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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
8.5章_ワン・マン・アーミー!

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SS14.02_姿変わりの異変

現実世界。

昼下がりの、にのまえ市。


セントラルで期間限定イベントが始まる、数日前。


新現代は、人々が労働から解放された社会。

旧現代とは、人々のライフスタイルに、必然的に差が生まれる。


午前は、勉学や創作など、頭脳を使うことに時間を当てる。

高校や大学などの授業や講義も、だいたい午前中で終わる。


新現代は、AI教師による自習が教育カリキュラムに組み込まれている。


AIによる、教育の効率化と細分化。

無限の労働力のおかげで、旧現代とは比べものにならないほど、効果的な教育が施されている。


午後は、スポーツや鍛錬など、肉体を使うことに時間を当てる。

地域や地元に根差した様々なサークルが存在し、年齢の垣根を超えた交流もある。


サークルの運営は、新現代の大人が担う、大切な役目のひとつ。


夜は、フリータイム。

働く人も、自己研鑽に励む人も、世に溢れかえる娯楽から、自分が好きな物を選び、余暇を過ごす。



それが、ネクストの技術が普及した新現代の、普通。

豊かで幸福な社会の、常識。


1月の午後、遥花 (ハル)はトレーニングジムで、ボルタリングをしていた。

訓練とは、1日で成らず。


遥花も、兄と同じく、自衛団の資格を持っている。


自衛団とは、私服を着た武力。

住民の生命と財産を守るため、日々、たゆまぬ鍛錬が求められる。


自衛団のライセンスは、言わば国家資格である。

それを持つ者の技能と人格を、国が保証している。


だから、労働から解放された社会において、一定の社会的な信用を得ることができる。


昨年あった、テロ組織との戦いに駆り出されるなどの、社会的な責任を負う代わり、社会的な特権も与えられる。


そのひとつが、訓練施設の無料利用。


自衛団が管轄する射撃場や、格闘訓練のためのロボットやスペース。


他にも、一部のトレーニングジムや、車のサーキットなども無料で利用することができる。


心身を鍛えたいのであれば、これほど便利な資格は無い。

そのため、自衛団やVRゲーマーの風土は、体育会系のノリに近い。


とりあえずバカがやれて、とりあえず酒が飲めれば、人気者になれる。



遥花は、トレーニングジムで1人、ボルタリングをしている。


壁に取り付けられた岩や石を手掛かりに、壁を登っていく。

ボルタリングは、体幹やボディバランスを鍛えることができる。


遥花は昔、バトミントンをしていた。

ボルタリングでは、昔に鍛えた握力が役に立つ‥‥、ことは無かった。


握力にも、種類があるのだ。

バトミントンで求められる握力とは、最大出力、クラッシュグリップと呼ばれるタイプの握力。


クラッシュグリップとは、物を握る、物を握りつぶす力のことだ。

一般的に握力と呼ばれているのものは、このクラッシュグリップを指す。


対して、ボルタリングに求められるのは、ピンチグリップや、クリンプグリップという握力。

手を握り込まず、五指や指先で体重を支える力が求められるのだ。


競技の違いによるカルチャーショックを、最初こそ受けたが‥‥。

今では、ボルタリングは、遥花のお気に入りのトレーニングとなっている。


ウエイトトレーニングよりも、実戦向きな身体操作が要求される点が、とても良い。


ウエイトトレーニングとは、無理をするためのトレーニング。

対して、ボルタリングは、楽をするためのトレーニングだ。


なるべく少ない力で、身体をホールドする。


指の引っ掛け方、壁への張り付き方。

力の入れ方、固定させる関節。


知れば知るほど、興味深い。

不安定な手掛かりを頼りに壁を登るため、無意識のうちに、楽な身体の使い方が身についていく。


豊かさと便利さを極めた、日常生活を送っているだけでは絶対に気付けない、人体の構造の美しさを知ることができる。


自分の身体に備わった、小さくも大きな力。

それに出会えるボルタリングは、遥花のお気に入り。


――小さな石に、左手を伸ばす。


現在の高さは、3メートルほど。

床に敷かれた安全マットが、小さく見える。


ギアを装備しているので、この程度の高さから落ちても怪我はしない。

今は機動させていないが、いざとなったら使えば良い。


壁の傾斜は、約110度。

手前に倒れている壁を、身体を壁に張りつかせるようにして登る。


左手でアプローチを掴む。

人差し指と中指で、体重を支える。


