ、その見た目は童女のようだったと遺されている(のこされている)。」


「300年も‥‥。」



感慨深げに、ハルは呟いた。

口が、ぽかんと開いたままになってしまう。


‥‥300年の時を生きた魔女。


ファンタジーには、ありがちな設定だ。

創作において、不老長寿は珍しくない。


現実に、不老長寿なんて、いないけれど。



――いなかった、はずなのだ。



でも、ハルは知っている。

()()()()には、女神がいて、魔法がある。


この世界の、どこか遠くには――。

女神が創ったとされる、銀色の大地がある。


もし、ディヴィジョナーが存在しない世界であったなら。

もし、ディヴィジョナーを克服した世界であったなら。


銀色の大地に、人々と文明は生きていて。

不老長寿が、現実のものとして存在しているのだ。


銀色の大地、フロド大陸に住む、フロド人。

会ったことは無いけれど、なぜか親近感を覚えてしまう。


例え宇宙の隅っこまで行っても会えないのに、なぜか隣人のような、親近感を覚えてしまうのだ。



物思いに耽るハルと、やや流れて過ぎる沈黙。

間をおいて、ソフィアが続ける。



「やはりハル君も、永遠の若さに惹かれるかい?」


「はい。それは、まあ‥‥。」



10代20代が花盛りなんて、短すぎる。

これは、まごうこと無き、本音。



「なら、朗報かもね。

 ディヴィジョナーに感染した時、我々も、フロド人の特徴を獲得してる。

 向こうの世界は、人間の天敵が多かったらしい。

 優秀な戦士が、長く戦えるように、老いが起きにくいよう種の進化を辿った。」


「その影響で、ディフィニラさんや、オリーブさんも?」



「アリサの仮説だが、良い線を突いていると思ってるよ。

 強さと、美しさ。

 優れた遺伝子を残すため、そう進化をした。

 それがフロド人であり、我々が獲得した特徴。


 ただ、そうなると――。

 地球の人間は、既に絶滅していることになるけどね。」


「‥‥‥‥!」


「フロド人は、人間に近しいが、我々と同じ”ヒト”ではない。

 エルフやドワーフに近い、いわばフロド種とも呼べる種族だ。


 彼らの特徴を獲得した私たちは、既に、昔の科学が定義したヒトではない。

 魔法が地球に普及した頃に、厳密な意味での人間は、絶滅していたんだよ。


 まあ、厄災以前を知らない私たちからすれば、どうしようもない話しだけどね。」



再び、考えに耽る。

魔法を獲得した人間は、厳密な意味での人間ではない。


この言葉が、電脳の世界なのに、やけに心に引っ掛かる。


それもそのはずだ。

電脳の外にも、魔法は存在しているのだから。



女神が、地球に魔法をもたらしたのだ。

‥‥兄を使って。



魔法に目覚めた者、自分以外にもいるだろう。

魔法は現実を侵食し、現実を異界化させてゆく。


目覚める者は、増えていく。

そして、このまま広がっていけば、日本の社会は割れる。



魔法に対する差別。

魔法による差別。



仮に、魔法が使えるようになったとして、ヒトはヒトで居られるのだろうか?



‥‥‥‥。


ハルは信じたい。

そんなこと、取るに足らないと。


大した問題では無いと。


ヒトが、機械と恋をすることだってあるのだ。

種族の括りなど、人間の強さの前には、無いに等しい。



雑食なのだ。

人間というヤツは。


そうやって生きて、発展してきた。



――ハルは、考え込みながら、部屋のベッドに腰かける。

シワひとつ無いベッドが、柔らかく彼女を迎え入れる。


そして、彼女の前に立つ、ソフィアの腰に抱きついた。

タバコの香りはしなかった。



柔らかい。

安心感。


包まれて。

ハルのデート券は、インベントリから姿を消した。



‥‥‥‥

‥‥








「もしも~し、セツナちゃ~ん。

 だいじょうぶ? 聞こえてる~?」


「くぅ~~‥‥。」



妹がロマンティックを繰り広げる、セントラルの夜。

兄であるセツナは、クラブで酔い潰れていた。


いや、正確には、酔い潰された。


ぐったりと、テーブルに上体を預ける。

‥‥頬が冷たい。気持ちいい。


身体に力が入らない。

アイの声が、遠くに感じる。


なんか、寒気がしてきた。

お酒を飲むと、ぽかぽかするもんじゃないの?



