SS14.03_黒き使者
悪魔の銃、ライザ。
セツナの愛銃は、異界化がもたらす怪異により、人間の姿となった。
銃の性能と、使い手の能力。
それらが、彼女の姿と能力を構成している。
優れた武器は使い手を選び、優れた戦士は武器を選ぶ。
ライザとセツナは、互いを認め合う者同士。
‥‥そして、似た者同士。
人と人が似るように、武器と人も似ていく。
知らず知らず。
◆
「「‥‥‥‥。」」
やいのやいのと、取っ組み合いのケンカをしていた2人が、大人しくなる。
セーフハウスに客人。
2人来た。
1人は、セツナの妹のハル。
そして、もう1人は――。
「いたたた――――、た?」
床にうつ伏せに倒れているハルが、周囲を見渡す。
セツナとライザに、気が付いた。
目を大きく開き、息を、言葉を、詰まらせる。
「に、兄さんが‥‥。」
セツナは危機感を覚え、ライザを引き剥がそうとする。
膝立ちで腰に組み付いている彼女の頭を、右手で押しのける。
引き剥がせない。
‥‥その装備を外そうだなんて、とんでもない。
言葉に詰まったハルは、セツナを指差した。
喉に詰まった言葉が、驚愕によって押し出される。
「――兄さんが、知らない女を家に連れ込んでるぅぅ!!」
「やめなさいって!?」
ライザは、にんまりと悪い顔。
セツナに縋り、ハルの前で、すんすんと泣きまねをする。
「あのね。あたし、この人に捨てられたの‥‥。」
「よしなさいって!?」
「痴情のもつれだ~!!」
「別の男 (男装の麗人)の、相手をさせられたこともあるの‥‥。」
「待ちなさいって!?」
「インモラルな関係だ~!!」
「だぁーー!! どうなってんだ!? 今回の仕事はッ!!」
絶叫し、頭を抱えるセツナであった。
その様子を、ハルの上に座る少年が、冷ややかな目で見ている。
ライザは、冗談の応酬に満足して、セツナから離れる。
離れて、立ち上がる。
(背、たっか‥‥!)
立ち上がったライザに、ハルは無言で驚く。
彼女の身長は、セツナと同じくらいある。
兄の身長が、180cmと少しだったので、彼女もそれと同じくらい。
180cmは確実にある。
ハイヒールを履いたら、セツナよりも背が高くなるくらいには、背が高い。
長身の女ガンマンが、ブーツをソールを鳴らしながら、ハルの傍へ。
おもむろに、ホルスターから銃を引き抜く。
銃口を向ける。
ハルの上に座る、冷めた表情の少年へ。
「おい、クソガキ。
いつまで、そこに座っているつもりだ?」
((こわ‥‥。))
リボルバーの持つ凶暴性が、ライザを急変させる。
銃を向けた相手と、銃を握る者。
その両者に、良くない結末をもたらす。
デビルサモナー、デビルライザーガンと呼ばれる――。
彼女の、悪魔の側面。
銃を突き付けられた少年は、まるで動じない。
黄色い、爬虫類のような瞳孔を持つ瞳が、ライザを一瞥。
それから、自分が座っている、金髪のクッションを一瞥。
「ん? ああ、すまん。
あまりにも固いから、床かと思っておったぞ。」
「あぁん?」
怖い人が、1人から2人に増えた。
怒気の混じった、ハルの声。
セツナが、後ろからライザの両肩を掴む。
ハルと少年から、距離を取らせる。
ハルが勢いよく立ち上がる。
じゃじゃ馬が嘶いく。
背中の少年を振るい落とす。
銃剣を1本召喚。
大上段に、振り下ろす。
銃剣が少年を襲う。
‥‥飛行船の、天井を切り裂いて。
「ほわぁぁぁ~!?!?」
ムンクの叫びみたいな声を上げたのは、セツナ。
少年は、銃剣を右手で軽々受け止めている。
彼の足元の床が、ひび割れる。
銃剣を押し付けたまま、ハルは銃剣の腹を、手の甲で叩く。
硬質で重厚な音が船内に反響し、青い天井から空へ抜けていく。
「次、同じことを言ったら――。
次はこの2倍、強くやる。」
銃剣の腹を叩いた手の甲を見せながら、指を2本立てる。
銃剣が消える。
斬りかかられた少年は、まるで脅しを怖がっていない。
「ふん。眷属が我に意見をしようなど、大きく出たもの――。」
――銃声。
2回の銃声。
4つ、床に穴が開いた。
カウボーイハットの奥から、殺気だった青い瞳が少年を威圧している。
少年は、蛇に睨まれた蛙みたいに、動かなくなる。
ライザは、リボルバーのリロード。
シリンダーを横に出し、イジェクトロッドを押す。
パラパラと‥‥。
静まり返った船内に、無機質な硝煙が零れて転がる。
「――どうした? 続きを言ってみろ。」
少年に対し、当たりの強いライザ。
続きを言ったら、多分、今度は床では済まない。
顔か? 腹か?