左手首を右手で掴み、身体を挙上。

左膝を曲げ、足を薄く細い石のに置く。


右手を左手首から離し、石を掴む。

丸い石に対し、手の平だけで包むように‥‥。


‥‥足場にしていた石を、踏み外してしまった。


右手を上げたタイミングで、重心の位置が変わり、身体のバランスが崩れた。

ほんの少しだけ、身体が壁から離れて、それが致命傷となった。


左手が、落ちる身体を一瞬だけ支えるも、ホールドの限界を超えて指が滑る。


角度が90度を超える壁の、高さ3メートルから落下。

1秒もしないうちに、遥花はマットに不時着。


を、しなかった。



「‥‥‥‥!!」



ふわふわと、身体がマットの上を浮いている。

足が、マットの50cm上を、漂っている。


ギアは起動している。

遥花の瞳の奥は、青い光を灯している。



しかし。

だがしかし。


ギアに、このような機能は無い。


ギアの扱いに熟達した者であれば、落下の速度をコントロールできるらしい。

が、遥花にはできない。



それでも、現実とは、事実を雄弁に語る。



遥花の身体は、重力を無視して、空中に浮いている。


事態の異常さを理解した瞬間、空中浮遊が途切れる。


両足が、柔らかいマットの上に着く。

ペタリと、そのまま尻もちを着く。


左手首に装備した、ブレスレット型のギアを見る。


そして、空中浮遊を、再度試みる。

未知への、好奇心と恐怖に駆られて。



‥‥結果として、その日はもう、空中浮遊を体験することは無かった。



まるで、夢の中で、空を飛ぶ夢を見ていたかのよう。

夢の中、自分が空を自由に飛んでいることを自覚すると、たちまち自分の身体は、翼を失ってしまう。


夢が現実に縛られて、翼が重くなってしまう。


あれだけ自由に飛べていたのに、街を見下ろすことも、山を越えることも、叶わなくなる。



自宅に帰ったハルは、電子書籍をあたる。

ネクストと、ギアに関する論文。


それと、ギアに関するオカルト。

手当たり次第に、情報を漁る。


目ぼしい情報は、得られなかった。


‥‥ひとつだけ、心当たりはあるのだ。

自分の、この奇妙な経験を、知っていそうな人物。



(‥‥兄さん。)



暗くなった窓の外を見ながら、自分の兄、刹那の顔を思い浮かべる。


自分の兄は昨年、危篤状態で病院に運ばれた。


面会と外出が許されたとき、刹那は、自分が肩を貸さねば歩けぬほどの重体だった。


それが、である。

次の日には、普通に日常生活を送れるまでに回復していた。


3日である。

3日で、危篤から回復したのだ。


病院と兄からは、ギアを用いた先進医療だと説明された。


遥花がいくら頭脳明晰だと言っても、知る手段が無い先進医療については、調べようが無い。


だがもし‥‥、もしも――。



それがもし、医療でも、科学でも無かったとしたら?





セントラル。

空中セーフハウス、ブルーホエール。



「‥‥‥‥ぐっっへ!?!?」



魔法陣から吐き出されるように、セツナが背中から床に落ちる。

なんか、水晶の巨岩の光を浴びたら、強制転移させられた。


仰向けに倒れる彼は、見知った天井に、顔をしかめる。

視界に表示されたUIの情報によって、ここが自分のセーフハウスだと知る。


ため息をひとつ。

起き上がろうとするセツナに‥‥、重い尻が落ちてくる。



「‥‥‥‥ぶふぅぅぅぅぅ!?!?」



ヒップドロップが、腹に直撃。

ノックダウンされるセツナ。



「いたたたた――。何なのよ、もう。」



ヒップドロップをかました女性が、下敷きになっているセツナに気付く。



「――て? あれ!? あたし‥‥?」



女性は、目を白黒させながら、自分の両手を見る。

自分の服装をチェック。


頭には、カウボーイハット。


紺色のデニムジャケットに、裾の短い、ヘソを出したワイシャツ。

首元に、赤いスカーフ。


ボトムスは、ダメージの入った黒いジーンズ。

足元は、ダークブラウンのブーツ。


腰に太いベルトと、大きなリボルバー。

拳銃でありながら、携行性なんて度外視された大口径。


カウボーイハットに、スカーフとジーンズ。

それとリボルバー。


女性の恰好は、さながら荒野のカウガール。


身だしなみのチェック、良し。

尻に敷いている、呻くセツナに声を掛ける。



「セツナ! 起きて!」



女性は、ノックダウンしているセツナを起こす。

胸倉を掴んで上体を起こし(!)、両頬を往復ビンタ(!?)。



「――ぶ、ぶ、ぶ、ぶ、ぶッ!?」



セツナの、女性に対する第一印象は、最悪だ。

ヒップドロップは、事故だとして許せる。


だが、この起こし方だけは、解せない。


――ガサツ! あまりにも、ガサツ!