セツナとアイ、悪魔と魔女。



女神の策謀によって、過酷な運命を背負わされた2人。

望まぬとも、運命に翻弄されることになる。


銀の車軸は、回り始めたのだ。



――と、まあ、それはそれとして。(!?)

――それはそうと、しておいて。



2人は、たくましかった。

過酷な運命を背負わされるに足る、器を持っていた。


図太く、厚かましく。


遊べるときは、全力で遊ぶ。


割れ鍋に綴じ蓋バカップル。

全力でエンジョイ!



アイは、酔い潰れたセツナを、ひょいと持ち上げる。


セツナ、大学生。

蘇生の治療費を稼ぐために、身体を売る女。


賢い彼女を、たくさんお金を持っていて、ちょっと頭の緩い感じのアイが、お姫様抱っこ。


クラブの席から、立ち上がる。


お客様、お帰りである。

テイクアウトが1名。


VIP席を後にして、フロアに下りる。


音楽に熱狂している客のあいだを、颯爽と進んでいく。

セツナをお持ち帰りして、夜のセントラルに消えていく。


‥‥‥‥。


さて――。

そろそろ、因果応報のお時間だ。


真夜中の鐘が鳴るから、シンデレラの魔法が、解ける時間になった。


悪い狼を、赤ずきんが血祭りにあげる時間だ。


アイのインベントリから、デート券が消失する。

セツナに掛けた魔法が、解けていく。


雪が溶けるように、アイの腕から重さが消えていく。


ポフン。

白い煙が立ち込めて、アイの腕からセツナちゃんは居なくなった。


クラブの客が、煙に驚き離れる。


音楽が止み、アイに注目が集まる。


アイの目の前には、彼氏の姿に戻った、セツナ。

ワインレッドのパーカーを着たセツナが、指の骨を鳴らしている。


酔いは醒めた。

力も戻った。



「‥‥‥‥。」

「‥‥‥‥。」


「アイ。今から、格ゲーでもどう? ‥‥()()()()()。」

「はいはい! アイちゃん降参します。負けを認めます。」



即刻、降伏するアイ。


するり。

セツナの懐に入り込む。


自分で、セツナの腕の中に入っていく。



「アイちゃん、今からセツナの彼女になります。」

「‥‥‥‥。」


「彼女に、ヒドイことなんてしませんよね?」

「‥‥‥‥。」


「セツナってば、男の子ですから、細かいことは気にしませんよね?」

「‥‥‥‥。」


「ねぇ~! ‥‥‥‥ねぇ?」

「‥‥‥‥。」


「‥‥‥‥。」

「‥‥‥‥。」



――セツナの表情が和らいだ。

にっこり、口角を上げる。


アイも、にっこり。

口角を上げて返す。



「ふふ~ん。」

「ふふ~ん。」


「「‥‥‥‥。」」


「「ふふ~ん♪」」



ひょい。

セツナが、アイを抱っこした。


お客様のお帰りである。

テイクアウト、1名。



「水着‥‥、見に行こうか?」

「え? え??」


「大丈夫、手加減はする。」

「あの、ちょ――!?」



往生しないアイ。

ぽかぽかと、セツナの胸を叩く。



「それは違くないですか?

 私の水着は、違くないですか?」


「‥‥‥‥。」


「ほら? セツナは、女の子のアバターだったじゃないですか?

 いわば、着ぐるみを着ていた状態じゃないですか?

 私、このアバター、生身と同じ‥‥‥‥。」


「‥‥‥‥。」






――それは好都合。






「ああ! ダメですダメです!

 誰か! 助けて!