この女は、間違いなくやる。
少年は、顔を忙しく左右に振る。
「ふ、ふん。我は寛容だからな。
眷属の言葉にも、耳を傾けてやろう。」
色白の少年は、精一杯、虚勢を張るのであった。
リロードを終えたライザは、リボルバーをホルスターにしまう。
セツナは、床に両手をつき、orzなっていた。
天井に空いた、青い穴。
床を抉った、黒い弾痕。
それと、割れた窓。
彼の空飛ぶ秘密基地は、メチャクチャである。
例え壊れても、クレジットを払えば、即刻修理ができる。
しかし、それでも精神衛生上よろしくない。
それが、愛着というものである。
セツナが顔を上げる。
「――ていうか、誰? この少年?」
床に手と膝をついたまま、ハルに聞く。
彼の疑問には、少年が答える。
「――フッ。よくぞ問うた人間。
名乗ってやろう、我が真名を。」
大仰な身振り手振りに、大層な口上。
3人は、黙って聞いている。
「我の名は、漆黒のイーヴィル!
この世、全ての悪にして、絶対の闇!」
「「「‥‥‥‥。」」」
†漆黒のイーヴィル†
†全ての悪†
†絶対の闇†
‥‥‥‥。
†漆黒のイーヴィル†
「と、いうわけで――。
この子、私のCE、グレイドラグーン。」
ハルが、少年の紹介を手短にする。
漆黒のイーヴィルこと、グレイドラグーンは、決めポーズをしたまま固まっている。
「よろしく、グレイくん。」
セツナの挨拶に、グレイは不満げだ。
「‥‥おい人間、聞いていただろう?
我の名は、†漆黒のイーヴィル†。
グレイドラグーンという名は、仮初の名に過ぎぬ。」
「じゃあ、†漆黒のイーヴィル†。
お言葉ですが、真名はみだりに名乗らぬ方がよろしいかと。」
「‥‥え? そうなの?」
「うん。そうなの。
自分の力を封印するために、真名を縛っているとかの設定があれば、なお良し。」
「えぇ! なにそれ! カッコイイ!!」
意外と素直な、人型グレイドラグーン。
そして、人の影響を受けやすい、グレイドラグーン。
自己紹介、テイク2。
「――ククク。我の名は、グレイドラグーン。
物質界では、そう名乗っている。
だが、我に仇名すというのなら、我の真の名を――。
黒よりも深き、終わりの闇を知ることになるだろう!」
「おお~~。」
パチパチパチと、拍手をするセツナ。
ハルは、少し困った顔。
ライザは呆れて、顔を横に振っている。
人型グレイドラグーン。
その身に厄災と業を宿す少年。
背丈は、中学生くらいの高さ。
まだ成長期がきていない、同年代の平均からすると小柄な部類。
女性が羨むほどに艶やかな黒髪に、縦に長い瞳孔を持つ黄色い瞳。
女性の嫉妬を買いそうな、白くきめ細やかな肌。
剣のイラストがプリントされた黒いTシャツに、黒いジーンズ。
手の爪は黒く、腰にはベルトと一緒にシルバーアクセサリーを巻いている。
シルバーはベルトのように、ぐるりと腰を一周し、彼の背後で尻尾のように垂れている。
‥‥なぜか、ライザからの当たりが強い。
姉に勝てる弟など、いないのだ。
セツナとライザ。
ハルとグレイ。
これで、今回の役者は揃った。
一行はテーブルを囲み、座る。
グレイがセツナの横に座ろうとして、ライザが威嚇した。
4人掛けのソファに、セツナとライザが座る。
テーブルを挟んで向かい側。
同じソファを、模様替え機能で設置。
そこに、ハルとグレイが座った。
ライザ、セツナ。
ハル、グレイ。
このような席割り。
クソガキのグレイが、さっそくハルに迷惑を掛け始める。
「おい眷属、喉が渇いた。ジュースを所望する。」
「はぁ?」
眉間にシワを寄せるハル。
セツナはインベントリから、2リットル入りのコーラを取り出す。
コップも取り出して、コーラを注ぎ、渡す。
「はいどうぞ、グレイ。」
「ありがとうございます! セツナさん!
――眷属、お前にはもったいない兄だな。」
「こいつ‥‥!」
手慣れているセツナと、眷属呼びにご立腹のハル。
セツナには、さん付けなのに、この差は一体何なのか?