謎の女性の介抱に、セツナはお礼をする。

日本人らしく心を込めて、お辞儀をして、頭突き!


自分の腿に跨る女性を、頭突きでどかす。



両頬を真っ赤にしたセツナが、立ち上がる。

鼻っ柱を涙目で抑えている女性が、立ち上がる。



「「何しやがんだ! このボケナスぅ!!」」



‥‥‥‥。

一言一句、イントネーションまで同じ。


互いを指差して、互いの行いに、いちゃもんを付ける。


口喧嘩、1本勝負――。

ゴングが鳴る。


先手を打ったのは、カウガールの方。

指差したまま、セツナに詰め寄る。


セツナの「ボケナス」発言に、ご立腹。



「はぁ!? せっかく起こしてあげたのに、何よその態度!」


「あれが起こしてぇ? ()()()だぁ~!?

 だったらオレもやってやる!

 その寝ぼけたツラ、覚まさしてやる!」



指差して詰め寄るセツナに、カウガールは一歩も引かない。

詰め寄るセツナに、ノータイムで頭突きをかます。


ほぼ同じ目線の高さから繰り出された頭突きは、セツナの鼻っ柱をクリティカル。


黙るセツナに、カウガールが畳み掛ける。



「やってみないよ!

 普段、あたしを雑に使って――!


 この前なんか、あろうことか、あたしを道端に捨てて――!

 この! 薄情者ッ!」



顎を抑えるセツナに詰め寄り、捲くし立て、カウガールの後ろ蹴り。

身を翻し、じゃじゃ馬もかくやの、強烈なハイキックが、セツナの顔に入る。



「びゅゆぅぅうう!?!?」



顔に、靴底の跡をつけて、風船から空気が抜けるような声を出しながら、セツナは吹っ飛んだ。


飛行船の窓を突き破り、上半身が白い雲の下にフライアウェイ。



「ふあぁぁぁぁぁ!?!?」



情けのない悲鳴を上げるセツナ。

下方向にフライアウェイしていく身体を、足で踏ん張って止める。


窓の枠の部分に、足の甲を引っ掛け、自分勝手にフライアウェイする身体を支える。


上体を起こし、マジックワイヤーを使い、船内に復帰。

船内には、得意げに鼻を鳴らすカウガール。


カウガールに、ゆっくりと指を向ける。



「やっつけてやる‥‥!」



カウガールに向かって歩き、右足を出したところ、セツナの動きが止まる。

右足が、軽い。


ホルスターに、手と視線をやる。



ない!

リボルバーが、ない!



‥‥シリンダーの、回転する音がする。


前から。

カウガールの方から。


視線を上げる。

カウガールの手には、リボルバー。


回転しているシリンダーを、スイングイン。

シリンダーがリボルバーに装填され、留め具がカチリと音を立てる。


銃口で、カウボーイハットを少し上げる。

それから、左手で銃の形を作って――。



「バァンッ‥‥!」



セツナに、左手の銃を撃った。



‥‥‥‥。

‥‥。



「キミのことは、何て呼べばいい?」


「そうね‥‥、ライザって呼んで。」


「じゃあ――、あのねライザ。

 この世界には、ルシフェライザーっていう固有名詞があるんだよ。」


「だからなに?」


「紛らわしくない?」


「あたしだって、元ネタはデビルライザーガンなんだけど?