 怖い人に連れてかれる~!」


「あんまり抵抗してると‥‥。水着のまま、外を連れ歩くぞ‥‥!」


「ひぃ~~――!」



誰も、2人を止めようとしない。

痴話げんかは、犬も食わない。


捕まった狼と、捕まえた赤ずきん。

2人の背中を、クラブの人間は見送った。


そして――。

2人は、セントラルの夜に消えていった。





SS15_王女様の言う通り -完-



‥‥‥‥

‥‥



◆おまけ



「ど‥‥、どういうことですの? これは‥‥?」



ルフランは、困惑した。


巨悪サウザントを束ねる最高幹部。

自分は、その組織の視察をしていたはずである。


あたたかい日差しに空を仰げば、青い屋根に、白い雲。

周囲を見渡せば、手入れされた花と植木。


その奥には、背の高いビルが並んでいる。


空中庭園だ。

ビルの屋上を利用した、空中庭園。


雪のような魔力に包まれたと思ったら、自分は空中庭園に招待されたらしい。


‥‥なるべく、視界に入れたくなかった、前の方を向く。


そこには、線の細い、スーツ姿のキザな三枚目が座っていた。



「――フッ。まずは席に座りな、お嬢さん?」



空中庭園で、キザに茶をしばいているのは、ジョニー。

本名、十塚(とつか) 杏里(あんり)


ハルやアイ、それとフロントさんたちと共に、狂ったガーゴイルと戦ったプレイヤー。


天蓋の大瀑布に出現した地下迷宮。

その地の大ボスを倒すための、キーマンになった人物でもある。


彼の手には、赤い紙切れ。

名刺サイズの紙に、金色のハートマークが描かれている。


デート券だ。

ジョニーは、ルフランに対して、デート券を使った。


ルフランは逡巡する。

ここで、このバカを始末するか否か?


‥‥なぜだか、殺気や闘争心が湧かない。

強制的に、ここに連れ出されたにも関わらず、である。


むしろ、お喋りしたいとまで思ってしまう。


ジョニーは懐から、トランプを取り出す。

トランプが、白いウサギさんになり、ルフランの前にやって来る。



「早く座りなベイビー。紅茶が冷めちまう。」



ウサギに案内されて、茶会のテーブルへ。。

長身痩躯のジョニーが椅子を引き、小柄なルフランが腰かける。


被っていたシルクハットをテーブルに置こうとして、手が空を切った。


そうだ。

帽子は()()()に置いたままだ。


気付いたジョニーが、自分の帽子をルフランに被せる。


小柄なルフランに、紳士帽は大きすぎるようだ。


帽子を被り直すジョニー。


突然の無礼に、怪訝な顔をするルフラン。

乱れてしまった髪を整える。


パチンと、インチキ手品師が指を弾く。

紅茶ポットが、独りでに紅茶を作り始める。


ガラス製のポットに茶葉が入って、お湯が注がれる。

蓋が閉まり、茶葉を蒸らす。


ポットの中で、茶葉が踊っている。

茶葉以外にも、ドライフルーツが入っている。


オレンジ色をした紅茶の中で、赤い色をしたイチゴが踊っている。



「ほう、これは――。」



イチゴの花吹雪に見入るルフラン。

目で楽しむ紅茶、悪くない。


洒落が利いている。


ルフランは、ジョニーのことを知っている。

ジョニーも、ルフランのことを知っている。


セントラル南東の海で、殺し合った仲だ。


あの時は、ただの胡散臭い手品師だと思っていたが‥‥。

空中庭園で、オシャレな紅茶を楽しむ趣味があるらしい。


ルフランは――、思うのだ。

この男に対して。



(ちょっと!? ダメだって! ダメだったら!

 花の葉っぱ(かじ)っちゃダメ!!

 大人しくこっちに――。あ、コラ!)