右手がホルスターに伸びようとしているライザにも、セツナはコーラを渡す。
「グレイ。あんまり、ハルを困らせるんじゃない。」
ハルと自分の分も用意しながら、セツナはグレイを嗜める。
ハルの前に、コーラが置かれる。
「あんまり困らせると、怖いからね。」
「‥‥‥‥は?」
ハルは眉間のシワが濃くなる。
セツナは身を乗り出し、みんなに聞こえる声で、ひそひそ話。
「ああ見えてね、うちの妹、リンゴを素手で握りつぶすからね?」
「ぶぅ!?」
突然の暴露に、吹き出してしまうハル。
若気の至りを、容赦なく白日の下に晒される。
「しかも、右だけじゃなくて、左でもいける。」
「ちょっと――!」
リンゴを素手で潰すのに必要な握力は、だいたい80kg。
ちなみに、成人男性の平均握力が、45kgである。
成人男性の、約2倍の握力を持つストロングガール。
それがハル。
純粋な握力なら、現実世界のセツナを上回る。
グレイが、ハルの横から拳一個分だけ離れた。
ライザも、正面に座るハルから離れるように、ソファへ腰深く座り直す。
彼らにも、現実世界の一般常識がインプットされているようだ。
ストロングな一面を暴露されたハルは、弁明をする。
自分の、繊細な乙女心を守ろうとする。
「ちが――! あれは違うじゃん!
お酒の場で、酔った勢いだったじゃん!」
「あの日本酒、美味しかったよね。
どんぶりに並々注いで飲んでたもんね。」
「「えぇ‥‥。」」
墓穴だった。
思いっきり、自分で墓穴を掘った。
「ちがう、違いの!
ねえ、お願い! 話を聞いて!」
‥‥‥‥。
時は年末、セツナとハルが、セツナのマンションで宅飲みをしていたところまで遡る。
美味しいお酒を飲んでテンションの上がったハル。
「今ならいけそうな気がする」と、冷蔵庫からリンゴを取り出す。
――そして、彼女は弾けた。
――リンゴも、弾けた。
念のため、ハルの名誉のために補足をしておく。
彼女が握りつぶしたリンゴの品種は、王林。
青い果皮を持つ、果肉の柔らかい品種だった。
これが、蜜リンゴとして知られるサンフジのような固い品種であれば、結果は違った。
‥‥かも知れない。
まあ、王林だろうがサンフジだろうが、ジョナゴールドだろうが――。
一般男性には、とても握りつぶせない。
その事実は変わらない。
セツナは、コップに入ったコーラを飲み干す。
甘いパチパチシュワシュワが、口の中に広がる
「よし! 親睦も深まったし、行こうか!」
「「ええ。(はい!)」」
「あれ? 待って? 私、からかわれただけなんだけど!?」
セツナが飛行船の出入り口を開く。
目の前に青空が広がり、常春の風が手招きをする。
飛行船の彼方下、結晶に覆われた街が広がっている。
「あのデカい結晶を壊せば、全部解決するでしょ?」
「――ククク。我の真の姿を取り戻すとしよう。」
「あたしは、まだこのままでも良いけど?」
「‥‥あの? みんな? 聞いてる?」
4人は、大空へ飛び立つ。
空を下り、結晶の街へ。
青いオルギンがもたらした、異界へと赴く。
空を切り、風を切り、地上が近づく。
うっすら遠目に、巨岩が見えてくる。
あれを破壊すれば、全部、元通り。
異界化は止まり、結晶化の病を患う人々も元通り。
そのために、人の姿を得た武器たちと協力し、任務に当たる。
今回の仕事は、つまりそういうことだ。
地上が迫り、巨岩に近づき、セツナとハルは――。
壁に激突した。
結晶の街を覆うように、ドーム状の結界が張られている。
2人は、それに激突した。
「‥‥あっれぇ~?」
「‥‥何なの~、もぉ!?」
グレイは、内なる漆黒の囁きに従い、激突を回避。
背中から黒い竜の翼を広げ、空を飛ぶ。
ライザは、グレイの足に縄を投げた。
投げ縄が足首を掴み、グレイにぶら下がる。
「く‥‥!? おい、我に掴まるな!
重いぞ、この巨大女!」
「あぁ!? なんだと、このクソガキ‥‥!」
「牛女!」
「チビ!」
「猛牛!」
「もやし!」
結界に激突した衝撃で、身体の芯から震わせるセツナとハル。
口喧嘩をする、ライザとグレイ。
「あのぅ~、お二人さん。
良ければ、助けてくれない?
オレたちのこと。」
ぼそり呟いて、セツナとハルの姿は消えた。
遅れて、ライザとグレイの姿も消える。
4人は、街の入り口にテレポートさせられた。
ショートカット厳禁!
まるで足並み揃わない、4人のチーム。
デコボコカルテットの冒険が、いま始まる!