 あたしの方が、先輩なんだけど?」


「‥‥元ネタは先輩かも知れないけど、キミは若輩じゃん。」



ライザと名乗るカウガール。


彼女の正体は、セツナが愛用しているリボルバーだった。

D3-リボルバー、悪魔を呼び出すと言われている、大口径のじゃじゃ馬。


このリボルバーは、汎用データという規格で設計されている。

M&Cだけでなく、別の世界にも持ち込んで使用ができる。


この銃は、数多の世界を共に旅した、セツナにとって相棒とも呼べる銃だ。



それが、どういう理屈か分からないが、人の姿を持った。

人の姿に、人の人格まで持っている。



セツナは丸椅子に座り、ピストルのマガジンに弾を込めている。

リボルバーの代役が要る。


マガジンに、手作業で込めているのは、CCC特注の弾丸。

ディヴィジョナー因子を鎮静化できる、イニシャライザー。


腰掛けた目の前、机の上から弾丸を何発か手に取って、マガジンに詰めていく。


少しして、マガジンに向けている視線を、ライザに向ける。

作業を、横から見ているライザと、目が合った。


彼女は、床に膝をつき、両手で頬杖をついている。

机の横から、セツナの横顔と作業を見ている。



「なぁに?」



男勝りで勝気な瞳。

馬鹿みたいな反動で、使い手の顔を容赦なく蹴り上げる、足癖の悪さ。


そして‥‥、重い尻。

尻に対して、羽毛みたいに軽い引き金。


じゃじゃ馬の碧眼から、視線をマガジンに戻す。



「いや、何でもない。」



弾薬の装填が終わる。

マガジンを、机の上に置いたピストルに装填しようと、手を伸ばす。


机の上に置いてあるピストルに手を伸ばし、ピストルが机の上から消えた。

セツナの右手は、空気を掴む。



「‥‥‥‥。」

「‥‥‥‥。」



飛行船に、微妙な空気が流れる。


左手に握っているマガジンを、机に置く。

左の腿から、バックアップリボルバーを引き抜く。


どこぞのじゃじゃ馬と異なり、ポケットに仕舞えてしまいそうな、小さなリボルバー。


9-Ni リボルバーを、机に置く。


ライザの勝気な瞳が、9-Niを見る。


セツナが、9-Niを取る。

シリンダーを横に開け、弾を確認。


一度、机の上に置いて、左腿のホルスターにしまう。


ライザは何もしない。



「‥‥‥‥。」

「‥‥‥‥。」



インベントリから、ピストルを取り出す。


ライザに取り上げられたクロック18と互換性のある、クロック17を取り出し、マガジンを差し込もうと――。


セツナの右手から、ピストルが消えた。

足癖だけでなく、手癖まで悪いライザ。


奪ったクロック17のスライドを後ろに引き、スライドを抜いて、銃を分解する。


にっこりと、満面の笑みを浮かべるライザ。

にっこりと、満面の笑みを返すセツナ。



「ふふ~ん。」

「ふふ~ん。」



「「‥‥‥‥。」」



「「ふふ~ん。」」



ボケナス2人が、互いの持ち物に手を出した。


セツナは、ライザの持っているクロック18に、手を伸ばす。

ライザは、セツナの持っているマガジンに、手を伸ばす。



「返せ! オレの銃だぞ!」

「あなたこそ、それを寄越しなさい!」


「こいつ!?」

「ぐぬぬぬぬ――。」


「この――!」

「きゃっ!?」



ライザの持っているピストルのバレルを捻り、手首の関節を極める。

関節を固めて、密着状態からのタックル。


セツナは、ライザを突き飛ばした。


‥‥愛銃に相手に、容赦の無いセツナである。

一番気に入っているのは、強くてタフなところ。


ライザは強くてタフなので、タックルされたところで諦めない。

すかさず、彼の腰に組み付く。


セツナがホルスターに銃をしまえないようポジショニング。

ホルスターを死守しながら、セツナが握るクロックに手を伸ばす。



「ちょっと! あたし以外を使うなんて!

 どういう要件よ!」


「うっさいなぁ!?

 オレの勝手だろ、そんなの!」


「いいから! それを置きなさい!

 よこしなさ、いぃ!」


「いぃ!? い・や・だ!」



子どもみたいなケンカを、成人男性と、見た目は成人の女性がしている光景。


2人とも、中身はクソガキ。

どんぐりの背比べ。


そして、そのケンカは、飛行船への来客によって中断される。



「‥‥‥‥うべっ!?!?」



セツナの妹、ハルが、転移魔法陣から吐き出された。

腹を床に打ちつけて着地。



‥‥彼女の上に、爬虫類の瞳を持った少年が落ちる。



此度のイベントは、らんちき騒乱騒ぎ。

らんちき騒ぎは、さらなる騒乱を呼ぶ。



‥‥‥‥。

‥‥。



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