‥‥この男は、間違いなくバカだ。


自分で呼び出した白いウサギに、遊ばれている。

やっとの思いで捕まえて、ウサギを抱えて席に戻って来る。


卓上では、紅茶が注がれている。


湯気と共に、華やかな香りがセントラルの午後に広がる。


最後に、薄く切ったドライフルーツのイチゴを1枚、紅茶に浮かべて完成。

乾いたイチゴが、紅茶に浮く。


ティーカップを持ち上げ、香りを楽しむ。

香りを味わい、それからひと口。


美味しい。

ドライフルーツのほどよい酸味が、紅茶の味を立体的にしている。


茶葉由来の酸味ではなく、ドライフルーツの酸味が加わることで、紅茶の渋みを和らげ、飲みやすく、それでいて味がくどくならないようにしている。


花や木々に囲まれて、イチゴの浮かんだ紅茶を一杯。


なるほど、悪くない。



「フッ‥‥。気に入ってくれたようだな。」


「ええ。飲む場所が違えば、味が違うのが紅茶。

 良い場所で飲む紅茶は、良い物になります。」



ティーカップが、音も無くテーブルに戻される。


ジョニーは、ウサギを膝の上に置いて撫でながら、片手で紅茶を飲む。

背もたれに身体を預けて、アウトローっぽさを醸し出しながら、ひと口。


‥‥‥‥。


デート大作戦。

3度目にして、やっと成功。


この空中庭園に呼んだのは、実のところルフランが3人目なのだ。


1人目は、暗い月を呼んだ。

呼んだ理由は、ツラが良いから。


‥‥呼んで早々、顔をぶん殴られて帰られた。


暗い月は、ジョニーから微かに、()()にいる1番目の気配を感じ取った。

人間風情が、姉を誑かそうなど、万死に値する。


この場で引き裂いてやっても良いのだが‥‥。

そうすると、姉が悲しむ。


なので、1発だけで許してやった。



――デート大作戦。

1人目、失敗。



気を取り直して、2人目。

ジョニーは、新月を呼んだ。


‥‥スゴイ剣幕で詰め寄られて、腹をぶん殴られた。


よりにもよって、暗い月の魔力が残る場所に呼んだのだから、こうもなろう。


新月は、無言で腹に拳を叩き込み、ゴミでも見るような瞳を送って、去って行った。


それでも、どうにも気が収まらず、無様にうずくまる男の、頭でも踏んでやろうとが、何か得体の知れない危機感を覚えて、やめた。


去り際、背中の方から、露骨な落胆の念を感じたが、忘れることとする。


デート大作戦。

2人目、失敗。



そして3人目。

最後のデート券で、ジョニーはルフランを呼び出した。


敵の将を、茶に誘ったのである。



「――何か、お話しをしてくださる?」



ルフランが、ジョニーにそう要求する。

彼女は、肩の長さまで伸ばしたショートヘアの毛先を、弄んでいる。



「レディをお茶に誘ったのだもの。

 エスコートくらいは、期待してもいいでしょう?」


「お喋りなら任せな。得意分野だぜ。

 女の趣味なら、ひと晩は語れる。

 ‥‥まだ夜が来てないないのが、残念だ。」


「女の前で、誇らしげにすることではありませんわね。」


「おや? 流石は最高幹部様と言ったところか?

 こんな話でも、表情ひとつ変えないんだな?」


「わたくしを、試していますの?」



ルフランは、紅茶を飲む。

香りを楽しみ、まだまだ熱い紅茶をひと口。


――カップとソーサーに細工がされてある。


お茶が冷めないように、術式が施されている。


美味しいお茶と、おいしい空気に、息をつく。



「わたくし、試されるのは、好きではありませんの。

 ‥‥試すのは、大好きだけれど。」


「それはそれは――。仲良くなれそうだ。」


「敵と仲良くして、どうするつもり?」


「そうだな~‥‥。

 君を、俺のものにしたい! って言ったら?」



ジョニーは、手からバラを出す。

赤くて小さい、一輪の花。


歯の浮くようなキザなセリフと共に、美女に花を贈る。

それが、ハードボイルド。


ジョニーは、そう思っている。



「‥‥‥‥。また、試すのね。」



ルフランは、席を立つ。

歩いて、ジョニーの傍へ。


白い手袋を外す。

外した手袋は、ズボンのポケットへ。



「でも――、そうね――。」



ウサギが、ジョニーの膝から逃げた。


バラを、ジョニーの手から奪うように受け取る。

自分が着ている、黒いベストの胸ポケットに、バラをさす。


グイと――。

ジョニーへ迫る。


顔。鼻が触れてしまいそうな距離に詰める。

ジョニーの被る帽子のつばが、ルフランの額に当たる。


顔を近づけ、彼の喉を、猫にそうしてやるみたいに、撫でる。


ゆっくりと指先を、這わせるように撫で上げて、指を顔が離れる。



「クフフ――。

 もし? わたくしが、貴方の女になると言ったら‥‥。

 貴方は、セントラルを滅ぼしてくれる?」



見つめ合う。

そう遠くない距離。


身体、ひとつ分の距離。


ルフランの瞳が、嗜虐的な色に燃えている。


試されるのはイヤ。

だけども、試すのは、大好き。


色恋ひとつで、彼女が浮つく(うわつく)ことは無い。


ジョニーは、紅茶をひと口。

酸っぱいイチゴの香りが、口に広がった。



‥‥‥‥ここで、ジョニーのスマートデバイスが鳴る。



セントラルの方ではない、現実の方でだ。

電話、七月(ななつき) 亜里亜(ありあ)から。



「――ん? えっ!?」



ジョニーの動きが、挙動不審になる。

まるで女性みたいな仕草で、前髪を触る。


中の人、十塚(とつか) 杏里(あんり)の仕草が出てしまう。



「ちょ、ちょっとタイム!」



腕で「T」の文字を作って、ルフランにタイムを要求する。

溜め息をつくルフラン。



「あ、もしもし。

 ――え! お茶ですか! 喜んで!


 デート? 女?

 ななな――、何のきょとでしょぅ?」



杏里(ジョニー)に、お茶のお誘い。

現実世界の、亜里亜からだ。


七月 亜里亜は、嫉妬深い。


()に浮気をしようとする気配を敏感に察知。

杏里の気を引こうと、お茶に誘ったのだ。


亜里亜との電話を終える。


すると、背を向けていたルフランが振り返る。

ジョニーに、何かを投げつけた。



「それ、差し上げます。

 花のお礼に。」



ジョニーの胸に、白い手袋が当たり、地面に落ちる。



「レディからの贈り物。

 受け取ってくださいますわよね?」



肩をすくめて返す。

それから、手袋を拾う。


――この手袋は、決闘の意思表示。

断行の意思表示。



ルフランが、右手を上げる。

空間に亀裂が入り、割れる。


紫色の虚空が、彼女の背後に現れる。


同時に、ジョニーの被っていた帽子が、虚空に吸い込まれてしまうように、飛んで行く。



「あっ――!?」



帽子は、ルフランの手の中に。

奪った帽子を、浅く被る。



「楽しい時間でした。本心から、そう思います。」



巨悪の将が、空中庭園から去って行く。

裂けた空間へ入ると、空間が閉じていく。



「次に相まみえる時は‥‥。

 もっと楽しい時間にいたしましょう。」



ジョニーのインベントリから、デート券が消える。

束の間の茶会は、幕を閉じた。


ウサギは花を齧り。

冷めない紅茶が、いまも湯気を漂わせている。



エージェントと、ルフラン。

CCCと、X³ (サウザント)。



両者は相いれず、戦う宿命。


物語は、エンディングに向かって収束する。



エージェント、サウザント、ディヴィジョナー。

創造の白龍、新月の女神。



全てが、ひとつのエンディングに向かって、収束していく。



茶会は終わった。

戦うのだ、エージェント。






8.5章_ワン・マン・アーミー!  -完-







M&Cの物語を、ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


蝶を追いかける場面から始まった、第2部。

ゲーマーたちの物語は、電脳の世界に留まらず、現実まで及びます。


電脳と現実、科学と魔法、人と神。


相いれなかったはずの要素が、分け隔てる境界を失い、混ざり、交錯する。


第3部からは、異界化した電脳世界と現実世界を舞台に、冒険が進みます。



第3部の予定としては、終章を含めて、7章構成になる見込みです。

その7章の合間に、サイドストーリーも挟んでいきます。


章のボリューム自体はありますが、物語が終わりに近づくにつれ、サイドストーリーは少なくなります。


ですので、最終的なボリュームは、そこまで大きくなりません。

‥‥ならない、と思います。



もしよろしければ、今後とも、M&Cの冒険を一緒に楽しんで頂ければと思います。


それでは、次回の物語まで、いま少しお待ちください。



‥‥余談だけど、「王女様の言う通り」は当初、1万文字で収まる予定でした。

余談ですけどね?

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